Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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最近国外が多いとこうもなります。
兎も角、セイレムでこの二次創作も終わりなのであと少しですが僅かな時間を見付けて完結させます。



Order.81 セイレム Ⅸ

 

 

 

「これにて閉廷。罪人、シャルル・アンリ=サンソンは他の魔女達と共に“丘”にて絞首刑とする」

 

「……くそ……ッ!」

 

 また……無力だった。

 俺が集めたサンソンの罪の否定材料も全て意味を成さず、残虐な殺人鬼としてサンソンは絞首刑を宣告された。

 ホプキンスが死んで、少しはセイレムに元々居た判事になったから落ち着くかと思ったらこれだ。この判事も今のセイレムの状況で精神が弱っているのか早く片付けたいと顔に出ていた。

 サンソンが魔女の疑いを同時にかけられたのも、現状を打破したいが為に怪しい人物を片っ端から魔女として処刑し、怪異の黒幕を探し当てる事がしたいが故だ。

 死にたくない。そんな表情が見てとれた。自分で言っておいて何だが、一応フォローすると判事の奥さんと子供は昨晩食死鬼(グール)に食い殺されている。怯える気持ちは分からないわけではない。寧ろよく震えを隠して裁判を終えられたものだ。

 

「良いかな判事」

 

 行き場を失った怒りを自分の奥底にしまいこんだその時、静寂を破った男の声。

 傍聴席で立ち上がった男──カーター──は発言の許可を判事から得ると俺を一瞥して、判事へ発言した。

 

「彼……ぐだ男一座座長、ぐだ男には魔女の疑いがある」

 

「何ッ!?」

 

 驚愕の声は被告人席のサンソンから。

 直ぐ様そんな筈は無いと異議を申し立てるが、判事はサンソンの発言は許さない。

 それ以上の発言は被告人だけでなく弁護人である俺にも影響が出るぞ。と判事からの警告がサンソンと同じく異議を申し立てようとしたマシュを黙らせる。

 

「……続きを」

 

「彼は魔術を行使していた。思えば最初に魔女が発覚したティテュバの時にも、魔術の心得があるような素振りも見られた。彼が我々に害意を持っていないのは今までの立ち振舞いからも感じよう。だが、今回このような事が起きてしまった。これでは彼らの何を信じれば良いのか」

 

「──判事! 俺は確かに魔術を使いました! けどそれは皆を守る為です! それに他の団員は俺が魔術を使うことは知らない!」

 

「だ、黙れ! そうやって俺達を騙してあの化け物の餌にするつもりだろう!」

 

「違う! 騙すつもりなんて──」

 

「静粛に!」

 

 判事の手に握られた小さな槌が2度鼓膜を震わす。

 騒ぎ始めた村人達も、そして俺もその音で我にかえって口を閉ざす。

 これ以上は俺にとっても不利でしかない。発言は絞首刑の様に己の首を絞めるだろう。だが、何としても他の皆に魔女の疑いをかけさせるわけには……!

 

「判事。私は彼等を泊めていたが、今のところ魔女と疑わしいのは彼だけだ。今は取り敢えず彼を拘束する事で落ち着いては?」

 

「カーター氏……だが恐怖に()()した村人が何をするか分からない。最悪の事態になると氏も被害を受けることに……」

 

「もっともだ」

 

 意外にもカーターは俺だけを何とかしたいように見える。

 これならなんとかなりそうだと安堵するのも束の間。判事は今回の処理を決めて再度槌であの丸いコースターみたいなやつを叩いた。

 

「ぐだ男一座座長、ぐだ男氏の身柄を地下牢にて明日の正午まで拘束。その間、彼の処分を再考する為身辺調査を行う」

 

 ◇

 

 サンソンを助ける為に全力を尽くしたぐだ男だったが、その甲斐虚しく拘束されてしまった。

 そんな展開が有り得るのかと驚いているマシュ達と同様に、傍聴席でそれら全てのやり取りを見ていたアビゲイルもその不当と叫びたくなるような一方的な裁判内容と、まるでぐだ男を売ったような態度を見せたカーターに言葉を失っていた。

 ぐだ男もカーターの動向は気になるが、一先ずは地下牢で大人しくしていることに専念する。

 1時間、2時間、4時間と誰も来ない時間が過ぎて行く。日光も当たらず、廊下の蝋燭も燃え尽きて暗黒の中に放置されるのがこれ程辛いとは思いもしなかったぐだ男だが、モツクチュされたり砲弾で体が千切れかけたりするのよりはよっぽど良いらしい。

 開き直ってメディアから宿題を受けている初歩魔術の練習を黙々とこなしてあっという間に地下牢に入れられて6時間が経過していた。

 もっとも、その時間の感覚もぐだ男の体内時計によるものだから誤差として5時間から7時間の間くらいと言ったところか。

 

「……今夜もグールは出てるのかな……サンソン……ごめん」

 

 落ち着いている様に見える。しかし実際はサンソンを救えなかった事で頭がいっぱいで、己の不甲斐なさを痛感していた。

 落ち着く為に魔術を練習して、発光のルーンでマッチ程の明るさもない中筋トレをして漸く冷静になっているだけ。

 どうしようも無いことであっても責任を感じ、自己嫌悪してしまうのは時折指摘される彼の悪い所だ。

 ともあれ、サンソンの裁判中の態度では難しいだろうが願わくば残されたメンバーがサンソンを助けてくれてると思いたい。

 

「大人しくしてろ」

 

 そんな声がして牢の入り口に目を向けるとキルケーが居た。

 彼女を連れてきた警察も一緒で、彼女も魔女として拘束したのが雰囲気から察せられる。

 

「……君も何と言うか、図太いんだな。それともサンソンを助けられなかった事への行き場の無い気持ちの整理かい?」

 

「──」

 

 同じ牢に入れられて早々にキルケーは眉をひそめた。

 そりゃあ天井近くの通気孔に足を引っ掛けて逆さ腹筋をしていたら正気か疑う。

 だけどその行動にはキルケーが言った通り、行き場の無い気持ちをどうにかして出力している彼なりの苦悩がある。

 そんな事情を知ってか知らないでか、彼女はぐだ男にハッキリとサンソンを助けられなかった事を言い放った。

 

「無論、手は尽くしたさ。でもさ、本人に逃げる意志が無かったらどうしようも無いだろう? ロビンも好きにさせろって薄情過ぎやしないか?」

 

(いや、いくらロビンでもそれは無い。だとしたら何を──)

 

「そんでもってアビゲイルが魔女になったりとかしてさあ。 私の目の前であんな中途半端な魔女を名乗るとかちょっと許せないよねって事で──」

 

「あ、ごめん。聞いてなかった」

 

「……何だか君私の扱い軽くないかい?」

 

「そんな事は……で、アビゲイルが魔女になってそれから?」

 

「聞いてるじゃないか!」

 

「…………少し良いかな?」

 

「「ハッ!?」」

 

 看守と自分達以外居ないと思っていた2人は驚いてすっとんきょうな声を出して牢の入り口に振り返る。

 声をかけるタイミングに迷いがあったカーターが居た。

 一度見たら忘れない──とまではいかないが中々記憶に残る特徴的な顔が少々微妙な表情に。そりゃあ目の前で質の低い漫才みたいなものを見せられればそうもなる。

 

「話があるんだが、構わないかね?」

 

「構いませんよ。カーター──いや、魔神柱ラウム」

 

「──ほう」

 

 ぐだ男の一言でカーターの表情が消える。

 

「いつからかね?」

 

「候補は最初ら辺から挙がってはいた。そして今確信した」

 

「成る程。ならば話は早い。丁重にもてなそう」

 

「そう言われてもこちとら首吊り一歩手前だけどな」

 

「だが私の目的を聴けば変わる。君達はより合理的に行動を選択できよう。君には大いに期待しているからなミスター。単純に死なれては私も()()()困る」

 

「そして操られる。何故最初からそうしなかった」

 

 キルケーが問う。

 

「そのケースにおいては失敗しているからな。最早時は満ちた。私は真実を語ろう」

 

「だが不都合な真実を伝えはしない! ぐだ男、これ以上は何も聴かないのが最善だ!」

 

「私はあの娘を救いたいのだ。心の底から」

 

(心の底から、か……)

 

「少し聴くよ」

 

「おいぐだ男!?」

 

 ◇

 

 俺はキルケーの心配も理解しつつ、ラウムの話を少し聴いてみることにした。

 そしてアビゲイルの救済。これは驚いた。

 何しろあの魔神柱が一個人の為に動いていると言うのだから。

 確かにラウム……カーターとして彼女に接していた時は言葉や態度の端々に彼女への親愛が感じられた。

 厳しくするのも、親が子へ悪いことをしたのを叱るそれと同じ様なものだ。まるで人間のように。

 まさかロリ──

 

「……」

 

 ……は無さそうだ。とてもじゃないが今のラウムの表情からはふざけた様子は感じられない。

 

「本当にアビゲイルの救済を望んでいるのか?」

 

「勿論だ。だが、私の基本目的は変わらず人類の救済だ。アビゲイルに“力”を宿し、彼女によって救ってもらう。ただし、それではアビゲイルを救われない」

 

「アビゲイルが?」

 

「そうだ。彼女は魔女だが、どちらかと言うと巫術者としての役割が濃いのだ。セイレムのアビゲイルにはその才能がある」

 

「何をさせるつもりだ」

 

 今ラウムはアビゲイルに人類救済をしてもらう様な事を言った。

 けどもう一度問う。あんな純粋な娘にそんな事をさせるのかと。

 

「今しがた言った通りだ。我々でも成し得なかった偉業を。人類の救済を彼女にしてもらう。──その“痛み”によって」

 

「……痛み?」

 

「そう。“痛み”こそ人の幸福の基盤。絶対の価値なのだ。全てのものに“痛み”が平等にある。“痛み”なくして人は人ではいられない」

 

 その言葉に自分の状態を思い出す。

 打ち明けたらラウムはどんな反応をするだろうか。

 勿論ラウムの話は正しいとは思っていないけど、今まで特異点で死なせてしまった、救えなかった人達の事を思うとどのみち俺は救われないだろうなと妙に納得してしまった。

 

「“愛”よりも“死”よりも遥かに貴重だ」

 

 ラウムは続ける。

 アビゲイルはそれを手ほどきをする為の巫女となること。

 そして明後日の夜明けと同時に開廷される法廷でアビゲイルを魔女として裁かれること。

 そこまでは予定通りで、アビゲイルを救うのを幾度と失敗していること。

 それでさっき言っていた『期待』とやらが俺ならアビゲイルを救えるかもしれないと言う事らしい。

 それらの中でも気になったのはラウムが幾度とセイレムを再現している事だ。

 只し、それはループや逆行ではなく圧縮と加速。魔力も確保したとラウムは言っていたが、その魔力源は元のセイレムの住人だ。

 

「これ以上アビゲイルやこのセイレムの村人に責め苦を負わせるな!」

 

 幾度と繰り返されるセイレムの再現。その村人にもアビゲイルにも望まぬ苦痛は与えるな。そう声を荒げると、ラウムは落ち着いた様子で、「()()()()()()()()()()()()()()()()」と返してきた。

 

「だから君達も招かれたのだ」

 

 招かれた? ラウムが呼んだんじゃないのか? まだまだ疑問が尽きない。

 それに話を纏めると、ラウムは人類救済は変わらず目標としている。それは何かしらの手段でアビゲイルにその力を宿らせ、実行してもらうつもりらしい。

 ただ、それをするとアビゲイルが救えないのでラウムとしては板挟み状態で、俺達カルデアの介入で変化を生み出せないかを期待している様子。

 俺個人としては、ラウムはややアビゲイルの救済に傾いている気がするけど。

 こう言う状態を二律背反(アンチノミー)とでも言うのだろうか。

 

「さて、時間だ。()()()()を渡した看守も帰ってくるだろう。この後の振る舞い方をどうするか、じっくり考えるといい」

 

「……」

 

 ラウムが去り、再び静寂と闇に包まれる。

 看守が帰ってくれば再び蝋燭に火がついて多少は良くなるだろう。

 

「……どうしたものかな」

 

 静寂故に小さな呟きでもよく聞こえるその声は、不思議と響かず、闇へ吸い込まれていった。

 

 ◇

 

 セイレム滞在7日目。

 いや、そもそも私達が避難しているシバの女王の隠れ家と村とでは時間の流れが違うらしいので7日目の朝なのかどうかわかりません。

 この後村へ行って漸く分かる状況です。

 

「マシュ、大丈夫?」

 

 マタ・ハリさんが少し呆けていた私に声をかける。

 昨日、先輩が拘束されてからサンソンさんの刑が執行され、キルケーさんから仮死薬を受け取らなかったサンソンさんは……。

 そしてアビゲイルさんが魔女になり、暴走状態になったのをキルケーさんが止め、キルケーさんも拘束されてしまいました。

 私達は混乱に乗じて、サンソンさんの遺体を奪取して隠れ家に。

 受肉状態だったサンソンさんは完全に死亡しても遺体が消えることはなかったので、今は隠れ家の外に埋めてます。

 ロビンさんがその方が良いと率先して下さったので、まだ立ち直れない私にとって大変助かりました。

 

「ぐだ男の事が心配なのは分かるわ。私だって心配よ。けど、それで貴女が倒れたら彼はもっと辛い筈。だから、今は自分の事を第一にして」

 

 殆ど手を付けていなかった朝食をマタ・ハリさんが『あーん』の要領で私に食べるよう促す。

 よく先輩のマイルームでメルトリリスさんやパッションリップさんがこんな感じで食事の補助をしてもらっているのを目にしていましたが、いざ自分がされる立場になると存外に恥ずかしい。

 

「すみません……」

 

「一応キルケーも一緒か隣には入れられてるだろ。全くの無防備にはならない筈だ」

 

「そのキルケーに任せて良いかも心配だけれどね。兎に角、今日は私も村に行くわ」

 

 先輩を絞首刑になんて絶対にさせません。

 確かに、キルケーさんに先輩をお任せするのは心配ですし一刻も早く助けないと。

 待っていてください。先輩!

 

 ◇

 

「なぁ。君は本当に私と逃げるつもりはないのか?」

 

「えー? それで何度目? 俺は逃げないって」

 

 ボロボロのベッド……の様なものに腰掛けてどうするかを考えて唸っていると隣に座っているキルケーが問う。

 ゲームの無限ループじゃあるまいし。そう思って同じ様に返すと、今までそれ以上何も言ってこなかったキルケーが更に身を寄せて問い掛けてきた。

 

「だってここで死ぬかも知れないんだぞ? こんな状況なじゃマシュ達だって私達を助けるのは無理だ」

 

「だから逃げろと? 確かに俺は今まで自力で窮地を脱した事なんて片手で数えられる程度しかないさ。何時だってサーヴァントの皆やその時代の人達に助けてもらった。情けない話だけどね。でもだからこそ、託された側として諦めちゃいけないんだ。止まっちゃいけないんだ」

 

 託されたなんて、本当にそうかも分からない方が殆どなのに何とも傲慢な考えだ。我ながらそう思う。

 

「……はぁ。ホント、カルデアのサーヴァントは苦労していそうだ」

 

「そりゃあどうも。で、さっきから何を俺の脚に刺してるの?」

 

「……」

 

「……」

 

 キルケーが黙る。

 感覚が鈍いから黙視するまで刺されてることに気付かなかったんだけど、良くない物だよねこれ。

 はぁ。仕方がない。口を割らないなら割りたくなるようにするしかありますまい。

 

「いたぁ!? やめっ、やめてくれ! 羽根は一応感覚があるんだからむしられると──! イテテテテテッ!!」

 

「そんなに痛いとは思わなかったけど、喋らないなら本当にむしるよ?」

 

「分かったから! ったく……君は本物の大魔女の恐ろしさを知らないからって蔑ろにし過ぎだぞ!? 大体何だよ毒への異常な抵抗力(レジスト)は! 像だって一瞬で気絶する薬を使ったのにさあ!」

 

 おおっと? 今サラっととんでもない薬をブチ込んだと言われたけど何するつもりだったんだ?

 マタ・ハリに使った仮死薬じゃなさそうだし、俺を連れて逃げるつもりだったのか。

 でも逃げてもどうするつもりだったんだ?

 

「君を連れてこの特異点から逃げるのは最初からするつもりだったさ。けど途中からその手段は潰えた。時間が経つにつれてセイレムの結界は強固になり、外との繋がりが完全に切れたんだ。だから私は君とここから逃げたら特異点消失まで全力で雲隠れするつもりだった訳さ」

 

 そう言えば、キルケーはダ・ヴィンチちゃんが新たな召喚システムの実験で失敗して召喚されたサーヴァントみたいで、カルデアを信用出来ずこうして逃げる為にレイシフトを利用したらしい。

 その失敗した召喚システムの話が気になるところだ。

 

「兎に角、俺は無抵抗に吊られるつもりはない。無抵抗にはね」

 

「?」

 

「キルケーは大魔女なんだよね? だったらお願いしたい事があるんだけど……」

 

 


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