魔法少女リリカルなのは~the worst~   作:柳沢紀雪

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7.意外な所に縁があるもんだ

「中東で自爆テロ、邦人3名が巻き込まれ重傷……か……いつまで続くのか」

 

 ゆっくりと朝食を取る中で、母が新聞を見ながらそう呟いた。

 今日は休日で学校も休みだ。それなのに朝も早くに起こされて、俺は少しだけ機嫌が悪い。朝食が冷凍たこ焼きなのは、その為のご機嫌取りのつもりなのだろうか。言っておくが、俺はこんなちゃちな事でつられたりはしない。しかし、たこ焼きに罪はないのでムシャムシャと食べる。

 

 朝っぱらからたこ焼きというのもなかなか乙なものだ。

 もはやBGMの代わりとしてしか役に立っていないテレビからは、相変わらず何かのプロパガンタかと思えるぐらい悪いニュースしか流されていない。プロパガンタは本来なら、国民の士気を向上させ対象国の士気を下落させる為の物であるから、彼等はどこの国の為のプロパガンタを行っているのか、時々分からなくなる。

 ともあれ、ニュースにおいてはこの国は今日潰れるか明日潰れるかの悲惨な瀬戸際にあるらしいが、俺の朝は気が抜けるほど落ち着いたものだった。

 

 父は、週末であるにも関わらずここにはいない。昨日の夜も結局は顔を合わさなかったから、そろそろ顔を合わせない最長記録を更新しそうな勢いだった。

 

 そろそろ父親の顔を忘れてしまいそうだ。これは冗談だが、次にあったときには「おじさん、誰?」と小首をかしげてみようかと画策もしたくなる。

 週末の一日ぐらい家族が顔を合わせてグダグダと下らない会話に興じるのも良いと思うのは、贅沢なことなのだろうか。

 

 

 さて、全国も休日にあるなかで、何が悲しくて朝っぱらからベッドと泣き別れをしなくてはならないのか。それは、いわゆる近所づきあいの一環の為であるといえる。

 俺の母親――篠崎なつきはこの地域が持つ少年サッカーチームの顧問指導者のようなことをしているらしい。俺は練習に付き合ったことはないのだが、母は時々パートも家事もないときにそのチームの、主に体力作りやチームプレイなどの指導に当たっていると言うことらしい。そのチームはどうやら今日、別の地域が持つサッカーチームと試合を持っているらしく、俺もそれに参加する事になっているらしい。参加といっても選手ではなく、チアリーディングの為にではあるが。

 

 もちろん、世間一般でいうチアリーダーのコスチュームを着るわけではない。むしろ、あんなものを着るぐらいなら家出をしたほうがましだ。

 

「さてと、そろそろ行くか」

 

 部屋の隅に置かれた時計を一瞥し、母がテレビを消して立ち上がった。

 

「了解」

 

 俺は短くそう言って少し背の高い椅子から飛び降り、猫柄のパジャマから私服に着替えるべく部屋に戻っていった。

 一応、今日は地域との外交的な要素もあることだし、多少は年相応性別相応の服を着ていくことにしよう。

 その手の服装は、父――篠崎秋雄がことあるごとに買って来ているので選ぶのに苦労するほどだ。まったく、あの親ばか子煩悩には困ったものだ。悪い気はしないが。

 

 開いたクローゼットに広がる色とりどりの煌びやかな色彩を前に俺は軽く目頭を押さえた。

 

 

 

************

 

 

 

 四季の中では一番清々しい晴れ空の下で、湧き上がる歓声は何の混じりけもない無垢そのものであるといえる。

 

 まだ試合は始まっておらず、徐々に集まり始めた選手およびその家族と応援団の面々が井戸端会議よろしく雑談を交わすその雰囲気だけでも、俺にとってはもう、眩しすぎて直視できないような装いだった。

 

 我が地域選手団”チーム八百源”とこのたび敵対するは、ほぼ隣町に位置する個人経営の”翠屋FC”というチームだった。翠屋というのは聞き覚えのない店名だが、そのオーナーと思わしき年若い男性の様子を見ると、商店街でもわりと有名処の店のようらしい。

 

 そして、そのチームオーナー、高町士郎と名乗った人物を見て、母なつきの表情が明らかに曇ったことを俺は見逃さなかった。

 

「えーっと、こうしてお会いするのは初めてになりますかね?」

 

 他の父兄母姉がそれぞれの会話に花を咲かせているところを見計らったのか、高町士郎なる人物は何となく気まずそうな表情で、仏頂面の母なつきに話しかけてきた。

 

「ああ、そうだな。まさか、まだ生きていたとは。噂では酷い負傷をして引退したと聞いたが……まさか、喫茶店のオーナーに転職していたとは驚きだよ、ミスター・フワ」

 

 母なつきの言葉は、何とも物騒な様相を示している。

 

「俺も驚きましたよ。まさか、潜伏とサバイバルのエキスパートだった大尉が、近所に移り住んでいたとは。先の大戦に参戦したと聞いていましたが……大尉も負傷除隊で?」

 

「あいにく、生死に関わる負傷は追ったことがない。単純に、あれは家族を持ったまま続けられるような仕事ではなかった、それだけだ。今の私は特殊部隊(タスク・フォース)の大尉ではなく、ただの主婦だ。時々、近くのスーパーのパートタイムでレジ打ちをする程度にありふれた、な。娘を紹介する」

 

 そう言って母なつきは逃がさないように俺の手を取り、視線で自己紹介をするように促した。

 

「えっと……篠崎はるかです。その、昔、母がお世話になったみたいで……ご苦労様でした」

 

 この場合何と言っていいか分からないが、この二人は現役時代、ただならぬ間柄だったということは理解できたので、とりあえず社交辞令的にそう言っておいた。

 

「これはご丁寧にありがとう、はるかちゃん。しっかり挨拶ができて偉いな」

 

 俺の頭をなでなでする長身の彼は、おそらく子ども好きの爽やかな男なのだろう。男だった前世の記憶を引き継ぐ俺としては、思わずもげろとか言ってしまいたくなるほど彼はいい男だった。

 普段なら邪険にしてしまう所だが、これは母なつきにとってある一種の外交であるため、娘の俺がそれに水を差すべきではないと思い、俺はただその感触に無感情のまま身をゆだねた。

 

 それにしても、思わぬところで母の過去を知ってしまった。母が昔、WW3に参加していたのは何となく察していたところだったが、その若さで大尉だったということは、ずいぶんなエリートだったのだろう。しかも、同業者からエキスパートと呼ばれるほどということは……この母は実はかなりの化け物クラスの技術を持っていることにならないだろうか。

 母なつきは普段から紅茶を飲む習慣があることから、おそらくはイギリス軍のSASあたりかと予想を立ててはいたが、ここに来てそれが一気に信憑性を増す結果となった。

 

 それから二言三言交わされる、どこか剣呑な、懐古的な会話を聞きながら、試合開始の時間が来た。

 

 母と士郎氏は互いに今日の試合を良いものにしようという誓いを延べあい、お互いにそれぞれのチームの元へとかえっていった。

 

 士郎氏は後で娘を紹介すると言っていたが、それはひょっとして、先ほどから友人達に囲まれながらもチラチラとこちらを横目で伺う、栗毛をお下げにしたあの少女の事ではないかと俺は思う。

 

 何かと最近関わることが多くなっているな。しかし、彼女が胸に抱いているあの蜂蜜色の体毛を持つフェレットと戯れるには、良い機会なのかもしれない。

 

 高町が抱き留めるフェレットの感触を思い出しながら頬を緩める俺を尻目に、試合開始を示すホイッスルが高らかと鳴り響いた。

 

 

 

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