アスタリスクは北関東多重クレーター湖上にある水上学園都市である。
北関東である為冬は寒いが雪が降る事は余りない。まして北海道でないので10月に雪が降るなんて絶対にあり得ない。
しかし10月の今、アスタリスクにいる俺の周囲には猛吹雪が発生している。まさにブリザードと言っても言い過ぎではないくらい寒い。
そして猛吹雪を引き起こしている人が俺の目の前に2人いる。
「ねぇ八幡君?今ソフィアさんに何をしていたのかな?」
1人はクインヴェール女学院の生徒会長にして序列1位で俺の恋人の1人である『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム。
世界の歌姫と呼ばれ圧倒的な美貌を持っている筈の彼女は、圧倒的なドス黒いオーラを纏って絶対零度の笑みを見せている。それなりに修羅場をくぐっている俺が見てもメチャクチャビビる笑顔だ。星脈世代じゃないファンが見たらそれだけで気絶してもおかしくないと思えるくらいヤバい笑顔だ。
「……私の見間違いでなければ八幡、貴方今ソフィア・フェアクロフの胸を揉んでいたわね」
そしてもう1人はレヴォルフ黒学院の序列1位にしてアスタリスク最強の魔女でもう1人の俺の恋人である『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェン。
今は変装して栗色の髪になっていて真っ白な髪は隠れているが、ドス黒いオーラは隠せていない。出来ることならドス黒いオーラも隠してくれるとありがたいんですけど……無理ですよね?
ヤバい、ガチでブリザードが吹き荒れている気がする。このままじゃ凍死するくらい寒気がするんだけど。
2人から目を逸らせずにじっと見ていると……
「それでは・ち・ま・ん・く・ん。いつまでソフィアさんの胸を揉んでいるのかな?」
シルヴィが更にオーラを吹き出しながらそう言ってくる。え?マジで?
「やぁっ……あんっ」
再び手に柔らかい感触を感じていると耳に喘ぎ声が聞こえる。それを聞いた俺は未だにフェアクロフ先輩の胸を揉んでいる事を思い出した。やっぱり柔らかい……って、違うわ!
「す、すみません!」
慌てて起き上がろうとするが……
「うおっ?!」
何故か起き上がれずに再び倒れてしまう。倒れながら足を見ると光の触手が絡み付いていた。そうだ、さっきアッヘンヴァルが仕込んだ設置型能力に足を捕らえらていたんだった。
そして……
「んっ……ひ、比企谷さん……!」
顔に柔らかい感触を感じると同時に視界が真っ暗になり色っぽい声が聞こえてくる。何だよこの柔らかい感触?まさかとは思うが……
「……八幡、さっきからわざとやっているの?そんなにソフィア・フェアクロフの胸が好きなの?」
顔に感じる柔らかい感触の正体を理解しかけると同時にオーフェリアの冷たい声が耳に入る。やっぱり顔に当たったのは……
急いで顔を上げると目の前にはさっき鷲掴みした膨らみがあり、真っ赤になりながら息を荒くしているフェアクロフ先輩の顔が目に入った。その姿はぶっちゃけ凄くエロい。
ヤバい、何か凄くドキドキして「は・ち・ま・ん・く・ん?」……一瞬で冷静になった。ドキドキなんてしてないからな?ハチマンウソツカナイ。
とりあえず……
「アッヘンヴァル、すまんが能力を解除してくれ。出ないと立てん」
俺の視界で真っ赤になっているアッヘンヴァルに話しかける。どんだけ純情なんだお前は?
「わ、わ、わ……きゅう」
真っ赤になっていたアッヘンヴァルは能力を解除してくれたがそれと同時に顔から煙を出して倒れてしまった。マジですみません。
内心アッヘンヴァルに謝罪しながらフェアクロフ先輩から離れ立ち上がるとシルヴィとオーフェリアがドス黒いオーラを撒き散らしながら俺の方に歩いてくる。
俺が悪いのは認めるがそんなドス黒いオーラを撒き散らすな。現に若宮とフェアクロフ先輩ビビっていて、蓮城寺とフロックハートも引いているし。
「それで八幡君。どうしてこうなったのかな?」
シルヴィは笑顔で聞いてくるが目が笑ってないからな?てかマジで怖い。今までも何度か怒られた事はあるが今回は次元が違う。2人ともマジでキレてるし。漏れそうなんですけど?
「待ってくれ。わざと触った訳じゃない。訓練中の事故なんだ」
それについては嘘偽りない。俺が自発的に触る胸はシルヴィとオーフェリアの胸だけだ。他の人の胸を自発的に触る事はないだろう。
「……本当?」
「本当だ。他意はない」
オーフェリアがドス黒いオーラを出しながらそう言ってくる。実際若宮の後ろからの攻撃がなければこんな事態にはならなかっただろう。
そう思いながらオーフェリアを見返す。今目を逸らしたら間違いなく今日が俺の命日となってしまうだろう。
トレーニングルームにブリザードが吹き荒れる中、シルヴィとオーフェリアと暫くの間見つめ合っていると2人は息を吐いてドス黒いオーラを消した。
「……わかったわ。とりあえず信じるわ」
ほっ。とりあえず助かったようだ。俺はてっきり命を取られるかと思った「ところで八幡君」……シルヴィ?何だ?ドス黒いオーラは消えているのに寒気を感じるぞ?
「ソフィアさんの胸は気持ち良かった?」
「ん?ああ、メチャクチャ柔らかくて最高……はっ?!」
慌てて口を塞ぐが時すでに遅く……
「ヘェ〜。そうだったんだ〜、ソフィアさんの胸を揉んで良かったね〜。は・ち・ま・ん・く・ん?」
「……八幡」
再び俺の恋人2人はドス黒いオーラを撒き散らす。さっきと比べて遥かに濃密で恐ろしいオーラだ。しまった!つい本音を漏らしてしまった!
特にシルヴィがメチャクチャ怖い。ドス黒いオーラを出しながら猫撫で声を出すって……普通にトラウマになるからな!
「あ、いや、そのだな……」
俺がしどろもどろになりながらも言い訳をしようとするが……
「そう言えば八幡君さ、王竜星武祭で私にリベンジしたいって言っていたよね?王竜星武祭まで待つ必要はないから、今から死合をしようよ」
シルヴィは満面の笑みを浮かべながら爆弾を投下してくる。待て待て待て!何か試合の発言がおかしかった気がするんだが!あからさまに殺気を出しながら言わないでくれ!
内心そう思っているものの声が出ずに悩んでいる時だった。
「……言われてみれば八幡、私にも勝ちたいって言っていたわね。私とも戦いましょう」
オーフェリアはそう言って頭に付けてあるヘッドホンを取る。すると栗色の髪からいつもの真っ白な髪に変わる。
「えっ?!」
「まさか……!」
「本物ですよね……?」
「お、お、お、オーフェリア・ランドルーフェン?!」
気絶しているアッヘンヴァル以外の赫夜のメンバーが驚きの声を出しているが、シルヴィとオーフェリアに見つめられていて、蛇に睨まれた蛙のように視線を動かせないのでそっちを向く事は出来ない。
「ちょっと待ってくれ。流石に2人を相手にするのは……」
多分シルヴィ1人が相手でも負けると思う。今のシルヴィが纏っているドス黒いオーラを見る限り勝てるイメージが湧かない。
そんなシルヴィと俺より遥かに強いオーフェリアの2人を相手にするなんて……未来視の能力がなくても勝てない事が簡単に理解できてしまう。
しかし……
「大丈夫だよ八幡君。………直ぐに終わるから」
最後に冷たい声で俺の意見を却下して銃剣一体型煌式武装『フォールクヴァング』を取り出す。しかも初っ端からマイクを出してるって事は間違いなく全力だろう。
「……八幡のバカ」
隣にいるオーフェリアもドス黒いオーラを出しながら周囲に圧倒的な万応素が引き起こす。最近治療院で治療しているからかいつもよりは大分マシだが、それでも俺を簡単に倒せるくらいの力はあるだろう。
ヤバい……マジで命日かもしれん。覚悟を決めないとな。
「赫夜の皆、悪いけど部屋の隅に移動してくれない?巻き込まれるからさ」
『了解!』
赫夜のメンバーは全員が直ぐにトレーニングルームの隅に移動する。俺もあそこに逃げたいがビビって足が動かない。
「それじゃあ八幡君、始めよっか」
「……容赦しないから」
そう言ってシルヴィは『フォールクヴァング』を銃モードにして銃口を俺に向けて、オーフェリアは瘴気が篭った右手を俺に向けてくる。
圧倒的なプレッシャーがトレーニングルームに充満している中……
『模擬戦開始!』
試合開始のアナウンスがトレーニングルームに響き渡る。
それと同時に……
「八幡君の………バカァァァァァ!!」
「……塵と化せ」
高密度の光弾と瘴気で作られた巨大な腕が俺に襲いかかる。こいつはマジでヤバい!!
「ほ、屠れーーー影狼し……?!」
最強の技も放つ暇なく圧倒的な攻撃が近寄り……
「うわぁ……」
「比企谷さん、死にませんよね?」
「アレを見ると私、比企谷さんに怒れませんわ……」
「……あれ?何で私こんな場所で寝てるの?」
「ニーナには後で説明するわ。それにしても……嫉妬って怖いわね」
そんな声が聞こえるのを最後に俺の視界は真っ暗に閉ざされてしまった。