「ギュスターヴ・マルロー?そいつが今回の襲撃犯ですか?」
「うん。まあ、僕もよく知らないんだけどね」
天霧の質問にヨルベルトさんが答える。俺達は今ヨルベルトさんの私室に呼び出されて昨日の襲撃犯についての情報を聞いている。昨日は警察から色々と事情聴取をされていたが、頼むからこれ以上面倒事は起こらないでくれ。
天霧曰く、ギュスターヴ・マルローは昨日天霧達にお前らがエンフィールドのチームに入ると困る奴がいるから入るなと言ってから襲ってきたらしい。
しかし何故『獅鷲星武祭に参加するな』ではなくて『エンフィールドのチームに入るな』なんだ?つまりエンフィールド以外の人間なら良いって事だ。
つまりギュスターヴ・マルローの依頼主はエンフィールドに優勝されたら困る人物、エンフィールドが優勝した際に叶えたい願いの内容を知っている人物だ。
俺が思考に耽っている間にも話は進む。何でもギュスターヴ・マルローはアルルカントの生徒でかの『翡翠の黄昏』を引き起こしたメンバーの1人で、捕まっていない数少ないメンバーの為かなり有名らしい。
それで奴の能力は万応素の変換技術を使って生体模型を作る奴らしい。俺の影の竜と似たような力だが俺の力はある程度パターン化された動きしか出来ないのに対して奴の生み出す生体模型は本物の生き物のように自在に動かせるらしい。
しかし万応素はあらゆる事象・物質を変換するが基本的に固定する事は難しい。出来なくもないが長時間維持するのは不可能、つまりあの生物は1時間もすれば自然消滅する事になる。
(……ようするに回収する必要がないからテロには便利って事だな。それはわかったが……)
「兄上っ!」
いきなり大声が聞こえたので顔を上げるとリースフェルトがうつらうつらとしているヨルベルトさんに怒っていた。
「兄上、もう少し緊張感を持ってくれ。仮にも王宮が襲われたのだぞ?」
「襲われたのは王宮ではなく君達だろう?」
「だったら少しは可愛い妹を心配したらどうだ?第一、あんなにあっさり犯罪者を通すなんてここの警備はどうなっているのだ」
「いや、そこは警備を責めないでやってくれ。ギュスターヴとやらは銀河の研究所幹部と身分を偽っていたようだが、その際に使っていた銀河のIDは本物だったそうだ。止められるわけがない。僕だって無理だよ」
「統合企業財体のIDを?」
エンフィールドが眉を顰める。
「どうかしたのかい?」
「統合企業財体のIDは本社か直轄の人間にしか与えられません。本来ならそう簡単に手に入るようなものではないのですが……」
……つまりギュスターヴ・マルローの依頼主は銀河の関係者って事か?普通に考えたらそうなる。
そんな事を考えていると俺は飛行機で獅鷲星武祭について話をしていた時の事を思い出した。
あの時、エンフィールドは天霧達に『自分のチームに入るかの返答は旅行が終わるまでを期限とする。何かあって心変わりするかもしれない』と含みのある言い方をしていたが……
(……エンフィールドの奴は天霧達が狙われる可能性を考えていたのか?となるとギュスターヴ・マルローの依頼主は……)
「……八幡」
するといきなり裾を引っ張られたので顔を上げると全員が俺を見ていた。
「ん?どうしたんだ?」
とりあえず横で服を引っ張っているオーフェリアに尋ねてみる。
「……本当に聞いていなかったのね。警察から護衛をつけるように要請がきているからどうするって」
「あ、ああ。悪い聞いてなかった。それと護衛はいらん。つーかこの面子に護衛はいらないだろ?寧ろその分ギュスターヴ・マルローの捜索に回した方がいいだろ」
いたとしても盾にしかならないだろう。そんな護衛は邪魔なだけだ。
「比企谷の言う通りだな。奴の足取りは未だ掴めていないのだろう?」
「朝に報告を受けた限りではそうみたいだよ。ま、うちは警察もそんなに多いほうじゃないからなあ。軍隊でもあればもう少しやりようがあるんだけど」
「軍隊がない?」
「うん。有事の際は統合企業財体から兵を借りる事になっているんだ。ソルネージュとフラウエンロープからね。他にも統合企業財体の研究所にはそれなりの部隊が常駐しているはずだけど、こっちは火の粉がかかるまで動きはしないだろうね」
「……本当に傀儡国家」
「はっきり言うなあ君は。ただ、流石に賓客が襲われたというのに何も手を打たずってわけにもいかない。君達の邪魔にならないよう、適当に手を打たせて貰うよ」
「好きにするがいい。話はそれだけか?」
リースフェルトはそう言って立ち上がるが、ヨルベルトさんはそれを片手で制した。
「ちょっと待った。君と天霧君には話があるって昨日言っただろう?」
リースフェルトは天霧に視線を寄越すが、天霧が頷くとため息を吐いて再びソファに腰を下ろす。そして俺とオーフェリアを見て口を開ける。
「そういう訳だ。待たせるのも悪いから先に孤児院に行っていても構わないぞ?」
「……いや、その前に俺もエンフィールドに話があるんだが構わないか?」
「私ですか?構いませんよ」
「そうか。ではヨルベルトさん、すみませんが談話室を1つ貸してくれませんか?」
「いいよ。隣の部屋は空いてるから自由に使ってよ」
「すみません。んじゃ俺達は天霧とリースフェルトの邪魔にならないよう外に出ようぜ」
俺がそう言う天霧とリースフェルト以外のメンバーは頷いて外に出た。
「それで比企谷君、お話とは何でしょうか?」
所変わって、ヨルベルトさんの私室の隣の部屋にて俺が座っているソファの向かい側に座っているエンフィールドが話しかけてくる。
「んじゃ単刀直入に言うぞ。俺の勘違いだったら謝るが……ギュスターヴ・マルローの依頼主ってお前の父親じゃないのか?」
俺がそう聞くとエンフィールドは一瞬だけ驚いた表情を浮かべるも直ぐにいつもの笑みを浮かべる。それを見た俺は更に怪しんでしまう。
「何故その考えに至ったのでしょうか?」
「そうだな……天霧達の証言ではギュスターヴ・マルローは天霧達に『獅鷲星武祭に参加するな』ではなくて『エンフィールドのチームに入るな』と脅した事、この事からギュスターヴ・マルローの依頼主はお前に優勝して欲しくない、つまりはお前の願いを知っている人間という事になる」
エンフィールドの願いについては謎だが家族なら知っていてもおかしくないだろう。
「………」
「第二の理由としてはギュスターヴ・マルローが銀河の関係者として夜会に侵入した事だ」
おそらく俺だけではなく他の連中も薄々感づいてはいるだろう。とはいえまだ半信半疑といったところか。俺は疑り深いから遠慮なく聞くけど。
「そうですか。ちなみに何故父だと?私の母も銀河の人間ですよ?」
「簡単な話だ。手口がショボすぎる。もしもお前の母親……統合企業財体の最高幹部が動くとしたら問答無用でお前を殺しに行く筈だ」
俺はエンフィールドと協力関係を結んでからエンフィールドについて調べたがエンフィールドの母親は最高幹部で父親はその補佐だった。
最高幹部の人間が派遣した人間があんな程度の訳がない。実際にソルネージュの実働部隊、黒猫機関最強の『無貌』は桁違いの力を持った怪物だ。
銀河の実働部隊にも『無貌』クラスの怪物がいるに決まっている。最高幹部が動くなら犯罪者を雇わずにそっちを使うだろう。
そう思いながらエンフィールドを睨むと、エンフィールドはやがて観念したように息を吐く。
「……相変わらず素晴らしい慧眼ですね」
「……じゃあやっぱ……」
「ええ。確証はないですがおそらく父でしょうね。私が優勝したら父がというより銀河が困るからでしょう」
「だが何でお前の父親が?こういっちゃアレだが銀河にとってお前が優勝して困るなら、銀河は問答無用でお前をぶっ殺すと思うが?」
「おそらくですが銀河はまだ私の扱いをどうするか、それによってどんな影響が出るのか、損益分岐点を測っている段階でしょう。それに対して父はその間にケリを付けたいのだと思います」
なるほどな。確かに統合企業財体が動いていたらエンフィールドはとっくに墓の下だろう。
にしても……
「お前正気か?自分の所属する学園を敵にしながら星武祭で優勝を目指すって……何?お前自殺願望でもあんのか?」
統合企業財体、しかも自身の所属する学園の運営母体の統合企業財体と敵対するなんて馬鹿としか思えない。
俺はソルネージュの下に就いていないが敵対関係にはなっていない。しかし敵対関係になりそうなら逆らわずに下に就くだろう。この世界では統合企業財体は絶対の存在だし。
まあ俺はディルクからオーフェリアの所有権を奪った事でソルネージュからはかなり気に入られているから余程の事をしない限り敵対関係にはならないだろうけど。
「そう思われても仕方ないでしょう。しかしだからと言って私は自分の望みを譲るつもりはありません」
そう言ってエンフィールドは俺を睨んでくる。いつも笑顔を浮かべている人間の睨みというのは恐ろしい。若干ビビったし。
「まあお前がどんな道を選ぼうと俺には関係ないからな。一応聞くが馬鹿正直に挑むつもりじゃないよな?」
「もちろんです。アスタリスクに来て以降準備はしっかりと整えてきました。銀河が本気になったらどうにもなりませんが、本気になるまでの時間は稼げる筈です」
つまり銀河が本気になる前にケリをつけるつもりのようだ。しかし統合企業財体が相手ならいくら準備しても楽観は出来ないだろう。
そうなると……
「……って事はお前としては今回『銀河の人間がギュスターヴ・マルローという犯罪者を雇って星導館の学生を襲った』ってカードを手に入れるつもりだな?」
「ええ。そのつもりですね。そして比企谷君にも是非とも協力していただきたいのですよ」
……なるほど。とりあえず話はわかった。にしても統合企業財体と敵対してまで叶えたい願いって……どんだけヤバい願いを持ってんだこいつは?
まあそれはともかくだな……
「そうか。じゃあ報酬次第では受けてやっても構わないぞ」
ギュスターヴ・マルローの拘束に協力するのは奴が目障りだし構わないからな。
「ちなみに報酬に何を要求するのですか?」
「ああ。情報が欲しいんだが……『処刑刀』って名前の男を調べて欲しい」
俺は鳳凰星武祭が終わってから奴等についての情報を調べたが手がかり1つ掴めなかった。
俺個人の情報網で処刑刀についての情報を得られなかった以上、他の人からの協力を得たい。本来ならヴァルダについても調べて欲しいがアレはシルヴィの事情も話さないといけないから止めておくつもりだ。
「……聞いた事のない名前ですね。その人の特徴は?」
「奴はディルクの仲間で特徴は仮面を付けている事と『赤霞の魔剣』を所持しているくらいだな」
俺がそう言うとエンフィールドは目を見開く。
「『赤霞の魔剣』は封印処理をしてある筈でしたが……」
「詳しくは知らん。ただ奴が『赤霞の魔剣』を持っていたのは事実だ。っと、話を戻すぞ。奴がディルクの仲間である以上、天霧も奴と相対するかもしれん。そうなった場合に備えておいた方がいいと思うが」
俺としても奴の情報が手に入るかもしれないし、エンフィールドからしても自身の学園の序列1位を狙うかもしれない人間の情報を得られるんだ。そこまで悪くない取り引きだと思う。
エンフィールドは暫く考える素振りを見せてから口を開ける。
「……わかりました。ですが直ぐには結論を出しませんがよろしいですね?」
「もちろんだ。これで俺の話は終わりだがお前からは何かあるか?」
「では1つ。『蝕武祭』や『処刑刀』など危険な事に関わっていますが……比企谷君の目的は何でしょうか?」
まあ気になるよな。しかしだからと言って馬鹿正直に話す訳にはいかない。
だから俺は……
「俺の目的はただ1つ。オーフェリアとシルヴィが幸せに過ごせるようにする事だ。その為に障害となりそうな物を調べて排除するだけだ」
そう言って俺はソファから立ち上がる。これ以上はシルヴィの事情も話さないといけないから話すつもりはない。
「そうですか……わかりました」
エンフィールドがそう言ったので俺は軽く会釈をしてから部屋を後にした。
「……あ、八幡が来たわ」
部屋から出るとリースフェルトとオーフェリアが目の前にいた。
「おう。悪いな待たせて」
俺が謝ると不機嫌そうな表情をしながら近寄ってくる。
「いや、私の方も今終わったばかりだ。お前はクローディアと何を話してたんだ?」
「ん?いや別に大したことじゃない。ギュスターヴ・マルローについて少々話しただけだ」
嘘は吐いていない。メチャクチャ略したけどな。
「そういや天霧はいないのか?」
「まだ部屋から出てない。大方兄上と何か話しているのだろう。それより行くぞ」
そう言ってリースフェルトはスタコラ歩き出したので俺とオーフェリアは慌ててそれに続いた。
「おい待てよ。てか何でキレてんの?」
「……別に怒ってなどいない」
いやいや、明らかにキレてるだろうが。鏡を見ろよ。
「……どうせ天霧と結婚しろとでも言われたんだろ?」
ため息混じりに独り言のように呟くとリースフェルトは足を止めて驚き混じりに見てくる。
「……聞いていたのか?」
どうやらビンゴのようだ。
「いや。今のお前は星武祭で優勝してかなりの人気者だからな。統合企業財体が目をつけていてもおかしくはないだろ?だから先手をうって天霧と結婚するようにとでも言われたんだろ」
星武祭で優勝した人間の価値は大きく上がる。ましてリースフェルトは王女だ。どこの統合企業財体だってリースフェルトを押さえておこうと考えるに決まっている。リースフェルトを手に入れたらリーゼルタニアで手に入る利権が増える可能性もあるからな。
「……クローディアから聞いてはいたが本当に頭が切れる男だな。確かにその話もあった」
「……それでユリスは了承したの?」
オーフェリアがあっけらかんと核心を突いてきた。お前は本当に遠慮がないな。
「ば、馬鹿を言うな!私が綾斗と結婚だなんて……!」
リースフェルトはリースフェルトで真っ赤になって焦りだすし。天霧相手にツンデレは悪手だぞ?
てかそんなリースフェルトを見ているとからかいたくなってきたな。
悪戯心が湧き上がってきた俺はリースフェルトに話しかける。
「そうなのか?前にエンフィールドから聞いたんだが、お前にとって天霧は初めての相手なんだろ?」
俺がそう言うとリースフェルトは一瞬ポカンとしてから爆発的に顔を赤くする。
「な、な、な、な、何を言っているんだお前は?!」
真っ赤になりながら俺に突っ掛かってくる。気の所為か周囲に万応素が噴きあがっている。
「何を言ってるって……お前にとって天霧は初めての相手なんだろ?だからかなり信頼していると思っているんだが」
「そ、それは……た、確かに信頼しているが……!」
「だろ?だからお前と天霧が結婚してもおかしくないと思っただけだ」
実際ネット上では『天霧が誰と結ばれるか』という題目の賭けが行われているが大本命はリースフェルトだし。ちなみにオッズはリースフェルトが1.3倍、沙々宮が1.8倍、エンフィールドが3.4倍、刀藤が5.1倍となっている。やっぱり鳳凰星武祭のパートナーと幼馴染が桁違いに有利のようだ。ちなみに俺はエンフィールドに賭けている。
そんな事を考えていると……
「だ、だからって……!そもそも綾斗が初めての相手とは何だ?!私はまだ処女だからな!」
リースフェルトは怒り心頭の雰囲気を醸し出しながら俺に突っかかってくる。
……ヤバい。リースフェルトの奴とんでもない事を言ってやがる。少しからかい過ぎたか?
「……どうした?いきなり黙りこくって」
内心焦っているとリースフェルトは怒ったまま訝しげな表情を見せてくる。
「いや、そのだな……俺が言ったのはそう言った意味の初めてじゃなくて……『アスタリスクで出来た初めての友人』って意味なんだが……」
俺がそう言うとリースフェルトはピシリと固まる。冗談半分でからかってみたがリースフェルトが自爆するとは完全に予想外だった。
「なっ、なっ、なっ……」
暫くリースフェルトを見つめているとリースフェルトは再起動して口をパクパクし始める。
すると……
「……ユリスって意外とムッツリだったのね」
空気を読まない事を得意とする俺の恋人が爆弾を投下した。このバカ!お前は頼むから余計な事を言うな!
内心オーフェリアに突っ込んでいると……
「お、お、お、お前達……!」
リースフェルトの低い声が耳に入ると同時に周囲に炎が吹き出す。怒りの余り星辰力が制御出来なくなっているのだろう。これは……ヤバい。
「逃げるぞオーフェリア」
「……え?八幡……」
言うなり俺はオーフェリアを抱き抱えて近くの窓に手をかけて開いて飛び降りる。
それと同時に、
「咲き誇れ、六弁の爆焔花!」
大声が聞こえて背中に高熱を感じる。
重力に従って地上に降りながら上を見ると窓から巨大な花が現れて蕾を開いていた。危なかった。
「逃がすか!絶対に丸焼きにしてやる!」
安堵の息を吐いているとリースフェルトが俺同様窓から飛び降りる。王女とは思えないなおい。てか下着が普通に見え……痛え!
「……八幡」
オーフェリアがジト目で俺の頬を抓っていた。嫉妬するオーフェリアマジで可愛いんだけど?
そんな事を考えながら俺はオーフェリアを抱き抱えたまま孤児院に向けて全力疾走をした。
結局リースフェルトは孤児院に着くまでガンガン攻撃してきた。その際、割と危ない場面も何度かあった。
それとオーフェリアさん、走っている途中で『……下着が見たいなら私やシルヴィアがいくらでも見せてあげる』なんて言わないでください。