獅子は今日も。 作:KARASAWAん
??side
「ここなら誰も来ないわよね……」
辺りを確認しながら森の奥の方まで入り込む。そこまで来る理由はたったひとつ、歌の練習をするため。
それだけなら森の奥まで来る必要はないって? いやよ、人目のつくところで努力なんて。
……まぁ、練習っていっても確認みたいなもの。向こう(テラ・ルビリ・アウロラ)に居たときは「歌が上手」とは誉められてはいたけど、それは向こうでの話。
自信がない訳じゃない、けど、本当に今の自分の歌がこの青の世界で通用するかははっきりしてない。
「~♪」
うん、喉の調子は大丈夫。あとは…
ガサッ
「───────────っ、誰!?」
辺りの草が揺れ擦れる音に気づき、音の方を向くと、仮面をした女子が6人ぐらい、気がつけば私の周りを囲っていた。
「(もしかして、こいつらが最近噂になっているファントム……!?)」
慌てて逃げようとしたけど、出来ない。まるで、体に重りがのし掛かっているような感覚。そういえば、ファントムと出会ったプログレスはほとんどが意識不明の重体になっているって……
「………ぃゃ…………っ、助けて!」
こんな森の中じゃあ誰もいないってわかっている。でも、声を出さずにはいられなかった。
side out
「よし、ここまでくりゃぁ追っ手も来ないはずだ。」
ここまでは少し計算のずれもあったが、誤差の範囲。青蘭島の脱出もまだ微レ存、いけるな。────いけるよな?
少し不安になり、手に持っていた荷物から1つの武器(というよりは装具)を取り出す。
金属製の手甲………俺が得意としている戦い方において一番必要なもの。
────いや、嘘だ。本当は銃とか剣とか、もっと大雑把に言えばあまり武器を使うのが嫌いだから手甲なんてものを選んでいるのだ。
そんなことはどうでもいい。最悪追っ手が来たのならボコって逃げればそれで……
「…………~♪……」
歌? まさか、こんなところに人なんているのか? 少し気になった俺は歌の聞こえる方へと足を進めようとする。
「それにしても、少し気になるな……どうにもトントン拍子で進みすぎてると言うか。」
「助けて!」
……あー、めんどくさそう。しかも今女の声だった。最悪だわ、いや別にわかってたよ? 青蘭島なんだから男がいるわけ無いって。いやでも、あー、あー………
女子を助けるなんてことは意味のないことだし、利益ないし、時間と体力の無駄だし。
でも、助けに行かなかったから後からグチグチ言われんのもヤなんだよなぁ………
と、どうにか自分を動かす言い訳をつけて歩き出した。
ヘルプの声を探していると、どうやら現場らしい場所についた。が、慌てて近くの草むらに隠れた。
「どういうことだよ! ……おかしい、確かに俺は助けてと言う声を聞いた。」
しかし、目の前にいたのは複数の不気味な仮面をつけた女数人だった。その辺りを見ても、あからさまに総リンチされてますぅみたいな人もいない。つまりこれは───────
「罠、か。」
まず歌で注意を引き、助けの声を出してからおびき寄せたところを複数でとらえる。大勢でかかれば成功率も上がるし、女性だから変な抵抗もしないと言う判断。
確かに素晴らしい……が、
俺のことを少し見誤ったな。俺は真の男女平等主義者だということを!
幸いにもこっちに気づいていない、つまり、今ここで襲撃して殲滅してしまえば、バレずにここを逃げ出し、この島から脱出する計画が進む。
そうと決まれば行動は早かった。荷物を置き、ちょうど全員の視線がこちらを向いてないほんのコンマ一秒を狙う。瞬、近くの木を蹴って宙に浮き、一人の仮面の女の後頭部めがけてドロップキック。
───運悪く俺のターゲットとなっていた女は振り撒いてしまい顔面(と言っても仮面付きだが)にキックを受けてしまう。が、こちらとしては嬉しい誤算だから問題なし。
もちろん全員が俺の存在に気づく。しかし、俺はまだ空中にいる。もちろん能力とかそんなんじゃない。単に顔面蹴られた女を足場にしてさらに浮いただけ。
「死にさらせ雌狗がぁ!」
重力よろしく、近くの女に踵落とし。両腕を交わしてガードの体制をとっているが関係ない。予定通り腕ごと踵を振り抜きその女を地面にめり込ませる。そして、すぐさま手刀。
俺は着地した瞬間に残りの人数を見る。1、2……4人か。すると、うちの二人が急に俺を無視して草むらの方に……って!
俺は残りを無視して草むらに向かった二人を捕まえる。
「そっちにはいかせねぇよ!」
無理やり捕まえた腕を引っ張って、その二人をぶつけ合わせる。怯んだ隙は逃さない、すかさず一人の肩を支えにして自分の体を上にあげ、捕らえた二人、同時に顔面キックを浴びせる。
「あぶねぇ……こいつら、俺のバッグを奪えばどうにかなると思ってやがったな!? 事実だから怖いけど。」
とはいえまだ戦闘中、体を残りの二人に向けようとするが、足が動かない。ふと足を見ると、数本の蔦が地面から不自然に生え、俺を絡めとっていた。
このときまで俺は見くびっていた。ここが青蘭島であり、プログレスが強いということを。
体を捻って後ろを見ると、最初にダウンさせたはずの二人はすでに起き上がり、じわじわと俺との距離を詰めている。
そして、その手にはどこから生まれたか鉄パイプが握られ───────
「ぐぶぅぁっ……」
横腹に一撃が入る。しかし、吹っ飛ばずに地面に倒れ混む。いまだに足元の蔦が存在しているのを見ると、まだ攻撃は続くようで追い討ちの殴りが俺を襲う。
さすがに十発を越えて俺を封じていた蔦は外されたが、それでも受けたダメージは大きくここから逃げることすら出来ない。
「(くそっ、バッグの中にモデルガンを魔改造して人体に影響を与える粉を撒く兵器ならあるのにっ………!)」
仮面の女たちは再び俺へと近づいてくる。
その光景は、かつての俺が見た景色を想起させ………
嫌だ、俺はまた失うのか?
────何もできないまま、成されるがままに
また奪われるのか?
────抗うこともできず、ただ理不尽に
また、あの頃に戻ってしましまうのか?
────自由に生きる毎日を消された日々に
「嫌だ、………それだけは。」
何のために、今まで鍛えてきたのかわかんねえじゃねえかよ………!
雫side
水無月君が船を飛び出してどこかへ行ってしまって数分後、僕らとあまり歳が変わらない女の子が二人やって来た。
「日向さん、それに………千尋ちゃん?」
「「お疲れさまです、安堂先生。」」
「うん、日向さんは確かに頼んだからわかるのだけれど、千尋ちゃんは何でここにいるのかしら?」
「はい、お兄ちゃんがこの島に来るって聞いたので、私が来ないとお兄ちゃん絶対に逃げ出そうとしちゃうから………」
お兄ちゃん、今確かにこっちの紺髪ショートの子はそう言った。ちらっと緑川君を見るが、様子からして緑川君の妹じゃない。ということは、必然的に………
「その、水無月君ならもう逃げ出しちゃったの。」
やっぱり、としか言いようがない。この子は水無月君の妹だ。
「あぁっ………あのダメ兄はっ、先生! 海岸の監視を強めておいた方がいいです。あの兄なら絶対に、どんな手段を使ってでも逃げ出しますから!」
「ねぇ君、君のお兄さんの事なんだけど、別に逃がしてもいいんじゃないの? あいつもαドライバーになるつもりなんて無いって言ってたしさ。やる気のない人間が来るとこじゃないだろ?」
僕も気になっていたけど聞けなかったことを緑川君があっさり聞く。
────と、突然その女の子は目付きを鋭くして掴みかかる勢いで話始めた。
「なんですかあなたは? もしかしてお兄ちゃんを侮辱してるんですか? ……確かにお兄ちゃんはここに来るべき人じゃないです。でも、ずっとあのままでいるわけにはいかないんです!」
「ちょっ、千尋ちゃん!? 落ち着いて、ね? え、えーっと、日向 美海です、私が青蘭島の案内をするから、よろしくね!」
僕はそれ以降の言葉は聞こえなかった。
来るべき人じゃない、そして、あのままではいけない? ……もしかして、水無月君は僕が考えている以上に過去に何かあったの?
いやぁ、主人公に何があったんですかねぇ(白目)