恩義に報いる狂犬   作:鎌鼬

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入学③

 

カツ丼をかきこもうとしていた手を止めて声のした方向を見ればそこには黒髪で細目のアジア系の顔付きの男子がいた。顔には笑みが貼り付けられているが、その視線は値踏みするような、自分にとって使えるか使えないかを見定めているようなものだった。

 

 

ため息をつきながら丼を机に置く。ジョンも同じなのか、ハンバーグの最後の一切れが刺さったフォークを皿に置いていた。

 

 

「何?」

 

「いや、同じ境遇だから挨拶しようと思ってね。あぁ、僕は中国の代表候補生の黄龍華(ファンロンファ)。クラスは五組、よろしくね」

 

「ジョンで〜す。よろしくしなくていいで〜す」

 

「宿桜で〜す。ジョンにおなじで〜す」

 

 

俺もジョンも、声に欠片も誠意が込められていないが仕方のない事だ。何せこいつからは下衆の臭いがプンプンする。自分以外の全てを見下し、他人は所詮自分を引き立てる道具にしか過ぎないというタイプの人間だ。こういうタイプの人間が交友の輪を広げようとする時は、大体が自分の引き立て役を求めてのことだ。

 

 

中学の時にこういう奴を見たことがあるし、ジョンもストリートチルドレン時代にそういう奴と関わったことがあるのだろう。こういう奴と関わっても面倒ごとに巻き込まれるだけだ。

 

 

「……あのさ、もう少しちゃんとしてくれないかな?僕が話しかけてるんだよ?」

 

「飯の邪魔されて不快なんで」

 

「食事ってのはこう、静かで豊かじゃないといけねぇんだよ……邪魔する奴は銃殺刑物だ」

 

「じゃあ単刀直入に……君たちは〝転生者〟なのかな?」

 

 

転生者、と言われても思い当たる物は仏教だかの概念しか無い。今の俺も転生した果てだと言われればそうかもしれない。だがジョンには別に何か思い当たることがあるのか、眉間に皺を寄せていた。

 

 

「お前もか?」

 

「そうだよ。そっちの方はどうも違うみたいだね?僕らがいることによるイレギュラーか、バタフライエフェクトか……ま、関係無いか」

 

「関係無いならさっさと行ってくれない?」

 

「そーだそーだ、虫食わせるぞー」

 

「おぉ怖い怖い。じゃあ最後に……俺の計画邪魔したら殺すぞ」

 

 

そこで黄の化けの皮が剥がれた。最後だけ顔を寄せて小声で、しかも一人称まで変えて呟かれた言葉の意味なんて理解出来ない。まずこいつが考えている計画がどんなものなのかすら分からないのに邪魔もクソも無いだろう。

 

 

だが、そんな脅迫じみた言葉なんて全然怖くない。これなら路地裏で薬キメてラリってるヤンキー相手の方がまだ怖い。

 

 

「息がくさーい」

 

「声がきしょーい」

 

「チッ……それじゃ」

 

 

黄は対応が気に入らなかったのか舌打ち一つして、化けの皮をかぶり直していかにも好青年という雰囲気のまま食堂から去って行った。まったく、気分良く食べていたのに台無しだ。

 

 

「ジョン、あと何分?」

 

「移動省いて20分ってところだな……なんか買って戻るか」

 

「それが良い。食べて気分良くしないとな」

 

 

そして俺とジョンは購買で売れ残っていた惣菜パンをいくつか買って教室に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園といっても学校としては高校と変わらない。ISの授業が組み込まれた高校と思えば良いだろう。午後の授業は4コマで、ISの授業が1コマ、普通の授業が3コマ組み込まれていた。ISの授業に関しては〝ファヴニール〟で叩き込まれ、普通の授業に関しては奨学金を借りて高校に行こうとしていたので問題無くついていく事が出来た。

 

 

「……」

 

「生きてる?生きてる?生きてたら返事して」

 

「fuck」

 

「無駄に発音の良いクソッタレをありがとう」

 

 

俺は問題無かったがジョンに関しては完全に死んでいた。目が虚ろで、頭からは漫画のように煙が上がっている。ノートを見れば板書はしてあるが、そのまま書き写したようにしか見えない物だった。

 

 

「ノートを写せてるなれ良いじゃん」

 

「写すので手一杯なんだよクソッタレ。普段使わない脳みそ酷使しまくって頭が沸騰しそうだわ」

 

「分からないところがあるなら教えるよ?昼飯と引き換えにだけど」

 

「考えたくないけど考えとく」

 

 

少なくとも勉強しようという意欲があるだけマシだろう。噂で聞いた話によると織斑一夏はISの教本を捨てたらしいし。望んでここに来たわけじゃないだろうけど、その反骨精神は凄いと思う反面呆れる。

 

 

「あ、いましたいました。宿桜君」

 

 

うーとかあーとか唸っているジョンの目の前でココアシガレットを振って遊んでいると指宿先生がやって来た。その手には授業の教本と鍵のような物が握られている。

 

 

「今日から宿桜君は寮に入ってもらう事になっているんですけど聞いてますか?」

 

「今日から?聞いた話だと二、三日はかかるって聞いたんですけど?」

 

 

IS学園は全寮制で、男性操縦者も入れられるとは聞いていたが部屋の準備が出来て居ないらしく、二、三日はかかると聞いていた。なので手持ちのカバンには授業に必要な物だけしか入れていない。

 

 

「それは護衛の関係で早めたらしいですよ?寮長の織斑先生は悲鳴をあげてましたけど」

 

「あとで差し入れでも持って行こうかな……って、俺だけ?ジョンは?」

 

「俺はアメリカから来てるんだぞ?一週間前から寮に入ってる」

 

「男子の皆さんはそれぞれで護衛を用意してますけど、宿桜君の方は……」

 

「社長のツテでドイツから来てもらう事になってます。確か編入扱いにならから一、二週間くらいずれてくるって話です」

 

 

世界で8人しかいない男性操縦者ともなればその希少価値は計り知れないものになる。だから護衛を用意しているんだが、俺の場合はジークのツテでISの操縦を教えてくれたドイツの軍人が務める事になっている。だが急な編入になるので一、二週間遅れて来ると聞いているが。

 

 

「はい。だから宿桜君は護衛の人が来るまで1人部屋という事になります。本当だったら教員の誰かを護衛に当てるべきなんですけど……」

 

「そこらへんの話も聞いているんで問題ないですよ」

 

 

その話もあがっていた事は知っている。だがそれをジークが待ったをかけたのだ。それは教員内の女性権利団体を警戒してのことらしい。女尊男卑主義者の巣窟である女性権利団体は男性操縦者の事を目の敵にしていて、物理的に排除しようとして来ている。

 

 

一度気晴らしに外を散歩していたら刃物を持った女性権利団体10人に囲まれて、全員を血祭りにあげた事はいい思い出だ。

 

 

「まぁ自衛は出来ますから心配して無くても良いですよ。でも着替えとかはどうしたら良いんですかね?」

 

「それなら〝ファヴニール〟から送られてますんで大丈夫です。用務員の轡木さんという方が預かっているので用務員室に行ってみてください。これが部屋の鍵です」

 

 

渡された部屋の鍵の番号は1044室。荷解きもしたいのでもう部屋に行った方が良いだろう。

 

 

指宿先生に礼を、ジョンに別れを告げて俺は寮に向かう事にした。

 

 

 




黄龍華
中国代表候補生の男性操縦者、好青年の皮を被った下衆。観察眼が振り切れている新とジョンには初見で見破られた。何やら計画を企んでいる模様。転生者で原作知識あり。

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