鋼鉄の少女達は暁の水平線に何を想う。   作:飯炊きめっしー

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【第14話】罪と罰

「これは……電測長、レーダーに艦影らしきもの多数確認。日本軍からの情報にあった深海棲艦の艦隊かと思われます」

 

「その可能性が高いな、艦橋に報告しろ」

 

「了解。艦橋、CIC。敵艦隊と思わしき反応を捉えた。真方位〇-五-〇、距離二十八マイル(約50km)、数四、本艦真艦首方向」

 

「距離二十八マイルか、近いな。相手のレーダーの性能を考えると、本艦を探知できるとは考えづらいが……」

 

 アールヴァクの艦体は高度にステルス化されており、レーダー反射断面積(RCS)は通常の非ステルス艦と比べて凡そ30分の1以下(一説には50分の1以下とも言われている)であり、これはレーダースコープ上に映るアールヴァクの大きさは魚雷艇程度の大きさにしか映らないという驚異的なものだ。

 しかし、前世の異常とも言える極端な軍事技術の進化は、この高度なステルス性を持ってしても気休め程度にしかならなかった。

 たかだか魚雷艇や駆潜艇程度の小型船を相手に、原子力空母をも一撃で撃沈せしめるような大型極超音速対艦ミサイルや誘導砲弾が雨霰のように降ってくることが当たり前であり、圧倒的な物量で普通なら見逃すようなレベルの相手にすら容赦のない攻撃を行うのが基本だった。アールヴァクが戦い抜いてきた戦場は、この世界においては気が狂っているとしか言いようがない戦場ばかりであった。

 それ故に今日のこの世界における彼女の戦闘力はまさに()()そのものであり、後世の戦史学者は「牛刀で鶏を捌くでは足りず、チェーンソーで小魚を捌くに等しい」と表現している。

 

「艦長。念のため目標と距離を取り、航空偵察の要有りと認みます」

 

「副長。念の為確認しておきたいんだけど、本物の米国艦隊って事は無いのかな」 

 

 万が一にもこれが本物の米国艦隊であれば、艦娘同士の同士討ちになってしまうのでアールヴァクの疑問は当然のことであった。

 厄介なことに、深海棲艦は見た目が実在する艦にそっくりなので、肉眼では遠目には敵か味方の識別が困難なことだった。しかもそれが稀に自国の艦も含まれるのだから尚更だ。

 彼女は知る由も無かったが、事実この世界では深海棲艦の特性が解明されるまで艦娘内での同士討ちがかなりの頻度で発生しており、当初は深海棲艦という未知の脅威が人類共通の敵ではなく、他国の陰謀や侵略の偽装工作と捉える国も少なくなかった。これが災いして、未知の脅威に対する人類同士の結束どころか人類同士で争いが起こり、結果として深海棲艦に対する対応が遅れたことで、幾つかの国が文字通り滅亡するという憂き目にあったと暗い過去があったのだった。

 

「はっ。日本軍から受け取った情報によれば、深海棲艦は固有の周波数の微弱な電波、及び音を放出しているとのことであり、これは電波に関しては既に先の会戦でデータは得られているので、解析可能です。また、深海棲艦は敵対行動時に固有のパターンの紋様が表面に発光して浮かび上がる現象が確認されているとのことです」

 

「わかった。何はともあれ、まずはアレが本当に敵かどうか見極めないとね。面舵一杯、航空機は即時待機させて」

 

「了解、面ぉ〜舵、一杯ぁい!!」

 

「航空機即時待機、準備出来次第発艦!!」

 

「HS、目標を赤外線映像で確認。小型艦20、中型艦6、艦隊中央に戦艦らしき大型艦3、後方に空母らしき大型艦4。輪形陣を組み、凡そ15ktで西進中!!」

 

「……こりゃまた、大艦隊ですな」

 

「目標より、微弱な電波発信を確認。識別完了、先の戦闘時のパターンと一致。目標を敵艦と断定します」

 

「これで完全に“クロ”だね。奴らを野放しにしては置けない、対水上戦闘用意!!」

 

「了解!! 対水上戦闘用意ッッッ!!」

 

 一方その頃、深海棲艦側には敵航空機発見の報を受けて動揺が広がっていた。

 

「ピケット艦ヨリ入電。対空れーだーニ感アリ、敵航空機ト思ワレル!!」

 

「電波送信ハ確認シタカ?!」

 

「イエ、未ダ電波ノ送信ハ確認サレテイマセン。運悪ク、飛行艇ノ哨戒コースニ当タッテシマッタノカモシレマセン……」

 

「エエイ、御託ハイイ!! アレガ我ラノ情報ヲ持チ帰ル前ニサッサト叩キ落セ!!」

 

「リョ、了解!! 全艦、対空戦闘用意!!」

 

 HSが最初に異変を捉えたのは艦隊中央の三隻の戦艦だった。三隻の艦体の表面に禍々しい光る刺青のような模様が浮かび上がると、その三隻が口火を切り、猛烈な花火のような対空砲火を撃ち出してきたのであった。

 それを皮切りに、周囲の駆逐艦や巡洋艦、空母までもが同じように発光し模様を浮かび上がらせると、HSはまるで流星群を逆さにしたかのような対空砲火に追われることとなった。

 

「キングフィッシャーよりアールヴァク、本機は現在敵艦隊より攻撃を受けている!!」

 

「了解キングフィッシャー、直ちに現空域を離脱。帰投せよ」

 

 深海棲艦が撃ちあげてくる対空砲火は、四〇ミリ以上の砲弾すべてにVT信管が搭載されている。

 本来であれば、たかだか一機程度の偵察機程度なら余裕で撃ち落とせる……その筈だった。

 

「そんなヘボ弾当たるかっての!! ECM起動、チャフ散布!!」

 

 しかし、深海棲艦が撃ちあげる砲弾のほぼ全てが、まるで検討外れの低高度で起爆し、全く有効打を与えられていないことに深海棲艦達は苛立ちを隠せなかった。

 

「ドウナッテルノ!? ナゼアンナ高度デ起爆スル!? アノ蝿ノ所マデ、マルデ届イテイナイジャナイ!?」

 

「ワ、ワカリマセン!! 全テノ砲弾ガ発射後スグニ起爆シテシマイマス!!」

 

「れ、れーだーニ異常発生!! 全テ()()()()()()()シテイマス!!」

 

「マサカ……オノレ猿共!! ()()()ヲ使イヤガッタノカ!!」

 

 まだ電子戦という概念が存在しない相手に対して、電波妨害(ECM)とチャフの散布はやり過ぎとさえ言える。

 事実、VT信管は見た目の派手さとは裏腹に、強烈な電波を食らってほぼ全てが高度1千メートルにも届かず自爆。

 時限信管ではなく、全ての信管がVT信管になっていたことが裏目に出たのだった。

 

「ヒャッホウ!! 敵さん当たらないからってヤケになってるぜ!!」

 

「ははは、こりゃまるで花火大会ですな。それ、た〜まや〜っと」

 

「馬鹿野郎、あんまり調子乗ってると痛い目見るぞ!! とっとと雲に紛れて高度上げるんだよ!!」

 

 四〇ミリ以下の小口径の信管の無い銃弾はECMの効果を受けなかったが、高度6千メートルまで上昇したオスプレイ(SV-22)にはまるで届かず、更にダメ押しに散布されたチャフと自らの放つ対空砲火の爆煙によって、深海棲艦は完全にHSを見失ってしまった。

 

「テ、敵機ろすと……」

 

「タカガ偵察機一機落トセヌトハ、ナンタルザマダ!!」

 

「生意気ナ猿共メ……トニカク、見ツカッタ以上コノママデハイラレナイワ。夜明ケト共ニ敵艦隊ガ決戦ヲ挑ンデ来ルデショウ。空母ヲ分離シテ戦艦ヲ前ニダシテ、我々デ敵艦隊ヲ誘引シテ航空攻撃デケリヲツケルワヨ」

 

「敵艦隊ハ既ニ、先ノ攻撃デ対空能力ヲ大幅ニ失ッテイルハズ。敵ノ航空攻撃モ無イ、我ラノ勝利ハ揺ルギマセンナ」

 

「……(シカシ、本当ニコレデ良イノカ? 私ノ作戦ハ完璧ナハズ。ナノニコノ胸騒ギハ何ダ? 怯エテイル? 私ガ? 何ダ、何ダト言ウノダ……!!)」

 

 実際、深海棲艦艦隊旗艦であるニューハンプシャー(戦艦ル級flagship)の判断は、本来であれば正しかった。

 日本艦隊の主力である戦艦部隊は軒並み航空攻撃によって対空能力を喪失しており、基地航空隊の脅威も存在しない今となっては日本軍には、“日本軍であれば”艦隊決戦以外の選択肢は有り得なかったからだ。

 しかし、この日ニューハンプシャー(戦艦ル級flagship)はこの決断を大いに悔やむことになる。

 ──本来この戦場(盤面)に存在しないはずの駒が、全てを狂わせることになることなど、今は誰も知りはしない。

 

「データリンク、正常」

 

「ふむ、どうやら目標は艦隊を二分して空母を切り離すようですね」

 

「戦艦は後回しにしよう。先に空母を沈めて戦艦はその後だね、ここで空母を逃したら意味がない」

 

「航空攻撃の脅威は早めに処理にするに限りますな」

 

「その通り。それじゃ、始めるよ……対水上戦闘用意」

 

「了解、対水上戦闘用意!!」

 

「トマホーク攻撃始め、目標敵空母4隻。発射弾数4発」

 

「目標諸元入力完了」

 

「トマホーク発射始め!!」

 

「一番用意……てェッッッ!!」

 

 ──シュゴゴゴゴ……ッという、鈍く重い微細な振動がアールヴァクの艦内に伝わり、闇夜を切り裂くように光の斧が空へと放たれる。

 アールヴァクから放たれた4発のタクティカル・トマホークは、地下深くの鉄筋コンクリート製の目標すら破壊する強化徹甲弾頭の中に、750kgにも及ぶ超高性能爆薬を搭載する。

 全てを焼き払う者(ブリューナク)と対になるものとして、さしずめトマホークは()()()穿()()()と言うべきだろうか。

 碌に装甲らしい装甲も持たない空母相手に撃ち込むには、オーバーキルも甚だしい過剰火力だった。

 

ミサイルは順調に飛行中(ミサイル・アウェイ)、トマホークはそれぞれ第一ウェイポイントを通過。着弾まであと3分」

 

「敵艦隊に動きは?」

 

「夜間戦闘機らしき機体が数機発艦した模様。直掩機と思われます」

 

「放っておけばいいよ、どうせ彼らが帰るところは無くなるんだから」

 

 アールヴァクはそう言って、自らの発言の皮肉に苦笑する。

 

「……帰るところが無いのは、私達も同じか」

 

 一方、4本のトマホークは発射地点を隠匿するために北西と南西の2方向からそれぞれ大きく迂回して、海面スレスレの高度を這うように深海棲艦艦隊の凡そ5マイルの距離まで迫っていた。

 

「直掩機ヨリ入電!! 三方向ヨリ同時ニ我ガ艦隊ニ迫ル高速飛行物体アリ!! 大型ノ“ろけっと弾”ト思ワレル、距離凡ソ5マイル!!」

 

「何デスッテ!? 迎撃ハ!?」

 

「ろけっと弾ハ推定時速600マイルト見ラレ、直掩機ノ迎撃ハ間ニ合イマセン!!」

 

「ナラ対空迎撃ヨ、弾幕ヲ張ッテ撃チ落トシナサイ!!」

 

「シ、シカシ護衛艦ノ多数ガ先行スル戦艦部隊ニ随伴シテシマッテイルタメ、迎撃ハ困難カト……!!」

 

「四ノ五ノ言ワズニヤリナサイ!! コノママ座シテ死ヌ訳ニハイカナイノヨ!!」

 

「ろけっと弾ヲ目視デ確認……ッ、速イ!!」

 

「アンナ海面スレスレヲ飛ンデ来ルナンテ!?」

 

「相手ガドレダケ速カロウガ、真ッ直グ飛ンデ来ル時点デ魚雷ト同ジヨ!! 回避シナサイ!! 面舵一杯(hard starbord)!!」

 

 護衛艦の大多数を欠いた状態の艦隊は、散発的ながらも対空射撃を行い始める。

 しかし、腐っても米艦のそれを模した彼女らの弾幕は相当なものであり、レキシントン(空母ヲ級)が放った5インチ単装砲の砲弾が、運良く一本のトマホークに向かって吸い込まれていく──かに見えた。

 

「ソンナ、馬鹿ナ!? ろけっとガ砲弾ヲ避ケタダト!? アノろけっとニハ目デモ付イテ居ルトデモ言ウノカ!!」

 

 レキシントンの放った5インチ砲弾は、確かにトマホーク目掛けて吸い込まれていくかのように見えた。

 しかし、ランダム回避運動パターンがプログラムされたトマホークはそれを嘲笑うかのように、まるで海面を泳ぐ海蛇のようにウネウネと動き、砲弾を躱してしまったのだった。

 

「撃テ、撃テ、落トセ、落トセ、落トセ──ッッッ!!」

 

 レキシントンの対空射撃は決して悪いものではなかった。

 これがトマホークではなく、雷撃機の二機や三機程度であれば、余裕で撃墜できていたかもしれない。

 だが、雷撃機よりも遥かに高速で小さい目標を撃ち落とすには、余りにも猶予が短かった。

 三本のトマホークは、それぞれ目標の1キロメートルほど手前で急激にポップアップし、無防備に露天繋止していた艦載機が溢れる甲板に突っ込んだのだ。

 トマホークは自身に残された運動エネルギーで、碌に装甲化もされていない甲板と、その直下にある格納庫すらも容赦なく艦載機ごとブチ抜き、船室に達したところで弾頭重量900kgにも及ぶ破壊力を解放した。

 そこからはあっという間だった。

 ミサイルの前方と側方……即ち真上から突き刺さったこの場合、爆発のエネルギーは艦底部方向と艦首から艦尾までの水平方向に向かって指向されている。

 猛烈なエネルギーが艦中央部の壁という壁、床という床をめちゃくちゃに破壊し、遂には艦の背骨である竜骨をも上から叩き割った。

 その瞬間、レキシントンの艦前方と後方がまるでオモチャのように海面を離れ、ほんの一瞬宙に浮いたかと思うと、次の瞬間には炎が気化した航空燃料に引火。想像を絶するような、猛烈な大爆発が巻き起こった。

 爆煙が晴れたとき、海面上に残されていたのは僅かに残った燃え盛る搭載機の残骸と、バラバラに砕け散った装甲板の破片だけだった。

 同じような悲劇はレキシントンだけではなく、ヨークタウンとホーネット、エンタープライズの3隻にもほぼ同時に訪れていた。

 

「レ……レキシントン爆沈!!」

 

「迎撃間ニ合イマセン!!」

 

 レキシントンの文字通りの爆沈によって深海棲艦艦隊は恐慌状態に陥っていた。

 対空砲や機関砲は銃身が灼けつくのも厭わず狂った様に弾幕を張り続けるが、それを嘲笑うかのようにトマホークは右に左に回避しながら、確実に息の根を止めるべく突っ込んでくる。

 

「回避セヨ、左舷全速前進(Full ahead port)面舵一杯(hard starbord)!!」

 

「シ、シカシ!! 今転舵スルト、味方ノ駆逐艦ト衝突シマス!!」

 

「構ワン!! 本艦ノ保全(私の命)ガ最優先ダ!!」

 

「リョ、了解……!! 左舷全速前進(Full ahead port)面舵一杯(hard starbord)!!」

 

「味方艦ト衝突スル、衝撃ニ備エヨ(Brace for impact)!!」

 

「ウ、嘘デショ……ほーねっと様正気デスカ!? お、オヤメクダサッ、ヒィッ、ァ……イギッ、ア、ガァァアアアアッッッ!!」

 

 その瞬間、ホーネットのやや右前方を並走していたグリーブス級駆逐艦メレディスは、突然自分に向かって転舵してきたホーネットに後方から斜めに衝突された。

 艦体中央部に斜めに突き刺さったホーネットは、メレディスを半ば引き摺る様にしながら、その脇腹を食い破って行く。

 

「ァ……ほー、ねっと、サ、マ……」

 

 排水量たったの1,630tしかないメレディスは、自身の10倍以上である19,800tもの排水量があるホーネットの衝撃を受け止め切れるはずもなく、まるでセイレーンの叫び声のような金属が引きちぎれる不愉快な音を立てながら、その胴体を真っ二つに切り裂かれた。

 

「ヒィィイイイッッッ、来ルナ、来ルナ、来ルナァァアアアッ!! 私ハマダ……私ハマダ!! 死ニタクナ──ッッッ!!」

 

 味方を生贄にしてまでトマホークから逃れようとするホーネットであったが、しかし、だからといって意思を持たない無慈悲な殺戮者である電子部品が、()()()()()を気にかけることも、わざわざ見逃してやることもなく、トマホークはプログラム通りにポップアップし、吸い込まれる様にホーネットの飛行甲板へ突っ込んだ。

 トマホークはレキシントンの時と同様に、複数の艦載機を巻き込みながら正確に己の役目を果たした。

 猛烈な爆発によってレキシントン同様竜骨を真っ二つにへし折られたホーネットは、失意と怨嗟の声を上げる間もないまま自らが轢き殺したメレディス共々、海の藻屑と化したのであった。




およそ1年ぶりの投稿となってしまいました……お待たせして申し訳ありません。
実生活に少し余裕が出てきたので、今後は最低でも数ヶ月に一話くらいのペースで更新していけたら、と思っています。

最初に登場する超兵器はなんでしょう?

  • 超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
  • 超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
  • 超巨大双胴戦艦「播磨」
  • 超巨大潜水艦「ドレッドノート」
  • 超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」
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