ラウラ達が敵ISに囲まれたのと同時刻。
「ふん…。脆い!」
「篠ノ之さん、突っ込み過ぎだってば!」
僕は篠ノ之さんと一緒に、敵IS10機を相手にしていた。
散開した後すぐに篠ノ之さんと合流出来たまでは良かった。だけど、篠ノ之さんは敵と見れば突っ込んで行くし、後ろに注意も払わない。もう僕が何度篠ノ之さんの援護に回ったかわからないのに、篠ノ之さんは何度僕が注意を呼び掛けても聞いてはくれなかった。
「ふふ…!こいつら、大したことはないな。行けるぞ!」
「だから後ろ見てってば!もう!」
ずっとこんな感じだ。確かに篠ノ之さんの武装は強力だ。太いレーザーや、斬り払いの時に振るわれるエネルギーの刃は敵機を退けている。でも順調に倒せたのは初めの1機だけで、今は全て避けられている。だと言うのに、篠ノ之さんは相手の反撃を展開装甲がある程度守ってくれるのを良いことに、敵機にどんどん突き進んでいく。必然的に僕もサポートで敵陣に突っ込むことになる。ああもう、また囲まれてる!
「はぁっ!そら、どうした!」
「だから!後ろも!確認してってば!」
篠ノ之さんがどんどん進むのについて行きながら後ろから来ている敵機に対応する。敵には実弾よりもエネルギー攻撃の方が効き目があるのか、僕のアサルトカノンも連装ショットガンも無視して突っ込んでくる。そのくせ、篠ノ之さんのエネルギー攻撃は全部簡単に避けてくる。そしてその様子を見て、再び篠ノ之さんがどんどん突っ込んで行く。その繰り返し。
「くっ…そおっ!」
まだ残りは9機。こいつら、どんどん流れるように連携が上手くなってきてる…!早く倒さないとまずいのに、有効な攻撃の手立てを持っている篠ノ之さんはあの調子。
「篠ノ之さん!遊びじゃないんだよ!」
「遊び?遊びだと!?ちゃんとやっているではないか!」
ああもう!
「君のちゃんとっていうのは、ブンブン振り回して相手に一発も当たらないことを言うのかな!」
くそっ、さっきからちょこまかと動き回るせいでなかなか当たらなくなってきた…!ただでさえ数で負けていて、こっちは僕の武装はほとんど効いてないっていうのに!
「ふん、直ぐに当たるようになる…!見ていろ!」
そう言ってさらに速く、どんどん敵陣に突き進んでいく。危ない!後ろ!
「ええぃ…届いて!」
篠ノ之さんの後ろからミサイルが8発ほど飛んできているのに、篠ノ之さんは気付いてない!お願い…!間に合って!
「ガッ!…シャルロット!貴様、何をする!」
「ふざけないで!」
篠ノ之さんを蹴り飛ばして、なんとかミサイルの回避には間に合った。だけど今度は篠ノ之さんがこっちを向いて止まってしまった。この馬鹿!
目前に迫る5機の敵に、篠ノ之さんは背中を向けたまま。なるべくなら取って起きたかったけど…!仕方ない!
僕は重機関銃のデザート・フォックスで牽制しながら、敵機をギリギリまで引き付ける。
…くっ!
シールドエネルギーが残り300を切ったけど、今しかない!
シールドオープン!そこから出てきたのは、シールドの裏に装備されている69口径のパイルバンカー。通称盾殺し(シールド・ピアース)。
「いっけえぇぇぇ!」
ガオンッ!
一発。物凄い衝撃と、そして爆音。
続いてシールドの向こうで爆発する音。やった!
これで残り8機…!
僕はシールド・ピアースをしまって、連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」とアサルトカノン「ガルム」で牽制。もう武装の隠し弾は無い。まずい…!だいぶ追い詰められてる…。
「おい貴様!どういうつ…ブッ!」
僕の肩をガッと掴んで来た篠ノ之さんの頬を全力でパンッ!と叩く。そしてその背後から来ている敵の弾幕を、篠ノ之さんを乱暴に掴んで下に一気に加速することで回避。
下から見ると良くわかる。さっきまで僕達は周囲360°を囲まれていた。まだ上下に避けられたから良いけど、おそらくそれも学習されてる。そろそろ本当にまずい…!
しかも有効な攻撃手段を持っている篠ノ之さんはこの有り様。くそっ、また弾幕…!くっ、ああっ!被弾した!?
まずいまずいまずい…!シールドエネルギーがもう残り180しかない!さっきから篠ノ之さんを連れたまま縦横無尽に飛び回ってるけど、追尾ミサイルが全弾落とせない…!振り切るのも難しい!ああっ、もう!痛いなぁ!
シールドエネルギー残り10…!これ以上くらうと本当に僕が墜ちる!仕方なく篠ノ之さんを離し、回避と防御に専念する。く…!
飛び交う弾によって、防御パッケージ「ガーデン・カーテン」のシールドもかなり死んでる。あとはボロボロの実体盾が1枚。そして破壊力はある代わりに、至近距離でしか当たらない盾殺し。実体弾ももうほとんど弾数が無い。篠ノ之さんを守るためとは言え、ショットガンもガトリングも、ハンドガンも撃ちすぎた…!
エネルギー弾に隠れた実弾を交わしながら、いくつも飛んで来るミサイルを撃ち落とす。ああもう何発あるのさ!いい加減、残弾無くなってくれないかな!
ちらっと篠ノ之さんを見ると、相変わらずエネルギー刃をブンブン振り回すだけで当たっていない。そしてその背後には重そうな実体剣を構えて、大きく振りかぶった敵機。
「危ない!」
ああ、もうっ!
私は篠ノ之さんの背中に向かって
その瞬間、視界が揺れる。頭に衝撃が走る。あ、まず…!
そして
「あれは…!」
私の視界にオレンジ色の機体が煙を上げて落ちていくのが映る。その瞬間、私は一気に飛び出していた。
下は運動場。この高さから墜ちるのは危ない…!お願い!届いて!
そう思ってぐんぐん落ちるシャルロットさんに向かって全力で飛ぶ。…ダメ、このままじゃ間に合わない…!
お願い弐式!私に力を貸して!
そう強く願った瞬間、一瞬背中のブースターがフッ…と切れる。
ウソ!エネルギー切れ!?
そう思った次の瞬間、私の体は強い加速感の中で押し付けられるような感覚に包まれていた。これは…!
…ありがとう弐式。私はそう思いながらガシッと落ちてきたシャルロットさんを抱き止める。頭から血が出てる…!
良く見ると、全身に爆発の痕と煤が。血も止めどなく流れ出ている。これは…!
『ラウラさん!シャルロットさんが撃墜、重傷です!退避します!』
『…!そうか、なるべく早く戻れよ!』
『はい!』
緊急コールで指揮官のラウラさんに連絡する。待っててください、すぐに戻ります!
「セシリア!鈴のバックアップを頼む!」
「おまかせを!」
時は簪がシャルロットを抱き止めた少し後。セシリアは簪がシャルロットを抱き止めるのを念のためしっかりと確認した後、未だ激しい戦闘が続いているラウラ達のサポートに来ていた。
一夏、鈴、ラウラ達は残り2機となった敵機を果敢に攻め立てているが、異様なまでにしぶとく立ち回る敵機にあと一歩が届かない。
まだ箒の方に敵機が残っている。箒に対しては
そしてこのタイミングで援護に来たセシリア。ここしかない!
「一夏!分断するぞ、出来るな!」
「おう!」
私は一夏と、セシリアは鈴と組ませて2機を分断。そのために、一夏が2機の真ん中に突っ込んで行く。それに合わせて片方の敵をAICで停止させる。くらえ!
「うおぉおぉぉ!」
一夏が私の止めた敵機を両断。その瞬間、鈴がもう1機に斬りかかり、セシリアが背後からライフルで挟み撃ちにしている。しかしライフルでは効果が薄い…!一夏!やれ!
「俺がっ、決める!決めてやる!」
そう言って手の雪片弐型が幾筋もの剣線を残し、敵機を斬る。敵機は最後に小さな爆発を残して地上に墜ちていった。
「よし。私は箒の援護に向かう。戦闘を行えないものは現在をもって退避しろ」
そう言って箒の元へ向かう。…残っているのは6機。しかし、篠ノ之の様子を見る限りでは敵は適度にあしらっているようにしか見えない。…シャルロットが墜とされた恨み、ここで返させて貰おうか!
「篠ノ之!下がれ!」
「何!?」
「聞こえなかったか!下がれと言っている!」
「何故だ!私は戦える!私は戦えている!」
「ふざけるな!」
仲間一人守れずして何が『戦えている』だ!
どうせ先ほどまで私達が戦っていたレベルまで敵機が強化されている。なぜ篠ノ之相手だとこのように手を抜いて相手するのかは分からんがーーー。
「全力を持って叩きつぶす…!!
各員!回避することを最優先に!決して墜ちるなよ!
それと篠ノ之!邪魔する気なら下がれ!」
「了解ですわ」
「おう!」
「ふん!言われなくても!」
「誰が邪魔をしているというのだ!」
ダメだ、今の箒の奴は聞く耳を持っていない。しかし、先ほどのレベルの敵機を6体相手するとなると、こんな危険分子を抱えたままでは…!
そう思っていると、背後から声。
「ラウラさん!簪、戻りました!連絡します!
2分後には救援が来るそうです!」
「よし!聞いたなお前たち!
2分後まで決して墜ちるなよ!」
私がそう言った直後、この場の専用機持ち全員に頼もしい声が聞こえてきた。
『…ザー…ザザッ……ブッ。
…ー、あー、聞こえるか。現在ジャミングが解除された。状況はモニターで確認している。篠ノ之は下がれ。
その他各員はあと2分、何があっても耐えて帰ってこい。いいな』
「「「「「はい!」」」」」
『織斑先生!しかし!』
『篠ノ之!』
箒がビクッ!としているが、今この瞬間にも最後の猛攻と言わんばかりに私達はミサイルやエネルギー弾、実弾の雨に晒されている。くっ、さすがにそろそろシールドエネルギーが…っ!ちぃ、かすったか!残り380…。頼む…もってくれレーゲン!
ワイヤーブレードを牽制に、肩のレールカノンを目眩ましに。そしてその影からプラズマ手刀で斬りかかる。しかしやはりと言うべきか、読んでいたかのようにプラズマ手刀を撃ち落とされる。やはりこいつら、戦闘経験を共有し、学習している!くそっ!
「救援、来ました!」
簪の声が遠くから、銃弾と飛行で入り乱れる戦場に響くように聞こえる。ハイパーセンサーで確認。20機。それが全て援軍として来ていた。その中には山田先生の姿もある。
…ここまでか。
『専用機持ち全員に告ぐ。即刻退避、帰投しろ。
繰り返す。専用機持ちは全員、即刻退避。帰投しろ』
銃弾の飛び交う中を抜け、IS学園の校舎に向かって回避行動を取りながら撤退する。…すまない、シャルロット。5機、残してしまった…。
ああああ…ここから先書きたくないんだよう…。書くけどさ