【プロローグ】少女の目覚め
無限に広がる、雲一つ無い青空。陽光を反射してキラキラと眩い光を放つ海。
そして、足元には鈍色の輝きを放つ鋼鉄の甲板。
気がつけば、少女は一人──其処に佇んでいた。
「──ここは、どこ?」
自分が何故ここに居るのか。
自分は一体何者なのか。
「──私は、誰?」
少女はまだ、何も知らない。まるで
(艦内全システム、フルチェック開始──。全システム、オールグリーン)
少女の頭の中に響く声。けれども少女は、まるで何も聞こえていないかのように気がつかない。
(兵装、及び機関に異常無し。機関始動)
少女にとってその声は、意識しなければ自分では聞くことすらない、自分自身の心音や呼吸の音と同じ。
(両舷、前進微速)
ヒュォオオオーーンッ……、と甲高い音が鳴り響き、エメラルドグリーンに輝く水上で、永い沈黙を守っていたその艦が、今眠りから目覚める。
艦の心臓である八基のガスタービンエンジンが膨大な量の電力を産み出し、そして産み出された電力はモーターへと伝達される。
モーターはゆっくり、ゆっくりと……しかし確実に、艦の後部にある四軸の六枚翼スクリューを回転させ、その動きは艦を動かす推進力へと変わる。
機関始動から僅か四〇秒で、艦は十三ノットのスピードで動き出したのだった。
「動いた……?」
ふと、少女は徐に自分の身体に目をやる。
肩に掛かる髪は漆黒。すらりと伸びた手足は純白で、まるで白磁器を思わせるように透き通っている。
少女自身は知る由もないが、陽光に照らされたその姿はまるで
少女が自分の身体を確かめるようにペタペタと触っていると、どこからともなく……微かに、どこか寂しげな笛の音のような音が聞こえる事に気がついた。
“ホーーー……、ヒーーー……、ホーーー……”
少女がその音色につられて後ろを振り向くと、そこには巨大な砲身を持つ
鈍色に輝くその姿は、圧倒的な威圧感を放ちながら少女の眼前に聳え立っていた。
さらに、その足下には無数の
「何、これ。軍艦……? どうして、私は……軍艦の上に、うっ……!!」
──キィィイイーン。
突如として耳の奥に響く金属の擦れるような不愉快な音に、少女は思わず顔をしかめながら耳を塞いでしゃがみ込む。
『──怖が──いで。こっ──に、おいで』
突然聞こえてきた声に、少女は顔をハッと上げる。
“ホーーー……、ヒーーー……、ホーーー……”
「さっきよりも、はっきり聞こえる……。私を、呼んでる……?」
気がつくと、耳の奥に響いていた不愉快な音は鳴り止んでいた。笛の音は先程よりも、不思議と明瞭に、暖かく聞こえるようだった。
「……こっち?」
少女は恐る恐る確かめるように艦橋横の水密扉を開き、艦の内部へと進む。
しかし、不思議とその足取りに一切の迷いや躊躇は無い。ハンドルを回しハッチを開け、ラッタルを登るその動きや行動は、まるで艦内の構造を知り尽くしているかのような動きであった。
「ここが、艦長室……」
少女が立ったのは、狭い小さな通路に佇む一つの扉。
その扉は、少女が幾つか通ってきた、他の無機質な鋼鉄製の扉とは異なり、重厚な木製の扉。
そしてその扉には金属製のプレートが取り付けられており、そこにはこう書かれていた。
──“
「アール、ヴァク……」
九世紀から十三世紀頃に書き記された、北欧神話について書かれた写本、古エッダ。
その中の一つ『グリムニールの言葉の第37節』によれば、アールヴァクとは、神々の地アスガルドに存在するとされる、北欧神話の主神オーディンの住む王宮ヴァルハラから、
「この部屋の中に……きっと」
少女はドアノブへと手を伸ばし、ゆっくりと扉を開けた。そして──
『──おかえり、私』
扉を開けるとそこは、小さな八畳程の書斎のような作りの部屋だった。
しかしながら、その部屋は誰が見ても分かる程に豪奢な作りであり、部屋中の壁という壁にはに飾られた夥しい数の勲章が飾られていた。
日本・
あからさまに場違いな大漁旗や
部屋の奥に鎮座する、少々邪魔……窮屈そうな机の背部には、各国の新聞の切り抜きが、それも全て“ウィルキア解放軍・駆逐艦アールヴァク”と注釈の入れられた軍艦の写真と共に、その活躍を讃えるものばかりが額縁に入れ飾られている。
少女はそれらを
“
何の変哲も無い、黒地に金糸で綴られたノート。
少女が徐にそれへと手を伸ばすと、突然眩い光がノートから溢れ出し、そして少女の世界はぐにゃりと歪み、やがて暗転する。
………………
………
…
「──、──ッ!!」
「駄目──ッ、できま──」
「──害、告──せよ!! ──なっ──ッ!?」
「敵──兵器、──に、向かっ──!!」
少女が目を覚ますと、薄暗い部屋で大勢の人間が機械の前に座り、慌ただしそうに悲痛な声を上げていた。
『……此処は、
CIC。それは現代の軍艦において最も重要な区画であり、艦の全ての指揮を執る、言わば軍艦の脳味噌のような場所である。
少女には何故自分が
『私、さっきまで……どうして?』
しかし、目の前の状況はそんな少女の疑問を遮るかのように、刻一刻と変化していく。
「ミサイル着弾五秒前、三、二、一……!!」
「総員何かに捕まれッ!!」
ズゥゥウウン──!!
鈍く重たい音と共に、激しい揺れが艦内を襲い、少女は慌てて近くの手摺りにしがみつく。何人かの人間が揺れに耐えきれずに椅子から転げ落ち、一人の女性が機械の角に頭部を強打。激しく出血し、少女の前でピクリとも動かなくなる。
「ひっ……!!」
突如として目の前で起きた、衝撃的な出来事に少女は堪らず悲鳴を上げる。
「誰かナギ少尉を医務室まで運んで行け!! 急げ!!」
しかし、目の前の人間たちはまるで少女の声を、それどころか姿すらも認識していないかのように、目の前の男を担ぎ上げていく。
その間にも艦内は何度も大きく揺れ、少女は必死に掴まりながら、ただひたすらに様子を見ていることしかできない。
しかし次の瞬間、少女の目にある人物が目に止まった。
「各部、損害を報告せよ!!」
頭部に血で赤く染まった包帯を巻き、自らもその痛みに耐えながらCICの中心で指揮を執り続ける人物。それは、眠っていた少女の記憶を呼び覚ますのには十分だった。
ウィルキア解放軍の実質的なリーダーにして、この駆逐艦“アールヴァク”の艦長。
少女の唯一にして無二の、他に変えがたい存在──ライナルト・シュルツ少佐、その人であった。
「左舷後部に被弾!! 五四、及び五五番砲との通信途絶、後部左舷側居住区画にて火災発生ッ!!」
「ダメコン急げ!! 五四番咆と五五番咆の弾薬庫は破棄、注水する!! 要員を速やかに避難させろ!!」
「……ッ、応急注排水ポンプに甚大な損傷、さらに機関部に浸水!! 機関出力大幅に低下、速力を維持できません!!」
「くっ、ここまでなのか……!? だが、奴を沈めない限りこの国は……世界が!!」
「
「りょ、了解!! ECMM準備出来次第、直ちに発射!!」
「発射準備完了!!」
「発射!!」
「
「弾着まで20秒!!」
「目標群bravo我が艦へ向けミサイル発射!!」
「本艦へ向かう雷跡を確認、数……20!!」
『ーー艦長!!指示を、艦長!!』
「わた、し……は?思い出した、私は……!!」
再び眼を開く。
しかしそこには既に戦場は存在していなかった。
額から血を流し、痛みに呻きながらも決して持ち場を離れることなく自らの職務を全うする乗組員達の姿も、顎髭を蓄え青き軍服を纏い、狼狽えるなと総員を叱咤する老軍人の姿も、その類稀なる知性を眼鏡の下に宿る眼光に忍ばせ、常に状況に応じた的確な進言をする白衣の科学者の姿も、敵国の長たる者の子でありながら自らの見出した正義の為に戦う若き士官の姿も、その天真爛漫な快活さを以ってして苦難の中でも皆を勇気付ける、うら若き通信士の姿も、そして何よりーーどんな苦境に立たされても決して最後まで絶望し諦めることなく皆に信頼され、真に愛する祖国の為に戦う艦長の姿も、其処にはもう、無かった。
「私は、そう……。全部、全部思い出した……っ」
彼女はその手に握っていた航海日誌を抱き締め、そして膝から崩れ落ち、泣き噦る。
《ウィルキア王国海軍近衛艦隊所属》
重装汎用高速巡洋艦隊護衛型 アールヴァク級駆逐艦
それが、彼女の
最初に登場する超兵器はなんでしょう?
-
超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
-
超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
-
超巨大双胴戦艦「播磨」
-
超巨大潜水艦「ドレッドノート」
-
超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」