東方短編集   作:旭日提督

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この話は、「夢幻航路第四一話、猫神様に奉る」の続きになります。そちらの方を読んでいるという想定で書いています。

また、本話には以下の警告ポイントがあります。注意して読んで下さい。

*R-15
*レイサナ
*(濃厚な)百合



紅い幻想(ゆめ)で見るものは

 ―――紅い。

 

 天井から床まで、びっしりと覆う赤色。

 

 いつも見慣れた艦内通路の筈なのに、色が変わるだけでここまで印象が違ってくるのか。

 

 ―――紅、紅、紅。

 

 ここは旗艦の通路で間違いない。しかし、この紅は一体何なのだろうか。私がいない間に、なにか変なことが起こったのか。

 

 特に行く宛もなく、私は歩く。

 

 どこまで言っても、通路は紅に覆われていた。これでは、宇宙船の通路というよりむしろ生物の体内だろう。

 この通路は、さしずめ血を運ぶ血管と言ったところか。

 

 

 ふらふらと放浪しているうちに、いつのまにか自然ドームの入口に辿り着く。

 そこに用があるわけではないが、私は吸い込まれるように足を踏み入れた。

 

 ドームの中も、ひたすら紅い。

 

 地面の草花から生い茂る木々に空の色まで、全て血で染めたように紅い。

 ここまでくると、おかしくなったのは周りではなく、むしろ自分の方ではないのだろうか。

 視界一杯に広がる紅が、否応なしに眼球を酷使させる。

 

 ところで、私は何処に向かっているのだろうか。

 

 歩みを進める両足はまるで機械の如く、淡々と動き続けている。私の意思など関係ないと言わんばかりに。

 

 留まることなく、林を抜ける。

 この先は、神社の参道だった筈。

 

 森は物音一つなく静まり返っている。

 普段なら聞こえる生物の気配など全くない。

 やはり、おかしくなったのは私ではなく周りのようだ。

 

 ふと、辺りの気配が変わった気がした。

 

 光景は一瞬前と変わらない。

 だが、ここが何故か、幻想郷のような気がしたのだ。

 

 頭では現状の把握に努めながら、相変わらず両足は歩を止めることはない。

 

 一体私の両足は、誰の意思で動いてるのだろうか。

 

 参道を抜け、階段を潜り、鳥居を抜ける。

 

 私の神社も、周りと同じように紅く染められていた。

 

 

 ―――これは異変だ。

 

 

 朦朧としてきた意識のなか、漸く私の頭が結論を下した。

 

 普段なら、こんな景色を見せられればすぐにその結末に辿り着く。しかし、今はなぜ、さっきまでその可能性が思い浮かばなかったのだろうか。

 

 ―――異変なら、解決しないと。

 

 反射的に、私の脳が切り替わる。

 もう巫女ではない筈だが、もはやこれは癖のようなものなのだろう。癖というのは、そう簡単には抜けてくれない。

 

 ―――紅といえば、やはりあの吸血鬼だ。

 

 前科持ちのあいつなら、また幻想郷を紅くするなんて暴挙に出てもおかしくない。なら、疑うのは当然のことだ。

 

 ところで、ここは何処なのだろう?

 

 ついさっきまでは何と認識していたのだろうか。確かここは、旗艦の艦内だった筈。

 何故、私の思考は幻想郷だと認識したのか。

 

 眼に入る光景こそ私の神社だ。

 しかし、ここが何処なのか、私の頭はうまく認識してくれない。

 

 気配が幻想郷だからなのか?

 それとも、行く道で尖り帽子と烏の羽根を見たからだろうか。

 

 ・・・はて、尖り帽子と烏の羽根なんて、何処で見たのだろうか。

 

 何処かで魔理沙を見たような気がする。だけど、それがどこなのかは靄がかかったように思い出せない。

 こんな事態になってるなら声の一つでもかけるのだが、どうして私は通りすぎたのだろうか。

 

 ―――女の、声?

 

 いつの間にか、私は神社の裏手に回っていた。

 誰かの声が聞こえた気がする。

 

 私の神社に勝手に上がり込むなんて、何処のどいつなのだろうか。

 

 不思議と、それが魔理沙な気がしない。

 

 廊下を進むにつれ、次第に声がはっきりと聞こえるようになる。

 

 私の手は、意識するまでもなく障子の引き手に置かれていた。

 無意識のまま、障子を開く。

 

 

 

 .............

 

 

 

 

 緑と金―――

 

 二人の少女が、抱き合っていた。

 それを締め上げるように、這い上がる白い大蛇を幻視する。

 

 いや、一人の腕はだらんと力なく垂れ下がっている。

 抱きついているのは、緑の方だけだ。

 

「あ、ああ・・・・・っ」

 

 緑の少女が、金の少女の首筋に顔を近付ける。

 蛇が締め上げる勢いのまま、彼女はそこに噛み付いた。

 

「ぐっ・・・」

 

 力なくなされるがままだった金の少女が、一瞬苦痛に顔を歪める。

 それも一瞬のことで、彼女は抵抗するわけでもなく、緑の少女に吸われ続ける。

 

「っ・・・はぁ―――」

 

 情事が終わったのか、緑の少女が唇を話す。

 そのまま大蛇も溶けるように消えていき、中身を奪い尽くされた金の少女は、まるで糸が切れた人形のようにがくんとその場に倒れ伏した。

 

 

「・・・やっと来てくれたんですね―――」

 

 緑の少女が、口を開く。

 その顔は、いつも見慣れたもので―――

 

「―――早苗、貴女何をしているの?」

 

 私はそう問い質す。

 口を開くことさえ、今となってはもどかしい。

 

 早苗はいつか見たような猫耳を生やし、尻尾は二股に別れている。

 緑の少女が早苗なら、金の少女は一体誰だったのか。あれはアリス?でも、もう一人、彼女らしき人がいたような気がするが、靄がかかったように思い出せない。

 

「もう。遅いですよ、霊夢さん。お陰で私、待ちきれなかったじゃないですか。アリスさん、もう食べちゃいましたよ」

 

 その一言で、あれは捕食だったのかと悟る。

 早苗はそれがさも当然というかのように平然としている。

 やはり、あれはアリスだったみたい。でも、何故彼女だったのか。

 

「霊夢さんが遅いから、私の我慢が効かなかったのよ」

 

 私の疑問に答えるように早苗が呟く。

 端から見れば異常な答え。でも、彼女にとってはそれが普通なのだろう。

 この紅の中、平然としていられる奴なんて普通じゃない。なら、彼女が異変の黒幕と見て間違いない。

 

 

 ―――退治しないと・・・・・・

 

 

 相変わらず回転のおかしくなった頭が、漸くそう結論を下す。いつものように、陰陽玉とお祓い棒で妖怪は退治する。そこに慈悲も贔屓もない。

 

 しかし、私の身体は動くことをしなかった。

 

 腕を動かそうにも、まるで蒟蒻の中に囚われたように一寸たりとも動かない。これでは退治しようにも、相手に近付くことすらままならない。

 

 押さえつけられた訳でもないのに、とっくに身体は自由を失っていた。

 

「駄目ですよ、無理に暴れちゃ。此所は私の世界なんですから」

 

 早苗は唇に指を当て、語りかけるように私を諭す。

 

 その仕草は、取り憑かれそうなほど蠱惑的だ。

 

 

「・・・次は、霊夢さんの番ですから」

 

 

 早苗は指を当てたまま、唇をそっと舐めた。

 

 一歩、また一歩と、早苗は私に歩み寄る。

 

 とっくに自由の効かなくなった身体は、逃げることさえ許さない。

 

 ふわりと漂う早苗の甘い匂いが、毒となって私の思考を掻き消していく。

 彼女の細く長い腕が私の背中に回される。右手は押さえ付けるように、私の肩口を固定した。左手は背中を掴むようにして抱き寄せる。抱きつく彼女はまるで蛇のよう。

 私達の周りには、既にあの大蛇が巻き付いていた。

 

 早苗の顔が、私の首筋へと近付けられる。

 

 唇の柔らかい感触に、ざくり、と肌を食い破る音が重なる。

 

「ぐうっ・・・!」

 

 その痛みに、思わず呻き声が口から漏れる。

 声が出たのはその一瞬だけ。早苗に噛み付かれた私の喉はあっという間に砕け散り、呻き声が出ようにも噛まれた位置で塞き止められる。

 私に密着した早苗はさらに圧迫を強めてきて、呼吸すらも許さない。

 甘い肢体に抱かれた私は、溺れるように意識を奪われていく。

 

「はぁ、んっ・・・霊夢さん、美味しいです・・・」

 

 貪るように、私の中身が吸い出されていく。吸われる度に苦痛が走るが、何故かそれが心地いい。

 

 背中の腕に力が入れられ、求めるように早苗は私を引き寄せた。

 

「もっと・・・まだ、欲しい―――」

 

 私の中身はとっくに枯れているというのに、早苗はまだ吸い続ける。

 何もかもを奪い尽くさないと気が収まらないのか、一層締め付ける力が強められた。

 

 だけど、私はなんで受け入れているのだろうか。

 

 早苗に吸われるのは苦しいけれど、不思議と嫌な感じはしない。それどころか、このまま身を任せていたいとすら思えてくる。

 

「れいむ・・・さん、っ!!」

 

 私の全てを奪い尽くすまで、早苗は喉を鳴らして貪欲に中身を吸い続ける。

 いつまで続いたか分からないほど、私は彼女に絞められていた。

 

「っ、はぁっ―――、ご馳走さまでした」

 

 早苗が頭を離すと同時に、辛うじて繋がれていた意識も落ちる。

 最後に見たのは、心底嬉しそうに微笑んでいた早苗の姿だった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ん、夢・・・?

 

 

 次第に意識が明白になり、ぼやけていた視界もはっきりしてくる。そこにあったのは、いつもの見慣れた神社の天井だ。

 

「悪夢・・・なのかな―――」

 

 どうやら、先程までのあの光景は夢だったみたい。それに少しほっとする。

 夢の内容を思い出すと、なんだか恥ずかしさがこみ上げてくる。

 内容は悪夢の筈なのに、どうしてか嫌な感じはしない。それどころか、名残惜しさまで感じてしまうのは一体どうしてなのだろう。

 

「あ・・・そうだ、庭、片付けておかないと」

 

 一旦意識を夢から逸らせて、今日の予定を確認する。

 

 確か、昨日の宴会の片付けはまだやってなかった筈だ。片付けられる部分でもやっておこう。と、その前に色々準備しないとね。

 

 まだ意識は明白ではないが、顔を洗えばこの靄もすぐに取れてくれるだろう。

 

 私はまだ頭に靄がかかったような意識のまま起き上がろうとしたのだが、なにか重いものに押さえつけられているように身体が動かない。

 

「あれ・・・?」

 

 いつもなら少し力を入れればすぐ起き上がれるのに、今日に限ってそれができない。

 そこで、私は本当に身体の上になにか重いものがあることに気づいた。それと、特に胸のあたりが苦しい・・・

 

 加えて、あの夢で感じたように首筋には未だに違和感が残っている。あれ、夢だったのよね?

 

「何なのよ、もう―――」

 

 それを確認しようと視線を落としてみると、視界の下に緑色の物体が見えた気がした。

 

「―――ハァ・・・何やってるのよ、早苗・・・」

 

 そこにいたのは私に覆い被さったまま、すーすーと寝息をたてていた早苗だ。まだ昨日の猫耳もちゃんと残っている。

 

「ふにゃあ~~、れいむさん、おいしいれすぅ~♪」

 

 早苗はそんな寝言を吐きながら、私に抱きついた姿勢のまま首筋をがしがしと甘噛みしている。舌と牙が当たるお陰で少しくすぐったい。

 

 ―――成程、悪夢の原因はこれみたいね。

 

 あんな恥ずかしい夢を見させられたのも、現実でも早苗が甘噛みしてきたからに違いない。妙に赤かったあの景色も、早苗が密着してきて暑苦しかったためだろう。

 

 それより・・・胸、苦しいんだけど―――っ

 

 早苗は私に覆い被さる形になっているので、当然私の身体には早苗の体重全てがかかっている。それに、早苗が腕を回して抱きついているお陰でさらに身体が密着する形になり、重さだけでなく圧迫感も余計に感じられるため、肺が押し潰されるような感覚に襲われる。

 お互いの位置関係上、ちょうど早苗の胸が私の胸のあたりにきているので、そこが余計圧迫されて苦しさを増している。

 

「いい加減、起きなさいよ・・・っ、このねぼすけ・・・っ、ぅわあっ!」

 

「ひゃう!・・・っ」

 

 いい加減そろそろ鬱陶しくなってきたので、私は早苗を無理矢理押し退けて起き上がろうとする。

 だが早苗は抱きついたままなので、そんなことをすれば首に回された腕に引きずられで私の身体までぐるんと一回転してしまう。位置関係が変わった身体を支えようとして早苗の横に手を置いたので、ちょうど私が早苗を押し倒したような格好になってしまった。

 

「―――あ、おはよーございま・・・すぅっ!、れ、霊夢さん!?」

 

 ちょうど早苗も目が覚めたらしく、彼女は猫耳を垂れ下げたまま意識ここにあらずといった感じで眼を開いた。だがそこに私がいたためか、一瞬後に早苗は吃驚したような表情で、素っ頓狂な叫び声を上げた。

 

「れれれ霊夢さん!、朝からいきなりどうしたんですか!!・・・」

 

 動転したように、早苗の舌は滑りながら言葉を紡ぐ。

 早苗は「私、まだ心の準備が・・・」なんて呟いてるけど、何を勘違いしてるのかしら・・・

 

「やっと起きたのね、早苗。貴女が私に抱きついたまま寝ていたから起きようにも起きれなかったのよ。だから悪いけど無理矢理退かさせてもらったわ」

 

「え・・・ああ、そういうことだったんですか・・・」

 

 なんだ、残念・・・とか言ってるあんたは何を期待していたのよ・・・

 

 このままだと早苗も起きられなさそうだし、私は身を退かせて隣に座る。

 

「起きたならさっさと布団から出なさい。私は朝餉作ってくるから、あんたは布団の片付けでも手伝ってくれたら嬉しいんだけど」

 

「はい、分かりました!」

 

 私が早苗に頼んだところ、寝起きにも関わらず彼女は元気な声で返してくる。まったく、切り替えの早い娘なことだ。

 

「ああ、畳んだ布団は部屋の角に置いときなさい。あとは私がやっておくわ」

 

「了解ですっ」

 

 朝食を作ろうと私は起き上がり、そう早苗に言っておく。確か今日は昼まで非番だったから、艦橋に上がるまでに色々済ませてしまおう。

 

 ところで、背中越しに早苗が「霊夢さんがその気ならよかったのに・・・」なんて言ってるのが聞こえるのだけど、やっぱり早苗は感覚がズレてるのかしら。なんのことだかさっぱり見当がつかない。

 

 

 

 そういえば、早苗はどんな夢を見ていたのかしら。寝ているときに私を甘噛みしてたみたいだけど、まさか、ねぇ・・・。




自重せずに書いてしまったシリーズ第2弾はレイサナですw猫又妖怪ねこちや降臨。

レアルタの方のFateにあったとあるイベントに感銘を受けまして、それがベースになっています。レアルタがR-15なので此方もR-15で大丈夫な筈です。

早苗さんが若干キャラ崩壊起こしてますが、夢の中なので問題なしです。本編ではいつも通りの早苗さんなのでご安心を。
夢幻航路本編の方にぶっ込んでも良かったのですが、シチュエーションが人を選びそうなので別にして投稿しました。ちょっと百合成分濃すぎますからね。

この早苗さんに抱かれたい(笑)
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