とあるIS学園の整備員さん   作:逸般ピーポー

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お久しぶりです


デポトワール

冷たく深い、夜の底。

まっとうに生きている表の人間なら、まず近寄らない重く絶望の蔓延するスラム街。

その中でも最奥の、掃き溜めの中の掃き溜めで。

私は生臭いゴミで寒さを凌ぎながら震えていた。

 

気付いた時には親はなく。

物心ついた頃には、このクソのようなスラム街で生き延びるために必死で。

ゴミの中から売れそうなものを、朝早くから探し。

あまりにも飢餓に耐えられなければ、少し離れた街のパン屋から食糧をかっぱらう。

食糧を盗むのはリスクが伴う。しかもその店では食べ物を買うことが出来なくなるから、あまり頻繁には出来ない。盗んだ店になに食わぬ顔で行こうものなら、あっという間に袋叩きにされる。

警察に連れて行かれる方がまだマシなくらいに、身体じゅうを殴られ蹴られ、叩かれた奴がいた。

折れていない骨がないんじゃないかと思うくらいぼこぼこにされ、車道に投げ捨てられていた、名前もしらない同類。

口から血を出しながら、道端でゴミのように死んでいった。

ああなるのは、私はゴメンだ。

 

たしかに意味もなく罵倒され、殴られることもある。蹴られることもある。髪はドロドロでぐちゃぐちゃだし、身体を洗うことなんて出来ないから、常にゴミの臭いがする。まさに生きる生ゴミだ、と言われたことすらある。

しかし生きる生ゴミとは上手いことを言う、なんて思ったものだ。

 

そんなごみ溜めのごときスラム街で、いつものようにゴミに埋もれて寝ていたある日の夜。

その夜はなんだかやけに騒がしくて、あちこちから悲鳴らしき声が聞こえていた。

人が倒れる音。物が壊れる音。誰かの叫び声。

人々が必死で逃げ出す姿を視界の端に捉えながら、何者かが私の方向へ来るということを理解する。

私がいるのはスラム街の最奥のゴミ捨て場。周りには何もないし、逃げようにも袋小路。もし逃げるとしたら、こちらに来ている何者かに向かっていくしかない。

ああ、この音は。これはどこかで火の元があがったな。いや、この感じだとどこもかしこも火事か。

…火事?

ガスも電気もろくに通ってない、このスラム街で?しかもいっせいに多発だと?

 

何が起こっている…。

私は、今もなおこのスラム街を地獄の如き業火で焼き尽くしている何者かが気になった。

そもそも逃げる場所はない。

どうせ逃げようにも逃げられず、仮に逃げたとして居場所もない。そこらで野垂れ死ぬのがオチだろう。

ならばいっそ、どうせ死ぬなら何者かの顔くらい拝んでやろう。

そんなことを思いながら、だんだんと近づいてくる集団に意識を向ける。

 

「ーーー様!無ー、こーらのーーがー了ーーまーた!」

 

「ーーー。他部ーー状況ーー告しー」

 

「現ーほぼーてー場所ーー圧ーーーしてーまー」

 

「ーー。ーー、残ーー全て蹴ーーーにーーぞ」

 

「ーー!」

 

火の燃え盛る音と、あちこちから聞こえる喧騒で聞き取れない。だが、恐らくこのスラム街のほとんどを制圧ないしは支配したのだろう。

何者か、というよりは団体か。

しかし、こんな今の今まで放置されてきたスラム街を、政府が粛清するとも思えない。

やはり気になった。

一体誰が、なんのためにーー?

 

「ーーおい」

 

そう思っていたら声をかけられた。

ああ、誰かに声をかけられるなんて初めてではないだろうか。そんなどうでもいいことが頭をよぎる。なんだ、存外私は余裕だな。

 

声の方を見る。背中に炎を背負っているかのような男は、後ろの炎の明るさによって顔はよく見えない。

しかしブラックスーツに身を包み、妖しく艶めく革靴を履いた服装は、このごみ溜めのようなスラム街にはまるで浮いた存在だった。

 

「…なに」

 

なるほど、どうやらこの男がこいつらのボスらしい。周りにいる部下らしき男たちが、いっせいにこちらに武器を構えているのが見える。

は、何をしている貴様ら。この男の身が大事なら今すぐに私を撃つべきだろう。

…いや、この男が私に声をかけているから手出しするのが無礼になるから撃たないのか。なるほど、どうやらこのオールバックの顔が見えない男と話をしている間は、地獄への直行便は待っていてくれるらしい。

 

「ーー貴様が最後だ」

 

「そう」

 

そうか。他のスラムの住人たちは既にあの猛々しい炎に包まれて逝ったか。まあ、運良く逃げ出せた奴もいるかもしれないが。他のスラムに着くまで、生きていられるかどうか。

 

しかしこのオールバックの男。声からして50代ほどか?少なくとも若くはない。そのくせ、その声には重厚感が漂っている。なるほど、どうやらこの男はただの取り纏め役という訳ではないらしい。幹部か何かだろうか。

 

「ーーー最後に言い残すことはあるか」

 

「ふむ…」

 

ないな。別に。ああ、だが。

 

 

「…冥土の土産に。

貴様らが誰で、何のためにこんな腐ったごみ溜めを掃除したのかだけは、気になるな」

 

もっとも、馬鹿正直に教えてくれるとは思わない。男は顎に手を当てたまま、何かを考えているようだ。

さて、この男の背後の男たちの持つ武器がいつ火を吹くのか。最後まで視線を逸らすことはしない。さあ。いつでも来い。死ぬ準備は出来ている。

 

 

…?

 

 

いつまでたっても撃たれない。おい、焦らすくらいなら早くしろ。そう思っていたが、男の背後から一人の部下らしき男が男に話しかけていた。

…私は肩透かしを食らったような、そんな気持ちで待ちぼうけな訳だが。

おい、お前の後ろの部下がチラチラお前を見ているぞ。早くしろ。

 

そう思って待っていると、男は何事か部下たちに告げ。部下たちは一斉に後ろを向いて去っていった。いや、さっき報告に来たらしき男だけ背後に立っている。そして私に銃口を迷いなく向けている。

 

 

「ーーー私達が何者か、だったか。良いだろう。教えやる。

私達は亡国機業。悪をはたらく、テロリストだよ」

 

知らない名前だな。まあ、私が知っている名前なぞ無いに等しいが。

亡国機業とやらが何のためにここを火祭りに挙げたのかは分からなかったが、まあ十分だ。私を地獄へ送る相手の名が分かったのだから。

さあ、さよならだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、私達の存在を知ったんだ。貴様はここで消えねば(・・・・)ならん」

 

「!?」

 

そして私は黒いゴミ袋に突っ込れた。




ちなみに謎の男はサカキさんをイメージしてます。亡国機業のボス。ニドキングは持ってません。


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