誠に申し訳ございませんが、其方をお読みいただいてからお楽しみいただきますよう、お願い申し上げます。
誰かが私の名前を呼んでいる…その声で私は眠りから覚めた。
無数の配管が行き交い、LEDの照明がぶっきらぼうに照らす…無機質な天井だ。
一体どれ程の時間が経ったのだろう。
気がつけば、私は医務室のベッドの上に寝かされていた。
「……吹雪、さん?…私は、一体?」
「…よかった、アールヴァクさん、突然意識を失っちゃったんですよ」
「あれ…私?どうして」
ふと点滴の繋がれた先に目をやると、私の細い腕が、小刻みに震えていた。
「…ねぇ、吹雪さん」
「吹雪…でいいですよ、アールヴァクさん」
「私も、アルヴァでいいよ。ウィルキアは、この世界には存在しないの?」
ベッドの隣で、心配そうにアールヴァクの顔を覗き込んでいた吹雪…その顔が、曇る。
「えっと、アルヴァちゃん。その…ウィルキアっていう国は、どこにあるんですか?」
「ウィルキアは極東ロシア、カムチャツカ半島全域と、その西側海岸沿い…朝鮮半島の付け根辺りまでがその領土」
「カムチャツカ…樺太ですか。日本の、お隣さんなんですね」
「えぇ、そうよ。この世界では、そこには何ていう国があるの?」
「……今アルヴァちゃんが言っていた辺りは、こちらでは全てソ連、ロシアの領土ですので…そこに国は、ありません」
「…あ、はは。嘘だ、私の国が?故郷が、存在してないだなんて、ねぇ?あ、はははは、あはははははは……嘘だぁああああああああああああ!!!」
その瞬間、彼女は頭を抱え、狼狽する。
ギリギリと噛み締めた唇からは血が滲み、絹のような髪は振り乱したせいでボサボサになっていた。
嘘だと言って欲しかった。
…彼女の反応は至極当然のことだろう。
自分の産まれた国が、自分が命を懸けてまで取り戻そうとこれまで戦ってきた故郷が、この世界では初めから存在すらしていないのだから。
「嘘だ、そんなの嘘だ!!!ウィルキアが!?無い!!?そんな、そんなこと!!嫌ぁぁああああああ!!!!」
友軍の艦艇が、まるでプラモデルか何かのように次々と沈み逝く中…そんな最悪の状況の中、単艦で
そんな過酷な戦場の中でも憶えなかった感情。
その時、彼女は産まれて初めて…絶望という感情を憶えたのである。
「…あ、アルヴァちゃん!!落ち着いて、落ち着いてください!!」
何とか錯乱するアールヴァクを宥めようとする吹雪…だが彼女は勘違いをしていた。
彼女はウィルキアを、この世界に存在していた国だと思ってしまったのだ。
彼女達『艦娘』がこの世界で初めて確認されたのは、人類が深海棲艦による攻撃を受け始めてから1年も経った後のこと…それまでにいくつもの国が深海棲艦によって滅ぼされてきた。
よって、彼女達は深海棲艦が現れる前の世界を知らない…勿論彼女らは第二次世界大戦の記憶は持っているが、自分の周りに関わりのあること以外の知識はない。
ーー即ち、吹雪はウィルキアがかつて存在した国で、深海棲艦によって滅ぼされた国だと思い込んでしまった。
「お願い、アールヴァクさん、落ち着いて!!」
一頻り泣き叫んだ後、生気を失ったような目のアールヴァクを、吹雪はそっと抱き寄せ…頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫ですから…ね?ここには敵は居ませんから、一緒に帰りましょう?」
だが、その勘違いも今のアールヴァクにとっては、どうでも良いことだった。
………
……
…
「君がアールヴァクか、報告書は読ませてもらった。私がこの鎮守府を預かっている飯山だ、この鎮守府、及び泊地に所属する全ての者に変わって君を歓迎する」
「…はい、こちらこそよろしくお願い致します」
「君の元居た世界とは、きっと色々と勝手が違うだろうから大変だとは思うが…暫くの間はここを母港だと思って遠慮なく寛いでくれ」
数時間後、アールヴァクは吹雪の率いる第20駆逐艦隊に連れられ、トラック泊地に居た。
そして飯山提督から、この世界にウィルキア王国は存在していないことを聞いた。
それどころか…そもそもこの世界には初めからウィルキア王国は、存在していた事すらなかった。
ついでに話の中で、今の世界が自分が戦っていた時代よりも100年以上も未来の世界だという事も知ったが…そんなことは最早どうでも良かった。
受け入れ難い事実。
だがそれは、アールヴァクにある種の諦めに近い感情を産ませ…それが良いか悪いかは別としてだが…悪く言えば空虚な、良く言えば冷静な思考を与えていた。
「はい、司令官。こちらこそ寛大な処置を頂き誠にありがとうございます」
堅苦しい…良く言えば礼儀正しいアールヴァクの挨拶に苦笑する飯山。
今まで駆逐艦といえば元気一杯な…と、言うよりも子供のような艦娘ばかりだったので、そのギャップに驚いた、と言う方が正しいだろう。
「はは、そう堅くならなくてもいいさ。今の君はゲストだ、まずはそうだな…風呂にでも入って、ゆっくり寛いでくれ。あ、そうだ案内は…おーい吹雪!!」
「はい、お呼びですか司令官」
「話は聞いていただろう、アールヴァクに軽く泊地を案内してやってくれないか」
「はい!任せてください!えっと、じゃあアールヴァクさん、私が案内しますね!」
「…ええ、ありがとう吹雪」
そう呟く彼女の眼は閉じられていたので真意を伺うことはできなかったが…吹雪の眼には、彼女の姿はとても、悲しそうに見えた。
次回からお待ちかねの戦闘シーンになる予定(カッコカリ)です。
かなり重たい話になるので、誰かが、犠牲になります。
最初に登場する超兵器はなんでしょう?
-
超高速巡洋戦艦「ヴィルベルヴィント」
-
超高速巡洋戦艦「シュトゥルムヴィント」
-
超巨大双胴戦艦「播磨」
-
超巨大潜水艦「ドレッドノート」
-
超巨大爆撃機「アルケオプテリクス」