恩義に報いる狂犬   作:鎌鼬

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プロローグ

 

 

「それじゃあ、行ってきますシスター」

 

「いつでも帰っていいわよ。ここは貴方の家なんだから」

 

「分かってるよ。でもすぐに帰ったら格好悪いからしないけど」

 

 

私服を詰めれるだけ詰めた手提げ鞄を持って、皺くちゃの顔を少しだけ悲しげに歪ませた初老のシスターに苦笑しながら強がりを吐く。

 

 

そう、強がりだ。本心はまだここから離れたくなかった。でもそうせざるを得ない事情が出来てしまった。だからせめて精一杯の強がりを吐いて十年間世話になった孤児院とシスターに背を向けて、孤児院の前で待っている高級車に向かう。

 

 

「別れの挨拶は済んだかい?まぁ今生の別れじゃないんだ。辛い事があったら、悲しい事があったら、耐えられない事があったら帰れば良い。僕は止めはしないよ?」

 

 

高級車の助手席の窓から上半身を出しながらそう言ったのは金髪金眼の青年。最近日本に進出してきた大企業〝ファヴニール〟の次期社長で、〝ファヴニール〟日本支部の社長兼代表取締役のジーク・ラインラントだ。

 

 

「その時が来たらそうするさ……んで、約束は守ってくれるんだよな?」

 

「勿論。君が我が社の専属パイロットになる事でこの〝宿桜(やどさくら)孤児院〟に定期的な寄付と、孤児院への護衛は必ず守るさ。言い出したことを守らないとか人間の屑だからね!!」

 

「守るなら良いさ。なんも出来ずに与えられてばかりだったから、この位はしないとね」

 

「恩に報いるってやつだね?恩を忘れずに、返そうとしているのは素晴らしい事だよ。何せ今時だと恩知らずが多すぎてティーガーで突っ込みたくなる!!」

 

「戦車で突っ込むなっての」

 

 

トチ狂ったことを言い出すジークの顔面に手提げ鞄をぶつけて上半身を車の中に仕舞う。そして1人でに開いた高級車の後部座席に乗り込む。

 

 

「いったぁ〜……(あらた)くぅん。突っ込んでくれるのは分かるけどもう少し手加減してくれないかな?僕の顔に傷がついたら世界の損失だよ?」

 

「世界の損失だとしても社員たちは指差して笑うと思うぜ?現に運転手さんも笑ってるし」

 

「ノーレェ!!」

 

「すいません、ジーク社長の顔が面白くって」

 

「えっと鏡鏡……ふむ、変わらない。つまり僕の顔がいつも面白いって事か!?」

 

「ノーレさん、出してください」

 

「分かりました」

 

 

いつまでもコントじみたことをしても進まないのでギャアギャアと騒ぐジークを半ば無視して車を出してもらう。無視するなと騒いでいたジークだったが、車が跳ねた時に頭を打って静かになった。

 

 

「はぁ……世の中ってホント糞だよな……」

 

 

そう言いながら窓の外を見て、こうなった経緯を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インフィニット・ストラトス、通称IS。篠ノ之束が発明したそれは既存の兵器を上回る性能を誇るパワードスーツだった。

 

 

始まりは十年前に起きた世界各国が保有していたミサイルが日本に向けて放たれ、それを篠ノ之束が最初に作ったISが迎撃した事から。その時の事件のことはそのISが白い騎士に見えた事から〝白騎士事件〟と呼ばれるようになり、ISの性能を世界中に知らしめた。〝白騎士事件〟によりISの性能と篠ノ之束の名は世界中に広がり、篠ノ之束が開発したISの大元となるコアが世界各国に配布されてISが普及する……()()()()

 

 

ISには女性にしか、しかも女性の中でも適正のある者しか操縦出来ないという欠点があったのだ。

 

 

そのせいで世界は女性優位社会となり、女尊男卑社会となった。宿桜孤児院があった片田舎ならともかく、人の多い都会に行けば見知らぬ男性を女性が荷物持ちにする、買い物の会計を男性に押し付けるという気持ち悪い光景が普通になってしまった。それを不服と思い、押し付けられた男性が抗えば女性が男性に冤罪を被せてくるまでがテンプレになってしまっている。

 

 

それは十年たった現在でも治るどころか酷くなるほどで、だけど片田舎であるから女尊男卑の影響はほとんど無く、今年十五になってこれからの進路をどうしようかと高校への進学を決めて悩んでいる時にそれは起きた。

 

 

なんと女性しか操縦出来ないはずのISを男性が操縦したというニュースが流れたのだった。

 

 

それを初めて聞いた時はたちの悪い冗談かと思ったが、中学校から男性を対象にしたIS適正検査の知らせを聞いて本当だと悟った。

 

 

そして、俺はその検査でISを動かしてしまった。

 

 

夢だと思いたかったが高くなった視線と、思う通りに動くISの腕が現実だと叩きつけてくる。一先ず個室に通されて落ち着くようにと教頭が言っていたが、教頭のカツラが落ちそうになっていて落ち着くどころの話じゃなかった。そして教頭のカツラを弾き飛ばしながらやって来た校長に政府の人間が来るからと待機を指示された。

 

 

護衛役の2人を引き連れて現れた日本政府の人間は、一言で言えば最低の人間だった。何せハゲ散らかして脂汗を浮かべた肥満の男性が唾を飛ばしながら研究所に行き、そこでISが動かせる原因を究明すると言うのだから。回りくどく言っているが、それはつまり俺にモルモットになれと言っているのと同じ事だ。それを指摘してやれば、日本人なのだから日本の利益になることは当たり前だと唾を飛ばしながら言って来た。

 

 

なので、目の前にあった灰皿でその肥満の頭をぶん殴った。モルモットになれと言われて誰が喜ぶものか。肥満を殴った事で護衛の2人が懐に手を入れて、何かを取り出そうとしたが立会いをしていた校長と教頭が動いた。校長は護衛の片方の喉元に抜き手をかまし、教頭はカツラを護衛の片方の顔に投げて股座を蹴り上げた。それを見て思わず校長と一緒に股を締めたのは言うまでもない。

 

 

こんなことをして良かったのかと聞けば2人は生徒を守るのが先生だからとあっけらかんと笑って答えてくれた。教頭はカツラのことを黙っていてほしいと懇願したが、それはすでにバレていると言われて崩れ落ちていた。

 

 

困ったのはここからどうするかだ。いくら最低の人間だとしてもこいつは政府の人間。こいつをどうにかしたところで政府の方針が変わらなければこれから先もこういう勧誘や、誘拐紛いのことをされかねない。俺が狙われるならまだしも宿桜孤児院のみんなが狙われることは耐えられない。

 

 

どうしようかと崩れ落ちている教頭の上に座っている校長と話していたが、そこに現れたのがノーレさんを連れたジークだった。

 

 

『僕と契約して、〝ファヴニール〟の専属パイロットになってよ!!』

 

 

そのセリフが出たと同時にキュウべえ死すべしと叫びながら放たれた校長のナックルアローは素晴らしいの一言に尽きる。

 

 

いい角度でナックルアローが突き刺さったことで悶絶しているジークを無視して説明をしてくれたのがノーレさんだった。

 

 

なんでも〝ファヴニール〟がIS事業に手を出す事になり、専属パイロットを探していたところに男性操縦者のニュース。男性操縦者と契約を結べばいい広告塔になると情報網で探したところ、俺を見つけたのだと。

 

 

白目を剥きながら転がっている肥満を指差してモルモットにするのかどうかと聞いたらノーレさんは首を横に振って否定し、ジークは金の卵を産む鶏は殺したら卵を産まないんだよと言ってノーレさんからサッカーボールキックを喰らっていた。

 

 

 

それを聞いてドン引きしたが、それでジークが根っからの商売人であると分かった。つまり、俺が利益を出している間は何があっても危害を加えない。校長もそれが分かったのか、どうするか尋ねて来た。

 

 

だから、宿桜孤児院への寄付と護衛を条件にジークの話に乗ることにした。

 

 

宿桜孤児院は十年前から世話になっているが、最近シスターが電卓を打ちながら溜息を吐いているのを見た。気になって調べて見たら、ほとんど自転車操業と言えるような経営状態だったのだ。それを知った時には中学校を卒業してすぐに就職しようと思っていたがシスターかれ最低でも高校は卒業しておけと注意されて高校へ進学することを決めたのだ。

 

 

それを聞いた時にノーレさんが号泣して抱きついて来た。どうもノーレさんは涙脆い性格らしく、こういう話には弱いそうだ。

 

 

ジークはサッカーボールキックで腫らした顔でキメ顔を作って右手を差し出して来た。

 

 

だから俺は、笑いに堪えながらその右手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……らたくん、新君、起きてください」

 

「……ぬ」

 

 

揺さぶられて気がついたら空は真っ黒になっていた。どうやら寝てしまっていたらしい。起こしてくれたノーレさんにお礼を言いながら車から降りると、目の前には〝ファヴニール〟日本支部の本社が、そしてその前にはジークが立っていた。

 

 

「ようこそ、我が城へ!!宿桜新(やどさくらあらた)君!!僕らは君のことを歓迎しよう!!」

 

 

ジークがそういうと同時に大きな破裂音が上から聞こえて来た。見上げてみるとそこには夜の空に花咲く大きな花火があった。わざわざ用意したのかと思うとおかしくて笑いが溢れてしまう。

 

 

「歓迎されてやるよ、ジーク()()

 

 

花火の音に負けないように声を張り上げながら、ある意味恩人であり、同時に上司であるジークにそう言うのだった。

 

 

 





こんな愉快な会社に就職したい。

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