学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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長らくお待たせしました。

所用が立て込んでしまい遅くなりました


オーフェリア・ランドルーフェンはかつての居場所に帰る

「ようやく着いたか……って訳だからリースフェルトよ。そろそろ攻撃を止めろ」

 

貧民街の外れの高台にある教会に着いた俺は後ろを向いて、周囲に炎を撒き散らしているリースフェルトにそう言うと不機嫌そうな表情のまま炎を消した。

 

「……後で覚えていろよ」

 

「都合の悪い事は忘れる主義だから無理だ。それより入るぞ」

 

俺がそう言うとオーフェリアは不安そうな表情で俺を見てくる。今にも壊れてしまいそうなくらい儚く見える。

 

「……心配すんな。もしもお前を否定する奴らがいたら孤児院を吹き飛ばすから安心しろ」

 

オーフェリアとシルヴィを傷つける奴は俺の敵だ。誰だろうと容赦しないで……痛え!

 

「安心できるか!……それにシスターはオーフェリアか去ってからもいつもオーフェリアの事を心配していたから大丈夫だろう」

 

後ろを見るとリースフェルトが俺の頭をグーで殴っていた。王女様がグーで殴るなよ……

 

「……それが本当なら安心だな。でもオーフェリア、もしも入るのが怖いなら無理強いはしないからな?」

 

最優先はオーフェリアだ。オーフェリアが嫌ならこのまま帰るつもりだしな。

 

「……いいえ行くわ。自由になった以上逃げてばかりじゃいられないから」

 

「……わかった。んじゃ行くぞ」

 

俺がそう言うと3人で教会の敷地内に足を踏み入れた。

 

教会はレンガと木組みにふるい造りで、そこに繋がるように二階建ての屋舎が立っていた。思ったより大きい建物だが全体的にかなりくたびれている。

 

薄く積もった雪を踏みしめながら歩くと騒ぎ声が聞こえてきたので横を見るとまだ5歳にも満たないだろう子供が雪を投げ合っていた。

 

向こうも俺達に気付いたようでこちらに近寄ってくる。

 

「ひめさまだ!」

 

「それにオーフェリア・ランドルーフェンにひきがやはちまんだー!」

 

「ほんとだー!」

 

「すごーい!」

 

子供らは次々に高い声を出している。

 

「テンション高過ぎだろ……てかリースフェルト、こいつらオーフェリアを見て驚いているがこの孤児院にいた事を知らないのか?」

 

「ああ。こいつらはオーフェリアの件は知らない。今の孤児院で知っているのはシスター達だけだ」

 

まあ借金のカタとして徴集されたなんて子供が知っていい事じゃないからな。

 

「……なるほどな。んじゃさっさとシスターの所に案内を頼むわ」

 

「わかった。済まないがお前達、また後でな」

 

「えー!」

 

「せっかくひめさまにあえたのにー!」

 

子供らは不満そうな表情をしながらリースフェルトに文句を言っている。こいつ相変わらず人気だな。

 

「遊んでやったらどうだ?同伴者くらい俺1人で大丈夫だぞ」

 

「いや……シスターにはまだ報告をしないといけないからな。悪いがまた後でな。行くぞ」

 

リースフェルトはそう言ってスタコラ歩いていくので俺とオーフェリアもそれに続く。

 

 

 

 

リースフェルトに案内された俺達は教会の入口に到着する。扉を開けるとすぐに通路が屋舎に繋がっていた。

 

通路の方を見ていると屋舎の方からシスターの服を着た初老の女性がやって来た。

 

向こうも俺達に気付いたようだ。そして俺達、というよりオーフェリアを視界に捉えたシスターは驚きを露わにしている。

 

「オーフェリア?オーフェリアなの?」

 

シスターは若干震えた声をしながらオーフェリアに話しかける。

 

「……シスター・テレーゼ」

 

オーフェリアがそう言うとシスターは俺達に近寄ってから

 

「ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに貴女に迷惑をかけて」

 

言うなりオーフェリアを優しく抱きしめる。良かった、シスターを見る限り本気でオーフェリアの事を心配しているのが見て取れる。

 

オーフェリアは若干目を見開いている。多分心配されているとは思わなかったのだろう。こいついつも自分を卑下しているし。

 

「……別に。フラウエンロープが半ば無理矢理徴集したんだから仕方ないわ。私は別にシスターを恨んではいないわ」

 

「でも……」

 

「いいの。本当に気にしていないわ。それに……」

 

オーフェリアはそう言って俺をチラ見して、

 

「私は今、八幡と一緒に過ごせて幸せだから」

 

ハッキリと断言する。

 

(っ……!こいつ!いつも思うがハッキリと言い過ぎだバカ!)

 

一緒に過ごせて幸せだ、なんて言われたら嫌でも顔が熱くなってしまう。てかリースフェルトもそんな優しい目を俺に向けんな!

 

内心オーフェリアとリースフェルトにツッコミを入れている時だった。

 

「あ、シスター・テレーゼ!公現祭の準備の事で良いですかー?」

 

奥から若いシスター、俺達と同年代と思えるシスターがやってきた。

 

彼女は俺達、より正確にはオーフェリアを見て暫くポカンとしていたが、

 

「オーフェリア……オーフェリア!」

 

言うなりこっちに近寄ってきて、シスター・テレーゼ同様オーフェリアを抱きしめる。

 

「久しぶり……!ユリスから自由になったとは聞いたけど……また会えて嬉しい……!」

 

泣きながらオーフェリアに再開を喜ぶ言葉を告げる。

 

対してオーフェリアは自分が優しくされることに慣れていないのか、オロオロしながら俺とリースフェルトを見てくるが助けるつもりはない。

 

何せ久々の感動の再会だ。そこに横槍を入れる程、俺もリースフェルトも無粋じゃないからな。

 

そんな事を考えていると教会の奥からは若いシスターが更にやって来て、皆同じ様に泣きながらオーフェリアの元へ近寄ってきた。愛されてるなぁ……

 

結局オーフェリアが解放されたのはそれから20分も後の事だった。

 

 

 

 

 

「では改めて……初めまして比企谷さん」

 

オーフェリアとの感動の再会が終わると俺達はちょっとした食堂のような部屋に案内された。

 

右隣にはオーフェリアが、左隣にはリースフェルトが座っている。そして対面にはシスター・テレーゼが座って、横にはオーフェリアと再会した事で泣き腫らしたシスターが数人立っていた。

 

「どうも。比企谷八幡です」

 

俺が挨拶をするとシスターが楽しそうな表情をしながら話しかけてくる。

 

「で?君がオーフェリアを自由にしたのはユリスから聞いたけど、付き合ってるの?」

 

あ、やっぱり来たか。まあ俺達の年代の女子がする話と言ったら恋バナだからなぁ……

 

「ええと……はい」

 

俺が認めるとシスター達はキャーキャー騒ぎ出す。一応シルヴィとも付き合っているがこれは機密事項だから言えない。

 

「ちなみに、オーフェリアのどんな所が好きなの?」

 

え?ちょっと待って。いくら何でもそれは無理だ。何せオーフェリアが隣にいるし。

 

そう思っていると、シスター・テレーゼが笑いながら手を叩く。

 

「はいはい。比企谷さんも困っているからそのくらいにしなさい」

 

「はーい」

 

するとシスター達は不満そうな表情をしながらも引き下がってくれる。マジで感謝します。

 

しかし、

 

 

 

 

「……八幡、私の何処が好きなの?」

 

ブルータス、お前もか?!隣にいるオーフェリアが俺の服を引っ張りながら尋ねてくる。

 

するとさっきまで不満そうな表情をしていたシスター達もキラキラした目で俺を見てくる。今直ぐ答えろってか?!

 

正直言って今直ぐ逃げたいが、

 

「………」

 

オーフェリアの期待と不安の混じった目を見た以上逃げるのは無理だ。腹をくくれ、比企谷八幡!

 

「えっとだな……その、優しい所……」

 

最後は蚊の鳴くような小さな声だったが、この場にいる全員が聞き取れたようだ。若いシスターはキャーキャー騒ぎ出し、リースフェルトとシスター・テレーゼは優しい笑みを浮かべて俺を見てきて、オーフェリアは、

 

「……そう。私も八幡の優しい所が好き……」

 

頬を染めながらそう言ってくる。

 

ああ、もう!オーフェリアの事を優しいと言うのは簡単だが、オーフェリアが優しいから好きだと言うのはメチャクチャ恥ずかしいな!

 

クソッ……マジで死にたい。何でオーフェリアの為に来たのに俺が羞恥を感じているんだ?

 

内心羞恥に悶えていると、

 

「はいはい。からかうのはそれくらいにして仕事に戻りなさい」

 

シスター・テレーゼは再度笑いながら助け船を出してくる。

 

「はーい。じゃあまた後で」

 

するとシスター達は名残惜しそうにしながら部屋の奥に去って行った。マジでありがとうございます。

 

「ごめんなさいね。久しぶりにオーフェリアに会ったからか、いつもより元気みたいで」

 

「いえ。仕方ないですよ」

 

まあ向こうが久しぶりにオーフェリアと会ってテンションがハイになっても仕方ないだろう。俺も向こうの立場ならそうだろう。

 

それに恥ずかしいとはいえ恋バナはそこそこ経験している。何せクインヴェールで赫夜のメンバーに訓練をしている際には、休憩時間中にシルヴィの事について色々と聞かれるし。

 

「そう言ってくれると嬉しいわ。それと……」

 

言うなりシスター・テレーゼは真剣な表情をしてから頭を下げてきた。

 

「改めてーーー星武祭ではフローラの件でご迷惑をおかけしました。改めてお礼を申し上げます」

 

「あ、いえ。別に気にしないでください」

 

実際に気にする必要はないだろう。俺があいつを助けたのはオーフェリアを自由にする為だし。

 

とはいえここで馬鹿正直に話す程俺は馬鹿ではない。

 

「ただ……いくら星脈世代でも、あんな小さな子供を1人で行かせるのは危険かと」

 

これについては問題だろう。星脈世代が頑丈でもあんな小さな子供を異国の地に1人で行かせるのは些か危険だ。

 

「そうね……やっぱりシスターを1人付ければ良かったわ」

 

「でしょうね。てかリースフェルトよ、お前の兄貴に頼めばフローラ以外の人も連れてこれたんじゃね?」

 

「そういう訳にはいかないんだ。兄上は自由に出来る資金を余り持ち合わせていないのだ。星武祭のチケットは統合企業財体の伝手でどうにかなるかもしれないが、移動費や滞在費も無理だ」

 

「ちっ、統合企業財体もケチくさいな。ソルネージュは俺を法外な値段の契約金でスカウトしようとしてくる癖に」

 

移動費や滞在費なんて100万もしないで統合企業財体からすれば端た金だろう。そのくらい恵んでくれてもいいだろうに。

 

「そうなのか?ちなみにいくらぐらいなんだ?」

 

「あん?契約金は最大で5兆で提示されたな」

 

「何?!」

 

リースフェルトが驚きの表情を浮かべるが、大体こんなもんだろう。何せ俺は影の中に潜れて、その間はあらゆる干渉を受け付けないから他の統合企業財体の機密情報も簡単に盗めるし。

 

ちなみにオーフェリアも大体同じくらいだ。俺は諜報役として、オーフェリアは戦闘役としてとにかく勧誘を受けている。

 

しかしオーフェリアが断る度に、自分の就きたい仕事は俺の妻って言って断るのはマジで恥ずいから止めて欲しい。

 

 

閑話休題……

 

「まあその話は良いだろう」

 

金は好きだが、金に関する話は汚いから好きじゃないし。

 

「あ、ああ。そうだな」

 

リースフェルトが頷いたのを確認した俺が一息吐いた時だった。

 

「どうしたオーフェリア?」

 

オーフェリアが外をジッと見ていた。気になった俺はオーフェリアが見ている方向を見てみる。するとそこには、

 

「あれは……温室?」

 

窓の外に、こじんまりとしたガラス張りの建物があった。アレを見ていたのか?

 

そう思っているとシスター・テレーゼが話しかけてくる。

 

「ええ。オーフェリアがお気に入りだった場所よ。毎日毎日楽しそうに土を弄ったり、花の手入れをしていたわ」

 

「へぇ……」

 

「……何、八幡?そんな優しい目で見てきて」

 

「別に」

 

単純にその時のオーフェリアを見たくなっただけだ。今のオーフェリアも可愛いが当時のオーフェリアも可愛いんだろうな。

 

「……そう。ところでシスター・テレーゼ。今でもあの温室は使われているの?」

 

オーフェリアがそう尋ねるとリースフェルトが答える。

 

「ああ。今でも使われているぞ。お前がいた頃のように綺麗な花が咲いている」

 

「……そう」

 

オーフェリアは息を1つ吐いて再度温室を見る。これは興味を持っているな……

 

「そうなんだ……すみませんシスター。その温室、見てもいいですか?」

 

俺はかつてオーフェリアが気に入っていた場所に対して強い興味を持ったのでシスターに行っていいか聞いてみた。

 

「ええ。もちろん」

 

その言葉を聞いた俺は礼を言って横に座っていた2人と共に立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「あれ3人はもう来たんだ」

 

俺達が孤児院から外に出て温室に向かおうとすると、聞き覚えのある声が耳に入ったので振り向くと孤児院の入口に天霧がいた。

 

「よう。遅かったな」

 

「あはは、ちょっとヨルベルトさんとの話が長引いちゃってね。というか3人はいつ来たの?俺一応車で来たんだけど」

 

「ああ。さっきリースフェルトをからかったら、リースフェルトが怒ったから全力で孤児院まで逃げたからな」

 

あの速さは自動車の速度を軽く上回っていただろう。天霧と差が出るのは仕方ない話だ。

 

「……今度は何やったの?」

 

天霧はジト目で見てくるが、その目は止めろ。まるで俺がいつもやらかしているような目じゃねぇか。

 

「あん?いやリースフェルトにとって天霧は初め「それ以上言うと焼くぞ!」だ、そうだ。悪いが聞くのは諦めろ」

 

「あ、うん。そうするよ」

 

リースフェルトが真っ赤になりながら星辰力を噴き出すので言うのをやめた。いくらリースフェルトより強いからってこいつの炎をくらうのはゴメンだ。

 

「それが賢明だな、っと。じゃあ入るか」

 

適当に返しながら温室のドアを開ける。

 

中に入ると温室の効果がないのを即座に理解した。周りを見るとガラスはあちこちがひび割れ、補修した跡が大量にあり、全体的に古びた廃屋といった雰囲気だった。

 

しかし、

 

「綺麗な花が多いな」

 

冬の寒さが厳しいこの国において、外気を遮断している事はそれなりに重要なのだろう。温室の中は沢山の植物が生えていて、中心には愛らしい花が咲かせてある。

 

中に入るとオーフェリアは中心に向かって歩き出し、しゃがみ込み、花に顔を近付ける。

 

そして土を触りながら感慨深げに頷く。

 

「……いい花ね。ちゃんと可愛がられているみたい」

 

「どういう事だ?」

 

「……良い八幡?花は正直なの。愛情を注げば返すように綺麗に咲いて、逆に手を抜くと見捨てられるのよ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。病気でもない植物が枯れるのは人間に愛想を尽くしたからなの」

 

そう言われて改めて温室の中にある植物を見ると、枯れているものは見えない。

 

「つまり孤児院のガキ達は愛情を注いでいるって訳だな」

 

「そうね。……まさか私がもう一度この温室に入るとは思わなかったわ」

 

オーフェリアは微かに笑いながら花に触れる。しかしもう身体から瘴気は出ていないので花が枯れる事はなかった。

 

そうだ。俺はオーフェリアのこんな所が見たかったんだ。瘴気に悩む事なく普通の女の子として過ごす所を。

 

するとオーフェリアは俺の手を掴んできて、

 

「これも全部八幡のおかげ。……ありがとう」

 

小さい声でお礼を言ってくる。いつもの俺なら恥ずかしくて適当に流すパターンだろう。

 

だが、

 

「どういたしまして」

 

今回は流さないで礼を受け止める。オーフェリアに対して流したりしたら悲しむのは想像出来るし。

 

俺はオーフェリアを撫でながら、オーフェリアと一緒に足元にある綺麗な花に触れる。

 

温室の中にある花は俺の心の中と同じようにとても温かかった。

 


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