クインヴェールトレーニングルームにて……
「さてアッヘンヴァル、俺達も始めるぞ」
「う、うん」
その隅にて俺と俺の担当の教え子アッヘンヴァルが座る。俺達は前半は座学なので端っこでやらないといけない。何故なら……
「うわわっ!本当に玄空流の技が効きにくいよっ!」
「ちょ、ちょっと比企谷さん!ペイント弾多すぎませんの?!」
「確かに多いわね……」
ステージの中央には若宮、フェアクロフ先輩、フロックハートが影兵と訓練しているからだ。現在若宮は影兵と格闘戦をしていて防戦ぎみで、フェアクロフ先輩とフロックハートはアサルトライフルの形をしたペイント銃により銃撃を回避している。
尚、フェアクロフ先輩とフロックハートの服には既にペイント弾が付いている。そして2人の後ろの壁にはもっと付いている。
後それ作ったのは材木座ですから俺に文句を言わないでください。にしても材木座の奴……1秒間に20発の弾を撃てる銃はやり過ぎだ。最初なんだし1秒間に6発から10発ぐらいしか撃てない銃にしろ。
とりあえず材木座に銃の性能を落とすようにメールをしながら空間ウィンドウを3つ開きアッヘンヴァルにも見えるようにする。
そこには……
「ガラードワースの『光翼の魔女』?それに星導館の『華焔の魔女』に界龍の『雷戟千花』?」
そこにはガラードワース序列2位のブランシャールに星導館の序列5位のリースフェルト、界龍の序列4位のセシリー・ウォンが映っているて、光の翼、炎の戦輪、雷の雨を派手にぶっ放している。
「そうだ。そして今回の獅鷲星武祭で出てくるだろう遊撃手の中で最強クラスの3人だ」
ブランシャールは絶対に出てくるのは言うに及ばず、リースフェルトもグランドスラムが目標である以上出てくるだろう。セシリー・ウォンは確実とは言えないが同じ界龍の『天苛武葬』趙虎峰と共に獅鷲星武祭に鞍替えしたと噂されている。今シーズンの鳳凰星武祭に出なかった事から多分今回の獅鷲星武祭に出てくるだろう。
「お前は単純な遊撃手としての実力はこの3人より遥かに下だ。だが、例の合成技についてはこいつら3人に優っていると思う」
何せ俺の陰の鞭を大量に破壊したんだ。単純な破壊力については一流だ。
「だからお前には今から優秀な遊撃手の戦い方を見ろ。とりあえずこの3人が遊撃手として動いてる動画は用意したから『この技が良い』と思ったのを教えろ」
先ずは優秀な人間の技を見る事からだ。そこから予想外の選択肢を生み出す事もあり得るからな。
「あ……じゃ、じゃあこんなのを出来るようになりたい……!」
アッヘンヴァルが指差た空間ウィンドウを見ると前シーズンの獅鷲星武祭決勝戦の試合で、ブランシャールが開始直後に光の翼をチーム・トリスタンに放っていた。そしてそれをトリスタンの連中が凌いでいる間にフェアクロフさんが斬り込んでいた。
「なるほどな。確かに開幕直後に先制パンチを放って主導権を握るのは重要だ」
実際俺も序列戦では先制パンチで主導権を握ろうとする戦法を重視してるし。
「となるとやっぱり広範囲に攻撃する技が良いな。と、その前に聞きたいんだがいいか?」
「な、何?」
「お前この前のチーム・メルヴェイユとの試合の時、あの水女の校章が破壊した合成技だが、アレはどの組み合わせを合成したんだ?」
チーム・メルヴェイユとの試合でアッヘンヴァルは最後に光の剣を放って純星煌式武装の一撃を真正面から打ち破った。とりあえず俺としては組み合わせを知って合成技の特徴を調べないといけない。
「え、ええっと……ダイヤの8、ダイヤの9、ダイヤの10とスペードの11にハートのクイーンだよ」
確かダイヤが防御能力で、スペードが近接攻撃、ハートが遠距離攻撃だったよな……
そうなると3つのダイヤが大砲でスペードが砲弾、ハートが燃料と言った所だな。
「わかった。ちなみに合成技を使う際にダイヤを複数使ったって事は、他のスート、それこそクローバー、スペード、ハートも複数使うってのも可能なのか?」
「た、多分出来るけど……沢山使えば使う程、技を作るのに時間がかかる……」
だろうな。あんな複雑な能力なんだ。これ以上組み合わせると更に時間がかかるのは当然だろう。
しかし俺は特に悲観していない。それならそれで対策を考えてある。
「問題ない。時間がかかる合成技でも使いようがあるからな」
「……え?」
獅鷲星武祭で開幕直後の牽制目的の先制パンチは割とポピュラーな戦術だ。だが生憎と俺は普通の感性を持っていない上、チーム赫夜も普通とは言い難いチームだ。
だから俺は……
「アッヘンヴァル、お前は開幕直後に先制パンチを覚える際、牽制目的の技だけでなく速攻でケリをつける技を身に付けろ」
普通は使わない戦術を教え込む事にした。
「ふぇ?」
その時のアッヘンヴァルは何がなんだかと言った表情をしていた。
それから2時間後……
「あ、オーフェリアさん!ごめんね遅くなっちゃった」
「……集合時間前だから気にしなくていいわ」
「ありがとうね。それにしても変装している時のオーフェリアさんの髪も似合うね」
「まあ昔はこの髪の色だったからでしょうね」
「そうなんだ。それはそれで似合うと思うよ?それじゃあ行こっか。はい許可証」
「……ありがとう。それじゃあ案内よろしく」
「さて、そろそろ模擬戦をするが……その前に」
俺は指をパチンと鳴らし影兵や影の鳥や影の服を自分の影に戻す。
「今から10分作戦会議をしてから模擬戦な。アッヘンヴァルもあいつらの所に行け」
「あ、うん。でも私、まださっきイメージした合成技を上手く使える自信がない……」
「そりゃそうだ。イメージトレーニングはさせたがお前の能力の都合上、実際に試してないからな」
実際アッヘンヴァルは新しく3つの合成技を身につけたが実際に試してはいない。やった訓練は前半1時間はイメトレ、後半は基本的な立ち回り方を教えながら軽い組手をしただけで能力は使っていない。
まあそれについては仕方ないだろう。何せアッヘンヴァルの能力は一度使ったスートと組み合わせは1日に1回しか使えないから今回はぶっつけ本番になる。
だが俺は1日に1回しか使えないことを欠点とは思っていない。序列戦ならともかく星武祭は1日に1回しか試合がないからだ。つまりアッヘンヴァルの能力は毎回支障ない状態で試合に望める事になる。
「まあ能力者に1番必要なのはイメージだ。しっかりとイメージが固まっているなら実際の技もそこまで失敗しないだろう。自信を持て」
いくら強い能力者、それこそ俺やシルヴィでも基本的にどの技を放つ際にイメージを固めている。しっかりイメージをしているかしてないかで勝敗が変わる事もあり得る。
「う、うん!それと……負けないから……!」
そう言ってアッヘンヴァルはトテトテと他の4人の所に向かって行った。まさか最後に宣戦布告されるとは予想外だったが……
「まだ負けねえよ」
後1ヶ月くらいしたら負けると思うが今はまだ負けないだろう。てか11月になるまでに俺に勝ってくれないとルサールカに勝つのは厳しいだろう。
そう思いながら俺はマッ缶を飲みながら5人が作戦会議をしているのを遠目に見ていた。
しかしそれも長くは続かず、5分ぐらいして5人が俺の元にやって来る。
「作戦会議は終わったのか?」
俺が尋ねると戦闘の若宮が頷く。
「うん!リーダーは前回と同じでクロエだから」
「了解した。んじゃ開始地点に行け」
そう言いながら俺もトレーニングルームの中央に向かう。前方には5人も並んで、若宮とフェアクロフ先輩が最前列で、アッヘンヴァルと蓮城寺とフロックハートは後衛だ。前回と違ってアッヘンヴァルは後衛のようだが果たしてどう攻めてくるやら……
そう思いながら俺も戦闘態勢をとり腰から黒夜叉とレッドバレットを抜いて起動する。
暫くの間沈黙が続く中、
『模擬戦開始!』
試合開始の合図がトレーニングルームに響き渡る。
それと同時にアッヘンヴァルの周囲に万応素が噴き出す。どうやら教えた通り開幕直後の先制パンチをするつもりのようだ。
まあだからといって撃たせるつもりはないが。
そう思いながら俺も自身の周囲に万応素を出しながら能力を解放しようとした時だった。
「させませんよ」
穏やかな声が聞こえたかと思うと同時に最後方にいる蓮城寺の手元に光の矢が4本、同時に浮き上がる。初っ端から大盤振る舞いだな。訓練している時は4羽の鳥を同時に撃ち落としていたから油断は出来ない。
そして4条の光が異なった軌跡を描いて俺に向かってくる。まるで俺を取り囲むように。
もちろんわざわざ食らうわけにはいかないのでバックステップで回避する。すると間髪入れずにさっきまで俺がいた場所に4本の光の矢が突き刺さる。相変わらずの精密射撃だな。
感心していると光を感じたので反射的に黒夜叉を振るう。すると黒夜叉は光の弾丸を真っ二つにしていた。赫夜の方を見るとフロックハートが前回のように俺の顔面に銃口を向けていた。
(しかしこれは囮……いや、時間稼ぎだな)
こんな小細工をする理由なんてただ1つ、アッヘンヴァルの能力発動を邪魔させない為の足止めだろう。
そして俺の予想通り、アッヘンヴァルの能力が発動する。
いきなり上空に3つの光の大砲が現れる。そして大砲の先端から光り輝くハートの弾丸が現れてーー
「女王の覇砲豪雨!」
アッヘンヴァルがそう叫ぶと同時に砲弾が射出されて、それと同時に砲弾が小さく分裂して雨のように俺に降り注ぐ。
俺が教えた合成弾の1つでコンセプトは『試合開始直後、バラけていない敵を一網打尽にする』技だが……ぶっつけ本番で成功するとは予想外だ。
こいつを防げる技は余りないだろう。
「まあ俺には関係ないか……影王の守護盾」
俺がそう呟いて手をかざすと巨大な黒い盾が現れて光の光弾を防ぐ。激しい音が鳴り響く中、赫夜のメンバーを見ると若宮とフェアクロフ先輩はいつでも突撃出来る態勢を取っていて、アッヘンヴァルは周囲に万応素を出していて、蓮城寺とフロックハートは自身の煌式武装に星辰力を込めている。
おそらくアッヘンヴァルは設置型能力を仕込んでいて、蓮城寺とフロックハートは流星闘技を使おうとしている。
そうなると降り注いでいる光弾の雨が止んだ瞬間、激しい戦いになるだろう。
そう思いながら俺も仕込みを始める。油断しているとこちらが食われる。
そして……
「影の刃群」
雨が止むと同時に地面から影の刃を大量に赫夜のメンバーに向けて放つ。その数約150。
「じゃ、王太子の防壁!」
アッヘンヴァルがそう叫ぶと光の壁が現れて影の刃とぶつかり合う。とはいえ破壊力はこっちが上なので簡単に光の壁は破壊される。
追撃を仕掛けようとしたが、新しく能力を発動する直前に巨大な光の矢と光弾が向かってくる。蓮城寺とフロックハートの流星闘技だろう。
馬鹿正直に食らう義理もない。俺は息を吐いて当たる直前に足に星辰力を込めて横に跳び回避しながらレッドバレットを俺に突っ込んでくるフェアクロフ先輩目掛けて発砲する。
真横から爆風を感じながらレッドバレットを発砲してフェアクロフ先輩を足止めしながらフェアクロフ先輩同様俺に突っ込んでくる若宮に黒夜叉を構える。
「やぁっ!」
「はあっ!」
掛け声と共に若宮のナックル型煌式武装と俺の黒夜叉がぶつかり合い火花が飛び散る。
鍔迫り合いをしたままレッドバレットを若宮に向けて放とうとした瞬間、若宮は咄嗟に首を大きく動かした。いきなりどうし……?!
急な寒気を感じた俺は若宮同様に首を大きく動かすとさっきまで俺の首があった場所を光弾が通過した。
(これはフロックハートの銃か)
となるとフロックハートの能力の思考伝達だろう。フロックハートが若宮に『今から撃つから首を動かして』とでも指示したのだろう。本当にこいつらは……歯車が合うと厄介だな。
「やるな……だが……影の刃」
俺がそう呟くと足元から影の刃が若宮に向かう。この距離なら当たるか?
そう思ったが若宮はそれを見ないでバックステップをしながら回避する。これもフロックハートの能力で教えたのだろう。
追撃を仕掛けようとした時だった。
「はぁっ!」
左サイドからフェアクロフ先輩が突っ込んで剣を振り下ろしてくる。
「九轟の心弾!」
そして右サイド後方からアッヘンヴァルが光弾を放ってくる。フェアクロフ先輩が持っている剣は……『ダークリパルサー』か。となると防御はできないな……だったら。
「絡みつけーーー影の触手」
俺は両手に影を纏わせる。そして腕からは細い触手が十数本生える。
そしてその内九本はアッヘンヴァルの放った光弾とぶつかり合って相殺されて、残った数本が『ダークリパルサー』が振り下ろしされる前にフェアクロフ先輩の腕に絡みついて動きを封じる。
『ダークリパルサー』の刀身はどんな物もすり抜けるが対応する方法がない訳ではない。今みたいにフェアクロフ先輩の腕の動きを止めれば振れないしな。
そう思いながらフェアクロフ先輩の校章を破壊するべく黒夜叉を振るおうとした時だった。
「今ですわ!美奈兎さん!」
「うん!」
いきなり後ろから了承の声が聞こえてくる。
(若宮?!何で後ろに……アッヘンヴァルか!)
さっきアッヘンヴァルが放った光弾はフェアクロフ先輩の援護射撃ではなくて、若宮から意識を逸らす為の技か!
ヤバい……!いくら俺でも無防備な背中に一撃くらったら結構危ないだろう。
そう判断した俺は急いで黒夜叉を振るって当初の予定通りフェアクロフ先輩の校章を破壊する。
『ソフィア・フェアクロフ、校章破損』
アナウンスが流れるがどうでもいい。今は今直ぐ逃げ……?!
「八裂の牢獄!」
逃げようとしたが足元が光り出し光の触手が俺の足に纏わりつく。さっき合成技を撃っていた時に仕込んでいた設置型能力か!
破壊するのは簡単だがこんなのに時間をかけてられない。
「纏えーーー影よ「遅いっ!玄空流ーー旋破!」……っ!」
若宮の声が聞こえると同時に背中に衝撃が走る。咄嗟に星辰力を背中に込めたとはいえ……結構痛い。
「え?ひ、比企谷さん?!」
いきなり声が聞こえたので意識を若宮がいる後ろから前に向けると目の前にフェアクロフ先輩の驚いた顔が間近にあった。
え?近くね?……あ、そっかさっきフェアクロフ先輩は俺の真ん前にいたし、その上若宮の一撃で前のめりになったんだ。
しかしどうにも出来ん。若宮の一撃は思いのほか破壊力があり体勢を立て直す事は出来ずーーー
「うおっ?!」
「きゃあっ?!」
そのまま地面に倒れこんでしまう。
「痛ぇ……ん?」
若宮の一撃と膝のお皿が地面に当たった事によって出来た痛みに悶えていると手に柔らかい感触を感じる。何だこりゃ?トレーニングルームの床は柔らかくないぞ。
疑問に思っていると柔らかい感触の正体を理解したーーー否、理解してしまった。
「やっ……あんっ!」
ヤバい事に俺の右手はフェアクロフ先輩の圧倒的なボリューム感ある膨らみを思いっきり鷲掴みにしていたのだった。
(ヤバい……!シルヴィとオーフェリアの胸は何度も揉んだ事があるがそれに匹敵するくらい気持ちが良い……って違う!何考えてんだ俺は?!)
フェアクロフ先輩の顔を見ると真っ赤になって俺を見上げていた。この状況はマズい。
そう思ってフェアクロフ先輩から離れようとした時だった。
「は・ち・ま・ん・く・ん?ソフィアさんを押し倒して何をしてるのかなぁ?」
「……八幡?これはどういう状況なの?」
聞き覚えがある声が聞こえて俺の身体はピシリと固まってしまう。え?何でこのタイミングでお前らがいるの?
ギギギと音が出そうな感じでゆっくりと横を見ると……
トレーニングルームの入り口には背後に阿修羅を従わせている俺の恋人2人がドス黒いオーラを纏って俺を見ていた。