鋼鉄の少女達は暁の水平線に何を想う。   作:飯炊きめっしー

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【第8話】反撃の狼煙

 

「主砲、目標よし! 射撃用意よし! 方向監視員、監視よし!」

 

 妖精達の間で指示が飛び交い、対空戦闘の準備が完了したことが知らされる。

 

「機関始動、両舷前進強速…敵が来る前に水道を抜けるよ」

 

「了解!!機関始動、両舷前進全速!!」

 

「とにかく、まずは友軍戦艦に取り付いてる敵機をESSM(シースパロー)で追っぱらうよ。総員、これよりセクター45……目標、大和に張り付いてる1615(ヒトロクヒトゴー)から1654(ヒトロクゴーヨン)までを目標群(アルファ)。セクター52、他の2隻に張り付いてるのを目標群(ブラボー)と呼称する。前部VLS、1番から6番まで解放。それぞれ3発ずつ放て」

「了解!前部VLS1番から6番まで解放。各セル、発射弾数3発……目標諸元入力」

 

 火器管制を担当する妖精がアールヴァクの指示に従い、すぐさまコンソールを操作する。

 CICのディスプレイに表示された俯瞰図、前部VLSの一部がスタンバイ状態の黄色から発射可能を示す緑色へと変化した。

 

ESSM(シースパロー)、諸元入力完了!」

 

 火器管制妖精の報告にアールヴァクは目を閉じながら頷き……そして、答えた。

 

「右対空戦闘、CDS指示の目標。シースパロー、攻撃始め」

 

 砲雷妖精も、それに応じる。

 

目標番号(トラックナンバー)1615(ヒトロクヒトゴ)から1654(ヒトロクゴーヨン)、シースパロー撃ち方始め!!」

 

 号令を聞いた火器管制妖精が即座に目の前のパネルの発射スペースを押す。

 同時にディスプレイ上のVLSのうち6区画が発射中を示す点滅へと変わり、ミサイル発射の小刻みな振動がCICにも伝わる。

 やがて全てのESSM(シースパロー)が発射されると振動も収まり、ディスプレイ上の点滅も青色へと変わった。

 

「シースパロー順調に飛翔中。弾着まで10秒」

 

 一方その頃……飯山艦隊の艦娘達は、襲い掛かってくる敵機の猛攻に傷付き、満身創痍といった有様であった。

 直掩機の無い状況でこの規模の空襲は絶望的状況であり、一発も被弾していない艦は一隻たりとも存在していなかった。

 ある者は被雷し、浸水が発生。またある者は爆撃を受け艦橋が吹き飛ばされ、またある者は機銃による掃射を受け、既に艦隊全体の戦闘能力は大幅に損なわれていた。

 

「ひ、左舷側より高速で飛来する物体有り!!数20以上!!」

 

 万事休すか──彼女達が諦めかけたその時。

 ──戦場に神風が吹いた。

 

「目標到達まで5秒前。4、3、2、スタンバイ……目標命中(マークインターセプト)目標番号(トラックナンバー)1615(ヒトロクヒトゴ)から1631(ヒトロクサンヒト)1634(ヒトロクサンヨン)1639(ヒトロクサンキュー)、ターゲットキル!!」

 

 突如として、上空を飛び回っていた深海棲艦機が一斉に“爆散”したのである。

 

「な、何が起きてるの!?」

「分かりません!!敵機が突然、爆散しました!!」

「そんなことって……まさか!?」

 

 突然の事態に呆気に取られる艦娘達だったが、その中で一人。大和だけが、唯一この攻撃の正体に気が付いた。

 

「よし、いいよ。シースパロー、発射待て」

「シースパロー、撃ち方控え」

「次行くよ。目標、目標群(ブラボー)に変え。シースパロー攻撃始め」

「了解、シースパロー撃ち方始め!!」

 

 そしてまた、アールヴァクの艦体からESSMが次々と発射される。

 ESSMの速度はマッハ3にも及び、更に最大で50Gの旋回にも耐えられる……その攻撃はこの時代においては決して外すことのない、神の矢だ。

 

「友軍艦隊に通信繋げ」

「通信、繋ぎます」

『──こちらウィルキア王国海軍近衛艦隊(ガーズフリート)所属、特装駆逐艦アールヴァク。これより皆さんを援護します』

 

 彼女のこの一言が、飯山艦隊所属の艦娘達の士気に与えた効果は凄まじい物だった。

 何しろ次から次へと襲い掛かって来ていた敵機が、急速にその数を減らしていくのだから。

 

(何ダ、何ガ起キテイルノダ…?!)

 

 驚いたのは艦娘達だけではない。

 深海棲艦機達は驚愕と動揺を隠せないでいた。

 次から次へと、どこからともなく飛翔してきた超高速のロケット弾が、まるで意志があるかのように正確に自分達に襲い掛かってきたのだ。

 そうこうと考えているうちにも、周りの味方はバタバタと落とされていき、ようやく指揮官機がこの攻撃の異常さに気がついた頃には、何もかもが手遅れであった。

 

『退避……ッ、全機退避シロ!!』

 

 今更退避を命じられたところで、逃げる場所などあるはずがない。

 しかし、それでも退避を命じざるにはいられなかった。

 

『逃ゲロ、逃ゲロ!! モット速ク……速ク!!』

 

 突然の攻撃に混乱していた深海棲艦機達は、指揮官機の指示を受け、ある者は高空へ逃げようと急上昇……ある者は急旋回で振り切ろうとし、ある者は海面へ向かって急降下する。

 しかし、音の三倍以上の速さで飛行するジェット機を撃墜する為に作られたミサイルにとっては、旧式のレシプロ機など空中で静止しているにも等しい。

 そして当然の如く、神の矢から逃げ切れる者は誰一人として居なかった。

 

「目標群(アルファ)及び(ブラボー)、全機撃墜!!」

「シースパロー、攻撃やめ」

「了解、シースパロー撃ち方やめ」

 

 だが、アールヴァクの攻撃の手が止むことは無い。

 まだ泊地を爆撃しようとしている敵編隊を残しているからだ。

 

「新たな目標。セクター72の敵爆撃隊、あいつらを見逃す訳にはいかないからね。……MPBM(ブリューナク)、攻撃用意!」

「艦長!? いぇ……了解、MPBM(ブリューナク)攻撃準備完了」

「……発射!!」

斉射(サルヴォー)!!」

 

 そしてまた、アールヴァクの艦体からシースパローよりも数段重たい音を立てながら、4発の大型ミサイルが次々と発射されていく。

 そしてその目標とされた艦爆隊は、まだ知らない。

 自分達に災厄が迫っているという事実をーー。

 

 

 




今日は調子に乗って二本立てでお送り致しました。
対空戦闘の描写は数多くの参考資料を元に再現していますが、実際のものとは異なります。
フィクションということで、多めに見ていただけると幸いです。

最初に登場する超兵器はなんでしょう?

  • 超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
  • 超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
  • 超巨大双胴戦艦「播磨」
  • 超巨大潜水艦「ドレッドノート」
  • 超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」

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