学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡とオーフェリア・ランドルーフェンはコンビを組む

『大変です。ギュスターヴ・マルローが動きました』

 

エンフィールドの言葉を聞いた瞬間、俺はブチ切れた。

 

あのテロリスト、オーフェリアの故郷で好き勝手した挙句に俺とオーフェリアのキスを邪魔するなんてマジで良い度胸じゃねぇか。

 

隣からはオーフェリアがどす黒いオーラを出している。どうやら考えている事は同じのようだ。

 

「……八幡」

 

オーフェリアが話しかけてくる。声の色は冷たく、目には殺気を剥き出しにしていた。

 

「……何だオーフェリア?」

 

「……潰しに行くわよ」

 

ただ一言、そう言った。しかし言葉の端々からは強い怒りと殺意を感じる。

 

それについて俺は文句を言うつもりはない。ぶっちゃけ俺も同じ気分だし。しかも相手はテロリスト。躊躇う必要なんて一切ない。

 

だから俺は、

 

「そうだな」

 

オーフェリアと同じように一言返す。それから空間ウィンドウに映るエンフィールドに話しかける。

 

「それでエンフィールド。具体的に何があったんだ?」

 

『はい。現在市街地にて体長1メートルくらいの生き物が数十匹現れたのです。見た目もドラゴンのような空想の生物である事からギュスターヴ・マルローの能力によって作られたものと思われます』

 

「被害については?」

 

『今のところ出ていません。何せその生物は市民を襲っていませんので』

 

襲っていない?じゃあ何でわざわざ……

 

「……そういう事か。奴の狙いはおそらく……」

 

『ええ。ギュスターヴ・マルローは貧民街を攻撃するでしょうね』

 

おそらく昨日の襲撃でギュスターヴ・マルローがリーゼルタニアにいる事や奴の目的についても、ソルネージュやフラウエンロープにも知られているだろう。

 

そいつらからしたら獅鷲星武祭に出るつもりの天霧達は目障りな存在だろうし、潰して欲しいと思っているだろう。

 

しかしギュスターヴ・マルローが市街地を攻撃したら統合企業財体も動かなくちゃいけない。それはギュスターヴ・マルローも避けたい筈だ。

 

だから奴の狙いは貧民街で、市街地に放ったのは囮と思われる。

 

リースフェルトにとって貧民街が大切な場所である。しかし統合企業財体からすればどうでもいい存在であるので、潰れそうになっても動かないに決まっている。だからこそギュスターヴ・マルローは貧民街を狙うと考えられる。

 

そして市街地に放った囮はリーゼルタニアの警備隊を引き付ける為の物だろう。攻撃をしなくてもドラゴンみたいな生物がいるなら警戒するに越した事はないし。

 

これは俺の勘だが、おそらく今の貧民街に警備隊はいないだろう。多分全員市街地の防衛に回っていると考えられる。

 

中々良い作戦だ。リースフェルトの弱点を突いて、尚且つ統合企業財体が動く可能性を下げるとは実に良い作戦だ。

 

この作戦に穴があるとしたら……

 

(俺とオーフェリアのキスを邪魔するタイミングで始めた事だな……)

 

正直言って今の俺とオーフェリアは本気でキレている。奴の計画を完膚なきまで叩き潰したいくらいに。

 

「わかった。俺とオーフェリアは今からギュスターヴ・マルローの捜索を開始する。お前らは市街地にいる人を守れ」

 

そう指示を出す。

 

『わかりました……っと、今ユリスと綾斗が王宮から出て行きましたね。おそらくギュスターヴ・マルローの捜索に出たのでしょう』

 

だろうな。リースフェルトの性格からして奴を潰したいと思うし、天霧はリースフェルトのストッパーみたいなものだからあり得ない話ではない。

 

それは理解した。しかし、

 

「じゃあエンフィールド。今からあいつらに伝言を頼む。もしも俺とオーフェリアが先にギュスターヴ・マルローを見つけたら貧民街の住民の避難誘導をしろ、ってな」

 

俺とオーフェリアが暴れて天霧達が巻き添えをくらう可能性が高いし。

 

『……わかりました。出来れば殺さないでいただけると助かります』

 

あいつから情報を得る為か?

 

「それは状況によるな。ぶっちゃけ約束は出来ない」

 

そう言った俺は空間ウィンドウを閉じてオーフェリアとアイコンタクトを交わして、部屋に備え付けられている窓から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、捜索の前に孤児院の守りを固めないとな……」

 

孤児院から出た俺は灯りの少ない貧民街を見渡しながらそう呟く。首都がある方は明るい。それは街明かりだけではなく、赤いランプも原因である。赤いランプの数からして相当の数の囮がいるのだろう。

 

そう思いながら影に星辰力を込めて影兵を生み出そうとした時だった。

 

「……八幡がやらなくていいわ。私がやる」

 

言うなり、オーフェリアの周囲から桁違いの星辰力が膨れ上がった。

 

その量は尋常じゃない。オーフェリアは周りに瘴気をまき散らさないように自身の力を制御出来るようになった。

 

その際にオーフェリアの持つ総星辰力の内7割から8割を失ったと聞いていたが……

 

(約8割を失った状態でも俺やシルヴィの数倍って……!)

 

冗談抜きで凄過ぎる。マジで最盛期のオーフェリアに勝てる人間なんてこの世にいないと断言出来るくらいだ。

 

そう思う中、オーフェリアは手を地面に当てる。瞬間、オーフェリアの足元、否、孤児院全体を包み込むような巨大な魔法陣が浮かび、

 

「孤毒の檻」

 

そう呟くと魔法陣が砕け散り、紫色のドームが現れて孤児院を包み込んだ。

 

「……これで大丈夫。この壁を破壊したかったら八幡やシルヴィア位の力を持った人間、もしくは天霧綾斗の持つ『黒炉の魔剣』のような特殊な力を持った純星煌式武装を用意する必要があるわ」

 

そ、そうか……うん。それならギュスターヴ・マルローがこの孤児院潰すのは不可能だろう。

 

「でも大丈夫なのか?中にいる人に瘴気の影響を与えないよな?」

 

「……大丈夫。ドームが完成すると同時に固定して空気と混じるのを防いだから触らない限り問題ないわ」

 

なら大丈夫だろう。わざわざあんな毒々しい色の壁を触る奴はいないだろうし。

 

「わかった。じゃあ行くぞ」

 

言うなり俺は再度地面に星辰力が込め、

 

 

 

「目覚めろーー影の竜」

 

そう呟くと自身の影が辺り一面に広がり魔方陣を作り上げる。そして黒い光が迸り魔方陣を破るゆうに20メートルくらいの大きさの黒い竜が現れる。

 

竜は現れると頭を下げてくるので俺は頭の上に乗ってオーフェリアに手を差し出す。オーフェリアは1つ頷いて俺同様に竜の頭に乗る。

 

オーフェリアが乗ると同時に竜は雄叫びを上げて大空へ飛翔した。

 

さて……ギュスターヴ・マルローよ。俺とオーフェリアのキスを邪魔した罰を受けやがれ。

 

 

 

 

 

 

竜の背中に乗ったオーフェリアは夜風を浴びながら周囲を見渡す。湖には巨大な月が揺れていて見通しは悪くない。

 

ギュスターヴ・マルローがいるとしたら、孤児院の近くかと思ったんだが……

 

その時だった。

 

「……八幡」

 

いきなりオーフェリアが背中を引っ張ってきたので、振り向くとオーフェリアがある場所を指差していた。

 

オーフェリアが指差した場所は、湖の端っこ、コンクリート造りの護岸になっている場所だった。

 

良く目を凝らして見ると1人の男がいた。そいつは……

 

「ギュスターヴ・マルロー……」

 

間違いない。昨日王宮を襲った男だった。漸く見つけた。

 

俺は殺意を確認しながら奴の近くに降りる。すると向こうは忌々しそうな表情を浮かべている。

 

「おやおや。目的の人物ではなく、ジョーカー2人が先に来ましたか」

 

それでも紳士然とした口調で話しかけてくる。こいつのこれは素なのか、余裕の表れなのか?

 

「よう。一応確認するがお前がギュスターヴ・マルローで良いんだな?」

 

もしも違う奴だったらマズイしな。まあさっき俺とオーフェリアの事をジョーカー呼ばわりした時点でギュスターヴ・マルローと確信しているが。

 

向こうも隠す気がないらしい。いやらしい笑みを浮かべてくる。

 

「それは答えるまでもなく解っていることかと思いますがねぇ」

 

その答えは目の前にいる男がギュスターヴ・マルローである事を意味している。

 

「そうか。んじゃ単刀直入に言うが、今ここで死ぬか、リースフェルト達から手を引いて捕まるか好きな方を選びな」

 

「それはどちらも勘弁して欲しいですな」

 

「だろうな。だがお前1人で俺とオーフェリアに勝てると?」

 

こいつもそれなりの使い手である事はわかるが、俺やオーフェリアに届くレベルではないだろう。昨日のキマイラを見る限り魔獣についてもそこまでの脅威ではない。

 

「いえいえ。そのような事は微塵も考えていませんよ。ですから私はここで失礼させて貰いますよ。そして……」

 

ギュスターヴ・マルローがそう言って指をパチンと鳴らす。すると瞬間、湖に直径30メートルくらいの魔法陣が浮かび上がった。

 

「貴方達には私の最高傑作をご紹介致しましょう」

 

しかしそれも一瞬で、魔法陣が光を放ち、湖面からまるで触手のように蛇の首が9つ現れた。

 

「……おいおい」

 

9つの蛇の首が生えた怪物はかなりの巨大だった。下半身は湖の中にあるが胴体だけで20メートルを優に超えている。

 

9つの蛇の首を持つ怪物。それはまさに、

 

「ヒュドラか?」

 

「まさしくその通りですよ。3年がかりで創り上げた究極の魔獣です」

 

「グオオオオオオ!」

 

ヒュドラが咆哮を上げると空気が震え上がる。それによって静けさに支配されていた貧民街からは悲鳴や怒号が聞こえてくる。まああんな怪獣が現れたら仕方ないだろう。

 

しかもここは貧民街に近い場所だ。向こうからしたら思い切り暴れられる場所とかなり面倒だ。

 

そう思った時だった。

 

いきなりヒュドラの首が1つ大きく開いた。そこに膨大な量の万応素が渦巻いているのが確認される。

 

(こいつまさか……!)

 

嫌な予感がする。

 

するとヒュドラは俺の予想に違わず、口から貧民街目掛けて光を放った。

 

それを見た俺は即座に竜に指示を出して、急速で貧民街と光弾の間に移動して、手に星辰力を込めて光の光弾を受け止める。

 

すると掌から爆発が起こり、周囲に煙が、俺の掌には痛みが生じる。煙が晴れてから掌を見ると若干の血が流れていた。

 

「おお。今のを食らってその程度のダメージとは。やりますなあ」

 

見ると眼下にてギュスターヴ・マルローが拍手をしていた。随分と余裕だな。怪我をしたとはいえお前を屠れる事には変わりないぞ。

 

そう思いながら俺はギュスターヴ・マルローに攻撃を仕掛けようとする。

 

しかし……

 

「……っち!」

 

それを遮るかのようにヒュドラは3つの首から貧民街に向けて大量の光弾を放ってくる。

 

それを無視出来ない俺は再度光弾の前に行き、防御の体勢を取る。

 

「それでは私はこれにて失礼します」

 

そんな中、ギュスターヴ・マルローは闇夜に消えた。あの野郎……後で潰す。

 

そう思いながら向かってくる光弾を防ごうとした時だった。

 

 

 

 

 

「……何八幡に攻撃しようとしてるのかしら?」

 

俺の後ろにいたオーフェリアがいきなり俺の前に立って、光弾が当たる直前に右腕を軽く振るった。

 

するとヒュドラが放った3つの光弾は弾かれて、2つは湖に当たり水飛沫を上げて、残りの1つはヒュドラの首の1つの根元に当たり吹き飛ばした。

 

今の俺にはヒュドラの光弾がボールで、オーフェリアの右腕がバットに見えた。

 

あれ程高密度の星辰力が入った光弾を野球のボールのように打ち返せるのはオーフェリアくらいだろう。

 

そう思っていると、

 

「………よくも八幡を……絶対に許さない。本気で殺すわ」

 

目の前にいるオーフェリアからドス黒いオーラを撒き散らしている。ヤバい……オーフェリアの奴ガチ切れしてやがる。鳳凰星武祭の時に葉山にキレた時と同じくらいキレてるし。

 

これは俺がいないとな……

 

ストッパーとしての役割を果たそうと覚悟した時だった。

 

「おい!さっきから凄い光が見えたが大丈夫か?」

 

後ろから声が聞こえたので振り向くと、炎の翼を広げているリースフェルトとリースフェルトに乗っている天霧がいた。残りの3人は市街地にいるのだろうか?

 

「いや大丈夫だ。すまんが奴は逃がしちまった」

 

「そうか……とりあえず奴が逃げそうな場所には心当たりがあるから綺凛に向かわせる。私達は4人で「……ユリス」な、何だオーフェリア?」

 

リースフェルトもオーフェリアから放たれるドス黒いオーラに気付いてビビりだす。しかしオーフェリアはそれに構わず、

 

「……この蛇は私が殺すわ。3人は住民の避難を手伝って」

 

殺意を剥き出しにしながらそう言ってくる。

 

「なっ?!お前1人でか?!」

 

「……ええ。大分力を失ったとはいえ、それでも充分殺せるわ。……八幡を傷付けたこの蛇は万死に値するわ」

 

オーフェリアはそう言ってヒュドラと向き合う。手からは瘴気を生み出し始める。確かにオーフェリアなら殺すのは可能だろう。

 

しかし……

 

「リースフェルト、天霧。俺はここに残ってオーフェリアのサポートをする。避難の手伝いはお前ら2人で頼む」

 

今のオーフェリアは少々危険だ。俺が近くにいた方が良いだろう。

 

リースフェルトもそれを理解したのかハッとした表情を浮かべてから、直ぐに頷いた。

 

「……わかった。オーフェリアを頼む。行くぞ綾斗」

 

「わかった。2人も気を付けて」

 

2人はそう言ってから近くの岸に下りて走り去っていった。2人が見えなくなると同時にオーフェリアが口を開ける。

 

「……何で八幡は行かなかったの?」

 

そう聞いてくるが答えは決まっている。

 

「今のお前、結構危ない感じがするからな。それに……俺の居場所はお前とシルヴィの横だからな。無茶し過ぎないようにお前を支えてやる」

 

そう言ってオーフェリアの横に立ってオーフェリアの手を掴む。

 

オーフェリアが危ない雰囲気を出しているなら俺の仕事はその横に立って気にかける事だから。

 

それを聞いたオーフェリアは目を見開いてから直ぐに頷き俺の手を握り返してくる。

 

「……そう。じゃあお願いしても良いかしら?」

 

「もちろんだ」

 

即答する。こんな事は当たり前のことだ。

 

息を吐いて前を見るとヒュドラが威嚇するようにこちらを見てくる。まさか神話に出てくる生物と相対する事になるとはな。

 

「そういや神話に出てくるヒュドラってどんな特性を持ってたっけ?」

 

「小さい頃に神話を読んだけど……覚えていないわね」

 

なら仕方ない。攻めながらヒュドラの特性について調べるか。

 

「そういやお前と肩を並べて戦うのは初めてだな。……分かっているとおもうが、全力で叩き潰すぞ」

 

俺がそう言うとオーフェリアは一瞬目を見開いてから小さい笑みを浮かべる。

 

「……そう言えばそうね。ふふっ、シルヴィアに良い土産話が出来たわ」

 

「そんなんな土産話になるとはな……」

 

俺とオーフェリアは互いに苦笑をしてからヒュドラを見据え、

 

 

「やるぞオーフェリア」

 

「ええ八幡」

 

互いの身体から大量の星辰力を辺りに撒き散らした。

 

 

 

 

今ここで最強の魔女と最強の魔術師のコンビが結成された。


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