黒子のバスケ~白銀の軌跡~   作:ZEKUT@GRAND

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3Q

 仮入部期間も終わりを迎え、新たな新入部員を加えて、スタートを切った誠凛バスケ部。その始動は予想よりもスムーズに進んでいた。

 

 

「そう言えば、キャプテン!一つ聞きたいことがあるんだけど、です」

 

 

「あるんだけどです?お前敬語下手くそか。練習中に聞きたいことって何だ?碌でも無い事だったらランメニュー増やすぞ」

 

 

「いや、あの銀髪の奴って、どんな人なんすか?」

 

 

 先輩に対して奴よばわり、その事に溜息を吐きながら日向は一応注意する。

 

 

「お前、仮にも先輩にむかって奴なんて言うな。あいつは気にしない奴だからいいけど、それを他の奴に言ったらシバくからな」

 

 

「うっす」

 

 

 日向はボールハンドリングをこなしながら、簡単に説明を始める。

 

 

「うちのバスケ部が、去年出来たばっかなのは知ってるな?」

 

 

「それは知ってる、ます」

 

 

「聞き流すからさっさと敬語に慣れろ。でだ、俺達が夏の大会で負けた後に柊斗は入部したんだ」

 

 

「転校生なんすか?」

 

 

「いや、柊斗は元々部活動には入ってなかったんだ。うちに入部する前は、地元のクラブチームで活動してた。ま、見ての通り人付き合いが悪いからやめたんだけどな」

 

 

 日向の言葉に、今日までの部活動で起きた風景を思い起こす。

 仮入部期間は両者ともに自重をしていたが、その期間が終わると毎日と言っていい程、主将と柊斗とで口論が起きていた。

 口論の内容は勿論バスケ。だが、その中身は苛烈を極めていた。

 やれパスの回転がどうだ、動き出しのタイミングが遅いだ、シュートモーションがこうだ、聞くに堪えない怒声を浴びせ合う二人。互いの主張が間違っていることはないが、根本として考え方が合わなかった。

 お前らが俺の動きに合わせろと、それが白銀の意見。

 対する日向の意見は、お前が俺らに合わせろ、と言う意見だった。

 弁護しているように聞こえるかもしれないが、白銀は自身の我儘で発言している訳ではない。本人なりに考えた結果、これが効率が良いとみなしての主張だ。

 だが、日向からしたら白銀の意見は全面的に賛成できることではなかった。確かに、実力の高いプレイヤーの動きに合わせることは必要だと理解している。それでも、誠凛はチーム5人で攻め、5人で守るチームワークを信条としたチームであり、白銀が入部する前から、今の今までそうして勝ち進んできた。

 まさに水と油、両者の考え方の相違。

 

 

「まあ、あんだけ言い合いしてるからって仲が悪いわけじゃないが、いいわけでもない。ぶっちゃけ、俺はあいつの事が嫌いだ」

 

 

「さ、さらっと言うな……」

 

 

「それ以上に。俺はこのチームの主将として、そして1人のプレイヤーとして、あいつの事を信頼している。ことバスケにおいて、あいつほど真摯な奴はそういない。その点だけは信用してるからな」

 

 

 その言葉に火神は好戦的に口元を吊り上げる。

 このバスケ部の実力は決して低くはない。全国的に見てどうかと聞かれれば判断に困るが、それでも並より上の実力者だという事は前回の練習試合で理解している。特にOFは眼を見張るものがあった。

 そんなチームの主将が全面的に信頼を置いているプレイヤーだ。前回はあえなく敗北を期することになったが、今度はそうはいかないとリベンジの炎に燃える火神。

 だからこそ、聞いておきたかった。白銀柊斗がどれほどの実力者なのかを。

 

 

「キャプテン、実際の話、その人はどれくらいできるんすか?」

 

 

「どれくらい、か」

 

 

 火神の質問に答えを言い淀む日向。

 その反応に思わず首をかしげる。

 あれだけの評価を下しておきながら、具体的な実力を聞かれれば答えが出てこない。奇妙と言うか、なんというか。

 それからしばらく溜めると、苦々しい表情で口を開く。

 

 

「……正直、俺もよくわからん」

 

 

「わからない、ですか?」

 

 

 あれだけ答えを言い淀んでおきながら、出てきた答えが『よくわからない』。期待していたものとかけ離れた容量の得ない返答に、火神は無意識に顔を顰める。

 

 

「実際問題、俺らと柊斗はまだ日が浅い。その間に実力を把握することは少し難しい。だが、短い時間しか一緒にプレイしていないが、それでも確信を持って言えることが一つだけある。あいつは全く底を見せていない」

 

 

「底を見せていない……」

 

 

「夏の大会が終わったら、冬の大会があるんだけどな、その大会中にあった5試合であいつが何点取ったか予想できるか?」

 

 

「多かったとしても、100点ぐらいじゃないっすか?」

 

 

 火神の予想は100点、この予想が正しければ一試合に20点もの得点を挙げていることになる。シュートを10本決めるだけと、簡単に見えるが、実際はそう簡単なことではない。

 膠着した試合ではロースコアになることもあり、40点ほどしか点が入らないこともある。逆にランガンゲームなら、両チームとも100点を超えることもあるが、それでも20点は対した数字だ。

 火神の予想の答え合わする様に、日向は答えを言う。

 

 

「150点だ」

 

 

「150!?」

 

 

 予想よりを遥かに超える得点に火神は驚愕を隠せない。仮に日向の話が本当なら、一試合に30点は決めている計算だ。

 

 

「まあ、得点力が高いからと言って、実力が高いって言う訳ではないんだが、それでもあいつは強い。身内贔屓に聞こえるかもしれないが、ポジションとかなしにしても、少なくともうちの地区では一番の実力だと思う」

 

 

 その言葉に今度は驚愕ではなく、火神は笑顔を見せる。

 当初火神は日本のバスケのレベルの低さに木菟なくない絶望を抱いていた。程度の低い試合、自分に追随することのできない味方、敵にもなりえない相手、もう一度アメリカに戻ろうかと考えたことも少なくはない。

 そんな中で自分の隣、もしくはその先を行く選手がすぐ近くに居るのだ。これで燃えないわけがない。

 

 

「はっ!そんじゃあ、あの人を抜けば俺がこの地区で一番ってわけか。分かりやすくていいぜ!」

 

 

「おう、今のお前じゃ勝てないだろうから、しっかり練習しろ」

 

 

 こうして長話をしている間に、ボールハンドリングのメニューはすべて終わり、次の練習に移行する。

 

 

「うし、締めにミニゲームだ。適当にチーム分けするから分かれろ!」

 

 

 その掛け声と共に練習に終わりの兆しが見える。

 その後、監督であるリコがキセキの世代を要するチームと試合を組んだことで一悶着が起き、更に噂の人物がこの場に現れたことでいっそう場が沸きだつこととなったがそれは些細なことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィジカルも問題なし、動きにムラが出始めるのが20分からってとこか」

 

 

「冬よりは伸びてるな。それでも微々たるものだが」

 

 

「冬から春までの短期間でこれだけ伸ばせれば上等だ、馬鹿野郎」

 

 

 場所は変わって相田ジム。

 ここで二人の男がテストの結果に互いの意見を述べていた。

 

 

「おら、アイシングだ。しっかりクールダウンしとけよ」

 

 

「助かる」

 

 

「たくっ、もう少し年上に敬意を払いやがれ。可愛くない奴だ」

 

 

「男で可愛いと言われて嬉しいと思うやつは少ないと思うが」

 

 

「そう意味で言ってんじゃねえよ。そのまま楽な姿勢で聞いとけよ。今のところフィジカル、特に体幹は文句なしだ。多少接触しようがぶれることの無い重心、インナーマッスルで鍛えた筋肉の鎧、その筋肉の鎧を重しにすることなく十全に扱うことのできる柔らかさ、才能じゃなく反復することで身に付けたそれはお前の動きに答えてくれるだろう」

 

 

「そうか、その割に上半身と下半身の動きにラグが感じるんだが」

 

 

「それは新調した体に慣れてないだけだ。直に誤差も無くなる」

 

 

 白銀は手を開いて握ってを繰り返し、感触を確かめる。

 その様子を端から見ていた相田景虎は、大きく溜息を吐きながら忠告をする。

 

 

「念を押すが、その不安定な状態で無茶すんなよ。今のお前は成長期だ。身体の成長は勿論、心も大きく変わるデリケートな時期だ。新しくなった身体で試してみたいことはあるだろうが、くれぐれも気持ちを先走らせるなよ。そう言ったことで取り返しのつかない怪我をした奴は多くいる」

 

 

「わかっている。まずはこの身体の動きになれるとこから始める。今のままじゃ、本気で動いたららしくないミスをしそうだ。思考と身体を合わせるために、ボールをついて馴染ませることにする」

 

 

「わかってんならいいんだよ」

 

 

 言いたいことを言い終えた景虎は、計測に使っていた機器の片づけを始める。

 それ視界の端に捉えながら、白銀は今後のスケジュールを脳内で描き始める。

 現状、思考の一歩先を身体が行っている。そのラグは小さいが、そう言ったものが積もり積もって試合に大きく影響を及ぼすことを白銀も理解している。

 夏の大会まで残り時間は多くない。その残り少ない時間の中で、如何に体と思考をマッチングさせるか、それが今後の課題となるだろう。

 

 

「そういや、前のとこにはまだ顔を出してるのか?」

 

 

 突突にフラれた話題、それに苦笑を零しながら答える。

 

 

「月に数回程度な。景虎さんに紹介されたチームだけあってチームの総合力は見事の一言だ」

 

 

「世事はいい。そんな奴らから2Qの間に20点も得点決めやがって。大人もびっくりな強さだよ。これで片方だけなんだから、あいつらからしたら笑えねえよ」

 

 

「初めは苦労したが、慣れればどうってことはない。元々視野は広い方だ。それに見えなかったとしても、バッシュのスキール音でおおよその位置はわかる」

 

 

「普通の選手ならまず間違いなくできない芸当だぞ、それは」

 

 

 白銀はなんてことないように口にするが、景虎からすれば馬鹿げているとしか言いようがなかった。

 景虎が現役時代だった時でも、音によって状況を判断することなど意図的にはできなかった。できたとしても反射的に程度だ。

 それを意図的に行う事がどれだけの事なのか。それをいまいち理解していないのは白銀本人だけだ。

 本人からしたら足りないものを補うために努力した、それに尽きる。

 

 

「現役時代にお前みたいなのが居たらと思うとぞっとするぜ。獣のような本能と人間の知性の融合、そこに天賦の才能まであるときたら相手からしたら悪夢だ」

 

 

「人を獣畜生のように言ってくれるな」

 

 

「怒るな怒るな、マジで褒めてんだよ」

 

 

 そうこう雑談を交わしている間に、玄関からドアが開く音が聞こえる。

 

 

「ただいま~」

 

 

「おっ、リコも帰ってきたことだ。お前はさっさと帰れ」

 

 

「相変わらずの親馬鹿だな」

 

 

 今までの雰囲気から一変、娘を溺愛する父親へと変貌した景虎、白銀はこれさえなければ尊敬できるのだが、と溜息を零す。

 内心の事は口に出さず、軽く汗を拭き、服を着替え荷物を纏める。もしもだらだらする様なら、怖いお父さんがテッポーを持ちだしてくる。だからさっさと済ませる。因みに経験談だ。

 

 

「あ、まだいたのね」

 

 

「今帰るとこだ」

 

 

「お帰り、リコたん!」

 

 

「ふん!」

 

 

 少女の拳が一閃、父親の顔を打ち抜く。

 もはや恒例行事になりつつある流れに、白銀は相変わらず仲の良い事だと微笑ましく見守る。

 

 

「白銀君、今週末にキセキの世代の一人が居るとこと試合することになったから」

 

 

「そうか、俺は後半からか?」

 

 

「う~ん、今の日向君達でどこまで行けるか次第ね。少なくとも2Qは出てもらうからそのつもりで」

 

 

「わかった。監督であるリコの采配に従う」

 

 

「頼りにしてるわよ」

 

 

 その後、白銀はリコと軽く雑談し、帰宅した。

 実のところ、適当に合わせてみたは良いが、キセキの世代が何なのか知らなかったりする白銀だった。

 この男、自分がバスケすること以外に対する知識は壊滅的だったりする。

 

 

 

 

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