21世紀初頭、人類は温暖化の影響により北極・南極の氷が溶け出し海水面が急激に上昇し、地上での版図を大きく失った。
それに呼応するかのように、突然霧と共に未知の超兵器を搭載し、太平洋戦争時の軍艦の姿をしたアンノウンが出現。
無人でありながらも意思を持つそれらは後に『霧の艦隊』と呼ばれ、人類の兵器は『霧の艦隊』には全く通じず、全戦力を持ってして挑んだ『大海戦』だが、その強大たる力になす術も無く敗北し、海路を封鎖され、海洋における制海権と制空権を失った。
それにより経済は崩壊し、人類は霧によって海から駆逐された。
しかし、大海戦から十四年後、霧の艦隊とは別のもう一つの艦隊が姿を現れた。
彼女らは、『霧の艦隊』とは別の意思を持ち人類に接触してきた。
しかも彼女らには『霧の艦隊』とは明らかに異なる部分があった。
それはーーーー
2054年 佐賀県鹿島市宇宙センター沖合
「………………」
慌ただしく、騒がしい部屋の中でモニターに映る青と赤の光点を厳しい目で向けている一人の男がいた。
「状況はどうだ」
渋い声で訪ねると、
「ただ今、SSTOの発射準備は七割というところです。なお、迎撃として『あまつかぜ』、『たちかぜ』が。それに、防空施設では迎撃ミサイルが発射準備完了しています
」
「敵の艦種は分かるか」
「敵はナガラ級軽巡洋艦と思われます」
「迎撃艦隊は敵にダメージを与えられているのか?」
「それは…………」
「いや、すまない。わかりきったことを聞いてしまったな」
「いえ、っっ!!『あまつかぜ』、『たちかぜ』轟沈しました!続いてミサイル発射!数20!!」
「くそっ!!迎撃ミサイル発射!!何としてでもSSTOを守れ!!あれには人類の希望があるんだ!!」
「了解!!迎撃ミサイル発射!!」
「ミサイルは迎撃できるが、艦体は我々では不可能だ。どうすれば……」
「司令官!!所属不明の艦隊を発見!戦艦2、駆逐艦4……これは!?」
「なんだと!?艦種識別急げ!!この海域にいるとしたら、他の霧の艦かまたは……」
「不明艦隊からミサイル発射!数6!!目標は……ナガラ級です!!」
「やはり、彼らか……まさか手をかしてくれるとはな」
「司令、不明艦隊より電文です」
「読め」
「はっ!宛て、佐賀宇宙センター防衛隊。我ら『夢幻艦隊』はナガラ級に対して攻撃す。です」
不明艦から発射されたミサイルはナガラ級に命中し、ナガラ級は艦体の一部を失い沈没していった。
「よかった。彼らが来てくれたのか」
「司令、彼らとはそして夢幻艦隊とは何なのですか?」
「彼らは我々の希望かもしれんのだよ。蒼き鋼は知っているだろう」
「あの、潜水艦イ号401ですか?」
「ああ。あれとは目的が異なるのだがおおよそ同じようなものだ。彼らはイ号401のように霧の艦隊のようだがそうではない」
「どういうことです、霧の艦は霧にしか倒せないはずですのに」
「いや、霧の艦であることには代わりはない。異なるというのは、彼ら持つが乗艦している艦体だよ」
「艦体、ですか?」
「そうだ。モニターに不明艦の映像を出せ」
映し出された映像には一隻の巨艦が映っていた。その艦は三連装の主砲が前部に二つ、後部に一つあり、その後ろに三連装の副砲と思わしき砲塔がある。これも前部と後部一つずつ。さらには、艦橋から煙突部分を守るように、まるでハリネズミのように配置された機銃と広角砲が見える。今は見えないが恐らく、甲板は艤装VLSで埋まっていることだろう。
「これは!?大和ですか?」
「確かに、艦体を見れば誰でも大和と答えるだろうな。だが、これは大和ではない」
「では、武蔵ですか?」
「はは。大和型から離れたまえ。答えを行ってしまうとだな、これはな超『大和』型戦艦『紀伊』型だそうだよ」
「紀伊型ですか……たしか架空戦記にはその名前はよく聞きますが、あれは改大和型の名前なのでは?」
「一説ではそうみたいだがな、元々改大和型としては空母として改造された信濃がなる予定だったらしい。それに、彼らが言うにはあの艦の主砲は51センチ三連装らしいのだ。もはやこれは超大和型としたほうがよいだろう」
「なるほど。しかし一つ腑に落ちませんね。霧の艦隊は元々第二次大戦中の艦の姿をしています。しかしあの艦は大和型を本に改良が加えられているように見えますが……。しかも、第二次世界大戦中に紀伊は建造されていなかったはずでは……」
「そこなのだよ。私も、乗組員でもある彼ら達ですらもなぜそうなったのかはわからないらしい。だが、彼らは我々とあの希望を守ってくれたのだ。それは事実であろう」
モニターの一つに映る無傷のSSTOを見てこの場にいるものたちは一同に思った。あの艦隊は司令官が言ったとおりに人類の希望なのだろうと……。
数時間後、太平洋九州近海
九州本土を見てみると白い白煙が空に向かって延びているのが見えた。SSTOを打ち上げることはできたが無事に向こう(アメリカ)に着くかは分の悪い賭けだろうと彼は思った。
「ここにいたの」
ふと後ろを見ると、和服に身を包んだ少女がいた。年の頃は14か15ほどだろう。ただでさえ小さい同世代の少女に比べてもなお低い背、しかしそれを否定するかのごとく長く光を吸い込むような黒い髪をもっていてさらに、まるで熟練の匠が作り上げた芸術品のような美貌をもつ少女だった。
「ああ、キイか。SSTOの打ち上げを肉眼で確認するにはここが一番いいからな」
そう答えた少年は年頃は18程であろうか、大人びた感じがするが僅かに少年らしい雰囲気をまとっていた。彼の名前は、海堂 碧(かいどう あおい)。海洋技術総合学院の元次席でありこの戦艦『キイ』の艦長である。
「ふーん。でも蒼はあれがアメリカにたどり着けると思ってはいないんでしょう。アメリカ沿岸にいるアメリカ艦隊が恐らくは撃墜するでしょうからね」
「おいおい、そう言うことを言ってやるな。何のために俺たちがナガラを叩いたと思っているんだよ」
「わかっているわよ。あれーー振動弾頭がもしアメリカに届いて量産されれば人類も霧に対抗できると思っているのでしょう。クラインフィールドを突破しなければならないのに随分と希望的なのね」
「しょうがないさ。今この国に必要なのは希望だ。希望が無ければ国民は大反発を起こすぞ。それはどこの国も恐れていることだ、だからこそ振動弾頭に俺たち人類は期待してるんだよ」
「希望……ね。不確定要素の固まりのような言葉ね」
「はははは!お前たちメンタルモデルからしてみては滑稽だろうな。でもお前だって俺と協力してるのだから少なからず希望を持っているんじゃないか?」
「どうだろうね、私は兵器よ。感情というシステムを所持しているとは限らないわよ。あの、ヤマトはわからないけれど」
ふと、紀伊と共に大海原へ旅立ってすぐに出会った霧の艦隊総旗艦のメンタルモデルを思い出す。
「ヤマトか……。あいつの片割れは持っていそうだな、と言うよりあいつは本当にメンタルモデルなのか?スイカ育ててたぞ。しかも、高級な児玉すいかだ。あれは旨かったなぁ…。今度俺も育てててみるか」
「……何で見ただけでスイカの種類がわかるのよ、あとそんな園芸趣味は大変だからやめてよね。そんなことだからいつまでたっても食堂の担当を押しつけられるんじゃない」
「いうようになったなぁ、キイも。でも、料理は楽しいぞ。自分で作ったものを他人に食べて喜んでもらえるなんて嬉しいの一言に尽きるよ」
「そうなの?なら今夜は肉じゃがでお願いね」
「ハイハイ。わかりましたよお姫様」
人と人ならざるものの談笑で空気が和らいでいたそのとき、それは起こった。
「っっ!?」
「どうした、キイ」
突然驚きを見せたキイにすかさず蒼は声をかける。その顔はさっきまで園芸趣味に思いをはせていた浮かれていた顔が一滴も見られない戦士の顔になっていた。
「魚雷接近中。数4。タナトニウム反応あり。恐らく、潜水艦の攻撃ね。着弾まで30秒」
「よし。全艦に通達、対潜戦闘開始。キイ、マルチコントロール開始」
「了解。マルチコントロール開始、駆逐艦03から06およびダミー艦01の指揮権を私が一任するわ。蒼は私をよろしく」
「ああ。任せてくれ。艦隊対潜戦闘開始、一番から二番に音響魚雷装填、続いて三番四番に侵食魚雷装填、五番六番に迎撃魚雷装填」
「魚雷装填完了と、いつでもどうぞ」
そう軽々しくキイではあるが、今は駆逐艦を四隻とダミーではあるものの同型艦をひとりでコントロールしているのだ。普通の大戦艦ではできない芸当である。
「五番六番発射後に一番発射、そして三番四番撃つ直前に一番を起動、その後二番は残して再装填しておけ」
「はいはい。五番六番発射。続いて一番発射……一番起動、迎撃魚雷命中、三番四番発射。命中まで20秒、再装填開始」
「敵潜水艦の様子はどうだ?」
「いま、クラインフィールドを展開しようとしているみたい……あ、侵食魚雷に気づいたみたい、今迎撃しているわ」
「まあ、無駄だろう。この距離なら侵食魚雷が当たるのが先だしな」
そうつぶやいた瞬間、彼の視線の彼方で爆発が起きる。相手の潜水艦を撃沈したのだろう。
「敵潜水艦撃沈。その他周囲に反応なし」
「戦闘終了。一応、第二種警戒体制を維持しろ」
「了解。艦隊第二種警戒体制に移行。以後自動航行で目的地へ。これで良いのでしょう?」
「ああ。日が暮れる前にはみんなと合流できるだろう。それまでに今夜の夕飯の準備でもしとくか。手伝ってくれるか、キイ?」
「勿論よ。My Admiral」
「よし。じゃあ食堂に向かうぞ」
「はいはい」
艦隊は征く世界をこの世ならざるものから護るため。それは人類と霧の艦隊との双方から危険視される存在。
その存在を皆は畏怖を持ってこう呼ぶ。
『超兵器』と…