マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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その21 第七特異点 Q

 

 

 

 あたたかい おだやか しずか

 ねむる たゆたう まどろむ

 

 あぁ ここは いい

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 巨大な女神の襲撃に、カルデア一行はほぼ動揺しなかった。

 何、予想外の相手など、それこそ腐る程相手をしてきたのだ。

 今更巨大な怪物を相手にしても、動揺せずに対処は出来る。

 ただ、問題は一人の欠員を出してしまった事だった。

 それによりマシュが動揺するも、契約からまだ無事な事は判明していたため、何とか持ち直す。

 立香の判断により、即座に槍のクー・フーリンが援護に向かったが、殿を受けていたサドゥと牛若は重傷であり、サドゥに至ってはエルキドゥもといキングゥに捕獲されていた。

 対神性属性を持つキングゥ相手では分が悪く、クー・フーリンは牛若の離脱を支援しながら、その場で打ち取られた。

 女神の方はと言うと、ブーディカの戦車に乗る立香を狙って放たれた魔眼や光線をマシュの宝具で反射され激怒、北壁を射程に収めた状態で放たれた宝具により、北壁の一部が融解、兵とカルデア一行を庇ったレオニダス王が石化して撃破された。

 しかし、北壁に近づき過ぎた復讐の女神、複合神性ゴルゴーンは北壁にもしもの時のために配置されていたカルデア最高戦力の一角の射程に入る事となった。

 施しの英雄カルナ、授かりの英雄アルジュナ、そして理想王ラーマ。

 インド大英雄三人による、国殺しの奥義たるブラフマーストラ、カルナは槍無しだったとは言え、全力の一撃を三人で同時に放つ。

 端的に言って過剰火力であり、北壁に集っていた魔獣達の半数以上が余波だけで消し飛んだ。

※ガチ最高火力メンバーだと、これに槍の騎士王二人&エミヤ&ギルガメッシュ(弓)となる。

 その成立の由来から、神と魔、双方の性質を持つゴルゴーンにとって、三英雄の奥義は致命的にまで有効だった。

 それこそ、切り札である聖杯を使わざるを得ない程に。

 結果として、急激な魔力消費に耐え切れなかった立香がダウンした事、キングゥの介入、更にゴルゴーンが重傷により撤退を選択した事で、ニップル市解放作戦は失敗の形で終わった。

 

 それからの行動は迅速だった。

 ギルガメッシュ王との協議の結果、戦力の再編及び他の女神との交渉を図った。

 期間は10日、ゴルゴーンが再び侵攻してくるとギルガメッシュ王とマーリンの千里眼で予知された日までとされた。

 先ずは居所がはっきりしている密林の女神へ…と思ったら、女神ケツァル=コアトル本人がウルク市へやってきたので戦闘&交渉開始、立香が彼女の楽しみを正面から否定したのがツボったのか、余計に好感度を上げる事となった。

今度こそはと密林への道中でまたもイシュタルが襲撃をかけてきたので、本気モードとなった立香の下、対神性としてスカサハとカルナ、対空戦闘で活躍可能なエミヤとアルジュナ、アーラシュにより、呆気なく落としつつも、一先ず同行者とする事に成功した後、ケツァル=コアトルは撤退したものの、その日の内に密林に出発、例の如くジャガーマンに絡まれつつも、ケツァル=コアトルの本拠地たる太陽神殿を強襲、迎撃に出た女神とジャガーマン、眷属の翼竜に苦戦しつつも、立香は何とアステカ系の神殿の頂上部分…どころか、イシュタルの協力により上空からケツァル=コアトルへと射出、辛うじて女神自身の技量と善性によって救われ、結果的に説得に成功、加えてマルドゥークの斧を入手した。

 次に、エビフ山に陣取るイシュタルとの交渉を図った。

 道中、茨木童子とその手下の盗賊団と遭遇し、撃破後にマーリンにウルクへと転移で送ってもらいつつ、頂上で悪趣味な神殿に座すイシュタルと交渉開始。

 硬軟混ぜ合わせた上で、ウルクに貯蔵された宝石類を報酬に協力を要請、結果として総取りを目論むイシュタルを以前の様に撃破してウルクの宝石類の2割を条件で交渉成功、更にはエビフ山本人の横槍も撃破しつつ、一応これでミッションは完遂となった。

 

 だが、ウルクに帰還早々、ギルガメッシュ王の過労死を知り、盛大に焦る事となる。

 

 神代なら肉体が無事なら蘇生可能と言う事で、カルデア一行は今度は冥界へと出発する。

 イシュタルに地下への大穴を開けてもらい、出発した一行は冥界の門を潜り、冥界の女王にして、三女神同盟の最後の1柱たるエレシュキガルと交戦する。

 敗北後、殺せと言うエレシュキガルだが、以前出会ったジウスドゥラにより説教&惨殺、女神同盟の契約そのものを殺され、カルデア一行の仲間となり、更にギルガメッシュ王及び市民の多くの蘇生にも成功した。

 

 そして九日目、ゴルゴーン襲来の予測日より前に、ウルクとカルデア一行は攻勢に転じた。

 

 ウルク目掛けて侵攻する魔獣達は牛若と弁慶らに率いられたウルク軍が抑え、キングゥはケツァル=コアトルが抑え、更にマルドゥークの斧の投擲によってゴルゴーンの鮮血神殿に大打撃を与え、神殿内で新型の魔獣の生産に勤しんでいたゴルゴーンとカルデア一行は相対した。

 結果を言えば、ゴルゴーンは不死身ではなかった。

 集結する魔獣達を火力に優れるエミヤや壁役のジークフリートとヘラクレスに任せつつ、不死・神殺しを得意とするスカサハとクー・フーリン、カルナがゴルゴーンを担当する。

 止め役として式(暗)を配置し、直死の一撃を見舞うものの、人間への呪詛を吐きながら尚も生き足掻くゴルゴーンを、アナが崩落する鮮血神殿と共に相打った。

 その後、戦闘していたキングゥを新型の魔獣ラフムが襲い、コアとなっていた聖杯を抉り出し高速で離脱、それをペルシア湾へと投下する。

 

 そして、ゴルゴーンの死を契機に、リンクしていた原初の女神ティアマトが復活してしまった。

 

 ペルシア湾をケイオスタイドで黒く染め上げ、そこに浮かぶ頭脳体を撃破するものの、今度は山程もある巨大な真体を現わし、同時に無数のラフムを生み出し続け、ウルクどころか全方位の人間へと攻撃を開始した。

 これにより、最も生き残っていたウルクですら生存者は1000人を下回った。

 三日、ペルシア湾からティアマト神が到達するまでの猶予、それまでに対策を練り、実行する必要があった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 あたたかな うみ

 しずかな こべや

 おだやかな ひかり

 

 “おきて。”

 

 なんで なんで なんで

 

 “おきて。おいで”

 

 ねむり たゆたい まどろむ

 

 “わたしの こども”

 

 わたしは

 

 “うまれておいで”

 

 

 

 嫌だ。

 

 意識が覚醒する。

 五体を意識しようとして、出来なかった。

 今の自分は脳だけのドロドロとしたもので、最早デミサーヴァントでも、況してや人間ですらない。

 ただ思考すらせず、眠り続ける肉塊。

 だが、暖かな母の声がそれを妨げた。

その自分を、生かそうとする者がいる。

 その自分を、世に生み出そうとする者がいる。

 

 ふざけるな。

 

 嫌悪、憎悪、憤怒。

 私/俺は、生きたくなんてない。

 そも、生まれる事すらしたくはなかった。

 生存は苦痛と同義であり、己と言う無知で無恥で無能を世に生み出すべきではない。

 なのに、なのに、なのに

 

 “うまれておいで”

 

 拒否、否定、拒絶。

 この私/俺を包む暖かな存在に嫌悪し、憎悪し、憤怒する。

 

 “うまれておいで”

 

 だが、母胎は正常な機能と本能として私/俺を生み出そうとする。

 ならば答えは決まっている。

 最初から答えは決まっている。

 殺す、消す、滅ぼす。

 生まれて初めて、サドゥ・キリエライトと呼ばれた存在は明確な人格を持つであろう自分以外の存在に対し、総身を満たす程の殺意を覚えた。

 

 “そうだ。それで良い。”

 

 先程の、母とは異なる声が響く。

 

 “理由はともあれ、お前はその感情を抱く必要があった。内側に向いた悪意を外側にして、そうして初めてオレ達は完成する。オレは望まれた悪として、お前は望んだ悪として。”

 

 五月蠅い、囀るな、御託は良い。

 この母胎を引き裂く、この母を殺す、この肉を塵殺する。

 私/俺に何かを求めるなら力をよこせ。

 

 “あぁ、無論そのつもりだ。”

 

 瞬間、私達は自己を認識した。

 自分がどうやって生まれたか、どう育ち、何と戦い、今どうしているのか、次に何をするのか。

 その起承転結の全てが一気に記憶に蘇る。

 ここは百獣母胎にして原初の母たるティアマトの胎。

 本来ならケイオスタイドに汚染され、とっくに魔獣へと変換されている筈の場所。

 

 “そら無論、泥は本分だからな。お互いに中和してんのさ。”

 

 そして全てが此処に結実する。

 サドゥ・キリエライトを作成する上での元となった設計図。

 即ちアインツベルン製小聖杯内蔵型ホムンクルス。

 あり得ない可能性が満ちる特異点での旅路。

 歴史の闇に消える筈だった呪詛。

 虚数の海たるケイオスタイドからの浸食。

 そして何より、母への殺意と言う禁忌たる悪意。

 欠けた歯車が奇跡的に噛み合い、天文学的な偶然と意思の果てに稼働する。

 

 “おうおう。んじゃそろそろ起きるか。殺意の貯蔵は十分か?”

 

 実行する。

 本来愛する筈の、自身を生み出す筈の母胎の殺害を実行する。

 嘗て子に殺され、遺骸を引き裂かれた母を、生まれぬ内から殺してやろう。

 この世全ての悪として、この世全ての母を殺そう。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 太陽神の光と、二つの防壁を超えた先で

 

 『■■■――ッ!?』

 

 ティアマト神の旋律の様な咆哮が止まり、苦痛による絶叫へと変化した。

 身を捩り、下腹に手を当てる様は、まるで陣痛に苦しむ母の様だ。

 しかし、実体は異なる。

 

 『■■■■■■■■■■■■―――ッッ!?!』

 

 手を当てていた下腹部。

 それが内側から複数の巨大な刃で貫かれ、次いで強引に左右に切開された。

 

 「な…。」

 

 余りの悍ましさにウルクで防戦していた者達が絶句し、殺戮を楽しんでいたラフム達すら動揺する。

 

 「――――――。」

 

 その引き裂かれた穴から、這い出てきた者が一人いた。

 カルデアでの記録では、サドゥ・キリエライトと呼ばれる少女。

 

 「――こ――」

 

 だが、その容姿は余りに違っていた。

 肩まであった髪は足元を超え、引き摺る程に長くなっている。

 その手に握られた双剣は、より長く、鋭く、禍々しい。

 

 「――ろ――」

 

 そして全身を覆っていた動く入れ墨。

 それら全てが青白く発光し、羊水の様に薄く黒い泥を被った肢体を染め上げている。

 

 「――す――」

 

 何より、外界へと決して悪意を向けなかった彼女が、今見せる凶悪な笑みと殺意は如何なるものか。

 

 「殺す。」

 

 直後、彼女の後へと続く様に、ティアマトの胎の穴から、無数の黒い獣が湧き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




宝具:無限の残骸(アンリミテッド・レイズ・デッド)
 
 本来なら、繰り返しの四日間の中で、四日目の夜を経過・それまでにアヴェンジャー、バゼットのいずれかが死亡した場合に現れる知性を持たない怪物。
 アヴェンジャーの変異体であり、彼を妨害し、彼の根底的な望みである「繰り返される四日間」を延々と続けさせようとする。
 しかし、サドゥ・キリエライトと言う正常に機能しないながらも小聖杯としての機能を持つ少女を依り代に、あり得ない可能性が満ちる特異点を旅し、歴史の闇に消える呪詛を小聖杯の中に納め、虚数の海たるケイオスタイドへと浸食され、サドゥ・キリエライトがティアマト殺害の手段として望んだが故に発現した。
 アンリ・マユの対ビースト優勢により、ティアマトとその子供達に対しても高い威力を誇る。
 なお、矛先が人類に向いた場合、人類から悪性が、又は本体たるサドゥとアンリ・マユが消えない限り、文字通り無尽蔵の獣(対人類特攻持ち)が溢れ出し、人類絶滅を目指して行動する。
 但し、個体としての性能は英霊として見れば低く、人間以外の英霊や死徒等には弱い。





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