学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は家族に交際の許可を求める

「さ、自己紹介は後にしてとりあえず上がって上がって。うちのアホ亭主と馬鹿息子が迷惑かけて悪かったね」

 

お袋は俺と親父の鳩尾に拳を叩き込んだ後、笑顔でシルヴィとオーフェリアを家に招き入れる。

 

「い、いえ。別に気にしてませんから」

 

「……」

 

シルヴィは苦笑しながら手を振り、オーフェリアは無言で頷いてから家に入った。

 

それと同時に俺は腹に手を当てながらゆっくりと起き上がり、未だに悶絶している親父を放置して玄関に向かう。すると玄関に立っていたお袋が呆れたような視線を向けてくる。

 

「全く…久々に帰省したかと思ったら連れてきた客を放置してエロ本の話とは随分とふざけてるなぁ、八幡。後で謝っときなよ」

 

「それについてはマジで済まん」

 

お袋は口が悪いが、言っていることは紛れもない正論だ。客であるシルヴィとオーフェリアを蔑ろにしたのは論外だ。後でしっかりと謝ろう。

 

「わかってるならそれでいいわよ。あんたも入りな」

 

「ああ」

 

俺がそう言ってから家の中に入るとお袋もそれに続いて家に入ってドアを閉める。お袋も親父を放置してるよ。

 

内心親父に同情しながら久しぶりのリビングに入る。すると小町に案内されたシルヴィとオーフェリアがソファーに座っているので俺は2人の間に入る。

 

そして座って着ているコートを脱いでいると、お茶を運んでくるお袋と腹を悶絶している親父もリビングにやってくる。

 

席割りは俺達未成年4人が親父とお袋と向かい合う感じだ。

 

俺達全員がソファーに座ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。麦茶で良いかい?『孤毒の魔女』に『戦律の魔女』?」

 

お袋が笑顔で浮かべながら麦茶の入ったコップを俺達に渡してくる。

 

え?マジで?変装しているオーフェリアとシルヴィを1発で見抜いたの?

 

「は?お前は何を言っているんだ?」

 

親父は呆れた表情を浮かべるも、

 

「だって2人からは強者の匂いするからね。1人は八幡と同じくらい、もう1人は八幡より強い匂いがするから、その事から察するに『戦律の魔女』と『孤毒の魔女』だと思ったよ」

 

お袋は歯を見せながら笑みを浮かべる。しかし瞳には強者が持つ強い輝きを秘めているのがわかる。あの目は星露と同じ色をしていてかなり危険な匂いだ。

 

すると……

 

「流石は『狼王』、この程度の変装じゃバレちゃいましたか」

 

「……バレるとは思わなかったわ」

 

2人はそう言ってヘッドフォンを外すと、ピンクと白が目に映り、いつものシルヴィとオーフェリアが目に入る。

 

それを見た親父は呆気に取られるも直ぐに、

 

「え?は、はぁぁぁぁ「あんた、煩い」あ、はい……」

 

大声を上げようとしたが、お袋が釘を刺して直ぐに静かになる。今更だがうちのお袋怖過ぎだろ……

 

「ある程度の実力と良い目があれば見抜けるだろうさ。それにしても、八幡が家に人を連れてくるとはねぇ……」

 

「待てコラ。そんな風にしみじみと言うな」

 

「だってあんた中学まで1人もうちに招待していないぼっちだったじゃないの?」

 

「あー、まあそうだな……」

 

悔しいが否定出来ない。実際俺は自宅に1人も呼んだ事ないし。

 

「ほら見たことか。にしても初めて連れて来たのが世界の歌姫と世界最強の魔女とは完全に予想外だったよ」

 

お袋は楽しそうにカラカラ笑いながらシルヴィとオーフェリアを見る。それを見たシルヴィとオーフェリアは変装につかうヘッドフォンを横に置いてから姿勢を正して

 

「初めまして。シルヴィア・リューネハイムです。よろしくお願いします」

 

「……オーフェリア・ランドルーフェン……よろしく」

 

2人は軽く頭を下げて挨拶をする。対して親父とお袋も挨拶を返す。

 

「は、はい。八幡と小町の父親の比企谷修輔です!」

 

「八幡と小町の母親でそこのアホ亭主の妻の比企谷涼子だよ。よろしくねー」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

「そんな硬くなんなくても大丈夫だよシルヴィアちゃん」

 

「いえ。比企谷さんは「涼子でいいよー」はい。涼子さんは王竜星武祭を二連覇した偉大な先達ですから」

 

そう、お袋は現役時代、星猟警備隊隊長のヘルガ・リンドヴァルに続いて王竜星武祭を二連覇するなど冗談抜きで強い。

 

しかもお袋がアスタリスクに来たのは大学生になったからで、王竜星武祭は大学1年と4年の時の2度しか参加しなかったが、もしも高校に上がって直ぐにアスタリスクに来ていたら前人未到の三連覇をしたと言われているくらいだし。

 

今アスタリスクにいる学生でもお袋に勝てるのは星露とオーフェリアくらいだろう。

 

星露に鍛えて貰っている俺でも真の切札である影神の終焉神装抜きじゃ絶対に負けるだろう。

 

しかしそんなお袋が何で普通の会社員をやって、星武祭で本戦に1回出場と微妙な実績の親父と結婚しているのかはマジで理解出来ないが。まあその辺りは聞かないでおこう。野暮ってやつだ。

 

そんな事を考えていると、当の本人は笑顔で手を振る。

 

「私なんて再開発エリアでヤンチャしまくって警備隊に睨まれてたからねぇ。全然偉大な先達じゃないよ」

 

「だよな。歓楽街でお袋の名前は伝説だし。しかも警備隊隊長ともやり合ったんだろ?」

 

「そうそう。あいつメチャクチャ強くてさ。戦うと疲れるし、逃げるのも一苦労だったよ」

 

いや、笑顔で言ってるがヘルガ・リンドヴァル隊長と戦えたり、逃げ切れるって凄過ぎだろ?シルヴィも絶句してるし。

 

改めてうちのお袋の規格外っぷりを認識していると、今度はオーフェリアに話しかける。

 

「そんでオーフェリアちゃんもよろしくねー。私は王竜星武祭を2回しか出てなかったから、三連覇目指して頑張ってね」

 

お袋がそう言うと、オーフェリアは首を横に振る。

 

「……いえ。私は次回の王竜星武祭には出ないわ」

 

それを聞いたお袋は目を丸くして……

 

「え?そうなの?ひょっとして八幡が関係してるの?」

 

さも当たり前の様に聞いてくる。何があったかは知られていない様だが、オーフェリアが次の王竜星武祭には出ない理由は俺が関係していると確信している事が理解出来る。

 

「……ええ。私自身八幡と一緒にいる事が夢だから」

 

オーフェリアがそう言うとお袋は、

 

「ふーん。……じゃあ八幡」

 

いきなり気さくな雰囲気を消して、冷たい雰囲気を出し始める。それによって親父と小町はビビリまくり、シルヴィも少し気を引き締める。

 

名前を呼ばれた俺は負けるものかと、視線を返すとお袋が口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ話して貰おっか。シルヴィアちゃんとオーフェリアちゃんを連れて来た理由を。何か重要な話があるんでしょ?」

 

「……やっぱり解るか」

 

「何年あんたの母親やってると思ってるの?コミュ障のあんたがわざわざアスタリスクから遠い我が家に人を連れて来るって事はそれなりの理由があんでしょ?理由は薄々察してるけどあんたの口から話して貰うよ」

 

……やっぱりお袋には勝てる気がしないな。

 

しかし話さない訳にはいかない。そもそも俺が帰省した理由は2人との交際を認めて貰いに来たからだ。これについてはオーフェリアやシルヴィの口からではなく、俺の口から言わないといけない。

 

とはいえ緊張しているのは紛れもない事実だ。お袋は大雑把だが許してくれる保証はないからな。

 

そう思っていると……

 

(オーフェリア、シルヴィ……)

 

両手に温もりを感じたのでチラッと左右を見ると、最愛の恋人2人が優しい笑顔を見せながら左右の手を握っていた。

 

ああ、やっぱり2人の笑顔や手は温かくて気持ちが良い。この温もりを手放すなんて嫌だ。

 

そう判断した俺は息を一つ吐いてお袋と向き合う。そうだ、俺はこの2人とずっと一緒に生きていくと決めたんだ。先も長いのだからこんなところで緊張している訳にはいかない。

 

だから俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。俺は両隣にいるオーフェリアとシルヴィと結婚を前提とした付き合いをしている。今日はその件に関して許しを得る為に帰省した」

 

自身が帰省した理由は両親に告げる。

 

親父は予想外だったのか口を開けたまま動きを止めた。まあこれが普通の反応だ。俺も親父の立場だったらそうなっていただろう。

 

対するお袋は本当に察していたのか特に表情を変えずに麦茶を飲む。

 

そしてコップを置くと俺を見てくる。さっきまでの冷たい雰囲気は大分なりを潜めている。

 

「ふーん。2人と付き合っているんだ」

 

「……余り驚いてないんだな」

 

「そりゃガラードワースみたいにお利口さんが通う学園ならともかく、レヴォルフじゃ女数人引き連れてる男なんざ吐いて捨てるほどいるからね。でも何で2人と付き合う事になったんだい?あんた基本的に真面目だし、普通に1人の女性を選ぶタイプだろ?」

 

まあそうだろう。今は2人と付き合っているが、2人と出会う前は間違いなく複数の女性と付き合う事なんて頭に無かっただろう。

 

「そ、そのだな……2人に告白されて……」

 

「告白されて?」

 

ヤバい。肉親に自身の馴れ初めを語るのってクソ恥ずかしいな!マジで顔が熱くなってくる。

 

しかし交際を認めて貰う為にも包み隠さず話すべきだ。

 

「告白された後に、2人とも凄く良い人だったから……片方を切り捨てられずに……」

 

「ヘタレた結果両方の告白を受け入れたら、2人が了承して3人で付き合っている、と」

 

「ま、まあ……」

 

「あんた運が良かったわね。もしも1人が反対したら間違いなくドロドロだよ?」

 

まあ確かにな……実際、シルヴィとオーフェリアは重婚しても良いと言ったから平和に終わったが、もしも2人の内どちらか又は2人が反対したら問題になっていただろう。

 

しかし俺はどっちかを切り捨てる選択をしなかった事について後悔はしていない。何せ、今の俺は幸せなのだから。2人がいないなんて考えられないくらい幸せだ。そう考えるとあの時の選択は間違っていない時の信じたい。

 

「そうかもな。だから2人が了承してくれて良かったよ。それでその……」

 

2人との交際を認めてくれるのか、それを尋ねようとしたらお袋は再度麦茶を飲んでから俺を見てくる。

 

 

 

 

 

 

「……八幡。あんたはそれがどんなに荊の道なのか解っていてその選択を選んだんだよな?」

 

お袋は真剣な表情をしてそう聞いてくるが言っている意味はわかる。

 

2人の女性を選ぶ、それ自体も倫理的にアレだ。その上、その内の1人のシルヴィは世界の歌姫と呼ばれるように世界で最も有名な人間だ。

 

そんな彼女が男、それも他の女とも付き合っている男と関係を持っているなど知られたら、比喩表現ではなく世界が大きく変わるだろう。もちろん悪い意味で。

 

そうなったらシルヴィの評価が下がるのは当たり前で、関係を持っている俺やオーフェリア、下手したら俺達の家族にもとばっちりが来るだろう。

 

それは絶対に起こる事だ。今は表沙汰にはなっていないが、いずれ絶対にバレる。避けては通れない道だ。

 

しかし俺は……

 

「……わかっている。それでウチにも迷惑がかかるかもしれない事も充分に理解してる」

 

一言、そう返した。2人と付き合ってから俺はいずれ大変な事になると確信していた。

 

しかし……

 

「でも悪いな。解っていても俺は荊の道を歩みたい」

 

俺は大変な道だと理解しても、2人の内どちらかを切り捨てて、荊の道を避ける事は一度も考えた事はない。

 

何故なら……

 

「……俺はもう決めたんだ。オーフェリアとシルヴィの3人でずっと一緒に生きていくって」

 

だから……

 

「悪いお袋。この件に関しては譲れない。誰が何と言おうとも譲りたくないんだ」

 

そう言って頭を下げる。これでも無理なら土下座もするつもりだ。

 

「ふーん」

 

対するお袋からは視線を感じる。プレッシャーは無くなっているので少なくとも悪感情は持っていないと思うが……

 

そう思っていると……

 

「涼子さん達に迷惑をかける原因となる私が言うのも虫が良いかもしれませんが……認めていただけないでしょうか?」

 

「……お願い、します。私には八幡とシルヴィアが必要なのです」

 

両隣にいるシルヴィとオーフェリアも頭を下げてくる。珍しく敬語を使っている事からオーフェリアも本気である事を理解出来て、こんな時でも嬉しく思えてしまう。

 

暫くの間、そう思いながら頭を下げていると、

 

「……ふーん。どうやら本当に3人一緒に生きるつもりなんだ」

 

感心したような声が聞こえてくる。しかし頭は上げずにお袋の話を聞く。

 

「ここで八幡が私の質問に対して曖昧な返事をしたり、嘘を吐いてたら認めなかったけど……本気みたいだから認めないわけにはいかないねぇ」

 

そう言われたので俺達は思わずに顔を上げる。するとそこにはお袋のニカッとした笑みが目に入り、

 

 

 

 

「家の事は気にしないで好きに生きな。絶対に2人を悲しませんじゃないわよ」

 

そう言って俺達の交際を認めてくれた。それを聞いた俺は胸から込み上がってくる存在を理解した。そしてそれが嬉しさだという事は直ぐに理解出来た。

 

だから俺は……

 

「ああ。俺は2人を悲しませない。絶対に幸せにしてみせる」

 

力強く頷きながらそう返した。これは付き合った当初からの目標ではあるが、お袋に言われて改めて強く出来た。

 

そんな事を強く思っていると、

 

「3人ともおめでとう!」

 

小町がどこから用意したのかクラッカーを鳴らしてくる。紙吹雪が身体に当たるのを感じる中、オーフェリアとシルヴィも

 

「良かった……」

 

「……嬉しいわ」

 

2人は目尻に涙を浮かべながら微笑みを浮かべてくる。約束した以上絶対に幸せにしないとな……

 

するとお袋は俺から目を逸らしてオーフェリアとシルヴィを視界に入れると、

 

「シルヴィアちゃんにオーフェリアちゃん。息子をよろしく頼むよ」

 

そう言って頭を下げる。その仕草は厳かな雰囲気を醸し出して歳下にするような礼には見えなかった。

 

それに対してオーフェリアとシルヴィは……

 

 

 

「ええ(はい)、必ず」

 

同じように頭を下げた。

 

 

 

 

こうして帰省の第一目的であるオーフェリアとシルヴィの交際の認可は貰えた。

 

 


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