魔王『フハハハ!こんなつまらない世界など、この私が滅ぼしてくれよう!』
ベタ過ぎて逆にされないようなことをネタにして、あえてやるタイプのRPGでしか見ないようなこんなセリフ
プレイする側からすれば十中八九世界は滅びないし、そう言ってる間にもとっとと滅ぼさないのかとさえ思うのだが
かくかくしかじか、Xデー目前にして勇者が魔王を倒し世界は救われるのである
隕石だとか星の寿命とかなんとか
物語におけるデッドラインというのはなんだかんだと間に合いそうに設定されるものだしイベントなんかで先延ばしにされたりもする
所謂ご都合主義、そうじゃないと主人公が東奔西走旅の末、世界を救うというありきたりなシナリオが成り立たないのだから仕方ない
だけども
どうだろう、実際に世界の終わり──途方もないけれど、そんな危機に陥ったら
時間に余裕なんてもらえるのだろうか、そもそも解決策だって見つかるものだろうか
きっと無理だろう
人間だけでも何十億人、他にも数多の生命を育むこの箱舟の終わりである
人間ぽっちがなんとかできるスケールの話ではないはずなんだ、現実に起きるなら
分かっている
このままでは
全てが
終わってしまう
そんな中で人は
希望とは程遠い
ただ、与えられた最期の時を
食い潰すことしか出来ない
知っていながら、何一つ成せない
それが、人間だ
灼き尽くされる
視界は白と黒のコントラスト
極端な高熱は赤ではなく白で示されるように、灼かれる世界は白く眩しい
世界を包むような灼熱から逃れようと黒に逃げ込む人も、下から執拗に這い上がってくる二の手からは逃れられない
暑い、そう口に出すのも躊躇われる
この熱気を取り込むのはこの鼻1つで十分である
その鼻に至っては、今か今かと駄々をこねて止まない腹にダメ押しとばかりに昼時の香りまでも運び入れるものだから忌々しいことだ
炎天は真っ盛り、溶けるような暑さにうだる人々の監獄と化したここ、交易と食の都グルートスにおいて空腹で唸る者など俺1人を除いてはいないだろう
グルートスは交易に始まり交易に育てられた街とも言われる
高い利便性を見出された土地に一度交易の拠点が根付けば、後は他でもない、人と人がやり取りをする交易なのだから次から次へと人が来ては増えていく
ある程度人が増えればそれを目当てにアレコレと店が増える、宿も建つ
そうすればあれよあれよという間に大きな街が出来上がるというものだ
そして、交易で栄えたからには街を賑わす店の品揃えも目を引くものばかりだ
グルートスでは特に食がよく発展した
目的地でもあり中継地でもあるここでは商人やら旅人やらが宿を取ったら飯を食う
衣服や雑貨も捨て難いが、旅の続きには食料はやはり最重要だ
ともすれば、量も質もこだわり抜けば客は入れ食い、商売繁盛
そして今日、交易と食で知らぬ者はいない商都グルートスが生まれたのである
しかし、いや、だからこそというべきか
金がなければ何も出来ない、それが現実であり今まさに淘汰されんとする若者が俺、シンというわけだ
「食の都……ってのも罪なもんだな」
俺はここの生まれではない、旅の足──具体的には商人だとかの船に同船させてもらえればと期待してグルートスに来たのは昨日の事
ただ運の悪いことに、着いたその日は午前中から悪天候が続き船がとても出られる状況ではなかったのだ
出鼻をくじかれた俺は、せっかくならばと名高いグルートスの味を体験するいい機会だと切り替えて意気揚々と街に繰り出した
……そこまではよかったのだが
鼻と腹に誘われるまま、適当な店に入ったのが運の尽き
あれも美味いこれも美味いと欲のままに腹一杯詰め込んだ時にはもう遅かった
会計は手持ちギリギリ、俺は当日の宿を取るだけで精一杯だった……
今日は快晴、本来ならばとっくに船旅を満喫している頃なのだが
ダメだ、何せ金がない
宿を出れば一文無し、そこにきてグルートスに船で来る人間と言えば、商人である
商人、そう、金に細かいのは必然だ
乗せてもらいたいと頼む度に乗船料を要求され、かれこれ10組程だろうか、全滅である
帰ろうにも交通手段はもちろん補給にさえ使える金などない
八方塞がりでお先真っ暗というのが現状だ……
「何でもいい、日雇いでの仕事でも受けて少しでも持つものを持たないとどうしようもないじゃないか」
そうと決まれば手当り次第そこらの店に掛け合うしかない
ゆっくりと歩き出そうとしたその時
「────えっ?」
見えた
なんと言えばいいのか、見えたのだ
それだけではない、突如周囲の音はかき消され、目──そう、自分のこの目だけが体を離れフッと別の所に飛んだような奇妙な感覚だった
綺麗だった
……ああ違う、違わないけれど、それは女の子だった
風にそよぐ長いストレートの髪は、夜とか闇とか、ともかく、今まで自分が色に持っていたイメージを吹き飛ばされるような、輝きさえ感じる黒だった
少女然とした華奢な体は同じ人なのかと疑う程で、男ならば誰しもが一も二もなく守りたい、そう思わされるものだった
陽の光のせいなのか、白に光る肌が黒い髪と合わさってよく映えていた
──嗚呼、だけど
何より俺の目に焼き付いたのは彼女の……目だ
少し切れ長なその目は力強く、しかし優しげだった
その中央、まるでこちらを吸い込もうと言わんばかりのその瞳は、透き通るような青を湛えていた
この憎らしいほどに晴れ渡った空か、それとも思わず飛び込んでしまいたくなる澄んだ海だろうか
きっとどちらの青も、彼女の瞳の眩さには程遠いだろう
そう、ただただ見惚れる事しか許されない美しさだった
ドンッ
──と、忙しく駆ける人にぶつかられるまですっかり我を忘れてしまっていた
思い返しても綺麗な……いや、そうじゃない
改めて考えてもやはり、俺はあの娘のことを知らない
あんなにも印象的な女の子だ、忘れる方が難しいというものである、少なくとも俺なら一生忘れはすまいと胸に誓うだろう
だが幻と片付けるにはハッキリし過ぎていた
妄想などで作り上げられるような生々しさではなかったのだ
「なら、誰が見えたっていうんだ……?」
疑問は残るが解く術がない
現実に本人と会えれば一番いいのだと思うが
「そんなうまい話はないよな……、俺がどうやったらあんな可愛い娘と接点を持つって──」
刹那
世界が止まったような気さえした
ありとあらゆる物は不純物と成り下がり、背景でしかいられないそれは視界に入れるのも惜しいほど
俺の全ては、その一瞬で現れた1人の少女に奪われた
身の丈は俺より少し低いくらい
長い黒髪を風になびかせ
華奢な体は触れることも躊躇いそうなほど
そして──
その青にまた、俺は吸い込まれそうになる
「「──見つけた」」
かくして半年くらい先の次回が待たれるのであった。