「あれが……」
「うん。あれがマフレナの純星煌式武装『ライアポロス=タレイア』の固有能力の活性強化だよ」
俺がモニターを呆然と見ている中、シルヴィが教えてくれる。
現在俺は恋人のオーフェリアとシルヴィ、シルヴィのマネージャーのペトラさんと一緒にクインヴェール地下の特別訓練用ステージのモニタールームにてチーム・赫夜とルサールカの試合を見ている。
今のところ赫夜が優勢だ。何せ1人も欠けることなく、格上相手2人を倒したのだから。
しかし楽観は出来ない。2人を倒せたのは向こうが赫夜を舐めていたからだ。油断がなくなった上、マフレナの純星煌式武装で強化された以上ここから先はかなりの激戦となるだろう。
しかしシルヴィの取り引きを破棄したか。予想はしていたが厄介だな。
トゥーリアが残っているのは痛いが油断している内にモニカを撃破したのは大きい。これで向こうは阻害弱体化を使ってこないのだから。
以前フロックハートから活性強化されたミルシェの実力は鎧抜きの俺より強いと聞いている。それに加えて同じく活性強化されたトゥーリアとマフレナ、間違いなく危険だ。
「さて……油断している内に厄介な2人は撃破出来たし、負けんじゃねぇぞ?」
そう呟きながら改めてモニターを見た。
「悪いね、チーム・赫夜。仕切り直しだ」
美奈兎は目の前でそう言ってくるミルシェーーーより正確にはミルシェの瞳を見て戦慄をしてしまう。ミルシェの瞳には不気味な紺碧の輝きが煌めいていた。見るとトゥーリアとマフレナの瞳にも同じような輝きが宿っていた。
そしてマフレナのキーボードからは力強い音色が大音量で奏でられている。
(これが活性強化?!)
「まずは謝っとくよ。いくら『影の魔術師』に鍛えられれているからって舐めてたよ」
美奈兎が驚く中、ミルシェが口を開ける。紺碧の瞳には悔しさと憤怒が混じっていた。
「だけど、おかげでようやく目が覚めたよ!ここからは先は全力で叩き潰す!」
そう言ってギターから光の刃を顕現して切っ先を美奈兎に向ける。距離があるとはいえ、美奈兎には首に突きつけられたようにプレッシャーを感じてしまう。
(す、凄いプレッシャー……!でも!負けるわけにはいかない!)
そう強く美奈兎が決心すると同時だった。
ミルシェの足が地を蹴り、光刃を展開させたギターを持って突っ込む。しかし狙いは美奈兎ではなく。
『ニーナちゃん!』
美奈兎がクロエの能力を介してニーナに伝達した時には、ミルシェは既にニーナの方に向かっていた。
(速すぎる……!今まで見た誰よりも……!)
クロエからマフレナの使う純星煌式武装『ライアポロス=タレイア』の固有能力は活性強化で、強化されたミルシェは鎧抜きの八幡より強いと聞いてはいたが、これほどの速度を出してくるとは思わなかった。
ニーナとの距離が10メートルを切った時だった、
「わわっ……!王太子の牢獄!」
ニーナは慌てながら自然に仕込んだ設置型能力を発動させるが、
「遅いっ!」
ミルシェは足元に浮かび上がった魔法陣を見てから直前で回避した。信じ難いまでに疾い。単純な速度ならアスタリスク最速と評されている『天苛武葬』趙虎峰に匹敵するだろう。
「させませんわよ!」
それを見たソフィアはマズいと判断したのかニーナの援護に行こうとするが、
「それはこっちのセリフだ!こっから先は通行止めだ!」
トゥーリアがソフィアとミルシェの間に破砕振動波を放って地面を吹き飛ばし、ソフィアをニーナの元へ行く邪魔をする。
そして間髪入れずにトライデント型に刃を展開してソフィアに突きを放つ。
突きの速さにしろ、身体の速さにしろトゥーリアのそれも大幅に上昇している。トゥーリアの序列は20位とマフレナを除いたらルサールカでは一番下だが、活性強化されたトゥーリアは冒頭の十二人クラスの実力となっている。
対してソフィアはトゥーリアに背を向けるのは危険と判断して、ニーナの元へ行くのを諦めてトゥーリアを迎え撃つ事にした。それによってトゥーリアとソフィアの武器がぶつかり合って火花が飛び散る。
しかしそれも一瞬でソフィアは鍔迫り合いは危険とばかりに後ろに下がる。スピード型のソフィアの煌式武装はパワー型のトゥーリアの純星煌式武装とぶつかり合うのは悪手故だ。
トゥーリアもそれを理解しているので活性強化された肉体をフルに使ってソフィアとの距離を詰めていく。
(マズいですわね……!私の方は問題ありませんが……)
ソフィアはチラッと後ろを見ると、ミルシェはニーナとの距離を3メートルまで詰めていた。美奈兎もミルシェを追いかけているが速度に差があるので
後ろから柚陽とクロエが矢と光弾を放っているがミルシェは特に焦ることなく、叩き落としたりジャンプをする事で全て避けた。
すると美奈兎はミルシェがジャンプして動きが止まったので、ようやく追いついた。そして思い切り地面を蹴って、
「はぁぁ!」
右手のナックル型煌式武装に星辰力を込めて流星闘技をミルシェに放つ。
しかし……
「やるじゃん!でも甘い!」
ミルシェは空中で身体を捻って美奈兎の一撃を簡単に回避すると、美奈兎を蹴る事で加速する。向かう先は当然のようにニーナだ。
それを見たニーナは、
「く、女王の城「遅い!」……っ!」
防御能力を発動しようとしたが、その前にミルシェがニーナとの距離をゼロにしてギターを振るった。
その結果……
『ニーナ・アッヘンヴァル、校章破損』
ニーナの防御壁が顕現するよりも早くミルシェの斬撃がニーナの校章を破壊した。
「ちっ、アッヘンヴァルが落ちたか……」
モニタールームにて俺はミルシェが無双してアッヘンヴァルの校章を破壊したのを見て舌打ちをする。
「それにしてもミルシェの奴マジで強いな」
公式序列戦ではそこそこの強さと思っていたが、今のミルシェはマジで強い。
そう呟いていると、
「……八幡の方が強いわ」
いきなり制服の裾を引っ張られたので横を見ると、右隣に座るオーフェリアが頬を膨らませながらそう言ってくる。
「いやいや、今俺の強さは関係者ないからな?てかその仕草可愛いから止めろ。シルヴィがはぁはぁしてるぞ」
左隣に座っているシルヴィを見ると、目をキラキラしながらオーフェリアをガン見している。シルヴィの隣にいるペトラさん呆れてるし。
てかオーフェリアとシルヴィの間に俺がいなかったら、シルヴィは間違いなくオーフェリアに飛びついているだろう。
「ねぇ八幡君、その「場所は変わらないからな?」むー」
お前もそんな風に頬を膨らませるな。可愛いだけだからな?てか何でこんな空気をなっているんだよ?
呆れながらため息を吐きながら再度モニターを見る。
すると未だに激戦が続いている。ステージでは2つの戦いが繰り広げられている。
ステージの中央ではフェアクロフ先輩がトゥーリアと、ステージの端の方では若宮と蓮城寺、フロックハートの3人がミルシェと戦っている。
前者の戦いはフェアクロフ先輩は活性強化されたトゥーリア相手に押しているが、ステージの端にいるマフレナの援護射撃の所為で攻め切れていない。
そして後者の戦いはミルシェがフロックハートを叩こうとして、それを若宮と蓮城寺が止めようと躍起になっている。
(マズいな……ミルシェの実力からして3人じゃ長くは保たないぞ。早めに切札を切った方が良いな)
そんな事を考えていると、轟音と共にステージ上の戦いが動いた。
ただし、チーム・赫夜にとっては良くない方向にだが。
モニターを見ると、ステージにはとてつもない衝撃が走り、若宮の右腕のナックル型煌式武装が砕け散っていた。
そしてその近くに紺碧の輝きを宿した瞳を持ったミルシェがいた。
(っ、強い……!)
美奈兎は自身の右腕に装着していたナックル型煌式武装が破壊されるのを見ながらミルシェの強さに戦慄していた。
現在、ソフィアがトゥーリアとマフレナの足止めをしていて、美奈兎が柚陽とクロエの3人でミルシェと戦っているが手も足も出ないでいた。
対するミルシェは美奈兎の煌式武装が破壊されるのを見て笑みを浮かべると、直ぐに背を向けてリーダーであるクロエの元に走り出す。
「ま、待てっ!」
美奈兎は慌てて追いかけるも、活性強化の恩恵を受けているミルシェに追いつくのは無理だった。
柚陽が一度に複数の矢を放つもミルシェがギターを振るうと全て弾かれてしまう。
全て弾いたミルシェは改めてクロエに視線を向けてクロエに突っ込む。
(ダメだ……間に合わない……!)
ミルシェとクロエの距離が約5メートルに対して、美奈兎とクロエの距離は約10メートル。追いつくのは不可能だ。
一瞬負けを覚悟してしながら前を見るとミルシェがギターの振りかぶってクロエに向けて振るった。
しかし……
「させません!」
ギターが振り下ろされる直前、柚陽がミルシェとクロエの間に割って入り、
『蓮城寺柚陽、校章破損』
クロエの代わりに校章が破壊された。
その直後、
(後は頼みます……!)
美奈兎の頭の中に柚陽の声が響いた。それを聞いた美奈兎は奥歯を噛み締めながらも、ようやくミルシェに追いついて背後から壊れていない左腕のナックル型煌式武装で殴りつけた。
しかし、
「甘い!」
完全に死角からの攻撃にもかかわらず、ミルシェは身体を捻って回避行動を取る。
美奈兎の放った一撃はミルシェの脇腹僅かに掠ったものの、星脈世代のミルシェにとっては殆どノーダメージだった。
そして後ろに跳んでギターを構える。見るからに隙は見えない。
(やっぱり無理なのかな……?)
美奈兎の心に悔しさと絶望が現れたその時だった。
(美奈兎、あれをやるわ。準備なさい)
クロエの声が頭に響いた。
(え?で、でもあれは……)
(そう、あれは最後の手段よ。だからこそ今なの)
それを聞いた美奈兎は納得した。クロエの声には断固たる決意があったからだ。クロエは勝ちたいと思っている。
なら自分も諦める訳にはいかない。
だからこそ、美奈兎は
「わかった!やってみる!」
あえて声に出しながら、ホルダーからサーベル型煌式武装を起動した。
モニタールームにて、俺は若宮がサーベル型煌式武装をホルダーから取り出したのを見た。そうか、最後の手段を使うのか……
「……サーベル型煌式武装?なぜ彼女が?」
ペトラさんは訝しげな表情を浮かべている。
まあ今まで若宮はナックル型煌式武装しか使っていないからな。疑問に思うのは当然の事だ。
しかし直ぐにわかるだろう。
何故若宮が剣を持ったのか、そして……フロックハートの本当の能力を。
俺がそう思う中、若宮が動き出した。
美奈兎はサーベル型煌式武装を起動すると即座にミルシェに突っ込んだ。
対するミルシェは美奈兎が剣を使ってきたのが予想外だったのか一瞬ポカンとした表情を浮かべるも、直ぐに真剣な表情に変わり、
「これで終わりだ!」
ギター型純星煌式武装から顕現する光刃を美奈兎に向けて振るう。
しかし……
「なっ?!」
美奈兎はその一撃をサーベル型煌式武装で弾き返す。
驚くミルシェを他所に美奈兎は神速の突きを3発放つ。狙いは全てミルシェの校章だ。
「くっ?!」
ミルシェは苦悶に満ちた表情をしながらも全て防ぐ。しかし美奈兎はそれをわかっていたかのようにミルシェとの距離を詰めて剣を振るう。その剣技はまさにソフィアの剣技と言っても良い。
感覚と経験の伝達
それがクロエの第二段階の能力であり、今の美奈兎は一時的にソフィアの剣技を習得している状態となっている。
しかしこの能力にも欠点がある。クロエが伝達出来るのは技術だけで、専用の肉体は伝達出来ない。
美奈兎は体術を中心とした戦闘スタイルなので、当然美奈兎の肉体は剣を使うのには向いていない。
だから伝達されたソフィアの技術を使っている間、美奈兎の肉体に掛かる負荷は凄まじいもので、今現在、美奈兎の身体には引き裂くような痛みが走っている。
美奈兎は激痛に耐えながらもサーベルを振るう。その攻撃は全て神速の一撃であり、いつの間にか攻守が逆転されてミルシェは完全に防戦に回っている。
それもそのはず。単純なソフィアの剣技はソフィアの兄のアーネスト・フェアクロフや『疾風迅雷』刀藤綺凛に匹敵すると言われているのだ。
しかも美奈兎の場合ソフィアと違って生身の人間を傷付ける事も可能であるので、ソフィアの剣技は十全に使えるということだ。
『美奈兎急いで!これ以上は厳しいわ!』
『わかってる!だから……』
美奈兎はこれで最後とばかりに、ミルシェに向かって大きく踏み込み、渾身の力で斬りあげた。
「ぐううっ!」
ミルシェは苦悶の表情を浮かべながらもその一撃を受け止める。しかし先程まで一方的に攻められていたか、勢いが弱く、
「うわぁっ!」
そのまま後ろに吹き飛ばされた。今のミルシェは隙だらけだ。ここで追撃を仕掛ければ勝ちだろう。
しかし……
「ぐっ……!」
追撃を仕掛けようとした美奈兎は膝をついてしまう。ソフィアの剣技を使い過ぎて肉体が耐え切れなかったのだ。
それを見たミルシェの顔に喜悦の笑みが浮かび、それと同時に美奈兎に突っ込む。ミルシェは桁違いの速さで突っ込みながらギターを振り上げて美奈兎に振るおうとする。
その時だった。
「まだまだぁ!」
美奈兎は大きな声を無理矢理出して、内心痛みに悶えながらもサーベル型煌式武装をミルシェに向かって投げつける。
「無駄だ!」
ミルシェはそう言ってサーベルを弾く。弾いたサーベルはそのままステージの壁にぶつかり美奈兎の手の届かない場所に落ちる。
「これで終わりだぁぁぁ!」
ミルシェはそう言ってギターを振るってくる。それに対して美奈兎は、
「それはこっちの台詞だよ!」
そう言いながら袖の下に仕込んであった煌式武装を起動する。すると水色の刀身が現れて綺麗な剣ーーー『ダークリパルサー』が現れる。
それはクロエが八幡がリーゼルタニアに旅行に行っている時に八幡に注文を頼んだ物であり、万が一に備えてとクロエがサーベル型煌式武装と一緒に渡したものだ。
そして美奈兎は肉体から聞こえてくる悲鳴を無視して『ダークリパルサー』を振るった。未だにソフィアの剣技は伝達されている状態なので剣速は速い。
それに対してミルシェはギターで防ごうとするが……
「なっ?!」
『ダークリパルサー』の刃はギターをすり抜けてそのままミルシェの首を貫通した。
ミルシェの首からは一滴の血が流れはしなかったが……
「ぐぅっ……!あ、頭が……!」
ミルシェは苦悶に満ちた表情を浮かべながら美奈兎同様に膝をついて、ギターを手放してしまう。
『ダークリパルサー』は相手の体内に超音波を送る能力を持っていて、当たり所によって頭痛の辛さは違い、頭に近い場所ほど頭痛が激しくなる。頭に近い首を斬られたミルシェの苦痛は相当なものだろう。
「ミルシェ!」
「ミルシェさん!」
その様子を見たソフィアと戦っていたトゥーリアとマフレナは驚きの声を出しながらミルシェの元に向かおうとするが、
(この距離なら間に合わない……!)
美奈兎は最後の力を振り絞って、左腕に装着されているボロボロのナックル型煌式武装をミルシェの校章に突き出して……
『ミルシェ、校章破損』
その言葉を最後に意識を失った。