アーガスの酒場を出た俺は、
LSVに飛び乗るとエンジンをかけ、
赤茶色の砂を巻き上げながら道路に飛び出した。
トラックや装甲車の間をぬって
自宅にたどり着くと、
LSVをガレージに入れて部屋に入る。
電気は付けずにマルチサイトを使って
部屋に入った俺は
書斎の本棚から何冊か本を引っ張り出すと、
本を開く。
くり抜かれた本の中から
100マーズドルの束と
各エリアに入国できる偽造IDを
取り出して新しいバックパックに詰め込む。
着替えやレーションは峡谷から逃げる時に
捨ててきてしまったので予備を引っ張り出した。
ウォークインクローゼットで
汗と砂にまみれたシャツやズボンを着替え、
今や時代遅れとなってしまった
タクティカルベストに身を包み、
ポーチに入るだけAKのマガジンを押し込む。
バックパックの空きスペースには
エリア01での所持が禁止されている
手榴弾をねじ込むが、
見つかった時のことを考えて
バックパックから取り出し、
やはり置いていくことにした。
俺の嫌な予感が的中した時の備えを
済ますと俺は冷蔵庫から昨日の夕飯の
人工肉のステーキを取り出すと
窓際にもたれかかり、
端末でナタリーとの待ち合わせ場所までの
道を確認しながら食事する。
食事を終え、
40年前に生産されたらしいG-SHOCKを見ると
デジタル画面は22:00を指している。
30分ほど仮眠を取るために
タイマーをセットしようと端末を取り出した時、
玄関のドアがノックされた。
「エリア01防衛軍憲兵隊のものだ。
タカシ・シェオル、
貴様に総督府から出頭命令が出ている。
ここを開けろ。」
俺はデスクの上にある警報システムを
玄関の外のカメラに接続し、来客を確認した。
防衛軍特有のピンクの迷彩服に
MPと書かれた腕章を付けた2人組だが、
手に持っているのは令状では無く
サプレッサー付きのMPXだった。
「はっ、逮捕しに来たか?」
「抵抗すれば逮捕する。」
いかにも演技じみたやりとりをするのが
アホらしくなり、
俺は備え付けの電話を自分の端末にかけ、
スピーカーモードに切り替えると
ガレージへ向かう。
『早く開けろ。』
「こっちは便所の内線で話してんだ。
パトカーをクソまみれにしたくなかったら
あと5分待て。」
俺は書斎を出てリビングを通り抜けると
ガレージに入る前に
マルチサイトで中を確認した。
ガレージの中には反応が2つある。
俺がバックパックを下ろし、
腰のホルスターから
HK45を取り出した時だった。
玄関のドアが突破され、
侵入者を告げる警報装置が正常に
作動を始めた。
間を空けずガレージに通じるドアからも
憲兵が突入してくるが、
俺は父さんに教わったジュウドウで
1人目を壁に叩きつけ、
後ろから来た2人目は咄嗟の思いつきで
ドアに挟んで無力化すると、
ガレージに入った。
LSVに飛び乗り、エンジンをかけると
道路を封鎖していた憲兵の制止を無視して
突破する。
道路を走る車の間を
LSVの機動力にものを言わせてすり抜け
憲兵隊との距離を離すが、
信じられないことに憲兵隊の軽装甲機動車は
邪魔になる車に追突して強行突破して来た。
俺は大通りで巻くことを諦め、
路地に入る。
軽装甲機動車では通れない道を何度も曲がり、
ナタリーとの待ち合わせ場所とは
全く違うナイトクラブの裏口に停めた。
荷物を下ろしていると、
用心棒らしきチンピラに声をかけられた。
「おいアンタ、ここは駐車禁止だ。
ボスの許可証とかコネがあるってんなら
別だけど....」
「わるい、ちょっと急いでるんだ。
これはお前にやるよ。」
俺は用心棒の話を遮ると、
LSVの鍵を用心棒に投げて渡す。
用心棒は取り損ねそうになりながらも
なんとか受け取り、笑みを浮かべた。
「マジで?アンタメッチャいいヤツじゃん。」
「でもボスに叱られるんだろ?
早く別の場所に移した方がいい。」
「そ、そうだよな。
わかった、ありがとう!」
囮を確保することに成功した俺は
バックパックとAKを持ってさらに
路地の奥を目指した。
尾行が無いと確信した俺は再び大通りに戻り、
私営の乗合バスに飛び乗った。
まあ、大型の輸送トラックの荷台に
パイプ椅子を溶接しただけだが、
この際はどうでもいい。
ナタリーとの待ち合わせ場所の数ブロック前で
俺は他の乗客や乗務員に
口止め料をばら撒いて降りた。
再び腕時計を確認する。
約束の00:30まで残り1時間。
俺は早めに待ち合わせ場所の
カフェがある宇宙港へ向かった。
宇宙港に入ると待ち合わせ場所のカフェが
よく見えるホテルに入った。
窓から双眼鏡でカフェの周囲に
憲兵が居ないかを数十分かけて探すが、
どうやら心配はなかったらしい。
制服、私服を問わず、憲兵らしい人物は
見当たらなかった。
続いてカフェに目を向けた時、
俺は驚いた。
なぜならすでにナタリーが居たからだ。
金髪のポニーテールに
サングラスという容姿は
そのまま服装だけが私服だ。
彼女は店の外の椅子に腰掛けて
今時珍しく新聞を読んでいる。
「なんて女だ....。堂々としすぎだろ。」
腕時計に目をやると、00:15。
俺はホテルのロビーでドアマンに
バックパックとタクティカルベストを預けると、
ロビーから動かさないようチップをつけて頼み、
ホテルを後にした。
次回
6「プロジェクト2056」