pipipi……
アラーム音が部屋に響き渡る。その音は徐々に大きくなっていくが遂に……
「う、う〜ん」
「……もう朝?」
2人の少女が目覚めてアラームのスイッチを切る事で無くなった。
同時にベッドにいる2人の少女はモゾモゾと起き上がる。
2人は少女でありながら全くタイプの違う2人であった。
1人は雪の様に真っ白な髪を持ち、今にも壊れてしまいそうな儚い雰囲気を出す美しい少女。
もう1人は明るい紫色の髪を持ち、見る者を元気にするような明るい雰囲気を出す可愛らしい少女。
2人の美少女ーーーオーフェリア・ランドルーフェンとシルヴィア・リューネハイムは目をアラームのスイッチを切ると目を擦りながら互いに向き合い……
「……おはようシルヴィア」
「うん。おはようオーフェリア」
朝の挨拶をする。シルヴィアは持ち前の明るい笑顔をオーフェリアに向けて、オーフェリアも微かにだが口に笑みを浮かべてシルヴィアに向けた。
「……それにしてもまだ眠いわ」
「じゃあもう少し寝ていて良いよ?朝ご飯は私が作るから」
「……別にいいわよ。そもそもシルヴィアはよく平気ね。昨日あれだけ私に抱きついてスリスリしてきたのに」
オーフェリアはそう言ってジト目でシルヴィアを睨むとシルヴィは額に汗を浮かばせながら苦笑いを浮かべる。
昨夜シルヴィアは一緒に寝ているオーフェリアが余りにも可愛くて思わずメチャクチャ甘えてしまったのである。
「あ〜、あはは……ごめんね。つい可愛くて」
「……その台詞、既に50回は聞いたわね」
オーフェリアは呆れた表情を浮かべながらため息を吐く。オーフェリア自身シルヴィアに甘えられるのは嫌いではないが、シルヴィアのスキンシップについては少々……いや、かなり激しいので少し自重して欲しいと思っている。
「……はぁ、まあ良いわ。とりあえず起きましょう。ダラけていては1日が終わってしまうわ」
そう言ってオーフェリアはベッドから起きて寝巻きを脱ぎ下着姿になってクローゼットに向かうとシルヴィアもそれに続く。
「うーん。でもさオーフェリア、今日だけは早く終わって欲しいよね?何せ……」
一息……
「今日は八幡君と会えない日なんだから」
不満がありまくりの表情をしながらそう口にする。
「……そうね」
するとオーフェリアもシルヴィアと同じように顔に不満を露わにしながらシルヴィアの意見に賛同する。
ここで出てきた八幡とは2人の恋人である比企谷八幡の事である。
比企谷八幡
オーフェリア・ランドルーフェン
シルヴィア・リューネハイム
この3人は恋人関係とかなり歪な関係であるが、3人はこの関係を気に入っている。
付き合い始めてから半年以上経過していて、初めは上手くやっていけるか全員が不安だったが、その心配は2週間もしないで吹き飛ぶなどして今は3人共幸せに過ごしている。
しかし彼は先日あった学園祭で処刑刀という男に左手を斬り落とされて入院する事になったのである。
そしてその際に左手に義手を装着する事になったであるが……
「……今日は義手を装着する日だから仕方ないわ。その分明日思い切り八幡に甘えましょう?」
今日は完成した義手を装着する為に1日かけて手術を行うので八幡と面会をするのが不可能なのだ。
「そうだね。でも今から憂鬱だよ。1日も八幡君と会えないなんて」
シルヴィアが嫌そうな表情を浮かべるとオーフェリアはシルヴィアに呆れた表情を見せる。
「………貴女ね。今はともかくアスタリスクの外に仕事に行く時はどうするの?」
「そうなんだよねぇ……八幡君と一緒にいるとどんどん好きになっちゃうから次アスタリスクの外に行く時は辛いかもね。というかさ、卒業したら2人とも私のボディガードに就職しない?」
「……?貴女卒業したら直ぐに八幡と結婚する、そして結婚する前には引退するって言っていなかったかしら?」
「まあね。でもこの前ペトラさんにそれ言ったら猛反対されちゃったから」
「……まあ向こうも貴女を手放したくないでしょうからね」
「一応交渉は続けるけど結構厳しいからね」
「……それなら私は卒業後シルヴィアの護衛をやるのも構わないわ。多分八幡もやってくれるだろうし」
オーフェリアは確信を持っている。自分の彼氏がこの事情を聞いたら躊躇いなく承諾する事を。
「そっか……ごめんね私の所為で」
「別に構わないわ。……私としては3人一緒に過ごせるなら、問題ないし」
オーフェリアが照れ臭いのかそっぽを向いてそう口にすると……
「あーもう!本当に可愛いなぁ!」
シルヴィはプルプル震えたかと思いきやいきなりオーフェリアに抱きつく。そして互いの頬を合わせてスリスリする。
「オーフェリアにそんな事を言われると凄く嬉しいな。大好きだよ」
「し、シルヴィア……!恥ずかしいわ……」
好意を隠す事なく甘えてくるシルヴィアに対して、オーフェリアは気恥ずかしそうに身を捩るもシルヴィアは離す気配を全く見せずに甘えまくる。
結局、シルヴィは10分以上オーフェリアから離れる事はなかった。オーフェリアは初めは離れて欲しいと思っていたが、5分くらい経った頃には仕方ないという考えが強くなってシルヴィアを抱き返したのだった。
「……買い物?」
「うん。八幡君の手術が成功した時にお祝いの品を渡そうと思うの」
リビングにてオーフェリアとシルヴィアは朝食を食べながらそんな話をしている。
「……そうね。確かに悪くない話だわ。良いわ、行きましょう」
「決まりだね。じゃあ今日は中央区のショッピングモールに行こうよ」
「……でも八幡の欲しい物って何かしら?」
2人は自身の恋人の欲しい物について考え始める。その表情は真剣さが見て取れるくらいだ。
「うーん。MAXコーヒーに本とか?」
「それじゃありきたり過ぎるわね」
「だよね……八幡君って本当に無趣味だからなぁ」
「それを言ったら私もそうよ。私の趣味なんて3人一緒に過ごす事以外ないわよ」
「まあ私も1番の趣味はそうだけど……」
2人はそう言ってからため息を吐く。2人の彼氏の八幡は基本的に趣味が少ない。2人とイチャイチャする時以外は基本的にMAXコーヒーを飲みながら本を読むくらいなのだから。
2人が八幡の無趣味について悩んでいる時だった。オーフェリアが手をポンと叩き……
「……そうだわ。こんな時は小町に聞くのはどうかしら?」
未来に出来る義妹の名前を口にする。それを聞いたシルヴィアもハッとした表情を浮かべる。
「そっか。小町ちゃんなら八幡君が喜んでくれるものを知ってるかもね。ナイスだよオーフェリア!」
言うなりシルヴィアはテーブルの上にある端末を手に取り空間ウィンドウを開き、未来の義妹に電話をかける。
すると10秒くらいしてから……
『もしもし。どうしたんですかシルヴィアさん?』
パジャマ姿の小町が空間ウィンドウに映り出す。
「あ、うん。実はさ八幡君の手術が成功した時にお祝いの品を渡そうと思うんだけど、八幡君余り趣味がないから渡す物を悩んでいるのね?」
『だから小町にアドバイスを?』
「うん。何か良い物ないかな?本とかMAXコーヒーとかじゃありきたりだから、ね?」
シルヴィアがそう尋ねると空間ウィンドウに映る小町は考える素振りを見せてくる。
『そうですねー。プリキュアのDVDBOXとかはどうですか?』
小町はそう口にする。しかしシルヴィアはオーフェリアと一緒に即座に首を振る。
「それは絶対にダメ。八幡君がプリキュアを見てたら妬けちゃうから」
「……そうね。私もそれは嫌だわ」
シルヴィアが即座に断るとオーフェリアも力強く頷く。
アニメのキャラとはいえ自身の恋人が他の女の子にデレデレする事はシルヴィアにとってもオーフェリアにとっても耐え難い話なのだ。
『あ、そっか。お兄ちゃんにとってのプリキュアはシルヴィアさんとオーフェリアさんですからね』
小町がそう口にするとシルヴィアとオーフェリアの顔に赤みが生まれる。理由は簡単、最後に八幡に抱かれた時、2人はプリキュアの格好をしている状態で抱かれたからだ。
「う、うん。そ、そうだね……あはは」
シルヴィアが誤魔化すように愛想笑いを浮かべると小町は察したように息を吐く。
『あー……そう言えば2人はプリキュアになってお兄ちゃんと一夜を過ごしたんでしたたっけ?』
「そ、そうだけど、そこは突っ込まないで欲しいな」
『はいはいご馳走様でした。まあそれは置いといて……兄が好きな物と言ったらMAXコーヒーと本とプリキュアですからねー。好きな人なら2人いますけど……もういっそ『プレゼントは私達っ!』じゃダメなんですか?』
「……それは退院してからやるつもりだから他の案を考えているの」
オーフェリアがそう口にすると小町の目が兄同様にドロドロと腐り始める。
『退院してからやるのは決定事項なんですね……』
「あー、うん。というか八幡君がやって欲しいって言ったから、ね?」
『何考えてるのさあの愚兄はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
すると小町は画面の向こうでフンガーと声を上げて暴れ出す。自分の兄がここまで欲望に忠実になっているとは思わなかったのだろう。
するとシルヴィアが口を開ける。
「待って小町ちゃん。確かに八幡君はやって欲しいって言ったけど、その前に私達が八幡君を愛したくて提案したの。だから八幡君をそんなに責めないで」
シルヴィアがそう口にすると小町は暴れるのをやめる。しかし目は未だにドロドロと腐っている。
『あー、はいはい。わかりました。すいません。……とにかく、プリキュアのDVDBOXが駄目で2人をプレゼントにするのが駄目なら思いつきませんね』
「そっか……わざわざ連絡してゴメンね?」
『いえ、電話をするのは良いですけど惚気るのは止めてくれませんかね〜?』
小町がそう口にするとシルヴィアはオーフェリアはキョトンとした表情を浮かべながら顔を見合わせて……
「ちょっと待って小町ちゃん。私達別に惚気てないよ?」
『いやいや。『八幡君を愛したくて』とか言ってる時点で惚気てますよね?』
「え?八幡君を愛したいなんて当たり前の事だから惚気話じゃないよ。ねぇオーフェリア?」
「……そうね。私達が八幡を愛するのは私達にとって義務のような物ね」
2人にとって恋人を愛する事は当たり前の事であるから惚気話をしたという自覚はない。2人がする惚気話は子供に聞かせられない内容も含まれているので小町には聞かせられない。
『……あ、はい。すみませんでした。失礼します』
すると小町はゲンナリした表情を浮かべながら通話を切った。空間ウィンドウが真っ暗になったのでシルヴィアも空間ウィンドウを閉じて端末をテーブルに置き……
「何で小町ちゃん、疲れた表情を見せたんだろう?」
「……さあ?」
目の前にいるオーフェリアと共に頭に疑問符を浮かべながら食事を再開した。
結局、朝食を食べてから適当にブラブラして買う物を決める事になった。
同時刻、星導館学園の食堂にて……
「はぁ……」
「どうしたんですか小町さん?」
「いつも元気なお前がため息なんて珍しいな。何かあったのか?」
「え……ああ、綺凛ちゃんにユリス先輩ですか。いえ、ちょっとお兄ちゃんについて少々」
「確か比企谷先輩は今日手術をするんですよね?それなら心配するのは当然ですよ」
「それもなんだけど、お兄ちゃん達はバカップルだなぁって改めて思ったんだよ」
「バカップル?オーフェリアとシルヴィア・リューネハイムの事か?何かあったのか?」
「さっき少々惚気話を聞かされたんですよ。……それもタチの悪い事に、向こうにとっては当然の事らしく惚気話をしている自覚がないんですよ」
「惚気話?そういえばあいつらはどのくらい仲が良いのか?以前オーフェリアと遊びに行った際に聞いた時は特に普通って言っていたが」
「いやいや、全然普通じゃないですからね?!付き合ってから1年もしないで300000回以上キスをしたり、実家に帰省した時は小町が寝ている部屋の隣で一線を越えたり、プリキュアのコスプレをしてお兄ちゃんを誘惑してからコスプレプレイをしたりと色々な事をしてますからね?!」
「っ……!は、はぅぅ……」
「ぶふっ……!げほっ!げほっ!ちょっと待て!今とんでもない事を言わなかったか?!」
「はい。ですが事実ですよ。それを知った挙句に惚気話を聞かされた小町の気持ちがわかりますか?」
「そ、そうか……まあアレだ。偶には愚痴を聞いてやるから元気を出せ。なあ綺凛?」
「きゅう………」
「……綺凛には刺激が強過ぎたようだな」
朝の星導館の食堂には疲れ果てている女子とその女子に同情の眼差しを向ける女子と気絶している女子の3人が何とも表現し難い空気を作り出していた。
次回、街で楽しい事や腹立たしい事が……?