Mana-Khemia ~zwei alchemist 二人目の錬金術士~ 作:村人A
第1話 学園の錬金術士
「ここが、アルレビス学園……。錬金術を、教えてくれるところ……」
「いやー、おっきいね。さっすが錬金術の学園だぁ」
巨大な校門を見上げる二人の子供と黒猫。制服を着ているところからして、新入生なのだろう。
ここ、アルレビス学園は、錬金術士を育成する機関である。世界中の錬金術士は、必ずこの学園を卒業する。遥か上空にあるこの学園の門をくぐることができるのは、才能のある少年少女だけ。才能なき者は、そもそも学園にたどり着くことすらできない。
従って、今校門を見上げている二人もまた、錬金術士の卵である。
一人は灰色の髪をショートカットにした少年。見るからに気弱そうだ。
隣にいる少女は、少年と同じ灰色の髪を後ろに流している。こちらは少年ほどおどおどした様子はない。むしろ、機嫌よく鼻歌を歌い出しそうにしている。
とてもよく似ていることから、姉弟なのだろう。
とはいえ、立ち止まっているのも他の人に迷惑だろうと思ったのか、少女が少年の手を引いて走り出した。
そして、その後ろを……やれやれ、とでも言いたそうにした黒猫が着いていくのだった。
◇◇†◇◇
『さて、皆さんも退屈してきたようですので、そろそろ終わりにしましょう。最後にもう一度。みなさん入学おめでとう』
パチパチ、と拍手が聞こえてきたのに目を覚ます。あれ、いつの間に寝てたのかな?
『以上で入学式は終了です。生徒は速やかに、各自の教室に移動なさい』
そう言ったのは青い髪を結い上げた女性。目付きも鋭いし、なんだか厳しそうな人だ。
生徒たちが講堂から立ち去り始めたのを確認し、校長先生と話をしている。
「ちょっと、ジャマよ。どいて」
「あ、ご、ごめんなさい……」
誰もいなくなった講堂の隅で、そんな会話が聞こえてきた。大方、人がいっぱいいる、とかで戸惑っていたんだろう。
私は声のした方へと歩きだした。知らない人ならほっといたんだけど、そういうわけにもいかないからね。
『おい、しっかりしろ』
「ご、ごめん。こんなに人がいるところ初めてだから……」
「お、やっぱり。ヴェインー?なにしてんのー?」
「リ、リヴィ!?」
そこでおどおどしていたのは、やっぱりというかなんというか、ヴェインだった。
まったく、入学して早々緊張しちゃって。これから慣れていかないといけないのにねぇ……。大丈夫かなぁ?
私の名前はリヴィ・アウレオルス。今年からアルレビス学園に入学する生徒だ。目の前でおどおどしているヴェイン・アウレオルスの姉でもある……らしい。
らしいっていうのは、親らしき人物がいないこと、子供の頃のことも覚えてないこととかではっきりしないからだ。姉弟であると教えてくれたのは黒猫のサルファ。家族って言えるのはヴェインとサルファの二人だけ。
もともと、ひっそりと森の奥で三人で暮らしていたのだが、それがなぜこんなところにいるのかと言えば、話は一ヶ月前までさかのぼる。
私とヴェイン、サルファの三人で暮らしていたある日、突然見知らぬ人が訪ねてきて、アルレビス学園にスカウトされたのだ。
なんでも、私たちの父親が有名な錬金術士だったとかで、子供である(らしい)私たちにも錬金術の才能があるのではないかとはるばるやってきたという。
私としては、亡くなった父親のことを知れるチャンスだったのであっさり頷いたのだが、ヴェインは人と接したことが少ない。村に行くのも買い物とかの時だけで、それだって家の裏に畑があったから滅多にないことだったし、行くのは基本的に私だった。ヴェインが村の人に会った回数など数えるほどしかない。
「はっはっは、ずいぶん緊張しているみたいだね」
「わわわっ!」
後ろから聞こえてきた声に、ヴェインが驚いた。そんなに驚くことでもなかろうに。
声のした方を振り向くと、見覚えのある男性が微笑みながら立っていた。
「やあ、よく来たね。一ヶ月ぶりかな?」
「あ、ゼップルさん。お久しぶりです」
「あ……お久しぶりです」
ゼップル・クライバー。私たちをアルレビス学園にスカウトしてきた張本人で、学園の教師でもある。正直、私たちの家を訪ねて来られたときはびっくりした。なにせ、深い森の奥だ。近くにある村の人たちとも、あまり交流はない。よくたどり着いたと思う。
「うん、久しぶり。そうそう、今日からボクは君たちの担任になったからね。尊敬の念を込めてゼップル先生と呼ぶように」
「そ、そうなんですか?その、すみません……」
「ヴェインー、多分冗談だと思うよー?」
「えっ?」
申し訳なさそうに謝るヴェインに突っ込みを入れる。まだまだ冗談とかは通じないようだ。
「ははは。それじゃ、教室に行こうか。場所は分かるかい?」
「いえ、ぜんぜん……」
照れ臭そうに言うヴェインに、ニッコリとゼップル先生が微笑みかける。
「それじゃ、一緒に行こうか。入学初日から迷子になられても困るしね」
「確かにそれは困るなー。そういえば、ゼップル先生。私とヴェインは同じクラスですか?」
「ああ。ヴェインくんは人付き合いが苦手みたいだからね。知り合いがいた方がいいだろうし、同じクラスにしてもらったよ」
「助かります」
そう言って歩きだしたゼップル先生の後に続く。ふとサルファの方を見ると、なにやら考えているように黙りこんでいた。
それもほんの少し。すぐにサルファはこちらに向かって走ってきた。
なにか考えていたのだろうか。サルファは私たちの兄のような存在だから、悩みがあったら相談してほしいな。
◇◇†◇◇
簡単なオリエンテーションを終えて、ゼップル先生がいなくなった後、私たちは三人で話していた。
「はあ……」
『どうした。暗い顔だな』
「ねーねー、ちょっといい?」
深いため息をつくヴェイン。後ろから可愛らしい声が聞こえた気がしたが、きっと別の友達に話しかけているのだろう。だって私たち友達いないし。
「うん……来たはいいけど、ちゃんとやっていけるかなって思って……」
「なに言ってんのさ。まだ始まったばっかりだよ?」
『リヴィの言うとおりだ。なにもしない内からその様子じゃ、先が思いやられるな』
「そ、それは……」
「おーい。聞こえてないのかな?」
サルファの言葉に詰まるヴェイン。まだ友達百人どころか一人も作れていないのに、ネガティブになっちゃダメでしょ。あと、後ろの可愛らしい声の子は相手に気付かれていないらしい。誰だか知らないけど、気付いてあげなさいよ。
『そもそも、ここに来たのはお前の意思だろう?それを……』
「悪かったよ。ちょっと弱気になっただけじゃないか……」
「よろしい。だいじょーぶだって!私もいるんだし!」
「う、うん……」
「ねえ────ねーってばあああ!!」
「わあ!?」
「やっと気付いてくれた。もー!いくら呼んでも無視してるんだもん」
いきなり大声をかけられて驚いた様子のヴェイン。私も驚いた。まさか、話しかけてるのが私たちだとは思わなかった。でも、どうしたんだろう?と振り向くと、呼んでいたのはヴェインの隣の席の子だった。腰に手を当て、いかにも「私怒ってます!」という雰囲気をかもし出している。
「ご、ごめん……」
「二人とも、今、誰とお話してたの?」
「え?サルファとだけど……」
「にゃーん」
にゃーん、と猫のようにサルファが鳴いた。 というか猫だった……。普通に話してたからすっかり忘れてた。ゼップル先生の話だと……マナ?らしいけど。
「わー、かわいい!君のマナ?珍しいね。言葉、しゃべらないなんて」
桜色の髪の少女はサルファを撫で始めた。私たち以外にサルファの言葉は聞こえない。どうしてかは知らないけど、会話ができるのは私たち二人だけらしい。
しかし、今の彼女の言い方だと、マナは全員しゃべるようだ。
「わたしも、たくさんマナと会ったわけじゃないけど……ほら、これがうちの子」
桜色の髪の毛の少女がそう言うと、少女の近くから眩い光が放たれた。
やがて光が収まると、そこには今までいなかったものがいた。
『どしたのフィロ?急に呼び出して』
現れたのは小さな少女……少女?だった。薄い緑色の髪の毛を後ろに束ね、目は宝石のように赤い。足はひざの辺りから白い羽根になっている。どう見ても人間ではない。彼女が桜色の髪の少女のマナなのだろう。
「この子たちに紹介しようと思って。ほら、ご挨拶して」
『あ、どうも。よろしくね』
「あ、うん。よろしく……?」
「じゃあもう帰っていいよ」
ヴェインが(かなり雑だったが)挨拶を終えると、あっさりと少女はマナに向かって言い放った。え、それはちょっとひどくないかな?
『えー?あたしの出番これだけ?ちょっとー!』
案の定、マナはぶつくさ言いながら消えていった。
カルチャーショック。マナは出し入れ可能だった……!!わ、私たちがサルファを連れ歩いている意味はなんだったのか!
「ね?普通にしゃべってたでしょ?……って、どうしたの?」
「いや、ちょっと……びっくりして……」
「あー、でも良かった!君たち、ずーっとぶつぶつ言ってるんだもん。隣の席の子たちがアブナイ人だったらどうしようって、心配しちゃった」
「ずいぶんストレートだね!?」
でもそう見えなくもないか。猫とひたすら話している二人。見ようによってはアブナイ人に……いや、せめて悲しい人……あれ、目から汗が。
「わたし、フィロメール。フィロって呼んでね。二人は?」
「僕はヴェイン。ヴェイン・アウレオルスだよ」
「私はリヴィ。一応、ヴェインの姉……っぽい?」
「やっぱり姉弟だったんだ。そっくりだからもしかしてって思ってたの」
「そう?」
似てるって言われたのは初めてだな。まあ、あまり人に会ってなかったせいなんだろうけど。
そういえば、フィロはどうしたんだろう?私たちになにか用だったのかな?
「ねえ、二人とも、これからヒマ?せっかくだし、一緒に学校の中を探検しない?」
「え?私たちと?いいの?」
「いいのいいの!それじゃ、早速しゅっぱーつ!」
「おー!」
「お、おー……?」
フィロが先陣を切って歩きだす。その後ろをついていく。なんで私たちを誘ってくれたのかは分からないけど、せっかくできた友達だ。大事にしよう。
『……初めての人間の友達だな。まあがんばれ』
「そうだね……うん、がんばるよ」
「ヴェインー!はやくー!置いてっちゃうよー!」
「あ、ま、待って!」
こうして、慌ただしくも私たちの学園生活は幕を開けた。
これからは復旧作業に終われそうです。