しょうもないカルデアの藤丸立香と愉快なサーヴァント達 作:ちきちき
お月見団子とオリオン(偽)を巡る一連の騒動も終わり、カルデアに一時の平穏が訪れた。
人類最後のマスター藤丸立香(♂)も落ち着いていた。
マシュ「お疲れ様です。先輩」
藤丸「ああ。マシュもお疲れ様」
何故か藤丸を後輩と呼ぶマシュが藤丸の隣に座る。
マシュ「レア団子集めは大変でしたけど一段落つきましたね」
藤丸「これからは心臓集めだ」
マシュ「ええ。蛮神の心臓を必要とするサーヴァントの方は多いです。頑張りましょう」
いつの間にかデーモンから心臓を抉り取るだけのお月見イベントと化していた。
もはや一般人から逸脱してしまっている自分に気づいて藤丸は苦笑する。
マシュ「先輩。一つお願いしてもいいですか」
藤丸「なんだいマシュ」
マシュ「手を握ってもいいですか?その……オリオンさん、じゃなかった。アルテミスさんが先輩の手を握ってると、ああなんかいいなぁって思ったんです」
藤丸「それでマシュが喜ぶなら」
マシュ「はい。先輩」
マシュは藤丸の手を握る。
藤丸の暖かな心臓の鼓動が伝わってきて、どこかマシュも暖かな気持ちになる。
マシュ「前にも先輩が手を握ってくれたことがありましたよね」
藤丸「あの時は……他に出来る手もなかった。なんにもなかったからな」
マシュ「それでも私は先輩に助けられたと思ってます」
レフ教授の裏切りによってカルデアが爆破された時、あの始まりの日に瓦礫に押しつぶされて死にゆく定めにあったマシュの手を藤丸は握り続けていた。
マシュの中に眠る謎の盾のサーヴァントによる助力、カルデアスの作動がなければ藤丸もマシュもこうして生きてはいまい。
マシュは手を震わせながら藤丸に問う。
マシュ「あの……その、先輩」
藤丸「なんだいマシュ」
マシュ「あの時、先輩のお姉さんより私を優先して……本当に良かったんですか?」
マシュに姉の事を聞かれて藤丸は黙り込む。
どう反応すればマシュを傷つけないか考えているかのようである。
その静寂を破ったのは。
清姫「ま・す・た・ぁ」
藤丸「うわぁ!」
バーサーカーであった。
マシュ「おはようございます、清姫さん。今日もストーキングが冴えわたっていますね」
清姫「あらマシュさん。表情を変えずにそう言えるだけの神経は凄いとは思いますが、それよりマスターにお姉様が居るというのは本当なのでして?」
藤丸「ああ。カルデアに就職に来て、そして殺された」
マシュ「違います先輩。所長のおかげでかろうじて死んではいません」
藤丸「そうだったな」
清姫「聞かせてもらいますか?その日の事」
そして藤丸はあの日の事を思いだし、清姫に語る。
藤丸「あの日、駅前でカルデアのマスター募集広告を見た俺と姉ちゃんは」
清姫「駅前でチラシとか所長とやらは正気だったのでして?」
マシュ「それだけ切羽詰まってたんですよ。所長もその場の判断能力はやる人でしたから」
藤丸「普通の人間だった俺たちがまさかこんなことになるなんてな……」
清姫「今少し気になる発言を聞きましたが、続けてくださいまし」
藤丸「ああ」
シミュレーションでの訓練後に具合が悪くなった藤丸は姉と分かれてマシュ・キリエライトと出会ったこと。
それからレフ教授の人類への造反もあって藤丸の姉や所長も含めたマスター候補生や多くのカルデア職員が死亡あるいは冷凍睡眠に処されたこと。
清姫「マスター以外のその47名の冷凍睡眠された方々の中にお姉さまがいらっしゃるのですね」
マシュ「死んではいません。命は預かりきれないといって所長が即座に冷凍処分しましたから、人理が治って魔術協会と連絡が取れれば復活するかもしれません」
藤丸「所長はいい人だったよ……」
マシュ「……悪党ではないです。はい」
レフ教授の造反で47名のマスター候補生が冷凍睡眠になり、所長と多くの職員が死んだ。
そして藤丸立香が人類最後のマスターになった。
ここまではいい。
清姫「お姉様が危篤だったのにマスターはマシュさんを探していたと?」
藤丸「ああ」
清姫「お姉様とは不仲だったのですか?」
藤丸「そんなわけはない……と思う。むしろ姉ちゃんは俺の為にいつも戦ってたような人だよ」
清姫「素敵な方だったのですね。でも、マスターはそれでその日出会ったばかりのマシュさんに付き添って最期を共にする気満々でしたと?」
藤丸「それが正しいと思ったからやった」
清姫「わたくし。嘘を吐かれるのも嘘を吐くのも嫌いですからはっきり言いますが……マスターがその時マシュさんによっぽど一目惚れしたとかじゃなきゃ人間として異常ですよ。でもそんなますたぁが好き」
たぶん最後の告白が、清姫にとっての本音なのだろう。
しかし清姫ははっきりと藤丸立香の在り方は「異常」だと言った。
マシュ「清姫さん。先輩は人間として正しいと思っています」
清姫「みんな自分が正しいと思ってますよ。そのレフ教授とやらも、私に嘘吐いて逃げた旧安珍様も、大体みんなそういうものです」
マシュ「厳しいことを言いますね」
清姫「でも私、マスターLOVE勢ですよ?人間として正しかろうが異常であろうが好ましい殿方である事が大事ですから」
マシュ「なるほど。先輩が異常だからこそ好きだと」
清姫「ええ。わたくしの変化姿を見て、あのような賞賛をなさる方だから愛しているのです」
他の誰にとって正しくなかろうがそんなものは関係ない。
藤丸があの時死にゆく定めにあったマシュの手を握れるような人間であったこと。
その話を聞いて藤丸立香という人間に好意を抱くのもまた一つの正しさなのだ。
藤丸「結局俺は助かって姉ちゃんは酷い事になったけど、もしかしたら俺の代わりに姉ちゃんが人類最後のマスターになってたかもしれない……」
マシュ「私は先輩が私のマスターで良かったと思ってます」
藤丸「……ありがとうな」
マシュ「でも私。先輩のお姉さんに会ってみたいです」
全幅の信頼を置く「先輩」の姉と会ってみたい。
マシュのその想いもまた本物なのであろう。
藤丸「ああ。そのためには未来を取り戻さないとな」
マシュ「はいっ!」
フォウ「フォーウ!」
未来に何があるのか彼らにはまだわからない。
しかし生き別れた姉と再会したいという願いもまた戦う動機になるのだろう。