マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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久々の更新ですが、今回は説明会。


リクエスト番外編 ×うしおととら 古代日本編

 白姫改め、金毛九尾白面の者は中国を荒らし尽くした。

 毒を、火を吐き出し、小山程の巨体で縦横無尽に駆け抜け、時に人に化けて人心を乱す。

 ありとあらゆる手を以て、白面の者は人の世を荒廃させた。

 その期間こそ数年程度のものだったが、当時の中国にある多くの国家の人口が半減したと言えば、どれ程甚大な被害があったのか想像がつくだろうか。

 無論、誰もがそれを止めようとした。

 中華の神々、妖怪、神仙、術者達。

 しかし、それらは須らく皆殺しにされた。

 白面の者にとり、己に負の感情を、憎悪や恐怖を抱く者は敵にならない。

 ただ糧になるだけであり、無残に屍を築くだけだった。

 最早、中華全体から知的生命体の全てが駆逐されるまで、時間の問題だった。

 だが、そんな時だった。

 無銘の槍、後に「獣の槍」と言われる魔槍が現れたのは。

 

 

 ……………

 

 

 「きゃははははははははははははははは!!」

 

 雲を引き裂き、我が物顔で高空を飛びながら、白面の者は嘲笑していた。

 

 「脆い脆い脆い脆い!この程度だったのかよ人間とは!」

 

 魔に堕ち切った彼女にとり、最早最初に目指した思い等は無い。

 ただ人を、魔を、神を殺す事を快楽と感じ、彼らが放つ恐怖や憎悪、悲嘆を糧とする。

 そして得た糧により更なる力を得て、更なる殺戮に興じる。

 それが白面の者にとって、当たり前の事だった。

 

 「ぬ?」

 

 だが、不意にその顔が怪訝そうに歪む。

 

 「何だ…誰かが追ってくる……?」

 

 この鳥よりも遥かに高い空において、己を追ってくる者がいる。

 となれば、十中八九神仙か妖魔の類だろう。

 だが、その数がおかしい。 

 

 「馬鹿め、単騎で何が出来るものか。」

 

 7本まで増えていた尾、その一つを一時的に分離して差し向ける。

 7分の1とは言え、獣の端末。

 その力は大都市を滅ぼしてなお余りあるソレを差し向けた。

 これで済むだろうと、この時の白面の者は考えていた。

 

 (何…?)

 

 差し向けていた尾の反応が消えた。

 そして、後ろから己を追う者の気配が近づいてくる。

 

 (これは、本気で対処せねばならんか?)

 

 少なくとも、確認する必要があった。

 己を追う者が何者なのか?

 場合によって、策を講じる必要があると。

 この時の白面の者は、未だにそんな甘い考えを抱いていた。

 だが、

 

 「な…!?」

 

 追いついてきたのは、一本の槍だった。

 特にこれと言った装飾もない、担い手すらいない一本の槍。

 だが、それに込められたこれ以上無い程の破邪の力は、白面の者をして心胆寒からしめた。

 

 

 おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああッ!!??!!

 

 

 接敵と同時、己の身体を瞬きの間に幾度も切り裂かれ、白面の者は獣となって初めての命の危機を前にして、恐怖の悲鳴を上げた。

 その後、白面の者は無様にも遁走した。

 残った6本の内の5本、その中から2本の尾を囮にし、残り3本を鉛へと変化させて獣の槍を包み込み、諸共に海へと落ちたのだ。

 これにより、本体に残った尾は1本だけとなったが、それをするだけの価値はあった。

 そうでなければ死んでいたか、確実に数百年単位で癒す必要がある程の重傷を負っていた事だろう。

 

 (いかん。アレのいない所へいかねば…。)

 

 相手が生き物ならまだやりようはある。

 しかし、相手は無機物の、しかも破邪の槍である。

 魔性であり、人の天敵である白面の者にとって、あの槍は極めて厄介な相手だった。

 少なくとも、この消耗した状態で出会えば今度は確実に滅ぼされる。

 

 (仕方あるまい。この地を去るとしよう。丁度人が減り過ぎて旨味が減っていたからな。)

 

 そうして、白面の者は美女へと化けると中華の大地から高麗の地へと渡り、そこから船で日ノ本を目指すのだった。

 

 

 ……………

 

 

 対する獣の槍はと言うと、白面の尾によって身動きできなかった所をなんと中華の妖怪達によって封印されてしまった。

 これは白面の者に出会うまで獣の槍が目につく人外全てを駆逐していたからで、妖怪達は自らの生存のために一致団結、自分達を赤い糸へと変じさせ、それを織って作った血色の織布によってその力を抑え込んでしまったのだ。

 だが、それを止めた者がいた。

 そう、シャガクシャである。

 本来、彼は獣となり果て、最早人としての心は死んだ筈だった。

 しかし、彼は白姫の祈りによって己の中の獣性の全てを、降り積もった憎悪も憤怒も悲嘆も抜かれ、正気に戻っていたのだ。

 無論、その不死性は些かの衰えもなく、何れはまた獣に戻ってしまうだろう。 

 だが、これは獣の槍にとって千載一遇のチャンスだった。

 シャガクシャは槍を封印から解き放ち、獣である白面の者を探して、また旅を始めた。

 何れ槍によってまた獣へとなるとしても、彼は決して旅を止める事は無く。

 遂には獣の槍を白面の行ったであろう日ノ本へと投げ放ってみせた。

 しかし、彼はそこまでが限界だった。

 獣の槍の浸食と彼自身の獣性により、今度こそシャガクシャと言う人間は消えた。

 そして現れたのは寅の身体に獅子の如き鬣、炎の吐息と雷を操る新たな獣。

 後にとらとも、長飛丸とも呼ばれる大妖の姿だった。

 

 その様子を、時の稀人たる少年はじっと見つめていた。

 

 

 ……………

 

妖怪達

 さて、日ノ本へと渡った白面はと言うと、獣の槍と言う重圧から解放された故に暴れに暴れ回っていた。

 宮廷の陰陽師も、神々も、妖怪達も何とかしようとしたのだが、白面の者は周到だった。

 最初に宮廷へと潜り込み、貴族達の政治を混乱させた。

 次に寺社勢力の腐敗を助長して破戒させ、力ある法力僧の数を減らした。

 更に都を守る地脈を利用した結界を荒らし、己の邪魔を出来るものがもうないと確信して、漸くその姿を現したのだ。

 辛うじて機能していた陰陽寮は初動こそ素早かったものの、彼らだけで白面に敵う訳もなく、あっさりと壊滅した。

 そして、白面の者は日本中を荒らし回った。

 人も、妖怪も、神々も関係ない。

 只管に殺し、燃やし、毒を撒く。

 そして生まれた恐怖を、怒りを、悲しみを食らう。

 それが更に白面の者の力を増し、更なる悲劇の原動力となる。

 永遠に終わる事の無い惨劇に、漸く陰陽寮と妖怪、残っていたまともな法力僧らが一致団結した。

 だが、散々に食い散らかした白面の者は9本の尾を持ち、以前よりも力を増していた。

 戦いは50年も続く凄惨なものとなった。

 人も妖怪も関係なく、大勢の者が死んでいった。

 だが、その犠牲の甲斐あってか、彼らは白面の者を追い詰める事に成功した。

 しかし、白面の者は動じなかった。

 嘗て遭遇したあの槍に比べ、この連中は大したことは無い。

 そして、日ノ本も嘗ての中華同様に獲物が減り過ぎて旨味が無くなっていた。

 となれば、次の土地へ行くべきとも思うが……今現在、あの忌々しい槍が自分を追ってきている事を感知していた。

 故に、白面の者は追い詰められた事を契機に、日ノ本の海底深くに存在する要の岩へと撤退した。

 更に、その要の岩に白面の者は己の身体を埋め込んだのだ。

 これでは迂闊に攻撃する事が出来ない。

 妖怪と神と人は話し合い、白面の者を結界を以て封じ込める選択を取った。

 そして、結界を張る女陰陽師はその御役目のために、自ら要の岩の前で結界を張り続ける事となった。

 

 だが、その努力を、その献身を、白面の者は嘲笑と共に眺めていた。

 

 傷が癒え、消耗が回復し、尾が生え揃った後、白面の者は結界の隙間から尾で作成した婢妖の群れを解き放ち、人心を乱し始めたのだ。

 自身に向けられるものではない故、効率は悪いものの、それは確かに白面の者にとって餌だった。

 人も、妖怪も、神々すらも、白面にとっては餌に過ぎない。

 そう言葉なく告げる獣に、しかし人々は何とか対策を試みた。

 しかし、圧倒的とも言える婢妖の数に成す術無く、乱世は長く長く続く事となった。

 

 

 ……………

 

 

 そして、月日は流れる。

 とらと呼ばれる獣が日ノ本へと渡り、人と触れ合い。

 獣の槍の何代目かの主である青年によって封じられ。

 そして、500年もの間、槍に縫い付けられていた。

 その間、世は幾度も巡り、何十億何百億と言う人とあやかしの命が消え、彼らの抱いた悲嘆や憎悪、恐怖が白面の者の餌となっていた。

 

 だが、二度の世界大戦が終わり、日本に太平の世が訪れた頃。

 とある少年が、槍によって縫い付けられた獣と出会う。

 それが彼らの物語の、終わりの始まりだった。

 

 

 

 

 

 




次回と次々回で決戦。
漸くリクエスト消化できるなぁ…(遠い目)
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