久々過ぎて書き方忘れたが、これで大丈夫だろうか(汗
今年中の投稿はこれで完全に終わりの予定です。
皆さんは良いお年を!
自分はサービス業(年中無休)なので、年末年始はデスマーチです!(白目
二体の獣が倒れた後、皇帝は粛々と職務に励み、都の復興を開始した。
何せ悲しみに沈んでいられる程、皇帝と言う役職は暇ではない。
負傷した兵士に民草も多く、燃えてしまった民家の代わりも必要だし、何より死体や飛び散った血や肉片の掃除等をしなければ、伝染病の発生すら在り得る。
術者達は既に無事であった者達から獣の死骸の浄化を試みているが、死してなお一向に治まりそうにないと言う。
そんな前途多難な状態から、復興は始まった。
だが、優秀な官僚制機構に精鋭ではなくとも未だ数多い兵士達、何より誰よりも精力的に働く皇帝によって、取り敢えず喫緊に必要な対応は直ちに行われていった。
それから一月程経ち、一段落したと判断すると、次に妃を始めとした犠牲者らの葬儀を行った。
妻を目の前で亡くした皇帝が妃だけでなく民草や兵士に呪術師、刀匠達の分も合葬して執り行う事を決め、盛大ではないものの、心を込めて行われた。
だが、皇帝自身は見るも無残に痩せ細っていき、半年経つ頃には衰弱し、正妃の生んだ長子を跡継ぎに指定した後に退位し、白と言う娘と共に辺境の領地へと移った。
こうして、国を襲った大災害は一先ずの終息を迎えた。
少なくとも、表向きは。
話が変わったのは、元皇帝が領地へ移り、半年程で病没した後の事だった。
即位した新皇帝は疲弊した国土の復興へと着手していたのだが、民草や宮中の中で不穏な動きを察知していた。
「白姫の処刑だと…?」
「は。恐れながら、化け物の娘は化け物に違いないと口さがない者達が出てきております。」
そう、あの獣が来襲した時、側妃たるサドゥが獣に姿を変えてこれと戦い、道連れにする形で事は終わった。
「だが、今白姫はあの獣の死骸を巫女頭として祀り鎮めている。彼女を欠けば、獣が祟るやもしれん。」
「それが、どうやらその者達は白姫様は「獣の死骸を使って国を呪っているに違いない」と…。」
「鎮めよ。今は復興の最中。手段は問わぬ。」
「は!」
だが、この時には既に手遅れだった。
サドゥが宮中にいた頃、人々の過剰な負の想念を食らい、それを自身と白に分けて与えていたが、今はどちらもいない。
更に言えば、復興途中とは言え先の襲撃と都の荒廃による人心の乱れは立ち直りかけている国では御せるものではなかった。
その不満を下手に抑えつけてしまえば、その矛先が国に向けられ、反乱を招きかねない。
ならば、特に国に必要でもない者を生贄にし、ガス抜きさせよう。
新皇帝や閣僚らがそう判断するのに、そう時間はかからなかった。
……………
新皇帝が辺境の白姫の領地へと兵を向けた事は直ぐに内外に知られた。
しかし、この時白姫は未だ10になるかならないかと言う年頃。
そして、こう言う時に彼女を守れる両親は既になく、宮中の多くが彼女の排斥に内心はどうあれ賛同してしまった現在、彼女を守る者はいなかった。
それを幼くも聡い彼女は正確に理解すると、使用人や従者らの全てを自身の邸宅より逃がし、一人で自らを殺すために編成された軍の到着を待った。
待ちながら、日課となっていた獣の残骸に鎮めのための祈りを捧げ続けた。
母親より授かった、人の負の想念を集め、己の力とする異能。
それにより、白は獣の残骸よりそこに込められた憤怒や憎悪、悲嘆を吸い取っていった。
それは嘗てシャガクシャと言われた英雄の軌跡を知る事でもある。
孤独に生まれ、何時しか愛を知り、家族に囲まれ、しかし共に死ぬ事が許されずに、最後には獣となって狂ってしまった男の人生。
何時しかその悲しさから膝を抱えて涙を流していた白は、ふと呟いた。
「そっか。人間て、こんなに悲しいものなんだ。」
その解釈は、愛する両親を失い、完全に一人となってしまった彼女の胸にストンと落ちた。
「あんなに綺麗に見えたのに……こんなに……。」
きっとあの母と共に見た輝きは、この悲しさによって流された涙なのだと。
あれ程綺麗だったのに、今はその輝きすら色褪せて感じる。
「そっか……なら……。」
「私がその悲しみ、終わらせても良いよね?」
白の口元は、僅かに弧を描いていた。
……………
カン カン カン カン カン
暗い室内で、焼けた鉄を打つ甲高い音が響いている。
砂鉄を熱し、鉄を取り出すための炉からは火が絶えて久しい。
では、この室内に籠る熱気を生み出しているのは、一体何なのか?
カン カン カン カン カン
槌を振るい、焼けた鉄を打つ男の目からは、血の涙が絶えず流れていた。
その手は男が鍛えている槍の穂先と繋がっており、肉が金属へと変質していた。
そして、時折男が吐き出す炎によって、鉄は焼かれていた。
男は、嘗て国一番である刀匠だった。
国外の優れた刀匠に弟子入りし、その技を修め、国へと帰り、その技を以て父と共に神剣を鍛えた。
だが、その神剣は都にやってきた獣に砕かれ、獣ともう一体の獣の戦いによって、父母は死んでしまった。
獣達は相打ちとなり、都には一先ずの平和が訪れたが、それで死者が生き返る訳もない。
残った男と妹、そして弟分である少年と共に生き延び、失意にくれていた。
その時、男が以前漏らしてしまった魔剣を打つ秘技を聞いていた妹が、それを実行してしまった。
秘技、それは人を生贄にして鉄を作り、その鉄を材料にすれば望み通りのものを作れると言うもの。
妹はそれを聞き、父母の敵討ちをしようと、また自分達の様な犠牲者を出さぬため、次なる獣へ備えるため、兄に己の全てを託したのだ。
「良い剣を、作ってくださいましね。」
笑顔と共に炉へと落ちていく妹を、男と少年は止める事は出来なかった。
そして、残された男はその身を捧げた妹の願いを叶えるべく、剣を鍛え始めた。
だが、男の絶望と憎悪と憤怒は余りにも深く、やがて彼自身を人の身から外れさせてしまった。
男は何時しか己自身も獣と同じく人外へと成りながら、それでもなお、獣を殺せる魔剣を鍛え続けた。
その悍ましくも悲しい様をただ一人、異なる時代からの稀人たる少年はじっと見つめ続けていた。
……………
「こんにちは。遠路はるばるご苦労様です。」
それを見た時、コレは何だと、その少女を見た事のある討伐軍の将は思った。
将の知る白姫は聡明ながらも年相応の幼さとあどけなさを持った、将来が実に楽しみな少女だった。
例え王位を継ぐ事など無くても、その未来は明るいだろうと思える様な、そんな可愛らしい少女だった。
だが、今の彼女は違う。
1000の完全武装の兵士を前にして、一切の怯えも恐れも見せず、ただニコニコと、これからとても楽しい事が起きるのを確信している様に笑っているのだ。
「白姫、どうかご同行を。御身には呪術により都を呪った嫌疑がかけられています。」
そうは言うものの、将はこの時点で白姫の捕獲を諦めていた。
都まで連れ帰り、民衆の前で処刑する計画を取りやめ、この場で殺す事を決めた。
それは未だ妖魔の多い時代を生きる将であるが故の判断だった。
何としてもコイツを殺さねば、後々の禍根となると、そう判断したのだ。
「あら?その割には今にも私を殺そうとしているのですね?」
「ッ!?」
何時の間にか、瞬きすらしていないはずなのに、白姫は将の目の前にいた。
そして大きく見開かれた瞳で、将を見上げていた。
「あら、どうしたんです?少し驚かせてしまいましたか?」
「えぇい化け物が!!」
これは最早自分の手に負えぬ。
そう判断した将は、しかし歴戦の軍人として腰に差した剣を引き抜き、斬りかかった。
「ふふ、ふふふふふ!」
だが、先程の焼き直しの様に、白姫は何時の間にか邸宅の屋根の上から将達を笑いながら見下ろしていた。
「ねぇねぇ皆さま!私、気付いたの!」
くるくると、繰る繰ると、狂狂と、まるで操り人形の様に、独楽の様に、回りながら白姫は笑っていた。
その姿には、最早狂気しか感じられなかった。
「私を生贄にしてまで、人々の不満を晴らして何になるのかしら!生きてる限り、不満なんて幾らでも溜まっていくのに!」
「弓兵隊構えぇ!」
化け物の戯言など聞く耳持たんと、将が旗下の兵達へと声をかける。
だがしかし、それは余りにも遅すぎた。
否、例え万の精鋭達が一心不乱に駆け抜けた所で、既にもう手遅れだった。
新たな獣は既に生まれて落ちているのだから。
「じゃぁその不満も、怒りも、悲しみも、全部私が終わらせる!お母様が負の念を集めた様に、負の念をその人達ごと食べていけば、もう誰も悲しまないわよね!」
「気狂いが…!」
放たれる矢は、しかし一発も当たらない。
手傷を与えるどころか、碌に掠りすらしない。
寧ろ白姫の姿をしたナニカより湧き出る悪寒は既に将をして心胆寒からしめる代物だった。
「では見て下さいね、私の新しい姿を! お母様にそっくりな獣の姿を!」
その声に、今度こそ将の背は総毛立った。
これはいてはいけないモノなのだと、この場で彼だけが悟っていた。
「殺せ!何としてもあの化け物を殺せ!」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
そして、将達の奮闘空しく、ソレが降り立ってしまった。
莫大な瘴気と狂気と妖気を放ちながら、この世界で最初の、本当の人類悪が。
六の尾、金の毛、白い顔を併せ持った獣は、まるで産声の様に天高く咆哮した。
おぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!
これは人より生まれ出でた獣と獣、そして獣を討つために生まれた槍の物語である。