憤怒の形相でこちらを睨み付け、その手の狙撃銃の銃口は正確に俺の心臓に狙いをつけている。
先ほどまで俺の頭を狙っていたが、俺が振り向くと同時、バックステップで距離を取りつつ牽制、といったところか。
正直俺はこのクソ兎を紛れもない天才だと思っているし、実際ISという作品ではこいつは天災なのだが、それゆえにこれだけ静かだと逆に不気味である。
今頃こいつの灰色の頭脳はフル回転しているのか、はたまた全ての準備は終わっているのか。
まあ、それはーーー
「どうでもいい」
「…ほう」
間違いなく、嘘だ。こいつのプライドはきっと、今すぐ俺を殺せと叫んでいるし、ISのブラックボックスが解析された理由を欲している。
何せこちらの能力はアンサートーカー。
知りたくない現実も、直視したくない真実すらも。
問うてしまえば答えが出る。
そして俺は知っている。
こいつが何をしに俺の命を握っているのかを。
一体何をしに来たのかを。
だが、こいつはどうでもいいと言った。確かにそう言ったのだ。
「ならば、問おう。一体お前は、何をしにきた」
タバコを吸って、のんびりしているように待つ。
まるで命など狙われていないかのように。
まるでただの休憩時間であるかのように。
なぜならそれが、一番こいつを効率的に苛立たせることができるから。
本当は俺がどんな綱渡りをしている気分か、などというものは関係ない。
「私は…!」
そう言ったきり、目の前のクソ兎が歯を食い縛ったまま時間が過ぎる。
1分、2分…。
タバコが切れたので、新しいのに火をつける。
シュボッ、といい音がなり、新たなタバコに焔が灯った時になって、ようやく次の言葉に口を開く。
「おまえは、何を考えてる…」
「どういう意味だ」
特に何も考えちゃいないが。ああ、見ているだけでクソムカつくこいつをいかにして煽るか、ということは考えているぞ?
「イラつくよ、おまえ」
「それは重畳。で、意味は」
せやな。俺煽ってるもんな。仕方ないね。
それから奴は、なかなか言葉を発しなかった。まるで、自分でも理解できないことを他人に説明しようとするかのように。
「おまえは…見ていて、理解できない。
ISのブラックボックスが解析されたのは、ISのコアネットワークに新しいコアナンバーが登録された時点で知っていた。
その時点でおまえがISコアの作成方法を発表するような行動を取っていたら、存在ごと消してやるつもりだった。
だけどおまえは、もうほとんどISコアが完成しているのにも関わらず、ちまちまとISコアをいじって遊ぶだけだ」
「私は、おまえが理解出来ない。気持ち悪いよ、おまえ」
ふむ。ああ、なんだ。そうか。
こいつはISを我が子のように思い、これ以上戦争に転用されないためにISコアを作ることをやめた。
しかし、コピー不可能と思うくらい難易度の高い作成を、あっさりクリアしていく人物が現れた。
それが、俺だ。
しかし、あっさりクリアしていく割には、このクソ兎からすれば遊んでいるとしか思えないゆっくりさでISコアをいじっている。
そりゃ、俺に取ってはただの暇潰しだしな。
1日のうち、数時間で進められるプログラムの量なんざたかがしれている。
そして、そんな俺がISコアを作れるようになったらどうするか、それを確かめに来た。
恐らくは、純真な、親心によって。
しかし、俺という存在はこのクソ兎に取って、未知の理解不能な生物だったようで。
それゆえ、こいつはどうすればいいかわからない。
といったところか。
ふむ。
ならば人生の先輩として、こいつに教えてやろう。
「おうクソ兎。お前、まさか神を気取る訳でもあるまい。
そりゃ俺も人間、お前も人間。
人と人とが理解し合えるなんて、数えるくらいしかねえんだよ」
そんな感じのことをつらつらと言ってたら、クソ兎に拉致られたでござる。
クソ兎ィィ!