整備工場の敷地で警備をしていた3人を
流れるように殺したアルファゼロの6人は、
そのまま整備工場の側面に回り込むと、
土台を作って2人を屋根の上に登らせる。
地上に残った4人は
2人ずつに別れて表口と裏口に取り付く。
『こちらアルファゼロ。
ブラボーワン、
砂嵐に合わせて突入する。あとは任せろ。』
「了解。」
直後、砂嵐が訪れ、
視界を真っ暗にした。
サーマルビューに
切り替わったマルチサイトに
映るアルファゼロの隊員が
動き出した。
屋根の上の2人が天窓と換気口から
フラッシュバンを投げ込む。
整備工場の窓に激しい閃光が煌めき、
表口と裏口が開け放たれた。
4人は躊躇いもせず突入していった。
『…オー…クリ……』
砂嵐で無線にノイズが混じるが、
報告は聞き取れた。
突入してからここまでで
たったの数十秒。
あとは後続の部隊を待って帰るだけだ。
俺はエリックに見張りを任せて
荷物の片付けを始めるが、
微かな靴音を聞き取った。
下の階からで、
明らかにここの住人じゃない。
俺は階段から少し顔を出し、
サーマルビューで下の階の様子を見る。
見えたのはアサルトライフルを持った4人組で、
さっきまで俺とエリックが
居た部屋のドアをぶち破ると、
文字通りズカズカと乗り込んで行く。
俺はバックパックのポケットから
プリペイド携帯を取り出すと、
唯一登録されていた電話番号にコールする。
もちろん電話をとる人間など居らず、
直後に部屋の中の爆弾が爆発した。
周囲の窓ガラスが粉々に砕け散り、
爆破した部屋から
片腕の無い血塗れの男が出てくる。
「うっわぁ…
あんなグロいの久し振りに見たぜ…」
いつの間にか隣に来たエリックがそう呟くが、
俺に言わせれば『どの口が…』という感じだ。
「ま、地球でも見たけど」
「…だろうな。」
「あの男はどうすんだ?」
エリックはまだ生きている片腕の男を
顎でさすと首を傾ける。
俺はAK74を男に向けると、
ホロサイトの照準を男の頭に合わせた。
「殺すのか?」
「アイツの体、火傷がひど過ぎる。
どうせ助からない。」
サプレッサー付きのAK74が
パシュッと音を立てて
1発の5.45×39mm弾を撃ち出す。
男の頭が一瞬仰け反ったと思うと、
男はスイッチを切られたかのように崩れ落ちた。
アパートを出た俺たちが整備工場に向かって
アルファゼロと合流する頃には砂嵐も通り過ぎ、
あたりには薬莢やら死体やらが
砂まみれになって転がっている。
「終わったか?」
「ああ、だがあと1つ…」
アルファゼロの隊長はそう言うと腰に手を伸ばす。
俺とエリックは咄嗟に銃を隊長に向けるが、
俺たちを扇状に取り囲むように
立っていたアルファゼロの隊員が
それよりも早くライフルを構えた。
「どういうつもりだ。」
「…自分の目で確かめるといい。」
俺の問いにそう答えた隊長は、
顔を覆っていたマスクを外した。
「ーーッ!貴様ッ!」
マスクが隠していたその顔は日本人だった。
見覚えは無いが、身に覚えならある。
「逃げられるとでも思ったのか?
タカシ・シェオル。」
「俺を殺してどうする。
俺はもうエリア01には近づかないぞ。」
俺の話を聞いているのかいないのか、
アルファゼロの隊員たちは俺とエリックの
武器を奪うとマガジンを外して分解し、
完全に無力化する。
「おい、そいつは結構高かったんだぜ。
汚れたらおたくらが洗ってくれる…うぐッ!?」
懲りもせず軽口を叩くエリックの腹に
隊員の1人がライフルのストックで打撃を与える。
「だが貴官の罪が消えたわけでは無いだろう?
貴官には2件のテロ容疑がかけられている。
意味はわかるな?」
隊長に向けられたP220…9mm拳銃の銃口が
俺の額をまっすぐ俺を向く。
「…だが我々の任務は貴官の抹殺では無い。
貴官らと会ったのも偶然だ。今回は見逃そう。」
「それはありがたいな…。」
「だが任務を邪魔されても困る。」
そう言うと隊長の9mm拳銃は腹を抑えて
うずくまっているエリックに向けられた。
「やめろッ!!」
パンッ…
「それでは我々はここで帰らせてもらう。」
アルファゼロは整備工場の
中に有ったバンに乗り込むと
砂埃を巻き上げて立ち去った。
残された俺は撃たれてから
動かないエリックに駆け寄った。
防弾ベストを外し、
シャツを捲り上げたところでおかしなことに
気がついた。
血が出ていない。
それどころかアザも無く、
汗しかかいていない。
俺は外した防弾ベストをもう一度見ると、
外側には弾頭がグシャリと潰れた9mm弾が
めり込んでいた。
「なーんてな。」
エリックはおどけた様子で起き上がると、
俺から防弾ベストを取って
撃たれた背中の部分を見る。
「どれどれ…
わーお、すっげーなぁ…!
やっぱ俺もベスト買おっかな。」
「エリック…お前ってやつは…」
<火星圏におけるマフィアの活動>
火星圏のマフィアは地球圏と違って
諜報機関の下請け組織的要素が非常に濃い。
例えば中国の傭兵会社であるレッドスターズは
チャイニーズマフィアと協力関係にあると
言われているし、
ロシアンマフィアはロシア連邦保安庁、
FSBの非公式任務をこなすために
元スペツナズが数名、
幹部職に付いているという情報がある。