とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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一度主人公は死ぬほどつらい目に遭えば良いのだ(意訳:羨ましい)


追憶の刀3

私が楯無を襲名した日。

その日からは一気に忙しくなった。

当主としては新米もいいところの私の元へ、次々とやってくる厄介な案件。

隠居した父や父の幹部達に助けてもらいながら、私は次々とやってくる仕事をなんとかして解決していく。

あまりにも大変だったから、日本の代表を辞めた。

宝の持ち腐れとなっていた自由国籍権を使い、もっとも束縛の緩いロシア代表になった。それと共に、私の持っていたISの装備はロシアの

густой(グストーイ、グストヴィ:深い)

туман(トゥマーン:霧)

Москва(モスクヴァ、モスクヴェ:モスクワ)

 

になった。

とは言え、このISは正直頑丈だけど使いにくい。

なのでいずれは自分でISを作りあげようと密かに決心していたりする。

 

そんな忙しい中、虚も献身的に私を支えてくれている。

それでも、人間の闇、と言うのか。薄汚い、なんてレベルはとうに過ぎた人間の業に私は向き合わねばならず、簪ちゃんに話かけられても、ともかく黙って守られていて欲しかった。

だから、簪ちゃんが私に話かけてきても私はろくに取り合わなかったし、例え役立たずでもいいから、大人しくしていて欲しかった。

 

そう、この時の私はひどく疲れ、人間というものが嫌になってきていた。

愛する妹に、ひどく冷たい言葉を吐き捨ててしまうほどに。

いや、この時は私の言葉が冷たいと感じる心すら失っていた。

私の言った言葉が冷たいとか、そんなことを感じる暇はなく。私のした行動がひどく簪ちゃんを傷つけるものだとか、そんなことを理解できるほどの余裕はない。

ただひたすらに、淡々と。機械のように、仕事をする。ひたすら任務に集中し、案件を片付けてゆく。

感じる心があれば頭が鈍る。相手を思いやる優しさがあれば足は止まる。

ただ刻々と、真っ暗な暗黒の世界の中を突き進む。

例え人を切り裂いても。例え人の命を奪っても。

なるほど、暗部とはよく言ったものだ。

こんなこと、とてもではないがまともなままでは出来やしない。

心を裂き、感情を殺し。

日の当たる場所にいる人を守るために、日陰から闇の中の怪物や強欲な化け物達と向き合い、互いの腹を探り合い、そして時には牙を剥き。

信じられるのは己と家族。

私が怯めば誰かが傷つき、私が臆せば誰かが倒れた。

 

もうたくさんだ。やっていられない。

何度もそう思った。だけど、戦って、闘って、しかしそれでも全部は守れやしないんだ。

隣にいる虚の暖かさを感じる度に、この暖かさを守るため、私は修羅にもなろうと決めた。

人を殺め、人を葬り、そして人を傷付ける。

大切な人を守るために。

 

 

そんな生活は異常なまでな濃密さをもって私を侵食していたが、父の容態が落ち着き、宣言の通り私のサポートをしてくれるようになってからはいくばくか落ち着いた。

たった一ヶ月のことだったが、まあ随分と長い間戦っていたように思う。

この長かった短い期間で、随分と私も穢れてしまったものだ。

 

その後は学校にも普通に出れるようになったし、これから動きが取りやすいようにと、生徒会長の地位も轡木さんに確約してもらった。有事には、更識家当主更識楯無として動いていいらしい。

正直、来年度からは織斑君が入学するのもあって、非常に助かる。

 

また、1月の終わりあたりからは鹿波さんに助けてもらいながら自分のIS-ミステリアス・レイディ-の制作をした。

私が楯無を襲名してから学校に来なくなり、心配してくれていたことは虚から聞いて知っていた。

なのでそのお礼と、IS制作の手伝いをお願いしに行った。

 

鹿波さんは私を一目見て、一瞬だけ僅かに眉をピクリと上げたあと。

いつもの笑顔でこう言った。

 

「ーーー久しぶり。それと、お疲れ様」

 

ああ、そうだ。

鹿波さんはこういう人だった。

決して根掘り葉掘り聞かず、それでも頑張る人に寄り添って。

その人が立ち上がれるまで、静かに応援してくれるのだ。

 

そうだ。私が守りたいと思っていたのは、こういう人達。

決して更識家の報告に上がったりせず、それでも確かに地に足つけて地道に生きている、そんな人たち。

 

だけど私の凍てついた心は鹿波さんの笑顔にも何も思わず。

私がそれから偽りでない笑顔ができるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。




実はこの時点でまだかっちゃん高校一年生。ハードすぎやね

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