鋼鉄の少女達は暁の水平線に何を想う。   作:飯炊きめっしー

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【第12話】深海への呼び声

「VLA弾着」

「攻撃評価を行え」

「艦長。圧壊音確認、および弾着地点に浮遊物多数視認しました。撃沈と思われます」

「おぉ!! やったぞ!!」

「敵艦撃沈だ!!」

 初の敵艦撃沈にCIC中が湧く中、アールヴァクは一人冷静に敵潜水艦の行動パターンを分析していた。

(……深海棲艦は今のところ米軍の旧式装備を模しているようだし、さっきの魚雷攻撃はそれぞれ左右方向からほぼ同時にやってきた。これが米軍式の群狼戦術(ウルフパック)なら、3隻1組で行動している筈……日本軍の無線では潜水艦1隻撃沈の報があったから、残りは1隻は確実だよね)

 米軍式の群狼戦術は正式には調整攻撃グループと呼ばれ、通常は3隻で1つのチームを組んで行動する。時には最大4チーム12隻程で活動する事もあるが、水道入り口付近での待ち伏せ奇襲攻撃であることを考えると、大軍が潜んでいる可能性は低いと思われた。

「皆、喜んでるところ悪いけど、まだ最低でも一隻。どこかに潜んでる筈だから、絶対に探し出して」

「よし、お前ら浮かれてる場合じゃねぇぞ!!」

「HS(Hunter Submarine(対潜哨戒ヘリ))、ソノブイ投下」

 先に発艦していた2機のRASH-(コマンチ)66が、スタブウィングに懸架した投射機から海面にソノブイと呼ばれる水中聴音機を次々と投下していく。

 投下されたソノブイは水中で圧縮空気によってクラゲのように水面上に漂う無線通信機部分と、水中で傘の骨のように開く聴音機部分に分離する。

 ソノブイにはパッシブソーナーを搭載したパッシブ・ソノブイとアクティブソーナーを搭載したアクティブ・ソノブイ、更にそれらに指向性の有るものと無いもの計4種類があり、基本的には敵潜水艦の潜伏が予想される海域にパッシブソナーを一定の間隔でばら撒く。ソノブイに搭載されたパッシブソナーが潜水艦らしき音を探知すると、ソノブイが探知報告を知らせてくるため、その周辺にアクティブソノブイを投下することで敵潜水艦の位置をほぼ正確に探知することができるという仕組みだ。

「機長、3番ブイが何かを聴知した模様」

 先程RASH-(コマンチ)66が投下したソノブイは、DIFAR(指向性低周波捕捉)ソノブイというパッシブソノブイの一種で、通常のパッシブソノブイと異なりコンパスと指向性受波機を搭載しているため、大まかな敵潜の方位を知る事ができる。

「2番ブイにも反応あり、敵潜は南進している模様」

「了解。SRS(ソノブイ参照システム)の反応からして、もう間も無く1番ブイをオントップ(上空通過)する筈だ。アクティブの投下用意をしておけ」

「了解、ソノブイ投下用意」

HSI (水平状況表示器)OPTI(上空通過表示器)表示が出た。ソノブイ投下5秒前、3、2、1……投下」

「ソノブイ投下」

 投下されたソノブイは先程までのものとは異なり、アクティブソーナーを搭載している。このソノブイに搭載されたアクティブソーナーはピンガーと呼ばれる探信音を出し、音の跳ね返りを利用して敵潜水艦の確実な方位と距離を探知することができる。更にアールヴァク搭載機、RASH-(コマンチ)66が装備しているアクティブソノブイはDICASS(指向性指令探信)ソノブイであり、指向性の送信機と全指向性の受波機を搭載し、投下母機からの指令で探信を行うことで高精度で潜水艦を探知することができる。

「ソノブイ探知、方位後方125度」

「ようやく見つけたか……アクティブ捜索始め!!」

「了解、アクティブ捜索始め」

「ソーナー探知!! ドップラー高い、目標は潜水艦らしい!!」

「HS、短魚雷投下」

 その頃、アールヴァクを襲った深海棲艦の潜水艦隊旗艦であるバラオ級(カ級flagship)は突如自らの真横から鳴り響いた探信音に驚愕していた。

「何故ダッ……!? アノ艦ノ付近ニハ護衛艦ハ居ナカッタ筈ダ、パッシブモ“奴”ノスクリュー音シカ探知シテイナイ筈ダゾ!!」

 そして次の瞬間、バラオ級(カ級flagship)は自艦の後方から“例の魚雷”の推進音が突然聞こえてきたことに気がついた。

「クソッ、マサカコイツハ我々デモ未ダ試作研究段階ノ、パッシブホーミング魚雷ダトデモイウノカ!! ソウダトスレバ、アルイハ……」

 そう思うが早いか、バラオ級(カ級flagship)は先程まで最大出力で動かしていた機関を急激に停止させ、後部の魚雷発射管から4本の魚雷を自らを追尾している魚雷目掛けて発射した。バラオ級(カ級flagship)を追尾していたMk.54魚雷の誘導方式は“パッシブホーミング式”ではなく、自ら探信音を放ち更にスクリューの音紋を識別して追尾する“アクティブホーミング式”なので、その程度の誤魔化しが通用する筈も無いのだがーー運命の悪戯なのか、偶然にもバラオ級(カ級flagship)が発射したMk.14魚雷4本のうちの1本が突如としてMk.54の直前で自爆した。

 これはMk.14魚雷の欠陥に起因する“紛れ”だったのだが……結果的に爆発で周辺に強力なバブルプレスが生まれ、RASH-(コマンチ)66が放ったMk.54はそのバブルプレスに下から持ち上げられるようにして中央からポッキリとへし折られてしまった。

「HSより通信、“先ほどの短魚雷攻撃は攻撃評価不明、再攻撃の要有り”」

「……まさかMk.54が初期型の潜水艦相手に外すとは」

「水中爆発音の前に敵潜から魚雷注水音を聴知しました、敵潜は我が方の魚雷を迎撃したのでは?」

「この時代の技術水準では考えづらいけど……」

「まぐれかもしれませんが……敵潜侮りがたし、ですな」

「艦長VLA攻撃を行います」

「次は必ず当てて、絶対に逃がすわけにはいかない!!」

「了解!! VLA攻撃始め、射線方向130度」

「VLA用ォ意……撃てェーッ!!」

「VLA弾着!!」

 一方その頃、魚雷の誘導方式を見抜き(と、思い込み)機関を停止したバラオ級(カ級flagship)は、無音潜航で深度を少しずつ下げながら、じっと息を殺していた。

「クソッ、何ダト言ウノダ、アノ艦ハ……!! 何トシテデモ生キテ奴ノ情報ヲ持チ帰ラナケレバ……私ハ、コンナ所デ沈ム訳ニハ行カナイ。先ニ散ッタ同胞達ノ為ニモ……」

 しかし、幸運とはそう何度も続くものではなかった。

 奇跡的にMk.54魚雷を迎撃し、命からがら逃げ果せたバラオ級(カ級flagship)ではあったが、既にその運は全て使い果たしていた。そして最期の時が刻一刻と迫りくる中、死神の鎌が首にかけられ、その命が風前の灯であことを彼女は知る由もなかった。

「“人間ノ手先(虫ケラ)”ノ分際デ誘導魚雷ヲ使ウナドト舐メタ真似ヲ……!!」

 同胞を沈められた怒りに燃えていた彼女であったが、その表情は一瞬にして恐怖へと変わる。ピィィイイン……という甲高い不気味な音の探信音を立てながら、アールヴァクから発射されたASROCの弾頭部であるMk.44魚雷が、突如としてバラオ級(カ級flagship)のほぼ真上に出現したのであった。

「探信音、マサカ……アクティブホーミング式ダト……!? ヒィイッ……ヤメロ、来ルナァッ!!」

 機関を停止させているにもかかわらず真っ直ぐに突っ込んでくる、自らの死を宣告するように近づく魚雷の音にバラオ級(カ級flagship)の精神は、なまじ自分に襲いかかる魚雷の性能を分かってしまった(・・・・)ことで、遂に限界を迎えてしまう。

「来ルナッ、来ルナァァァアアーーーッッッ!!」

 バラオ級(カ級flagship)の必死の叫びも虚しく、Mk.44魚雷は上方から正確に船体後部へと突き刺さり、凄まじい気泡と爆発で、その船体をまるで瓦割りのように叩き割ったのであった。

「攻撃評価を行え」

「艦長、圧壊音を確認しました。また、HSが海面上に多数の浮遊物を視認したそうです」

「ご苦労様。VLA攻撃やめ」

「VLA攻撃やめ。目標破壊(ターゲットデストロイ)

「このままHSは現海域にて敵潜水艦の捜索を続行、生き残りがいるかもしれないから入念にね。私達は敵艦隊を迎え撃つよ、HSは作戦限界に到達したらトラック島航空基地に帰投せよ!! 以上」

「了解。潜水艦を撃沈した、対潜戦闘用具収め」

「針路1(ヒト)-1(ヒト)-0(マル)、第4戦速。各部、対空、対水上警戒を厳となせ!!」

「了解、針路1(ヒト)-1(ヒト)-0(マル)。第4戦速!!」

「……もうこれ以上、誰もやらせはしない」

 ――そう一人呟いたアールヴァクの目は、悲しみと怒りの混じり合った、複雑な海の底のような色をしていた。




今回は難しい用語を多く使い過ぎてしまったような気も…反省
次回、お待ちかねの艦隊決戦。
追記……縦書き表示にした時にアルファベットの羅列は読みづらいので一部訂正、削除しました

最初に登場する超兵器はなんでしょう?

  • 超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
  • 超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
  • 超巨大双胴戦艦「播磨」
  • 超巨大潜水艦「ドレッドノート」
  • 超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」

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