Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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死んでません!


Order.80 セイレム Ⅷ

 

 

 

「うわああああっ!!」

 

「そらっ! 大人しく土に還りな!」

 

 ロビンの放った矢が腰を抜かしていた男に襲い掛かっていた食死鬼(グール)の頭蓋を貫いた。

 風通しの良い穴を穿たれた食死鬼(グール)は漸く動きを止め、グズグズと崩れていきながら灰のように霧散する。

 

「た、助かった……!」

 

「助かったのならとっとと逃げな! 船に逃げれば船乗りのオッサン達も居るからここよりは安全だ! それにいざとなれば少し沖に離れるよう言ってある!」

 

「ありがとう!」

 

 これで17体目。

 ロビンは胸中で今倒した食死鬼(グール)をカウントする。

 別にこれは戦績を確認したいから等ではなく、初日の初遭遇から日につれてどれだけ食死鬼(グール)が増加したか確認のためのものだ。

 

(それにしたって、ちょっと時間が経っただけで17体か。こりゃあ今夜も厳しいな)

 

「──っと、お代わりだぜおっさん」

 

「ま、まだ……!?」

 

 たった30分。それなのに既に戦線は崩壊して殆どをカルデアの面子が処理する形になっていた。

 怯える村人の尻を叩いて、せめて恐怖で混乱しないように心掛ける。と言っても、叩かれた村人の目には怯えの色しかない。

 

「……しょうがない。オタクは逃げな。そんな怯えて腰が引けた状態じゃ満足に戦えねぇ」

 

 その言葉に村人は待ってましたと言わんばかりの勢いで逃げていく。

 

(さぁて……逃がしたものの、少ししんどいな。ぐだ男は大丈夫か?)

 

 少し離れた所ではぐだ男も戦っている。

 ロビンの持ち場でこれなら、ぐだ男の持ち場も似たような状況になっているのは想像に難くない。

 

「取り敢えず、数を減──何だ?」

 

 ◇

 

「旦那! こっちはもう駄目だ!」

 

「ぐ……っらぁ! 無理なら逃げてください! 船か家に立て籠っている間にこっちで──ふんッ! 対処します!」

 

 食死鬼(グール)を2体斬り伏せて村人を逃がす。

 これで戦線を離れた村人は18人目……つまり全員だ。今は大挙してやって来てないから戦線維持には1人でも事欠かないが、この調子だとロビンや哪吒の所も似たようなもんだろう。

 なら3人で集まった方が効率も良いけど……後退して家屋に避難している人達を危険に晒したくない。

 俺だってずば抜けて強い訳じゃないんだ。相手が鈍いから上手くいってるだけで……。

 

「ヌウッ! はぁ、はぁ……」

 

 それより、まだ少ししか経ってないのにこれは多いな……。

 森の方で敵の大半をキルケーに燃やしてもらっているにしても、中々堪える数だ。

 

「1人でも大丈夫だけど、息は上がる……都合良く増援とか無いかな」

 

 数体の群れから跳び出してきた敏捷な食死鬼(グール)を殴りながら少し後退。

 追ってきた別の食死鬼(グール)を足払い、倒れたそいつの両足を自分の脇腹にガッチリホールドしてジャイアントスイングを開始する。

 丁度この間金時にどこまで飛べるか、『ハンマー投げ』ならぬ『マスター投げ』でぶん投げてもらった時の彼の動きを記憶のそれからトレース。

 回されてる食死鬼(グール)が引っ掻く余裕が無いレベルの遠心力で群の中に放った。

 ……何か、食死鬼(グール)がブッ飛ぶ様にそこはかとなくギャグよりなアトモスフィアを感じる。俺は真面目に戦ってるんだけど……。

 

「──?」

 

 アトモスフィアの語呂の良さに、いっぱい使ってみようかなと使い所を考えているとロビンに任せた左翼側から破裂音が。

 爆竹みたいな音じゃない。もっと──そう。銃だ。銃の音だ。

 別段銃を使うのは今に始まった事じゃないから驚かないが、気になったのは“数”。

 この時代なら銃も普通にあるから、多分マスケット銃を使っている筈だ。実際にフリントロック式のを使っている人も見た。

 でもそれを持ってる人も意外と少なくて、ましてや練度も低い。戦力として見るには心許ないのが現状だった。

 だから自信のある人だけ装備させたんだけど、俺の見た限り2、3人しか居なかった筈。

 それが、今聞こえるのはまるで10人以上居るかのような数の発砲音。正確な数は分からないけど。

 大まかな予想をするなら、これは都合の良い──

 

「ミスター、下がれ!」

 

 その声で確信した俺は迷い無く後ろへ跳んだ。

 そしたら後は思った通り鉛の礫が食死鬼(グール)の集まりを地に伏せさせた。

 

「──何?」

 

 そう。撃たれた食死鬼(グール)が死んだのだ。

 その事実に真っ先に違和感を感じて発砲した人達を見た。

 下がれと声を張った()()()()の前に1、2、3……9人の兵士。皆マスケットを構えていて撃った後のリロードを上手くカバーしあっていたり、連携の練度も高い。

 カーターが連れてきた増援なのだろう。それは分かる。が、分からないのは何故食死鬼(グール)がこんなにもあっさりとやられるのかだ。

 この数日で食死鬼(グール)がサーヴァントの攻撃なら兎も角、銃弾1発2発で倒せるほど弱くないことは実感している。だから被害が大きくなったんだ。

 

「無事で何よりだミスター。軍に居た頃のツテで軍の戦力一部を貸してもらってきた。だが申し訳ない。あれらと戦いなれている君の力も必要だ」

 

「大丈夫です。ところで、あの銃は何か特殊なものですか?」

 

「流石だミスター。あれの銃弾には洗礼を施した銀を使用してある。もしやと思って使ってみたが、効果覿面のようだ」

 

 成る程。銀の銃弾か。

 俺もビリーから貰った銃弾(シルバーバレット)にこぞって聖人達が祈りを捧げたから大抵の魔性には効くだろうけど、持ってきてないなぁ。

 槍の先っちょにガッチリ固定すれば良い武器になったかも。失敗したなあ……キャスニキにちゃんと溶接のルーン教えてもらうんだった。

 え? 物性? ルーンなら大丈夫!

 

「それは頼もしいです。では私が敵の足止めをするので焦らず、落ち着いて射撃を。弾も貴重だと思うので──逃がすか!」

 

 何て言ったり考えたりは一度止めて、鉛の突風ではなく銀の突風をくぐり抜けてきた食死鬼(グール)の1体を脇腹目掛けて本場のアメフト並みのタックルをかます。

 いくら食死鬼(グール)と言えど、認識外からの突然の衝撃に体が対応しきれず、背骨が砕けて文字通りくの字になった。

 

「乗り切るぞ!」

 

 ◇

 

 翌8時。セイレム滞在6日目。

 カーターが連れてきた増援もあって、日を跨ぐ前の23時頃に食死鬼(グール)を殲滅した結果からか、外に出て畑に向かう者や教会に祈りに行く者、酒を飲みに行く者やそうでない者。皆がここ数日で一番の笑顔を見せていた。

 雲1つない青空快晴の下、何故か少し離れた沖の方は並みが荒く、まさに時化っている海を桟橋から足を投げ出して眺めているぐだ男の表情は天気とは違って曇っていた。

 

「もう6日目なのに……」

 

 特異点の攻略にはそれなりに時間を要する。

 1日や2日で帰ってこれるのは本当に規模が小さい、危険度が低い特異点だ。それこそ、ぐだ男1人で行って解決できるものも。

 それでも彼が6日という日数を気にしたのは、敵に関する情報が少なすぎるからだ。

 今までの特異点であれば大体すぐに聖杯の持ち主の予測や場所、目的は分かっていた。しかし今回はあまりに奇妙。

 シバの女王から魔神柱の存在を聞いたっきり、村にも森にもそれらの痕跡は一切無い。シバの女王も何故セイレムを再現したのか検討つかないとお手上げだ。

 それでは何から手を付けたものか分からなくなるもの。現状、怪しい気がするラヴィニアの行方も知れず、こうして出来れば情報整理でもと海に来て難しい顔をしていたのだ。

 

「……千里眼でもあればなぁ」

 

 波の音に掻き消されるほど小さな声で独り言つ。

 ぐだ男自身、千里眼もそんなに都合が良くないことは長いマスター経験の中で幾度も思い知ってる。

 そう思うのも、魔神柱の尻尾を掴むどころかその姿ですら見えず、自分達は今まで魔神柱の思惑通りに動いてしまっているのではないかと危機感あってこそ。

 セイレムの嫌な雰囲気もあって、彼は少し弱気になっていた。

 

「あ、先輩おはようございます。ここに居らしたんですね」

 

「おはようマシュ」

 

 今日初めて交わす朝の挨拶。

 と言うのも、マシュが起きる前にぐだ男1人でここに来ていたのが理由だ。

 

「良く寝れた?」

 

「はい。先輩こそ、深夜遅くまで村の見回りをされていたそうですけど大丈夫ですか?」

 

「俺は平気。それ位慣れてるからね」

 

 軽く言ったその一言にマシュもそれ以上の心配はせず、隣に座ってこれからどうするかを問う。

 それはぐだ男自身も誰かに問いたい事柄。でも彼女も分からなければ誰もこの問いに答えようもない。

 彼は申し訳無さそうに今までと特に変化が無いことを伝え、1つ思い付いた事を話した。

 

「マシュ。このセイレムが再現なら、人はどうなんだろ」

 

「どう……と言いますと?」

 

「村人には()()()セイレムの人は見られなかった。けど、ホプキンスは実在した人物だし、あのビル・オズボーンも実在したサラ・オズボーンの夫として設定されていた」

 

「はい。史実におけるサラ・オズボーンの配偶者はロバート・プリンスですので、ビル・オズボーン自体はただの虚構に過ぎません。ですけど、村の人達が何かしら史実に元ネタがあるのは間違いないです」

 

「そそ、それそれ。俺はそこら辺の知識は出撃前に軽く叩き込まれただけだから殆ど覚えてなくて…………すぐ忘れちゃうんだ……。だからマシュならもしかしたらこう、この人は変ですっ! って言うのがあればと思って」

 

 我ながら妙案だとぐだ男は心中で胸を張る。

 そのイメージが逞しすぎて胸を張った瞬間に魔術礼装カルデアの胸ベルトやらインナースーツやらがまるで漫画のように弾け飛んでしまったが、マシュはそんな彼のちょっと危ない面に気付くこと無く、申し訳なさそうに返した。

 

「それが……実は私もそれを思い付いていて、シバの女王の結界内で何とか実行しようと思ったんです。ですけど……()()()()そこら辺の認識が強力に阻害されてしまって……」

 

「あー……そうか、そうだったかも」

 

 上手くいきそうな案だと思ったんだけどな。と続けて息を吐く。

 今彼の頭の片隅には、カルデアの母親系サーヴァントが散った布片を集めている彼の後ろで「誰がその服を縫うんだい」と腕を組んでいる。

 弱気を無理矢理吹き飛ばす為にとは言え、変な妄想をし過ぎでは無いだろうか。

 

「先輩……大丈夫ですか?」

 

 ぐだ男の記憶の追い方に僅かな異変を感じたのか、マシュは心配そうに訊ねた。

 何せ認識阻害の件はキルケーが結界を作ったときにも話したし、シバの女王の隠れ家に行ったときにも話した内容。

 今自分達を取り巻く環境の中でかなり優先度が高い事なのだが、それを忘れていたとなると認識阻害の影響かと疑いもしよう。

 実際はそうではないのだけれど、ぐだ男自身、自分の症状を話すつもりもないしマシュを心配させたくも無かった。

 であるならば返す言葉はほぼ決まっている。

 

「俺も魔術の耐性を学ばないと駄目そうだね」

 

 笑ってそう返す。

 その笑みにマシュも安心した様子。何かあれば言ってくださいね。と付け加えた後やや遅めの朝食の準備に取り掛かるべく桟橋を後にしようとした。

 その時、立ち上がったぐだ男の視界の端に人影が見えた。

 海沿いのセイレムの住人にしては白い、白すぎる肌。大体海沿いの人は太陽と海で反射した太陽光で肌への影響が日焼けとして現れることが多い。

 それが地域差と言われてしまえば終わりだが……少なくともこのセイレムでは彼女ほど──それこそ生気を失ったような──白い肌は居ないだろう。そして大きく弧を描いた下瞼と肌以上に白い髪が特徴的なその少女はぐだ男とマシュの視線に気付くこと無く、まるで何かから逃げているかのように森へと走り去っていった。

 その少女はラヴィニア。言わずもがな、ぐだ男が探していた少女だ。

 このセイレムにおいて何か情報を掴んでいそうな雰囲気から、何か有力な情報を聞き出せないかずっと気にしていても会うことが出来なかった重要人物。

 彼女と一番面識があるサンソンが居ないことにまいりつつも、ぐだ男とマシュのやることは決まっている。

 全力で後を追う。マシュはサーヴァントとして戦えなくなっても、日々のトレーニングはしているようで、『走る高密度筋肉』の2つ名を持つぐだ男の脚力に追い付いていた。一方の『走る高密度筋肉』は無意識下の魔力放出(筋肉)──とは名ばかりの筋瞬発力──で地を蹴る。元々脚力に自信がないとは言え、雪の中で子供3人(計100kg程)を担いで敵から逃げおおせる男だ。今も乾いた地面が単純な脚力で抉れるのだから、一般人と言い張るには些か筋肉(ムリ)があり過ぎる。

 

「ラヴィニアさん! 待ってください!」

 

 程無くしてマシュが息を切らしながらラヴィニアへ声を張った。

 既に森の深くへ踏み入れていたが、食死鬼(グール)や狼等の危険な敵は一切見られない。

 ラヴィニアもぐだ男達を振り切れないと悟ったのだろう。大人しくその声に従って振り向いた。

 森の中は海辺とはまた違った涼しさで、立ち止まると温まった体を程よく冷ましてくれる。そんな状況で少し落ち着いたマシュはラヴィニアを怖がらせたりしないように気を遣いながら何かしらないか問う。

 ぐだ男は前のように拒絶されるものと予想し、何か少しでも知っていることは無いか訊く為に脳内で質問を用意する。

 しかし、振り向いたラヴィニアはやや不承不承といった表情を隠さないながらもマシュの質問に答え始めた。

 明らかに前の態度との違いに逆に気になってしまうぐだ男も、ラヴィニアから得た情報は一言一句逃すまいと先程仕舞ったばかりのノートとペンで記者バリのスピードでメモ。以前特異点で情報の重要度が分からないサーヴァントのお陰で酷い目にあったからか必死だ。

 

「……成る程。魔人柱が」

 

 ある程度質問責めにした後、ラヴィニアの言葉を思い出しながら自分のメモに目を通しながら呟くぐだ男。

 ラヴィニアの話によると彼女も外からやって来たらしく、アビゲイルと昔から友人関係にあったというのは偽りの記憶だそうで、本人もそれを自覚していた。

 何故自覚が可能なのかは彼女を脅していた魔人柱ラウムによるものだろう。彼女がアビゲイルから距離を置いていたのもその辺りが関係しているとぐだ男は辿り着いた。

 そして彼女自身にも何か目的がある。確信しているぐだ男だが彼女の早く終わらせてくれと言わんとする表情からこれ以上の会話の継続は困難であると切り上げた。

 そうしてラヴィニアはぐだ男とマシュの森は危ないとの警告を無視して更に奥へと駆けて行った。

 魔人柱の話が相手から出てきた以上、信じる信じないにせよこの情報は他の皆に早急に伝えておくべきだ。薄気味悪い森から早く出たい気持ちもあり、ぐだ男とマシュは早歩きで森を後にするのだった。

 

 ◇

 

「──と言うのがさっきラヴィニアと接触して得た情報だ。で、彼女も何かしようとしているみたいだけど、こっちに対して敵意や害意みたいのは感じられなかったから放っておく予定。まぁ、そんな達人でもない俺が言うのも信頼度は低いけどね。兎に角、ラウムがわざわざ呼び出したラヴィニアにアビーの友達役をやらせる理由が意図的なのか適当にあてがったのかは不明だけど、これからはアビーにも気を付けた方がいいと思う」

 

「その通りだね。それらの情報から推測するに、魔人柱ラウムがアビゲイルに接触している可能性も考慮すべきだろう。となると周りで怪しまれずにアビゲイルに接触できる相手は?」

 

 椅子に腰かけ、目線を手元のノートに落としながら一通り告げた俺にキルケーがそう投げかけてくる。

 周りには情報共有の為、シバの女王の隠れ家で休養中のマタ・ハリを除いたカルデアメンバーが終結しており、その質問に対して全員がある人物を思い浮かべた。代表して、ロビンが発言する。

 

「確かに、皆思ってる人物が該当するだろうな。じゃあ奴さん暗殺でもしてみますかい?」

 

「流石にね……怪しいけど、まだ確定じゃない。一度カーターに話してみようと思ってる」

 

「どこまで話すつもりだ?」

  

「全部までとは言わない。けど、俺達が本当は何者かとか目的は何かとか。もしラウムなら今更知らない筈もない情報だし、違ったなら劇の役にのめり込み過ぎた変な奴の認識で済むでしょ」

  

「大丈夫でしょうか……?」

 

「ラウムがその気なら俺達はとっくに殺されてるさ。もしかしたら自分が死んだことに気付いていないだけかも」

 

 そんな馬鹿な事があるとは思えないけどなー。なんて呟いたキルケーに近しい例として土方さんを挙げておく。

 彼は五稜郭での戦いで倒れたが、英霊として召喚されても彼にとっては地続きなのだ。

 本人からしたら撃たれて倒れて目が覚めたらぐだぐたと見せ掛けた魔神柱案件に巻き込まれ、カルデアに居て、まだまだ人理の危機とか何だか知らないが取り敢えず新選組()は終わっちゃいないからここが新撰組だあッ! だからね。

 そういうのを見ると、自分が果たして生きているのか死んでいるのか何が正しいのか分からなくなってくる。「我思う故に我あり」とは言ったもので、俺がこうして自分が現実なのかどうなのか思う事こそが、俺という存在の証明になる訳で──と、それは考えても仕方ない。

 先ずはカーターに話してみて何かしら反応が得られるかどうかだな。

 

「もしその場で腹でも刺されたら俺余裕で死んじゃうし、ロビンに任せて良い?」

 

「もっと酷い状態で生きてた奴が何を言ってますかね。ま、取り敢えず陰から警戒しときますよ。指先1つ怪しい動きは見逃さねえさ」

 

 そんな短い話し合いを終え、俺は目的通りカーターに俺達の目的、このセイレムの状況、魔神柱の存在を明かした。

 時間にして6分にも満たなかったからか、割りと高密度な話をしたと思う。そんな内容を聞いたカーターだったが、概ね予想通りの反応で信じてくれなかった。

 終始彼の様子を伺っていたロビンも、怪しい動きや雰囲気は無かったと言う。結果としては無意味だったかもな。

 じゃあ第2案として考えておいた牧師に話してみようと外に出た。その時、開けたドアに違和感が。顔だけ覗いて見てみると、何度か対食死鬼(グール)戦闘で話をした警察のおじさんが慌てた様子でベルを鳴らそうとしていた為に開いたドアに気付かず頭部を強打した様子で、当たった所を押さえていた。

 俺はすぐに謝ってから事情を訊く。

 因みに、俺達は便宜上この村の犯罪を取り締まる、現代の警察組織の機能に相当する彼等を『警察』と呼んでいる。しかし、勘違いしてはいけないのが、この時代ではまだイギリスの影響が強く、隣保性の時代だ。

 これは住民1人1人が、地域の安全や自身の行動に責任を持つ事で治安維持の機能を得る事。つまり、事実上国民全員が警察と言うことになる。

 今はこの時代のボストンを真似て『コンスタブル』と呼ばれる住民から選ばれた法執行官や、そのボストンから派遣されてきた者達がセイレムの警察として機能している。

 ──何て、頭で復習みたいに言葉を並べているとおじさんが話を始めた。

 聞くと、森でサンソンがあのホプキンスを殺害したと言う。

 ナイフで滅多刺しにされ、無惨に殺されたらしい。それを聞いて、すぐに俺はサンソンが殺したのではないと確信した。

 サンソンとも長い付き合いだ。それくらい分かる。だけどホプキンスが死んだと言う事実も確認しないといけない。

 おじさんに頼まれ、森へ続くこと数十秒。血の匂いで思わず眉根を寄せる。

 慣れたくもない、嫌な匂いだ。

 更にその匂いが強くなると2人の兵士に拘束されて瞑目しているサンソンの前に布を被せられて真っ赤な血溜まりが姿を表した。血溜まりの真ん中には、布で隠されて見えないが間違いなくホプキンスが横たわっている。

 

「……サンソン」

 

「……」

 

 サンソンは何も言わない。けど、言わなくてもサンソンが殺していないのは俺の確信通りだ。

 辺りに血、たまに肉片が散ってるのに彼の服は返り血1つない。霊体化も出来ないし、 凶器であるナイフは少し小さめだ。

 滅多刺しにされれば当然死ぬが、もし俺が殺るとするならもう少し殺傷性の高い、それこそ一撃で殺せるサイズが好ましい。

 ふと脳裏にラヴィニアがよぎる。まさかそんな……。

 

「……分かった。旦那。どうやら今回の件に関して早速裁判が開かれるそうだ。準備をしておいた方が良い」

 

「え、いきなり裁判って……」

 

 いや、そもそも今も魔女認定を早々にする為に大体捕まったその日から裁判はやっていた。サンソンの件も、他の拘束されている人と纏めてやる気なんだろう。

 

「──分かりました」

 

 そう言って俺はホプキンスに覆い被さっている布を捲り上げる。

 

 


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