本来なら6月4日まで投稿しないつもりでしたが、6つの中間レポートのうち3つを2徹で終わらせた際にテンションが上がり執筆したので投稿する事にしました
「ふぅ……やっと着いたか。てか降りてからも色々と面倒だったな」
ミュンヘン空港にて飛行機から降りた俺は大きく伸びをする。冬のドイツは気温が低く、辺りには雪が積もっている。
「……八幡は飛行機は初めて?」
「まあな。だから色々と驚く事が結構あったな。ちなみにオーフェリアはあるのか?」
隣で起きたばかりだからかウトウトしながら質問をしてくるオーフェリアに質問を返す。うん、やっぱりオーフェリア可愛いな。
「……私は彼の下にいた時によく海外に行っていたわ。と言っても遊びが目的で海外に行くのは初めてだわ」
「そっか。じゃあしっかりと楽しめよ」
「……ええ」
オーフェリアはそう言って手を握ってくるので優しく握り返す。小さくて温かい……最高の手だな。
「……ところで天霧は……もう大丈夫みたいだな」
「……まあね」
後ろを見ると弱い笑みを浮かべている天霧がリースフェルトと沙々宮に挟まれていて、エンフィールドと刀藤がその後ろで苦笑を浮かべている。
さっき蓮城寺が天霧の知り合いと知った時に俺は天霧に彼女なのかと質問してしまい、天霧はリースフェルトと沙々宮、エンフィールドに尋も……事情聴取を受けた。本当に申し訳ないです。
「本当悪かったって。今度マッ缶奢るから許せ」
「いや、アレは甘過ぎるから良いよ」
ちっ、アレの良さがわからないとは……まだまだガキだな。
「はいはい。立ち話もなんですし行きましょう。既に夕方ですしこれ以上話していたら沙々宮の家に着く頃には日が暮れてしまいますよ」
「あー、まあそうだな。ところで今更なんだが俺とオーフェリアが泊まっても大丈夫なのか?」
実際俺は沙々宮と殆ど接点がないし、オーフェリアに至っては今日が初対面だし。
「……問題ない。既にお母さんには話してある。ばっちこい」
そう言って親指を立ててくるが無表情でその仕草は違和感を感じるぞ?
「そうか。じゃあよろしく頼む」
そう返しながら俺達は電車に乗り換える為に駅に向かって歩き出した。
「そう言えばランドルーフェンさんは王竜星武祭に出るのですか?」
沙々宮の家に向かう為電車に乗っているとエンフィールドがそう聞いてくる。
「どうしたエンフィールド?藪から棒に?」
「いえ。彼女は既にディルク・エーベルヴァインの所有物でないですから。出るか出ないかで星武祭の戦略の練り方が大分変わるので今のうちに聞いておきたかっただけです」
あー、まあ確かに優勝確実と言われているオーフェリアが出るかどうかで、他の学園の生徒会は自身の学園の生徒をどのくらい王竜星武祭に出すかなど色々と戦略を練らないといけないからな。今の内から作戦を考えるのだろうな。
「……八幡が出ろと言ったら出るし、出るなと命令したら出ないわ」
オーフェリアがそう言うと全員が俺を見てくる。まあ一応オーフェリアの権利証は俺が持ってるからなぁ……
「俺の考えとしては王竜星武祭のエントリーが始まるまでにオーフェリアが自分の力を完全に制御出来てるならオーフェリアの好きにさせるが、エントリーが始まるまでに力を完全に制御出来ていないなら出さないつもりだ」
俺にとっての最優先事項はオーフェリアの安寧な生活だ。もしも能力を使って寿命を削るようなら絶対に出さん。これはオーフェリアにリベンジをしたいと思っているシルヴィにも話したが納得してくれた。
「……私の好きにしていいなら出ないわ。私自身特に統合企業財体に叶えて貰いたい願いなんてないわ。……私にとっては八幡とずっと一緒にいる事が何よりの願いだわ」
そう言いながら電車の中にもかかわらず抱きついてくる。あのオーフェリアさん?いくら人が少ないからといって電車の中は勘弁してください。
しかも星導館組、特にリースフェルトの目が優し過ぎてむず痒いんですけど?マジで見ないでください。
しかし俺にとってオーフェリアを引き離す選択肢はハナからないので甘んじてオーフェリアに抱きしめられる事にした。
結局目的地に着くまでオーフェリアに抱きつかれたままだった。
それから1時間……
沙々宮の家に着いた時は既に夕刻を過ぎて日が暮れていた。沙々宮の家はレンガ造りの古民家を改装したものだが……
「こんなセンサーだらけの物騒な民家があってたまるか」
そう呟く俺はおかしくないだろう。何で普通の家の敷地内や玄関にセンサーが取り付けられてんだよ?見る限りかなりの高性能のセンサーだし。
「まあ沙々宮先生は銀河の研究施設に開発協力として参加してくださる程のお人ですから。そのような人の研究成果を盗まれないようにするには当然でしょう」
エンフィールドが笑いながら言ってくる。なるほどな、統合企業財体の研究施設で働く人間の家ならセキュリティが優れていてもおかしくないだろう。
「……お父さん曰く我が家の警備システムは統合企業財体直轄の研究施設に匹敵するものらしい」
「ほう……そいつは優秀なセキュリティだな」
「……影の中に入って簡単にカジノのセキュリティをすり抜けた比企谷に言われても皮肉にしか聞こえない」
「あー…….いや、別に皮肉を言ったわけじゃないからな?」
「ん……わかってる」
沙々宮はそう言ってセンサーとロックを解除しながらドアを開ける。
「……ただいま」
「おや、ようやくおかえりかい、馬鹿娘」
そんな気軽な感じの声が聞こえたかと思ったら沙々宮そっくりの女性が出迎えてくれる。身長以外はそっくりだな……。沙々宮の身長は小学生と間違われても仕方ないくらい低いが母は俺や天霧くらいとかなりデカイし。
そんな事を呑気に考えていると沙々宮がジト目で俺を見てくる。もしかして考えている事を読まれたのか?
「香夜さん、お久しぶりです」
「ああ。久しぶりだね、綾斗。いい男になってきたじゃないか」
天霧は親しげに話しているがやっぱり沙々宮とは幼馴染だからかなり仲が良いのだろう。
「沙々宮夫人、本日はお世話になります」
「ご丁寧にどーも。星導館の生徒会長さんだね?」
「はい。クローディア・エンフィールドと申します」
「あ、あの、私はーー」
『まあまあ、そんなとこで立ち話もなんだろう。とにかく中へ入りなさい』
「ひゃあっ?!」
刀藤が挨拶をしようとした瞬間半透明の男性が現れて、刀藤は悲鳴をあげる。何だありゃ?アルルカントが開発した人工知能の類か?
首を傾げていると
「紗夜のお父さんの創一さん。昔事故で生身の身体を失ったんだよ」
天霧が俺に耳打ちをしてくる。なるほどな、それなら半透明ーーー実体がない事も頷ける。しかし……
「その割に随分テンション高くね?」
今は香夜さんと親しげに話しているが明らかにテンションが高い。とてもじゃないが身体を失った人の言動とは思えん。
「えーっと、それは……」
天霧もどうしたものかと返事に困っていると沙々宮の父ちゃんーー創一さんは笑いながら俺と天霧を見てくる。
『確かにわしは生身の身体を失ったが、別に不自由しとらん。むしろ煌式武装の制作にはこの方が適しているくらいだからの』
ポジティブ過ぎだろこのおっさん。身体を失っても元気って……天霧も苦笑してるし。
「まあ、創一さんの言う通りこんなところで立ち話もなんだ。とりあえず入って入って。大したもんじゃないけど、晩ご飯も用意してあるから」
そう言われて俺達は案内されてリビングに通される。中央にでんと置かれたテーブルの上には、ずらりと料理が並んでいた。
「普段は自分の食べる分しか作らないからね。久しぶりに腕を振るう機会が出来て嬉しかったよ。ほら、座った座った」
香夜さんに促されてテーブルに着く。それと同時に俺は頭を下げる。
「初めまして。比企谷八幡です。今日はお邪魔します。オーフェリア、お前も挨拶しろ」
俺が隣に座るオーフェリアに促すとコクンと頷いて……
「……オーフェリア・ランドルーフェン。……よろしくお願いします」
ただ一言そう言ってペコリと頭を下げる。オーフェリアの奴、付き合った当初は敬語と無縁だったが、自由になった以上それでは今後はマズイと俺とシルヴィが教育した結果、コミュ力が少し高まった。
よろしくお願いしますと言えるようになるとは……八幡嬉しい。
「ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトです。紗夜……さんには、先日身内が大変お世話になりまして、感謝しています」
オーフェリアの成長っぷりに感動しているとリースフェルトも俺とオーフェリアに続いて頭を下げる。
「まさかうちに世界最強の魔術師と魔女にお隣の国のお姫さんがやってくるとは思わなかったよ。狭い所だけど寛いでいっておくれ」
「あ、あの、刀藤綺凛です。私も鳳凰星武祭では本当に紗夜さんに助けていただいて……」
「あはは、そんな畏まらなくていいよ。寧ろうちの子が迷惑をかけなかったかい?」
「い、いえそんな……」
まあ実際迷惑はかけてないだろう。序列外とはいえ沙々宮の実力は充分にある。試合を見る限り刀藤の足を引っ張ってはいなかっただろう。
「こう言っちゃなんだけど、まさか準決勝まで勝ち進むとは思ってもなかったからねえ」
『ふふん、わしは信じておったがな』
「創一さんが親馬鹿なだけでしょ、もう」
間違いない……創一さんはうちの親父と同じくらい親馬鹿だ。親父も『小町ならベスト8まで行けると信じていた』ってドヤ顔で連絡してきたし。
そんなバカな事を考えている中、創一さんは煌式武装について意気込んでいて香夜さんに制されている。
「それよりさっさとご飯にしよう。今スープを温めてくるからね」
それからほどなくして食事が始まる。
刀藤は緊張していたが直ぐに打ち解けて鳳凰星武祭の事やフローラ救出についての話などに花を咲かせている。俺とオーフェリアは自分からは話さないが聞かれた事には話しているので気まずい食事にはならずに済んでいる。
にしてもこの飯美味いな。しかも和食だし。オーフェリアやシルヴィの料理には不満は一切がないが洋食が殆どなので純和食は久しぶりに口にする。そしてオーフェリアさん、さりげなくあーんをしないでくださいね?
そんな感じで大人数で食う飯でありながらそこそこ楽しめたので良かっただろう。
「さて、それじゃあ部屋の方に案内しようか」
飯を食い終わってデザートに舌鼓をうっていると香夜さんにそう言われる。
「一応、二階に来客用の部屋が2つ空いてるからそれに加えた沙夜の部屋の3つを使って貰おうと思ってるんだけど、それぞれ2、2、3人ずつで良いかい?」
「はい。問題ありません」
「なら良かった。じゃあ部屋割りを決めておいてくれ」
って言われてもなぁ……俺と天霧が2人部屋なのは確定だろう。他の5人はどうなるとそこまで問題は……
「……私は八幡と寝たいわ」
……オーフェリアさん、マジで空気読んでくれ。予想外の発言で沙々宮とエンフィールド以外驚いているし。
内心オーフェリアに突っ込んでいると……
「なるほど。では比企谷君とランドルーフェンさん、私と綾斗、ユリスと刀藤さんと沙々宮さんという事で」
エンフィールドが当然のようにそう言ってくる。
「ええっ?!」
「なっ?!ちょっと待てクローディア!いきなり何を言い出す?!」
「あら、何か問題が?」
リースフェルトが慌てたようにそれを止めようとするが、エンフィールドは不思議そうに首を傾げるだけだ。
「大ありだ!と、年頃の男女が同じ部屋でなど、その……」
リースフェルトが真っ赤になりながら口をモゴモゴしていると……
「そうでしょうか?比企谷君はランドルーフェンさんやシルヴィアの2人と一緒に寝たりお風呂に入っているから大丈夫だと思いますよ?」
爆弾を投下された。
瞬間、時間が止まった。ねぇ何でわざわざそんな事を言うのかな?俺を悶死させたいの?
内心エンフィールドに突っ込んでいるとエンフィールドが口を開ける。
「シルヴィアからも特に間違いは起こっていないと聞いた事があるので比企谷君とランドルーフェンさんが一緒に寝ても問題ないでしょう?」
エンフィールドの言葉にリースフェルトが再起動する。
「そっちじゃない!比企谷とオーフェリアは恋人だから百歩譲ってまだ良い!私が言っているのはお前と綾斗が一緒に寝る事だ!」
「ふふっ、大丈夫ですよ。私は綾斗を信じていますから。ねえ綾斗?」
「いや、まあ……」
エンフィールドが蠱惑的な表情を天霧に向けると天霧は引き攣った笑みを浮かべる。
「まあ天霧ならヘタ……紳士だから大丈夫だろ?何せエンフィールドに寮に呼ばれた際に胸を揉「ちょっと比企谷!それは言わないで!」あん?その件は昼に手打ちになったんだから大丈夫だろ?」
飛行機でオーフェリアが落とした爆弾によって天霧は甚大な被害を受けたがそれも昔の話だ。リースフェルトも沙々宮もこの話は終わりとしたんだから怒られない筈だが……
「そうだけど!思い出すと恥ずかしくて仕方ないんだよ!」
純情過ぎだろ?いや、俺がシルヴィやオーフェリアの胸を揉み過ぎたから慣れただけだろう。
「あー、そりゃ悪かったな。まあ話を戻すとこんだけヘタ……紳士なんだし女子と寝ても手を出さないだろ?」
「そうですね。それともユリスは綾斗が信用出来ませんか?」
「うっ……!そ、そんなことはない!もちろん私は綾斗を信じてはいるが、そ、それとこれとはまた別の問題と「……ユリス、素直にならないとクローディア・エンフィールドに負けるわよ」……オーフェリア!」
リースフェルトは口をモゴモゴしていたがオーフェリアが喋ると突っ込みを入れてくる。まあオーフェリアに同感だ。天霧は素直で鈍感だろうからツンデレ属性は相性が悪いだろう。
「わ、私も綾斗先輩を信じてます!」
と、そこへ真っ赤な顔の刀藤が身を乗り出してきた。
「あらあら。でしたら刀藤さんにお譲りいたしましょうか?」
「えっ?そ、それはその……あ、綾斗先輩がそれで良いなら、私は……」
「え……?」
「なるほど。確かに綾斗に選んでいただくのが1番適切ですね」
エンフィールドがポンと手を叩き、リースフェルトも真っ赤になりながら天霧を睨むように見ている。
「えーと……」
さてさて、天霧は誰を選ぶやら………
「オーフェリア、天霧が誰選ぶか賭けようぜ。俺は沙々宮に賭けるから当たったら帰国した時の夜飯グラタンを作ってくれ」
「……わかったわ。じゃあ私はユリスに賭けるわ。もしも当たったら……帰国してからプールに行きたいわ」
「まあ体から瘴気も出なくなったしな。わかった」
つーかオーフェリアの水着が見たい。初めはグラタン食いたいから沙々宮を選んで欲しかったがプールに行くならリースフェルトを選んで欲しい。
そんな事を考えていると天霧と目が合った。
「えーと……比企谷じゃダメかな?」
うん、まあ予想はしていたよ。普通に考えたらヘタ……紳士の天霧なら付き合っていない女性じゃなくて俺を指名するよな。
そう思っていると……
「あら……綾斗は私より比企谷君と2人で一夜を共にしたいのですね?」
エンフィールドは悲しげ表情を浮かべながら爆弾を投下してきた。
しかし俺にはわかる。奴は心の底では間違いなく笑っている。人間観察を得意とする俺からしたら、エンフィールドがからかっていると簡単に理解できる。
しかし他の連中は……
「な……?!あ、綾斗!ま、ま、まさかとは思うがお前そっちの趣味が……?!」
「……夜吹は前に『天霧は女に興味ないようだけどひょっとして男に興味があるかもしれない』って言っていたけと……」
「あ、綾斗先輩!!そ、その……ひ、人の趣味はそれぞれですから気にしなくて大丈夫ですよ!」
「……天霧綾斗、八幡は絶対に渡さないわ」
普通にエンフィールドの言葉をそのまま信じてしまって天霧に詰め寄っている。特にオーフェリアなんてドス黒いオーラを出してるし。
「え……あ、いや、俺は……」
4人に詰め寄られている天霧は4人の出すプレッシャー(特にオーフェリアのプレッシャー)に気圧されてマトモな返事をする事が出来ていない。
そんな中……
「ふふっ……」
エンフィールドは楽しそうに食卓に置かれていたリンゴジュースを飲んでいる。お前は本当に楽しそうだな。
俺はエンフィールドに若干呆れの感情を向けながら、未だに揉めている5人をぼんやりと眺める事にした。
結局天霧が解放されたのはそれから10分経ってからで、部屋割りは俺と天霧、刀藤と沙々宮、オーフェリアとリースフェルトとエンフィールドになった。
その際にオーフェリアは不満そうにしていたので一緒にお風呂に入ると言ったら機嫌を直してくれたが、それを聞いた刀藤は真っ赤になって気絶してしまった。マジで済まん。
今回も読んでいただきありがとうございます。
次の投稿時期は残った3つの中間レポートが終わった時のテンションによりますがよろしくお願いします