Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
──マスク・ド・バリツと被った。
「ァァァッ!」
眼鏡をかけた少女が倒れる。
少女の美しく白い肌はまるで──自分が想いを寄せるある人物と少女がじっぽりネットリと愛し合う激甘ラブストーリーを見て感情を処理しきれず、オーバーフローを起こして倒れたように上気していた。
作者である童貞曰く、「薄い本のつもりが厚くなった」。
「ふ、他愛ない。この程度ですかカルデア。早く私を止めないとこの
「止めなさい益田四郎!聞き入れられないなら貴方の産まれ故郷の精霊であるクマモ○に酷いことをします!」
「貴女も大概ですねジャンヌ。て言うかその本名何で知っているんですか」
「この前ネサフしていたら『バビロンの空中野菜庭園』と言うブログに貴方の情報がそれこそ1から10まで載ってましたよ。ネットとは本当に凄いものですね」
「その内電脳の聖杯とか出来そうですね。ムーンセル?何ですかそれ」
「いつまでやり取りしてんの?早く次のシーンに移らないと尺が足りないの分かってる?」
燃え盛るカルデア。崩れ落ちる壁や天井。
そんな絶望的な状況の中で行われる2人のルーラーのおかしなやり取り。それに遂に痺れを切らしたアヴェンジャー、アンリが次のシーンで使う聖晶石を片手に指摘する。
指摘された側のルーラー2人はハッと我に返って本来自分が言う筈だった台本の台詞を思い出す。
「止めなさい、色黒将軍アマサク!人類を救済するなんて馬鹿げた事は傲慢に過ぎます!」
「おっと、もしかして何か勘違いしてない?我らが大総督はこの聖晶石を爆死した多くのマスターにくれてやるんだぜ?これ程の親切があるかよ」
「確かにそれは……多くのマスターの救いになるでしょう。ですが、それで再び石を獲たマスター達がそのまま満足するとお思いですか?彼らは石を得て回し、また爆死する。そんな負のサイクルがあるだけです!貴方は、根本的に救えない。一時の救いを、幸福を得させて自己満足するだけです!」
「いいえ、救えます。石を得て回す。するとお目当てのサーヴァントが引き当てられた、意図せずともすり抜けで強サーヴァントを引き当てられた。彼らは救われるでしょう。だがそうでない者は?その時は今月の使用できる金額を甘く囁くのです。アマサクだけに。すると彼らは石を買うのです。それは即ち運営の売り上げとなる。そして石をまたも手に入れた彼らは右上の石の数を見て精神的な余裕を得ます。そして回す。出たら救われ、余った石は次へのモチベーションに繋がって、出なかったらもう一度同じ事をする。彼らは常に満たされているのです」
「埒があきませんか。では……実力行使に出るしか無いようですね」
「やはりそう来ましたか。いつも通り、聖女とは思えない血の気の多さで驚きます」
ジャンヌが旗を槍のように操り、構える。
対する天草──暗黒帝王アマサクはその双腕に魔力を迸らせ、宝具の発動準備にかかる。
もはや両者激突まで僅か数秒と迫ったとき、カルデアの天井を突き破って黒い影が落下してきた。
その影は怯んだ両者の内、アマサクへと着地からコンマ3秒で跳躍。弾丸のように鋭い拳が心臓目掛けて繰り出される。対するアマサクは倍の早さで回避し、左手でもて余していた刀の
拳は空を切り、刀の頭は防がれ、鼻息すら顔にかかる距離になったアマサクと影は同時に膝蹴りをお互いに見舞い、大きく距離を離して着地した。
超短時間で行われた余りに密度の高い攻防。ジャンヌはそれらを眼で追うことは出来たが相対したらどうしようも出来なかったと、両者の力量に肝を冷やしていた。
「くっ……この攻撃の鋭さ、先読みの早さ、そしてその独特な魔力……!何故生きている!」
「あ──貴方は!?」
影が立ち上がる。
その体は鋼の如く強靭な筋肉。その精神はダイアモンドの様に硬く、悪には決して染まらない。
「答えよう天草四郎時貞。俺は、既に
「藤丸立花……ッ!お前は確かに私が殺した。太陽をx500の望遠鏡で見させてショック死させた筈だ!何故!」
「言った筈だ。死人であると」
「まさか藤丸……貴方は英霊に成ったとでも言うのですか?」
「……ただの成仏出来ない魂さ。それが英霊と言う皮を被っているだけに過ぎない。だが敢えて言おう。俺が何者であるかを!」
影──藤丸立花は残る瓦礫埃を振り払い、一瞬で翼の様にV字に並んだ白い仮面を装着。尻を叩き、魔術刻印を活性化させて1本の槍を召喚しながら再び跳躍した。
男は黒く、光を灯さなくなったカルデアスの上に立ち、突き破ってきた穴からのバックライトを浴びながら高々と名乗りをあげる!
「我が名はマスク・ド・カルデアス!人の営みを害する者よ、天を仰げ。世界の理を乱す者よ、刮目しろ。貴様の目の前に居るのは最後の──
◇
「いやぁ、こう見ると恥ずかしいな」
「そうですか?私は久方ぶりに悪役ができて満足ですよ。やはり個々の正義とはぶつかり合ってなんぼですからね」
「アンタは素でしょ?」
「バレてました?まぁ、それはそれで。ところで私の呼び方統一してもらえませんか?皆さん好き勝手に呼びすぎで視聴者が困ります」
カルデアのレクリエーションルームでアンリと天草、その他数人のサーヴァントが最早何インチか分からないほど大きいテレビで
主人公は当然ながらぐだ男。役名は藤丸立花という名前で、爆死したマスターから生み出される『マナプリズ』と呼ばれる怪物を倒す男。しかし黒幕を追う内に太陽を500倍で見てしまい、ショック死。
悪役の天草はアマサク。世界のあらゆる可能性を内包した超高密度エネルギー体『聖晶石』を使って爆死したマスター達を
ヒロインのジャンヌは英霊の座と呼ばれる派遣会社から送られてきたアマサクバスター。藤丸とは共にアマサクを倒すために協力関係にある。
「しかしぐだ男も魔術で補助しているとはいえ、化け物みたいな動きをするな。合成ではないのか?」
「当然だ。あのメディアが魔術で補助し、格闘術や体作りは脳筋サーヴァント共が叩き込んだんだぞ?」
タバコを吸いながら設定原稿を読み漁るエルメロイ二世と、その質問に答えるアンデルセン。
そんな暇をもて余したサーヴァント達が居る中、主役であるぐだ男の姿はそこには無かった。
「それだけの事をこなせる男だ。どうせ新しい特異点でも元気にしているだろうな」
◇
「ふんッ!」
バキンッ!と何かが割れた。
剛性のある金属があまりの変形に耐えられず破壊された音。血塗られた2人持ちの鋸が真っ二つに折れた音だ。
「何じゃぁお主!?いくらなんでもおかしいと思うんじゃが!?」
「何もおかしい事はない。ただ筋肉を活性化させて魔力放出(筋肉)をしただけだよ」
「それがおかしいって言ってるのが分からぬのか!?こやつ脳ミソまで筋肉詰まっておるぞ!?」
「まぁ、ウチのマスターはこんなんだからね。でも良いナー。ボクも魔力放出出来たらもっと強いんだけど」
「いや、正直あれが魔力放出とは言い難いかな……」
「あれほどの筋肉……きっと命乞いをしても容易く首を折られてしまいそうです……恐いです」
◇
「ンッ!ハァッ!流石はンムァスタァ!遂に筋肉の真理にたどり着いたようですな!やはり私の計算は正しかった!」
「流石はレオニダスさんと先輩です!」
レオニダス曰く、あと2年──否、半年もトレーニングを重ねればクリスタルゴーレムもワンパンらしい。一体ぐだ男は何処に向かおうとしているのだろうか。その疑問は本人のみぞ……。
「まぁ、向上心の無い奴は馬鹿って言うし?アイツにはそれ位突っ走って生きてた方がお似合いでしょ」
「うむ。それもまたローマである」
「私が今まで撮ってきた写真と見比べると大分体格が変わってますよ」
ゲオルギウスが持ってきた写真には初めてカメラを貰った時のぐだ男とマシュのツーショットと、先週の誕生日パーティーでベオウルフとぐだ男がガチンコ腕相撲をして、ぐだ男が瞬殺されている場面が写っていた。
それらを見比べると確かに肩幅等が大きくなっていたりと外見的な変化が多い。
「あ、カメラマン見っけ。ちょっと良いかしら?」
「おや、エリザベート嬢。何かご用ですか?」
「貴方聖人でカメラマンでしょ?だからニトが言う幽霊が写真で撮れないかなって」
「
先週の誕生日パーティーからニトクリスが幽霊を見ると言う。何かと一緒に居ることも多いエリザベートが気味悪がってこうして聖人カメラマンを探していた訳だ。
別に皆、今まで散々襲ってくるゴーストと戦ってきたり神代には珍しくもなかったので割りと気にしてはいなかったりするが──
「何?他のマスターの方々が?」
数十人の魔術礼装カルデアを纏った男女、それらが爆破に巻き込まれたマスター達だと言うのはこの間、魔術協会員達が冷凍状態にある彼等を回収していった時に顔を見たからだ。
「では彼等はその爆破の際に既に死亡していたと?」
「それは分かりません……ですが、あの霊達からは強い未練や怨念を感じます。ましてやそれがぐだ男の周りで蠢いているとなると……」
「成る程。マルタ殿には頼まなかったのですか?」
「それが、感知できるのが私だけみたいで……ですが聖人カメラマンなら写真で成仏させる事が出来るかと」
「試したことが無いので答えかねますが、やるだけやってみましょう」
早速ゲオルギウスはカメラを手にカルデア内をニトクリス、エリザベートの両名と共に行動を開始。
ぐだ男の周りに居るという幽霊は5日前にぐだ男がアガルタに赴いてから見てないらしく、何処を探せば良いかも皆目検討がつかない。だがそれでも、嫌な予感がするニトクリスは暇があったら探していた。
「放置していては……いけない気がするのです」
◇
「──成る程!そういう仕組みですな!生者の魂を死者が捕らえて離さない。さながらそれは既に死しているにも関わらず、死にたくないと助けを求めているよう!しかし、廃棄物とは言えあれほど強固な魂の欠片の殻を破れるとは……
「?しぇいくすぴあ、ひとり……ごと?」
「放っておきなさいアステリオス。どうせまた執筆で気持ちよくなってるだけよ」
「独り言ではありませんぞ。これは啓発なのです!来る新たな戦い、苦しみ、そして悲劇!吾輩はそれらを皆に報せる為にこうしてペンをとるのです!嗚呼、腕が勝手に!」
「たのし、そう」
紙の書籍も電子書籍も揃ったカルデアのライブラリスペース。今日も本を読むのが好きなサーヴァント、アステリオスの様に勉強するサーヴァント、或いはシェイクスピアの様に今を生きるのに忙しいサーヴァント達が思い思いに過ごしていた。
そんな中、文字を絵本で勉強していたアステリオスは隣で興奮しているシェイクスピアが気になりつつも、エウリュアレに「関わっては駄目」と言われて何とも過ごしにくい状態であった。
当のシェイクスピアはその啓発を書くのに集中しはじめて、少し離れた所からビリーに五月蝿いよと注意されても右から左。
「おぉっ、おおっ!これは不味いですぞ……嫉妬や無念はこうまで人を、死して尚も魂を駆り立てるのか!死人に口無しとは果たして何でありましょう!」
「五月蝿ぇよシェイクスピア。お前さんまたコミックなんたらに向けて張り切ってるのか?」
「これはこれは、キャスターの光の御子殿。実は吾輩、啓発しているのです」
「取り敢えず執筆してるのは分かってるが……啓発?」
キャスターのクー・フーリンがシェイクスピアの前に腰掛けて音消しのルーンを指先で描く。
ここは図書館。周りへの配慮は当然の事だ。
「で、何の啓発だ?」
「勿論ぐだ男の危機、ひいては我々の危機ですぞ」