やはり、相模南の恩返しもまちがっている。   作:しーはん

5 / 8
あ、今回いつもより短めです。あとヒロイン不在。

読み応えなくてスミマセン。



幕間:そして、比企谷八幡も決意する

 

 今日も部室には穏やかな紅茶風味の空気が満ちている。

 ページをめくる音が二つと、時折携帯のディスプレイに触れる爪の音が一つ、それから紅茶のカップを傾ける音が三つ。……まぁ、なかなかどうして悪くない。最近ではベストプレイスに次ぐ安心感を与えてくれる、いつもの部室である。

 

「……あ! ねぇねぇゆきのん、ここなんだけどさー」

 

 と、不意に由比ヶ浜が携帯を持ったまま雪ノ下の方に身を乗り出し、何やら興奮した様子で話し出す。雪ノ下は驚くでもなくスッとしおりを挟んで本を閉じると由比ヶ浜に言われるままに携帯のディスプレイを覗き込んだ。もうすっかり慣れちゃってますね……由比ヶ浜と出会ったばかりの雪ノ下だったら、読書の邪魔をされてご立腹だったろうに。

 

 聞くともなしに由比ヶ浜の一人でも充分に姦しい声を聞き流していると「美味しい」だの「可愛い」だの聞こえてくるので、またぞろスイーツの話でもしているんだろう。

 ちらりと目をやった限りでは雪ノ下も興味深そうに相槌を打ちながら由比ヶ浜の話に耳を傾けている。雪ノ下が流行のスイーツに興味があるというのは意外だな。……いや、興味があるのは由比ヶ浜のことか。雪ノ下なりに、由比ヶ浜に歩み寄ろうとしているのかもしれない。ほんと、すっかりデフォルトでゆるゆりが板についてますね。

 

 もちろん俺は百合男子よろしくこのゆるゆり空間を邪魔しないよう気配を消すのを忘れない。まぁ消すも何も初めから存在感なんて皆無なんですけどね。

 

「ほらほらこれ見て! これなら持ち帰れるから、部室でも食べられるし!」

 

「ええ、そうね。けれど、こういったものを学校に持ち込んでも大丈夫なのかしら?」

 

「うーん、大丈夫じゃない? 結構みんな、クッキーとかチョコレートとか持ってきてるし。……それにほら、これならヒッキーも、一緒に食べられるじゃん」

 

「……そうね」

 

 あの、そういうの俺がいないところでやってくれませんかね。恥ずかしくて顔が上げられないんですけど。つーか雪ノ下、由比ヶ浜と部室でスイーツタイムできるのが嬉しいからってそんな優しく微笑まないでね? 話の流れ的に勘違いしちゃうから。

 

 ま、こいつらが楽しそうにしてるのは、俺としても悪い気はしない。こうしてる間は雪ノ下の氷の刃も飛んでこないしな。

 

「そういえば」

 

 スイーツトークが一段落したのか、不意に雪ノ下が先程よりも心持ち大きめの声で場を仕切り直すように声を上げた。どうやら俺にも聞けということらしいので俺も本を閉じて顔を上げる。

 

「その後、相模さんはどうしているのかしら?」

 

「あー……えっとね」

 

 由比ヶ浜が気まずそうに口ごもる。まぁ、そりゃ言いにくいわな。

 

 雪ノ下としては直近の依頼の達成状況を確認したかっただけなのだろう。そもそも三浦からの依頼は、相模が落ち込んでいてクラスの雰囲気が悪いという相談に端を発したものだ。奉仕部では三浦なりに相模を心配してのことだろうという結論を出したものの、依頼の正確な内容としては相模を立ち直らせるのはあくまでも手段であり、最終目標はクラスの雰囲気を改善することだった。

 つまり雪ノ下はその達成状況を相模、三浦と同じクラスである由比ヶ浜と俺に確認したかったのだろうが……まぁ、状況は改善したとは言いにくいだろう。むしろ相模自身の失敗が原因で彼女が孤立してしまっている以上、問題はより複雑になっているのかもしれない。

 

 口ごもった由比ヶ浜と即答しない俺の様子から好ましくない事態になっていることを察したのだろう、雪ノ下も表情を曇らせる。

 

「そっか、ゆきのんは知らないんだ」

 

「何か問題が起きている、ということね」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「そう。詳しく聞かせてもらってもいいかしら」

 

「あ、うん。えっとね――」

 

 雪ノ下に促されて、由比ヶ浜が相模の状況をかいつまんで説明する。文化祭ではエンディングセレモニー直前の不在騒動、体育祭では現場班動員のために体育祭への参加を自己責任にするという前代未聞の提案から、腫れ物扱いされることになってしまった相模。

 ついでに、いじめのような攻撃的なものではなく、むしろ遠慮や怯えに近い状態であることからクラスの空気清浄機たる葉山や、女王三浦も対処しかねている状況だということを俺が言い添えたことで、雪ノ下も事態の難しさを理解したようだった。

 

「それで、相模さん自身はどうしているの?」

 

「うーん、頑張って馴染もうとはしてるみたいだけど、さがみんと仲良かったみんなも気を遣い過ぎちゃってる感じなんだよね……」

 

「まぁ、見る限りじゃ結構参ってるみたいだったな」

 

 昼に中庭で話した相模の様子を思い出す。

 俺に対しては相変わらず刺々しい物言いだったが、どちらかというとそれは強がりのように見えた。体育祭の一件以降立て続けに仲良し連中に距離を置かれたのがよっぽどこたえたんだろう、すっかり自虐が板についていた。いやほんと、他人以上知り合い未満の女子に自虐ネタとか披露されても対処しきれねぇっての。

 

 まぁ、大嫌いなはずの俺にあれだけ本音をぶちまけるくらいだからな。クラスじゃ頑張ってたが、ありゃこのまま放置すれば近いうちに限界が来るかもしれん。

 

「……私の責任ね」

 

 ぽつりと、雪ノ下が呟く。

 

「ゆきのんのせいじゃないよ!」

 

「いいえ。三浦さんからの依頼と城廻先輩からの依頼を結びつけて相模さんを委員長に推薦したのは私だもの。体育祭が原因でそんな事態になっているのだとしたら、彼女を推薦した私に責任があるわ」

 

 雪ノ下は悔しそうに顔を伏せる。ま、こいつ基本的に責任感強いもんな。任されたからにはやり遂げる、引き受けたなら最後まで責任を持ってやり通す。それが雪ノ下なりの、奉仕部の矜持でもあるんだろう。

 

「でも……だってあんな風になっちゃうなんてあたしも分かんなかったし、ヒッキーもでしょ?」

 

「そりゃ分かってたらもっと反対したっての。いくら相模でも初日からいきなり遅刻するなんて誰も予想できなかったろ」

 

 だが、知らなかったで許されるほど責任という言葉は甘くないのも事実だ。実際に体育祭で問題を起こしたのは相模だとしても、その相模を推薦した雪ノ下、それを容認した俺と由比ヶ浜、そして依頼を持ちかけた三浦や城廻先輩にだって責任が無いとは言い切れない。

 俺達が相模を委員長に擁立しなければ、相模が孤立する現状は無かったのだから。

 

 とはいえ、状況は俺達の手に余る。

 そもそも人間関係に関しては俺達よりよほど上級者である三浦や葉山で解決できないなら、俺たちにできることなんて無いに等しい。気に病んでも仕方ないのだ。

 

「結局、いまさら俺たちが気にしてもしょうがないんじゃねぇの。こうなちまった以上は相模が言動を改めるしか解決する方法はないだろうし」

 

「けれど……」

 

「ま、そう遠くないうちになんとかなると思うぞ。相模もあいつなりに反省してるみたいだしな」

 

 未だ納得していない様子の雪ノ下だったが、俺がそう言うと物問いたげな目で俺を見つめてきた。見れば由比ヶ浜も意外そうに俺を見ている。

 ……え、なに? 俺なんかした?

 

「さがみんが反省してるって、ヒッキーなんでわかるの?」

 

 しまった。昼にまた相模を泣かせたなんてこいつらに知られたらどんな罵倒が飛んで来るかわからん。いや由比ヶ浜は十中八九「キモい」って言うんだろうけど。同じ言葉なら耐性がつくと思ったら大間違いだよ? 毎回傷ついちゃってるからね?

 

「いや、それはほらアレだ、最近は俺の悪口も言ってないみたいだしな。前までの相模だったら、それこそ奉仕部とか、でなきゃ運動部の連中が悪いって騒いでたかもしれんだろ」

 

「あー、それはあるかも……」

 

 苦笑いで肯定する由比ヶ浜。ふう、なんとか誤魔化せたか。

 

「……状況から察するに、いまの相模さんにはそういう話をする相手がいないだけだと思うのだけど」

 

 誤魔化せてませんでした。そりゃそうか、噂を広める相手がいない、ってのは俺も過去使った自虐ネタだしな。同じくクラスに雑談をする友人などいないであろう雪ノ下なら気づいて当然だ。

 

「ま、まぁ何にせよ、相模が大人しくしてるならあとは時間が解決するだろ。俺達が変に関わって悪化させちまってもアレだし」

 

「……ええ、そうね。悔しいけれど、いまの私達では具体的に解決する方法が見つからないわ」

 

 そう呟く雪ノ下は本当に悔しそうだ。なまじ大抵のことが人並み以上に出来てしまうから、対処法がないという状況が歯がゆくて仕方ないんだろう。

 負けず嫌いの雪ノ下がそれでも現状に甘んじるという選択をしたのは、裏を返せば相模の問題にこいつが少なからず責任を感じていることの証明でもある。これ以上無闇に介入して事態を悪化させるわけにはいかないのだ。

 

 見れば由比ヶ浜も唇を噛んで俯いている。俺達の中で一番相模と親しいのは由比ヶ浜だ。クラスが違う雪ノ下や、クラスで空気に徹している俺と違って相模の状況を一番肌で感じているのも由比ヶ浜だろう。

 三浦や海老名さんほどではないにしても、みんな仲良しがモットーの由比ヶ浜なら少なからず相模とも交流があったはずだ。だとすれば、俺達の中で一番相模を慮っているのも彼女なのかもしれない。

 

 ……やれやれ。こいつらにこんな顔をさせたままじゃ、俺の数少ない居場所であるこの部室の居心地が悪くなっちまう。

 

 解決法が思い浮かばないのは俺も同じだ。だが幸か不幸か、俺は昼に相模と話したことで現状に対する一つの解消策を既に手にしている。俺としては苦渋の決断だが、まぁこのままこいつらに沈んだ顔をされるよりはいいだろう。

 

 あくまでもこれは、俺にとって居心地のいい部室を守るため。すなわち、俺のためだ。

 

 

『うちを一人にしないように、一緒にいてくれればいいんだよ』

 

 

 ……さて。快適な読書タイムのために、せいぜい明日から頑張るとしますかね。

 

 相模の言葉を思い出しながら、俺はぬるくなった紅茶を啜った。




ということで短めですが番外・奉仕部編でした。
八南を謳っていながら八南が一緒に登場したの最初の回だけなんですけど、これって怒られませんかね…?

さて、八幡の「俺のため」はいつだって誰かのためなわけですが、ともかくこれで合法的に(?)八南は一緒に行動できるようになったわけです。とはいえそこは意地っ張りの相模と、現時点で相模本人には友情も愛情もない八幡ですのでまだまだ他人レベルなのですが…。

今後も奉仕部など相模不在の場面はこうして幕間として挿入するかもしれません。しないかもしれません。正直特に何も考えてないのでそのうちいつの間にかタイトルから「幕間」が外れてるかもしれませんが、まぁあまり気にしないでください。

次回はちゃんとさがみん出します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。