魔法少女リリカルなのは~the worst~   作:柳沢紀雪

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8.お茶会は気心の知れた者同士でするのがよい

 試合は終了し、結果は我が軍の圧倒的勝利である……と言いたかったが、結果は非情なもので、我が軍は一歩及ばず敗北してしまった。

 しかし、良い試合だった。勝った方も負けた方も互いに健闘をたたえ合い、青臭く爽やかな幕引きのまま解散となった。

 

 せっかくだからどこかに食べに行こうかという母に肯き、俺たちも帰路につこうとした所、件の士郎氏より勝者達への祝いの場を設けているため一緒にどうかとの誘いを受けた。

 

 敗者である自分たちが勝利の美酒を味わうことはできない、というニュアンスの事を母が告げるが、士郎氏はにこやかに笑い、「あの頃と違って今は勝者にもエールを送るぐらいには余裕があるでしょう? 篠崎さん」と答えた。母なつきはその言葉に負けたのか、結局両手を挙げてその招待を受けることにしたようだ。

 

 今回は母の付き添いである俺も当然一緒することになり、今はこうして士郎氏の娘さんご一行と同じテーブルに着いているのだが……。

 

「世間というのは意外と狭いもんだね。まさか、俺の母さんと高町の親御さんが知り合いだったなんて、知らなかった」

 

 まあ、士郎氏の名字が高町で、グラウンドの一角に彼女が座っていた時点でこの結果はある程度想像はついていた。

 

「そうだよね、私も知らなかったよ。はるかちゃんのお母さんは、何してた人なの?」

 

 胸にフェレット(ユーノクンというらしい)を抱いて俺の話題に乗ってきた高町もまた驚いた風に目をパチパチさせていた。

 

「さあ、そのことは話してくれないから。少なくとも、WW3から生きて帰ってきた人ではあるみたいだけどさ」

 

 肩をすくめる俺を同席していたバニングスが胡乱な目つきでにらんでいるが、そんな目で見られても俺はどうもしようがない。月村は何となく俺を前にするとやりにくいように思えるが、まあ、こんな俺では心優しい月村では一歩引いてしまいたくなるのも頷ける。

 

 無理に友人になる必要はない。物事は自然のことわりに任せるだけだ。

 

 と、俺は方々からのいろいろな視線を縫いかわして高町がいまだ大切な宝物のように胸に抱くフェレットに手を伸ばし、隙をねらってその小さな頭をさわさわと撫でた。

 

「きゅっ!?」

 

 驚いたユーノクンはビクッと耳を逆立たせ、まん丸の目をこちらに向けた。翠色の瞳が俺の姿をうつす。珍しい色の目はまるで宝石のようだ。

 

「失礼。高町がいつまでも君を手放さないから、つい我慢ができなかったんだ。いきなりさわってしまったことは謝るよ、ユーノ君」

 

 話している相手がフェレットであるのに、何を人間に語りかけるように話しているのかということはいわないように。こういうのは心がけの問題だ。仲良くなりたかったらその分の誠意を相手に見せるべきということは、人間も動物も変わらないと俺は思う。

 

「きゅう……」

 

 まるで俺の言葉を理解しているようにユーノはぺこりと頭を下げて、つぶらな瞳を俺に向け続けている。

 とても和む。

 

「君は覚えていないだろうけど、倒れていた君を始めに見つけたのは俺なんだよ。別に恩を感じろとはいわないけど、できれば仲良くしてやって欲しいね」

 

 バニングスの変人を見るような視線が少し辛い。だが、これでいいのだ!

 

「…………きゅぅ…………」

 

 フェレットの感情を読むなど俺にはできないが、何となく彼は狼狽しているように視線を高町と俺の間を行ったり来たりさせている。

 飼い主にお伺いを立てているのだろうか。何とも、健気なフェレットだ。

 

 そして、その飼い主たる高町は自身をのぞき込むユーノに小さく頷きを返し、何となく我が子を案じる母親のようなまなざしで俺の方ちらりと伺う。

 ユーノは意を決したように俺の目の前までトコトコと歩いてきて、そして、ペコリと頭を下げた。

 

 それにしてもこのフェレット、賢すぎである。どこかで特殊な訓練を受けた軍用フェレットではないか?

 

「すごいね君は。なんだか、このまま日本語を喋っても納得してしまうかも」

 

「ばっかみたい、そんな訳ないでしょ」

 

 ユーノを前にしてしきりに頷く俺を揶揄するようにバニングスが鼻をならした。

 

「いや、まあそれはそうなんだけどね。どうして君はそんなにけんか腰なのかなぁ。そんなに俺が嫌い?」

 

 好きになって欲しいとは思わないが、ここまで邪険にされると悲しくなる。いくら俺が俗に言うKYと呼ばれるほど神経の太い人間ではあるが、ここまで邪険にされてはカチンとくるのだ。

 

「べつに」

 

 答える義理はないと言わんばかりにバニングスはフンといってそっぽを向いてしまった。隣に座る月村もどこか困ったような表情で俺に「ごめんね」と無言で手を掲げるが、なぜバニングスのことを月村が謝るのか、俺には皆目見当もつかなかった。

 

 扱いにくいやつめ。

 

「なあユーノ君。どうも、俺はあの金髪お嬢様から邪険に扱われているみたいなんだ。何とか君の方から説得できないものかな?」

 

 と俺はユーノ君を抱き上げて、くるりと回し、その純朴な緑の瞳をバニングスに向けてやった。

 

「ふん!」

 

 流石に小動物のまなざしには勝てないだろう。腕を組んで明後日の方を向くバニングスも少々ばつの悪そうな表情を浮かべつつある。

 

 いい気味だ。

 

「きゅぅ……」

 

 ユーノ君もユーノ君でとてつもなく決まりが悪そうな表情で、バニングスの横顔を身ながらもしきりに飼い主である高町の方を伺っている。

 

「えっと、はるかちゃん。ユーノ君も困ってるみたいだから……その……」

 

「ん……分かったよ」

 

 高町の蚊の鳴くような懇願に免じて、俺はユーノを使用したバニングスへの精神的な攻撃をやめ、愛玩兵器を元の愛らしいフェレットへと戻した。

 よっぽど心細かったのだろう。俺の拘束から解放されたユーノはまっしぐらに高町の肩に戻り、栗色のお下げの陰に隠れてしまったようだった。

 

 いずれバニングスとは決着をつけなければならないだろう。その時があまり楽しみではない。

 

 ともあれ俺のせいで会話に空白があいてしまった。本来なら親友同士の楽しいおしゃべりの時間になるはずだったのが、俺のせいで何とも殺伐なお昼時になってしまったようだ。悪いことをしてしまったと素直に思う。

 

「そ、そういえば、みんなこれからなにか予定はある?」

 

 何とか調子を取り戻そうと、肩のユーノを撫でながら高町が口火を切った。

 俺は、店の中で士郎氏と高町の母親と思われる女生と昔の話をしている母の方に目をやった。

 戦争の話でもしているのだろうか? 母の表情はいつもの仏頂面よりもさらに沈んでいるように見える。いっそのこと、その隣で黙ってココアでも飲んでいれば、この少女達の談笑を乱すこともなかったかもしれない。

 次はそうしよう、と心に決め、俺は席を立った。

 

「あんた、どこ行くのよ」

 

 話の流れも考えないでいきなり立ち上がった俺にバニングスがいち早く言葉を挟んだ。

 

「そろそろお昼時だから、おいとまする頃合いかと思って」

 

 そういいながら、俺はスカートのポケットから携帯電話を取り出して時間を確認した。そこに表された数字はそろそろお昼時だということを示していた。

 

「うち(翠屋)で食べていけばいいよ」

 

「それを決めるのは母さんだよ。それじゃ、また」

 

 どこか引き留めようとする様子の高町の提案を流し、俺はひらひらと手を振りながら店の中に入っていった。

 ドアベルが涼しげな音を奏でて開き、店内の少年達が生み出す喧噪が外に漏れだしてくる。そしてドアスプリングが滑らかな音をあげて扉を閉ざしていき、先ほどまで会話をしていた少女達の声が遮られた。

 

 

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