学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうしてリーゼルタニア入りする

「ふぁぁぁ…ダメだ眠い」

 

翌朝、沙々宮の家の前にてリーゼルタニアからの迎えの車を待っている俺は大欠伸をする。

 

「……私も眠いわ」

 

「俺も……」

 

「……私も眠いな。朝になるまではやり過ぎたな」

 

「そ、そうですね。今日の夜はしっかりと休みましょうね?」

 

「……す〜、す〜」

 

俺の左横ではオーフェリア、天霧、リースフェルト、刀藤、沙々宮も差はあれど眠そうにしている。てか沙々宮に至っては寝てるし。立ちながら寝るってどんだけ器用なんだこいつは?

 

「……」

 

一方俺の右横にいるエンフィールドは真剣な表情を浮かべている。こいつは昨日俺が沙々宮の家に侵入した動物が能力で作られた物と知ってから時たま真剣な表情を浮かべている。

 

エンフィールドは襲撃者に心当たりがあると感じた俺はエンフィールドに聞いてみたが適当にはぐらかされた。まだ確証を得ていないからか話したくないのかどっちかは知らないが、頼むから俺を巻き込むなよ?

 

そんな事をのんびりと考えていると俺達の前に大きな黒塗りのリムジンが止まる。どうやら迎えの車が来たようだ。

 

「皆様、お迎えにあがりました!」

 

助手席からメイド服を着た少女ーーーフローラが降りてきて仰々しく礼をしてくる。

 

「相変わらず元気だねフローラちゃん」

 

「あいっ!それがフローラの取り柄ですから!」

 

天霧は笑顔を見せるとフローラも笑顔を見せてくる。こいつまさか……

 

「……こんな小さい子にも手を出して「いやいやいや!違うからね!」……そうか」

 

独り言を呟いていると天霧は真っ赤になって俺に詰め寄ってくる。うん、手は出していないかもしれないが無意識のうちに落としているかもしれん。相変わらずの女たらしだな」

 

「綾斗に対して油断出来ないのは事実だが……オーフェリアと『戦律の魔女』の2人と付き合っているお前が女たらしと言うのか?」

 

リースフェルトが呆れながらそう言ってくる。ん?口に出していたのか?

 

しかし……うん、確かに恋人が2人いる俺が女たらしって言うのはブーメランになってるな。

 

そんな事を考えているとフローラが俺の方にやってきてぺこりと頭を下げてくる。

 

「比企谷様ですね?鳳凰星武祭の時はフローラを助けていただいて本当にありがとうございました!」

 

「ん?ああ、別に構わない」

 

何せ俺がフローラを助けたのはオーフェリアを自由にする為だからだ。そんな考えを持った俺にそんな風に頭を下げられると胸が痛い。

 

「……ところでお前が俺達を案内するのか?」

 

だから俺は話を逸らす。これ以上この話題はするべきじゃないだろう。

 

「あいっ!今から皆様を王宮にご案内しますのでご乗車ください!」

 

フローラは俺の意図に気付かずに俺達に車に乗るように呼びかける。

 

「それじゃ、創一おじさん、香夜さん。お世話になりました」

 

天霧が挨拶をすると全員で車に乗りこむ。するとフローラは天霧とリースフェルトに

 

「あ、姫様と天霧様は後ろの席でお願いします」

 

そう指示を出す。天霧とリースフェルトは不思議そうな表情をしながらも指示に従い後ろに座る。

 

「では、出発しまーす!」

 

 

フローラがそう言うと車はゆっくりと動き出す。

 

「リースフェルト、大体どんくらい時間がかかるんだ?」

 

「そうだな……ここからなら車で2、3時間といったところだな」

 

「思ったより近いのですね」

 

「リーゼルタニアはドイツとオーストリアの境にある山国だからな。まあ、時間もあるし簡単に我が故国について説明しておこうか。約1名、下手をすれば私より詳しいかもしれん奴がいるがーー」

 

そう言いながらリースフェルトはエンフィールドをちらっと見る。対するエンフィールドはいつもの微笑を浮かべている。

 

「ふふ、誰の事でしょうね。もしかして比企谷君ですか?」

 

「俺かよ?悪いが俺は統合企業財体という特一等級ベルティス隕石を欲しがる屑共に作られた箱庭って事ぐらいしか知らないぞ?」

 

俺がそう返すとエンフィールドは苦笑いをしてリースフェルトは額に手を当てている。

 

「いや、まあ、身も蓋もない言い方をすればそうだが……そこまでハッキリと言うな。綺凛あたりは引いているぞ」

 

リースフェルトに注意されたので刀藤を見ると若干引いていた。そうだ。メチャクチャ強いから忘れていたが刀藤ってまだ中1だったな。汚い話をしたらそりゃビビるわ。

 

「あー、悪い悪い。つー訳でリースフェルト、もっとオブラートに包んだ説明を頼む」

 

今回は俺のミスだ。空気が若干重くなったし。

 

「……はぁ。わかった」

 

リースフェルトはため息を吐きながら気を取り直すように説明を始めた。本当に申し訳ありませんでした。

 

俺はオーフェリアに撫で撫でされながら反省してリースフェルトの説明を聞き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に傀儡国家」

 

リースフェルトの説明が始まって5分、沙々宮はそう言ってうんうんと頷く。

 

「身も蓋もなく言ってしまえばそうなるな。それにしても比企谷が詳しく知っているとは思わなかったな」

 

「ん?そりゃまあ、リーゼルタニアは卒業したらオーフェリアとシルヴィの3人で住む候補地の一つだからな」

 

「ほう?その返答は予想外だったな」

 

「そうか。まあ何にせよ卒業したら働かずに3人でノンビリと暮らすつもりだ」

 

あと2回星武祭で本戦に出場すれば一生働かずに済むだろう。え?オーフェリアやシルヴィが稼いだ金は使わないかって?それに頼り切りになったらヒモになるから使わない。俺がなりたいのは専業主夫であってヒモじゃない。

 

「そうか。その場合是非歓迎しよう……ん?」

 

「どうしたんだ?」

 

「あ、いや王宮へ行くのならこの道は遠回りになると思ってな。どういうことだ、フローラ?」

 

「えっと、これも陛下から仰せつかってますので」

 

「兄上から?」

 

「あい。ちょっと待ってくださいね」

 

フローラはポケットからメモ用紙を取り出す。そんな中俺は明らかに車の速度が落ちている事に気がついた。

 

「えーと、『せっかく帰ってきたんだからこそ、ついでに凱旋パレードをよろしく』だそうです」

 

「なっ……?!」

 

リースフェルトが愕然とした表情を浮かべながら腰を浮かせかけるが、それを押しとどめるような大歓声が巻き起こる。星武祭の本戦に勝るとも劣らない熱気だ。

 

「姫様ー!」

 

「ユリス様ー!」

 

沿道には人が溢れ、皆口々にリースフェルトの名前を叫んでいる。空からは色とりどりの紙吹雪が舞い散り、街のあちこちにリースフェルトの写真が付いてあるポスターがある。

 

「くぅ、兄上め!覚えていろ……!」

 

リースフェルトは自身の兄に毒づきながらも笑顔で手を振っている。

 

まあこうなっても仕方ないだろう。アスタリスクの歴史上、王族が優勝した事は一度もないからその話題性は凄まじいものだ。今やリースフェルトは世界の女性の中でトップ3に入るくらいの有名人だ。(他のトップ3は言うまでもなくシルヴィとオーフェリアだ)

 

「そういや天霧はリースフェルトみたいに手を振らないのか?」

 

「え?お、俺も?」

 

「いやだってアレ見てみろよ」

 

そう言いながら車の外を指差すとリースフェルトに比べたら少ないが天霧の名前も表示されてるしやった方がいいだろう。

 

「いや、何で俺まで……」

 

「だって天霧様は姫様のタッグパートナーですから!」

 

「それはまあ、そうだけど……」

 

「ふふっ、そんな意外そうな顔をしないでもいいでしょうに。ユリスの責任感の強さは知っているでしょう?」

 

フローラとエンフィールドがそう口にすると天霧はため息を吐きながら頷く。

 

「はぁ、わかったよ」

 

天霧が外に向かって手を振ると更に歓声が上る。

 

「にしても本当に盛り上がってんな……」

 

「まあこの国はかなり複雑な事情を抱えていますからね。言い方はよろしくありませんが、良いガス抜きになっているのでしょう……もっともーーーこれを仕掛けたあの方の思惑は、それだけではないでしょうけれど」

 

その時エンフィールドが呟いた最後の言葉が不思議と俺の耳から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーゼルタニアの首都ストレルにある王宮は街の中心部から湖を挟んだ対岸にあり、現在は公邸として使われているらしい。

 

想像以上に長く続いたパレードを済ませた後、ようやく王宮に到着したのだが……

 

「おい天霧、リースフェルトを何とかしろ」

 

俺は前方で肩を怒らせながらズンズン歩いているリースフェルトに辟易しながら天霧にそう話しかける。

 

凱旋パレードをやると聞かされていなかったんだ。怒る気持ちはわからなくはないが怒りすぎだろう。

 

「うーん。多分無理だと思うよ」

 

「……同感ね。ああなったユリスを落ち着かせるのは厳しいわ。時間が経つのを待ちましょう」

 

リースフェルトと付き合いが深い天霧とオーフェリアは即座に却下する。……まあ予想の範囲だ。しかしリースフェルトよ、頼むから能力は使うなよ。天霧の覗き事件の際も盛大に能力を使用したから果てしなく不安だ。

 

やかてリースフェルトはある部屋の扉をノックもしないで思い切り押し開ける。

 

 

 

 

「兄上!一体これはどういうことだ!」

 

リースフェルトが怒気を孕んだ声を上げる後ろからそっと部屋を覗いてみる。

 

すると部屋のソファの上に寝転がり、ふわふわとした巻き毛の女性に膝枕をされている男性が、のそりと身を起こした

 

「ああ、戻ってきたんだねユリス、おかえり」

 

20代半ばくらいだろうか。濃い赤毛はやや長く、全体的に線が細い。トレーナーにスラックスとラフな格好で、ぶっちゃけるとこの部屋に馴染んでなさ過ぎる。

 

「星導館学園とレヴォルフ黒学院の皆さんだね?今回は不躾な招待を受けてくれて嬉しいよ。僕はユリスの兄でヨルベルト。一応この国の国王をやっている。で、これは妻のマリア。ああ、ここは僕の私室なので君達も寛いでくれて構わないよ」

 

……は?

 

マジでこの人が国王?俺的に国王って王冠被ってマントをひらめかせて国民の先頭に立つイメージなんだけど……目の前にいる男性はそうは見えない。

 

俺だけでなくリースフェルトとエンフィールドとオーフェリア以外のメンバーも同じように思ったのか呆気にとられているし。

 

そんな中、リースフェルトはヨルベルトさんにガンガン突っ掛かっている。しかしリースフェルトが単純だからか、上手くあしらわれている。まあリースフェルトは割とガンガンいこうぜタイプだからな。エンフィールドやヨルベルトさんみたいな人とは相性は良くないだろう。

 

そして暫くの間揉めた末、ようやく終わったかと思いきやヨルベルトさんは俺達を見てくる。

 

「そうそう、それと君達にはうちの侍女を助けてもらったお礼もしなければならなかったね。と、いうわけで今夜は君達を歓迎する夜会を催す事にしたから、是非参加して欲しい。あ、服はこちらで用意したから適当なのを選んでくれて構わないよ。サイズの調整も今からでも間に合うだろうし」

 

「だからそれも聞いていないぞ兄上!」

 

「あははは。まあいいじゃないか」

 

リースフェルトが再び声を荒げ、ヨルベルトはそれを笑いながら煙に巻く。

 

「……何だか、その、個性的な人ですね」

 

刀藤の発言はかなりオブラートに包んでいたが皆同じ事を考えているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

「……お前、髪は前の方がよかったと思うぞ?」

 

礼服に着替えた俺は同じように礼服を着ている天霧にそう言う。天霧の頭はワックスを塗ったからかいつもの髪とかなり違う。

 

あれから俺達は王宮と同じ敷地にある離宮へと案内された。リースフェルト曰く離宮は客が宿泊する迎賓館として使われるらしい。

 

とりあえずようやく一息つけると思いきや俺と天霧はフローラに呼ばれ夜会用の礼服のサイズの調整などに付き合わされるなど色々あった。

 

その際女子の準備は色々と大変だったらしく俺達が呼ばれたのは夕方になってからだ。

 

「そうかな?比企谷は変えてないんだね」

 

「まあな。俺には向いてないだろうし。てかお前、わかってると思うが『黒炉の魔剣』を持ち込むなよ」

 

純星煌式武装なんて夜会に持ち込んでみろ。間違いなく騒ぎになるに決まっている。

 

「あ、うん。さっきフローラちゃんにも言われたよ。比企谷は?」

 

「俺はそれ以前に煌式武装をアスタリスクの外に持ち出してない。能力を使えば大抵の敵は蹴散らせるしな……っと、ここか?」

 

フローラが案内した部屋の扉の前に立つ。ここで女性陣が夜会の礼服の準備をしているらしい。

 

「多分ね。じゃあ入ろっか」

 

「……わかってると思うが絶対にノックしろよ。もしもあいつらが着替え中だったら……悪いが俺は転入初日のお前みたいに攻撃されるのは嫌だからな?」

 

「俺だって嫌だよ!というか何で比企谷がそれを知ってるの?!」

 

「前にオーフェリア経由でリースフェルトから聞いた。まあそれはどうでもいいからノックはしろよ」

 

「はぁ……ユリス、入るよ?」

 

「う、うむ。いいぞ」

 

暫くしてからやや上擦ったリースフェルトの声が聞こえてきたので俺と天霧が扉を開くと固まってしまう。

 

「な、何をぼさっと突っ立っている」

 

「そうですよ、綾斗。こういう時はちゃんと女性を褒めるのが礼儀というものです」

 

「……同感」

 

「いえ、わ、わたしはその、あまり似合ってないでしょうから無理には……」

 

そう言いながら天霧に近寄る天霧ハーレムメンバーの4人はそれぞれが異なる、しかしそれぞれによく似合ったドレスを纏っている。こういう事に疎い俺でも4人が本当に美しいと思うくらいだ。

 

しかし俺が固まった理由はそこじゃない。俺が固まった理由は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡、どうかしら?」

 

俺の目の前で恥ずかしがりながらも近寄ってくるオーフェリアの存在に圧倒されたからだ。

 

オーフェリアが着ているドレスはリースフェルトの着ているドレスと同じワンショルダータイプのドレスだ。しかし色はリースフェルトの深紅とは対称的に深い蒼とオーフェリアにマッチしている。

 

そして他の4人と同じように足元が隠れるくらい裾が長いワンピースで、腕や背中が大きく露出しており、胸元も強調されている。

 

正直に言おう。

 

「……ああ、凄く似合ってる。綺麗だな」

 

「……ありがとう。八幡も似合ってるわ」

 

オーフェリアはそう言って可愛らしい笑顔を見せてくる。最近どんどん可愛い笑顔を見せてくるからなぁ……マジで癒される。

 

「あ、そうだ。折角だし写真を撮っていいか?シルヴィにも見せたい」

 

「……別にいいわよ」

 

オーフェリアから了承を得たので俺は写真を撮ってシルヴィの端末にメールで送信した。

 

シルヴィもオーフェリアの事大好きだし、ライブで疲れているなら癒されて欲しい。

 

「ーーー皆様、そろそろお時間です。準備はよろしいでしょうか?」

 

そんな事を考えているとフローラが部屋に入ってきてそう告げてくる。

 

「……じゃあ八幡、エスコートをよろしく」

 

オーフェリアはそう言って手を差し出してきた。やれやれ、エスコートなんて柄じゃないが頑張るか。

 

「了解しましたよ。お嬢様」

 

そう返しながら肘を曲げてオーフェリアの手を引き寄せる。

 

こうして夜会が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「わぁ……!オーフェリアさん凄く綺麗だなぁ!見てたら良い気分になってきたよ……あ!夜会があるならオーフェリアさんに八幡君の礼服姿の写真を撮るように頼まないと!!」


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