「…ねぇ、吹雪見て。11時の方向」
「えっ?えーっと…何ですか、あれ」
「見た感じだと重巡ぐらいの大きさですが…こんな所に単艦で、しかも灯火をあんなに煌々と点けて…あんなの自殺行為ですよ」
三隻の視界の先には、夜間にも関わらず灯火を提灯のように灯して走る一隻の艦があった。
まだあまりにも遠すぎて艦形は分からないが、かなりの大型艦であることは容易に分かる。
「…深海棲艦の可能性もあるわね」
「でも重巡クラスが単艦でこの海域に居るなんて、絶対おかしいです…それに、深海棲艦が灯火なんて点けるでしょうか」
「うーん、民間船舶ってわけでもなさそうだし…まさか、外国の艦だったりして?」
「幾ら何でもこのご時世に通常艦艇を運用する馬鹿な国もいないでしょうよ…でも、確かめる必要はありそうね」
「…大丈夫ですかね、いきなり発砲してきたりしないでしょうか」
「無いとも限らないわね。慎重に行きましょう」
三隻の中には一抹の不安があったが…もしもあれが深海棲艦であったとすれば、ここで見過ごしてしまうことで味方に甚大な被害を与えてしまうかもしれない。
そんな思いから、其々がいざという時は自分達が犠牲になるという覚悟を持って、不明艦に向けて近づいて行くのであった。
「日本艦隊、尚も接近。針路変わらず…距離15!」
電測妖精が艦隊の接近を知らせる。
ーー彼我の距離は既に30kmを切っていた。
相手がミサイルを撃ってこないのは僥倖だが…相手がレーダーを使用していない以上、彼女はミサイルによる攻撃は想定していなかった。
しかし、日本艦隊の標準的な駆逐艦が装備している魚雷は《超音速魚雷》もしくは《61cm酸素魚雷》の何れかであるが、両者共に20km〜30km以上の驚異的な射程を誇る。
つまり、もしも相手に交戦の意思があれば、いつ魚雷を放っていたとしてもおかしくない距離だ。
(もしも予想が当たっていれば、必ず相手は停船命令を出してくるはず…一か八かね)
それでも万が一に備え防御重力場の出力は上げている、彼女は決して油断はしていなかった。
「敵艦より発光信号!!」
「内容は!?」
副長妖精と共に、彼女も眼前の駆逐艦へ向け食い入るように双眼鏡を構え、覗き込む。
『コチラハ日本海軍第20駆逐艦隊所属、駆逐艦吹雪。所属不明艦ニ告グ、旗艦ハ日本国ノ領海ニ接近シテイル。直チニ停船セヨ。指示ニ従ワヌ場合ハ攻撃モ止ム無シ、攻撃モ止ム無シ』
ーー艦内にヒヤリと緊張が走る。
「発光信号用意、機関後進一杯!!」
「了解、発光信号用意!機関後進一杯!」
そして彼女の号令に合わせて、艦橋に居た全員が忙しなく動き出す。
そしてそれはアールヴァクからの返答を受けた、吹雪の艦橋でも同じ様だった。
『コチラ、ウィルキア王国近衛艦隊所属、駆逐艦アールヴァク。我ニ敵意ナシ、我ニ敵意ナシ』
聞いたこともない国の名前、そして明らかに重巡洋艦クラスを遥かに凌ぐ大きさ…しかも有ろう事か、当人は自分を駆逐艦だと自称している。
(見た限りでは深海棲艦じゃ無いみたいだけど…一体全体何者なんですか…?)
「見たことも聞いたこともない艦影をしていますね。あの主砲…どう見ても20cm以上、しかもとんでもない長砲身です。本当にアレ駆逐艦ですか?独国のシャルンホルスト…いや、アドミラル・ヒッパーよりもデカいですよ」
双眼鏡を覗いていた副官妖精が感嘆の声を上げる…無理もない。
吹雪型駆逐艦の基準排水量は1,680t、満載排水量でも2,260t。
それに対して彼女は基準排水量15,750t、満載排水量は19,470tと…日本海軍の保有する最大の重巡洋艦、高雄よりもずっと重く、吹雪とアールヴァク両者の間には、ほぼ十倍近い差があるのだから。
(やっぱり、攻撃はしてこなかった…これって)
今でこそ帝国に占領されてしまい、敵対しているものの、元々ウィルキアと日本は同盟国だ。
この時彼女は、自分が“開戦前”の時間軸にタイムスリップした、と考えていた…それは不可解な日本艦隊の動きから、技術水準が低過ぎるのでは?と思ってしまったせいなのだが。
果たしてその考えは、当たらずとも遠からず。
ーー運命の女神は彼女の考えよりも、遥かに残酷なのであった。
「砲雷長、全ての砲門の仰角を上げて敵対の意思が無いことを向こうに示して!」
「了解!全砲門仰角上げます!!」
これに驚いたのは吹雪以下二隻だった。
「不明艦、主砲仰角上げます!」
「…あくまで敵対する意思は無い、ってことね」
「私があの艦に直接接触します、叢雲ちゃんと白雪ちゃんは周辺警戒を!」
「わかりました、お任せください」
「吹雪、アンタ一人で大丈夫なの?」
「大丈夫…私、頑張ります!内火艇用意!」
500mの距離まで近づいた吹雪は、改めて国籍不明の自称駆逐艦(アールヴァク)の大きさに圧倒される。
艦橋の形は高雄型重巡にやや似ているが、艦全体のシルエットが驚くほどスラッとしており全体に凹凸が限りなく少なく、まるでSF映画に出てくる宇宙船のようなデザインである。
そして艦の前側に背負式に設置された連装2基の大口径砲…しかし砲塔自体の大きさは限りなく小さい。
「…気を緩めないようにしなくっちゃ」
………
……
…
「初めまして!日本海軍トラック泊地第1鎮守府、第20駆逐艦隊所属の特型駆逐艦、吹雪型一番艦、吹雪です!」
「…吹雪さんですね、私はウィルキア王国海軍近衛艦隊所属。アールヴァク級重装汎用高速巡洋艦隊護衛型駆逐艦、一番艦アールヴァクです」
「えっ、えっと…重装汎用…?」
「重装汎用高速巡洋艦隊護衛型駆逐艦です、長ったらしいんで特装駆逐艦で結構ですよ」
「あっ、はい分かりました…アールヴァクさん、それであの、ウィルキア王国と言うのは…」
「えっ?」
「いや、あの、違うんです!ただ聞いたことが無かったんで、どこにある国なんだろうなーと思って!」
「……ウィルキアを、知らない?」
その瞬間アールヴァクは頭を何かでガァン、と殴られたような衝撃に襲われた。
タイムスリップまでは…ある程度、予想はしていた。
だが、目の前の少女は何と言った?確かに今、この少女はウィルキアを知らないと言ったのだ。
駆逐艦とはいえ、軍艦である彼女が隣国の…ましてや同盟国の名前を知らない筈が無い、いや、知ってなくてはならない筈なのに。
「…はい、ごめんなさい」
「そんな馬鹿なことって…ウィルキアと日本は同盟国ですよ!?」
そして、吹雪が重い口を開く。
「…我が国は現在、英米仏独と同盟しています。ですが、ウィルキアという国は聞いたこともありません」
それはアールヴァクが望んだ言葉とは、正反対の言葉だった。
ーーウィルキアという国は、聞いたことがありません。
「どうして?」
彼女の中で、何かが音を立てて砕けるような気がした。
「…え?」
「私は、あんなに、頑張った…のに……?」
彼女の目から、ぽたりと一雫の涙が零れ落ち…そしてゆっくりと彼女は、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れこんだ。
「アールヴァクさん!?」
「艦長ッ!?」
書き溜めをしていると、後から後から矛盾点やおかしいところが見つかって、その度に何度も何度も書き直していく羽目になります。
歴史の分岐点みたいな物でしょうか。
最初に登場する超兵器はなんでしょう?
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超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
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超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
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超巨大双胴戦艦「播磨」
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超巨大潜水艦「ドレッドノート」
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超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」