学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

129 / 324
比企谷八幡は人生最大のピンチを迎える

リビング、正確にはリビングにあるテーブルからは香ばしい匂いが漂っている。テーブルの上にはご馳走と言っても良い程の料理が所狭しと並んでいる。

 

そしてテーブルの周囲にある6つの椅子に人が座ると、我が家の首領たる俺の母親が、

 

「そんじゃ、義理の娘が2人も出来る事を祝って……乾杯!」

 

ハイテンションになりながらビールの入ったジョッキを掲げ祝会が始まった。

 

 

 

 

 

 

祝会が始まるとお袋はジョッキのビールを一気飲みする。時間にして約10秒。相変わらず酒を飲む速さは桁違いだな。

 

「八幡、おかわり」

 

そう言ってジョッキを突き出してくる。この酒豪め……

 

ため息を吐きながらジョッキを受け取ろうとした時だった。

 

 

「……私がやるわ。お義母さん」

 

その直前にオーフェリアが俺の前に手を伸ばしてジョッキを受け取り、そのまま冷蔵庫に向かった。

 

「おー、サンキューオーフェリアちゃん」

 

そして隣では……

 

「お義父様も一杯どうぞ」

 

シルヴィが笑顔で親父のお猪口に酒を注いでいた。

 

「い、いやどうも……はは」

 

親父はシルヴィにデレデレしながら酒を飲み始める。シルヴィに酌をして貰えているからデレデレするのは仕方ないが色目を使ったらしばき倒すからな?

 

「はい。彼女じゃないけどお兄ちゃんには小町がお酌しまーす」

 

そんな事を考えていると小町が笑顔で俺のグラスにMAXコーヒーを注いでくる。

 

「サンキュー小町」

 

そう言いながらグラスに注がれたMAXコーヒーを一気に飲む。うん、他人酌された飲み物は美味いな。

 

「いやー、気の利いた娘が2人も出来るとは思わなかったねぇ。絶対に手放すんじゃないよ?」

 

そう思っている中、お袋は火照った顔をしながらドスの効いた声を出してくる。

 

「言われるまでもねぇよ」

 

「はっ!それだけ強い口調なら問題ないな。ところでシルヴィアちゃんにオーフェリアちゃん。2人は馬鹿息子の何処に惚れたんだい?」

 

既に酔っていると思える表情をしながらお袋はオーフェリアとシルヴィに話しかける。待てコラ!祝会だからってそんな事を俺がいる前で話すな!

 

慌てて2人の方を向くが時すでに遅く、オーフェリアとシルヴィはお互いの顔を見合わせて、

 

「「優しいところ」」

 

同時に同じ事を口にする。

 

っ……!ヤバい。今まで2人には何度も好き好き言われてきたが、親の前で言われると恥ずかしい気持ちになるな……

 

「ほー!あんた優しいんだね。恋人2人に想われて良かったじゃん!」

 

「煩えよ。マジでぶっ飛ばすぞ」

 

「やってみろ馬鹿息子。アスタリスクに行ってからそれなりに強くなったみたいだけど、今のあんたじゃ私にはまだ勝てないよ」

 

そう言われて羞恥からカッとなっていた頭が冷静になる。悔しいが事実だ。今の俺じゃまだお袋には届かないだろう。

 

俺が息を吐いて怒りを収めるとお袋はカラカラ笑いながら口を開ける。

 

「ま、あんたも相当厳しい訓練してるみたいだし来年あたりには負けるかもね」

 

「そりゃそうだ。星露の訓練を受けて弱いじゃ話になんないからな?」

 

星露の訓練は実戦だけだがとにかく勉強になる。界龍にいる星露の弟子は手取り足取り教えて貰っているらしいが、ちょっと……いや、正直言ってかなり羨ましい。

 

すると、

 

「ちょっと待って八幡君!星露に鍛えて貰ってるの?!」

 

「……道理で最近ボロボロになっている訳ね」

 

あ……やべ。

 

後悔するも時既に遅く、両親に酒を注いでいた2人は俺に詰め寄ってくる。

 

「あ、いや、そのだな……」

 

「「八幡(君)?」」

 

俺が焦っていると2人は更に詰め寄ってくる。さて、バレた以上は話さないといけないが、どう説明したものか……

 

悩んでいる時だった。

 

「何?あんた今代の万有天羅に鍛えられてんの?うわ、ドンマイ。それ絶対あんたを強くした後に食べるつもりよ」

 

お袋は同情したような表情を浮かべてくる。

 

だろうな。普通に考えて他所の学園の生徒を鍛えるなんてあり得ない。それに俺は星露に鍛える条件として今シーズンの王竜星武祭の後に戦えと言われたし。

 

万有天羅は千年以上生きていて、戦闘を何よりも好む怪物だ。最終的に食われるなら止めておきたいが……

 

「ああ知ってる。それでも俺は強くなる為に星露に鍛えて貰うつもりだ」

 

ヴァルダや処刑刀と戦う可能性がある以上、強くなるに越した事はないし。これについては止めるつもりはない。

 

俺がそう口にするとシルヴィとオーフェリアは暫く俺を見てからため息を吐く。

 

「はぁ……こうなった八幡君は譲らないからなぁ……仕方ない。その事については止めないけど、危なくなったら直ぐに私とオーフェリアに連絡してね」

 

「……いざとなったら、制御を解除してでもあの女を殺すわ」

 

いや、まあ、そう言われるのは悪くはないが……オーフェリアよ。制御を解除して星露と殺し合いをするのだけは止めろ。どっちが勝つにしろ冗談抜きでアスタリスクが吹き飛びそうだ。

 

そんな恐ろしい未来を想像して冷や汗をかいている中、お袋は真剣な表情を見せてくる。

 

「あんたの実力からして今代の万有天羅はあんたの事を相当気に入っていると思うけど……悪い事は言わない。卒業したらアスタリスクを出て、アスタリスクや星脈世代に無関係な一般職に就いた方が良いよ。私もそうしたから」

 

「え?どういう事ですか?お義母様」

 

シルヴィがキョトンとした顔をしながら聞くと、お袋はビールを一杯飲んで、オーフェリアにまた注いで貰う。何でも良いが飲み過ぎだろ?もう6杯目だぞ?

 

呆れる中、お袋は嫌な表情をしながら口を開ける。

 

「私は王竜星武祭を二連覇した後、卒業後は歓楽街で用心棒でもやろうかと思ってたのよ。そんで卒業直前の時だったんだけど、先代の万有天羅に喧嘩を売られたんだよ。儂を滾らせろ、ってね」

 

どうやら先代の万有天羅も相当バトルジャンキーのようだ。

 

「そんで戦ったと?結果は?」

 

「負けよ負け。アレに勝てんのなんて今代の万有天羅かオーフェリアちゃんくらいでしょ。……まあ、でも何発か拳を叩き込んだからかあいつに気に入られちゃったみたいで去り際にこう言われたのよ。また儂を滾らせて貰うぞってね」

 

つまり目を付けられたのね……俺も目を付けられたし、うちの一族はそんな重い業を背負っているのか?だとしたら小町も危ない気がするんですけど。

 

「それを聞いた私は本能的に恐怖を感じたんだよ。そんでアスタリスクにいると万有天羅に関わる可能性が充分にあるってアスタリスクの外に出て普通の会社員になった訳」

 

「それは正しい判断だと思いますよ。基本的に万有天羅に関わってはいけないというのはアスタリスクの常識ですから」

 

そう、世間では万有天羅とオーフェリアに深く関わってはいけないという風潮が流れている。だから先代の万有天羅に目を付けられたお袋の行動は間違っていないと思うし、今代の万有天羅に目を付けられた俺も卒業後はアスタリスクから離れるつもりだ。

 

「なるほどな……それでお袋は同じ会社で働いていた親父と結婚した訳か」

 

俺は昔からお袋が普通の会社員である事や、言っちゃ悪いが王竜星武祭二連覇をしたお袋と、一度王竜星武祭本戦に出場したくらいの親父が結婚したのは疑問に思っていた。しかしまさか先代の万有天羅が関係しているとは完全に予想外だった。

 

「そうそう。多分あん時に万有天羅と会わなかったら、私は結婚しないで歓楽街で用心棒やっていて、あんたや小町は生まれなかったでしょうね」

 

「いや、俺や小町は生まれなかったかもしれないが結婚は出来たんじゃね?」

 

「無理無理。歓楽街で用心棒やるような女と付き合おうとする男なんて殆どレヴォルフの男だし。今はどうか知らないけど私の時代のレヴォルフの男は屑ばっかだから」

 

そう言われて俺は今レヴォルフにいる有名な男子生徒を思い浮かべる。

 

俺の前に序列2位の座にいたロドルフォはマフィアの首領をやってるイカれ野郎だし、元序列1位の荒屋敷の馬鹿は歓楽街最強の喧嘩屋だし、ディルクは言うまでもなく正真正銘の屑だし……うん、俺はやっぱりレヴォルフではマトモな方だな。

 

「まあマトモな男子は少ないな」

 

少なくとも俺が関わった事のある男子はマトモなのが1人もいない。

 

するとオーフェリアが……

 

「いいえ。八幡は優しくて素敵な男性よ」

 

そう言うなりオーフェリアは艶のある瞳で俺を見上げながらそう言ってくる。

 

「そうだね。八幡君は最高の男子だよ」

 

するとシルヴィも俺に人を魅了させる美しい笑みを見せてくる。2人の綺麗な表情を見ると胸がドキドキしてくる。

 

「そいつはどうも。お前らこそ最高の女性だよ」

 

今までそれなりに良い女は見てきたが、オーフェリアとシルヴィを上回る女性は見た事がないし、未来永劫2人以上の女性を見る事はないだろう。

 

すると……

 

「はっ!あんたが惚気るとはねぇ!恋ってのは恐ろしいものだねぇ」

 

お袋は楽しそうな声を出して更にビールを飲む。

 

……しまった。ついいつものノリでやっちまったよ。てか思い返すと恥ずかしい事を言ったな俺。

 

思い返してしまった俺は顔が熱くなって、折角用意して貰ったご馳走の味を感じられなくなってしまい、そのまま祝会は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後…

 

「お邪魔しまーす」

 

「……ここが、八幡の部屋」

 

食後のコーヒーを飲んだ俺達は一段落つくと、オーフェリアとシルヴィが俺の部屋を見たいと言ってきたので案内する事になった。

 

最初は恥ずかしいから断ろうとしたが2人の上目遣いに負けてしまい、断れなかった。俺やっぱり2人に弱過ぎだろ?

 

「まあな。とはいえ本くらいしかないつまらない場所だぞ?」

 

一応家具とかは残っているが、それを差し引いでも本棚とテレビ、机くらいしかない。これは一般的な男子からしたらかなり少ないだろう。

 

しかし2人は首を横に振る。

 

「ううん。昔八幡君が住んでいた部屋だもん。凄く興味があるよ」

 

「……確かにものは少ないわ。でも昔の八幡がどんな生活をしていたか解れて嬉しいわ」

 

「……っ!だからお前らは恥ずかしい事を言うな!」

 

「……別に恥ずかしい事を言ったつもりはないわ。そうよねシルヴィア?」

 

「うん。至極当たり前の事を言っただけだよ」

 

……そうかい。なら言っても無駄だろうな。マジで顔が熱くなってきた。

 

「……はいはい。とりあえず俺はお菓子でも用意するから適当に寛いでいてくれ。部屋に興味あるならいじってもいいから」

 

俺は2人の返事を聞かずに部屋から出て一階に向かう。とりあえず顔の熱が冷めるまで部屋には戻らないでおこう。

 

そう思いながらキッチンに着いた俺は戸棚から適当にお菓子を取り出そうとした時だった。

 

「あ、八幡八幡。あんたに渡すものがあるんだよ」

 

ビールの飲み過ぎからか顔を赤くしたお袋が笑みを浮かべながら俺に近寄ってくる。渡すもの?

 

「何だよ?まあくれるってなら有難く貰うが」

 

「まああんた達には絶対に必要なものよ。ハイこれ」

 

そう言ってお袋が渡してきたものは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴムだった。もちろん輪ゴムじゃない。主に夜に使用されるゴムだった。

 

「なっ?!お、お袋!」

 

「ちゃんと対策はした方が良いよー」

 

「いらねぇよ!こんなもん持ってたらムラっとしちまうだろうが!」

 

「何よー、ノリ悪いわねー。遠慮するじゃないわよ」

 

「って、おい!無理やりポケットに入れるな」

 

「あんたヘタレだからチャンスものにしなさいよ。じゃあねー」

 

お袋はニヤニヤ笑いながら千鳥足でその場を後にした。マジでどうすりゃいいんだよ?返そうにもお袋は受け取らないだろうし……

 

仕方ない。とりあえず後でお袋の隙を見て捨てとこう。

 

俺は内心ため息を吐きながらお菓子を取り出して階段を上る。それにしても、オーフェリアとシルヴィが子供を欲しがっている以上、いつか俺もオーフェリアやシルヴィとそういう事をするんだよなぁ……

 

そんな未来に対して顔を熱くしながら自室に入ると……

 

 

 

「「……八幡(君)。これは何かしら(かな)?」」

 

いきなりオーフェリアとシルヴィが冷たい目をしながら俺を見てくる。

 

そして手には『シル○ィア・リューネ○イムそっくり!美しき姫の痴態!』と表記された成人向けDVDがあった。

 

これはアレだ。アスタリスクに来る前に俺が持っていた物だ。

 

アスタリスクに行く際、一刻も早く総武中から離れたかった俺は家具などの必要な物はアスタリスクで買うとばかりに、碌に部屋の整理をしないで家を出て、挙句に今日まで一度も帰省していなかったのでそのまま残っていたのだろう。

 

マズい、よりにもよって本人にバレるとは……

 

内心冷や汗をダラダラかいていると、2人が近寄ってくる。思わず退がってしまうが、直ぐに壁にぶつかって逃げ場を失ってしまう。

 

どうしたものかと悩んでいると、

 

 

 

「……八幡。私のそっくり物は無かったけど、私には興味が無いの?」

 

先ずはオーフェリアがそんな事を聞いてくる。

 

「え?あ、いや、お前のそっくり物は余り売られてないか「じゃあもしもあったら買っていた?」……え?そりゃまあ買ったな……って、いや!俺は……!」

 

「……そう」

 

するとオーフェリアは頬を染めながら後ろに退がる。そして対称的にシルヴィが詰め寄ってくる。

 

「八幡君はまだ16歳だよね?何度も言ってるけどこういうのは18歳になってからだよ。それにこれって私のそっくり物だよね?」

 

シルヴィが頬を染めながらそう言ってくる。ここで馬鹿正直に言ったら俺殺されるんじゃね?

 

しかし嘘を吐いたらもっとヤバそうなので、正直に話す事にした。

 

「はい。そうです」

 

するとシルヴィは更に真っ赤になりながらそっぽを向き、

 

「……こんなDVDが無くても私が相手してあげるのに……八幡君の馬鹿」

 

そんな事を呟く。当然のようにシルヴィの呟きが耳に入った俺の顔は熱くなる。誰かこの空気を変えてくれ!

 

 

内心そう叫んでいる時だった。

 

「……八幡、何か落ちたわよ。ポケットに穴が開いているみたい」

 

オーフェリアがそう言ってきたので下を見る。すると本当にポケットに穴が開いていたらしく、ポケットからヒラヒラと地面に向かって落ちていくものが見えた。あれは……!

 

落ちている物の正体に気が付いた俺は慌てながら拾おうとするが……

 

「あ、私が拾うよ」

 

そう言ってシルヴィが地面に向かってゆっくりと落下する物を拾う。遅かったか……

 

自分の行動の遅さに悔やんでいる中、シルヴィは落とした物を見て……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、八幡君……こ、これって……」

 

真っ赤になりながら、さっき俺がお袋から貰ったゴムを見せてきた。

 

アレ?これって人生最大のピンチじゃね?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。