鋼鉄の少女達は暁の水平線に何を想う。   作:飯炊きめっしー

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※2019/5/15 改稿
2年経ち読み返したところ、
やや読みづらかった箇所があったため修正致しました。


【第9話】斯くして彼等は空に消えた

 基地攻撃に向かっていた深海棲艦機達は、秩序立った編隊飛行を崩していなかった。

 だが彼等とて、味方編隊に起こった異変に気がついていなかったわけでは無い。その黒い眼には闘志の炎が灯りながらも、動揺の色が隠しきれていなかった。

──此方(こちら)にはあの鬱陶しい対空砲火を黙らせられる新型のロケット弾がある。人類側に目ぼしい航空戦力は既に無い。今日こそ完全に奴らの息を止める日だ。

 出撃前のブリーフィングでは、そう聞かされていた。

 この作戦に参加した誰もが、覆しようのない一方的な戦い(“ワンサイドゲーム”)になる。そう思っていた。

 実際はどうだ。全てがあの“たった一隻”によって、まるで角を全て取られてしまったオセロの盤面のように、何もかもがひっくり返されてしまったではないか。

『ーー全機、聞ケ。戦闘機隊ハ私ト共ニ、アノ艦ニ突貫セヨ。艦攻隊ノ仇討チダ、何トシテモ奴ヲ……殺セ!!』

 突如として現れた、光り輝き白煙の尾を棚引かせる何か。

 それらはまるで意思があるかのように彼等の機体だけを狙い、撃ち落としていった。

 その一方的かつ的確な、まるで家畜の屠殺を彷彿とさせる、戦闘ではなく作業とでも言いたげな光景を目の当たりにした深海棲艦指揮官機。

 その心中は動揺を遥かに超え、ただ“復讐"の二文字だけが支配していた。

 復讐鬼と化した彼が下した号令と共に今、艦爆隊のTBD七〇機が急激に高度を上げ、更にF4FとF4U、合わせて四〇機が海面へと急降下する。

 しかし、災厄の女神の抱擁は貪欲であった。

 彼らの眼前の遥か彼方、例の奇怪なシルエットの艦から、大量のロケット弾が白煙を引いて飛来するのが見えた。

 ーー否、見えてしまったのだ。

『クソッタレ、マタ()()()()()()()ダ!! ブレイク、ブレイク!!』

 放たれたミサイルの名はブリューナク。

 神話においては、投げれば稲妻と成りて敵を死に至らしめ、必ず勝利が齎されるとされる灼熱の神の魔槍。

 ブリューナクは全長六・一五m、直径五二〇ミリの大型のミサイルで、最高速度は時速八八〇キロメートル。この大きく鈍重な亜音速巡行ミサイルは、()()()()()()到底対空用途に適するような代物ではない。 

 ブリューナクは()()()、窒素を一千七百度の高温、一百十万気圧の高圧で圧縮して精製される“ポリ窒素爆薬”を弾頭に用いているとしている。

 このポリ窒素は、TNTの一・五倍の威力を持つトリメチレントリニトロアミン(“RDX”)の五倍以上の威力を誇り、弾頭重量が二五〇キログラムのブリューナクでは、TNT換算で凡そ二トン分の破壊力となる。

 しかしTNT二トン分の加害半径というのは、精々半径五百メートル程度であり、航空機相手には空間制圧用としてもあまり満足のいくものではない。

 そこで、ブリューナクはポリ窒素爆薬をそのまま爆弾として使うのではなく、“核融合反応”のトリガーとして使用することにした。

『核に原子爆弾を使わない、クリーンな核兵器』

 ーー()()()()である。

 原爆を核融合プロセスの起爆剤にしないため、深刻な放射能汚染を引き起こすことがない。

 ブリューナクはその使用に制限が掛からない()()()()()()として完成された。

 更には迎撃を困難にし、効率的な破壊を行うべく、親弾頭の中に五つの弾子が格納される方式。即ち()()()()()()()()になっている。

 刃を研ぎ澄ました四発の魔槍は、空に浮かぶ命全てを搦め捕ろうとせんと花開き、その触手を伸ばしていく。

「着弾まで十秒」

 僅か一瞬で味方を蹂躙せしめた誘導ロケット。

 その驚異を目の当たりにしていた彼等は、何としてでもそれらを回避すべく必死に機体を制御し、機動していた。

 ところがそのロケットは先程までとは異なり、今度はまるで自分達を避けるかのように飛翔していることに僅かに違和感を憶える。

 ーーその感覚は結果として正しかった。

 だが、その一瞬の違和感は怒りと殺気に当てられた彼らには霞と消え、誘導装置の故障か何かだろうと、あらぬ期待をさせてしまう程度であったのもまた事実である。

『……? 何ダカ知ランガ、敵ノロケットハ速度ハ速イガ決シテ百発百中デハ無イ!! 恐レル事ハ無イ、血祭リニ上ゲテヤレ!!』

一騎当千の歴戦の猛者が戦意を失いかけた味方を鼓舞し、その鼓舞に焚きつけられた益荒男(ますらお)達が敵を殲滅せしめんと、勇猛果敢に突撃していく。

そこまでは彼らの良く知る、戦争の光景だった。

「着弾五秒前。三、二、弾着……今!!」

だが、彼らが知る“戦争”は、瞬く間に白色に輝く閃光の奔流に飲み込まれ、そこで終わった。

(グッ!! 何、ガーー!?)

 自分達の身に何が起こったのか。理解する間も無く、彼らの身体は“宙”へと叩きつけられていた。

 ある意味では皮肉だが、それを理解する間もなく絶命できた事が幸運であったかもしれない。

 弾頭に搭載されたポリ窒素爆弾の爆発。それによって瞬時に水素原子の核融合反応が引き起こされ、その反応が次の反応を呼ぶ。

 弾子一発当たりの威力は、TNT換算で凡そ三五〇トン。二〇発全て合わせたエネルギー量は、TNT換算で七キロトンにも及ぶ。

 その威力は大都市をも一撃で消し飛ばす程の絶大であり、想像を絶する筆舌に尽くしがたい程の純粋な破壊と暴力の権化が、深海棲艦機達に襲いかかった。

 無数の巨大な火球が、空一面を喰らい尽くすかのように急速に膨れ上がり、音速を優に越える猛烈な爆風を伴って、辺り一面を無慈悲に破壊の渦へと飲み込んでいく。

 爆心地から数百メートルの位置に居た者は、熱線によってジュラルミン製の機体ごと瞬時に蒸発させられ、此の世に存在して居た一切の証を残すことを許さなれなかった。

 辛うじて急降下が間に合った機体も、その爆風からは逃れられず、瞬時に機体をバラバラに粉砕され、ほんの数瞬空へと吹き戻しで吸い込まれた後、海面へと叩きつけられ絶命した。

 そして、一体どれ程の時間が経った頃だろうか。

 先ほどまで空を支配するように飛び回って居た、一百十機もの深海棲艦機達の姿はどこにもなく。暗雲ひしめいていた空には、まるで丸くぽっかりと穴を穿ったように青空が広がり、その向こうには遠く、本物の太陽が顔を見せていたのであった。




ブリューナクの設定は完全にオリジナルです。
エースコンバットシリーズに登場するMPBMと名称は同じ……と、いうより元ネタですが、威力を水増しする為にポリ窒素爆弾を用いた純粋水爆という設定を取り入れました。
そもそもポリ窒素爆弾で純粋水爆が作れるのか?というと甚だ疑問ではありますが、そこは鋼鉄世界の超技術でどうにかしたのでしょう。
アヒル戦闘機とか作っちゃうような世界だし、多少はね?

最初に登場する超兵器はなんでしょう?

  • 超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
  • 超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
  • 超巨大双胴戦艦「播磨」
  • 超巨大潜水艦「ドレッドノート」
  • 超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」

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