俺は今人生最大のピンチを迎えている。
俺はアスタリスクに来てからは、公式序列戦で俺の前に序列2位の座にいたロドルフォや不動の1位のオーフェリアなどとと桁違いの相手戦った時や、王竜星武祭準決勝でシルヴィと戦った時、鳳凰星武祭の裏で処刑刀と戦った時などそれなりに修羅場をくぐり抜けてきたので、ちょっとやそっとの事では動揺しない。
しかし今俺の目の前で起こっている現実はちょっとやそっとの事ではない。
それは……
「は、八幡君……」
「……こ、これを持っているという事は……その、八幡はシたいの?」
目の前にはかつてない程に顔を真っ赤にしているシルヴィとオーフェリアがいた。
そしてシルヴィの白魚のような綺麗な指には夜の営みに必須のゴムがあった。
それは俺のポケットから落ちた物だ。その事からシルヴィとオーフェリアは俺がそういう意図を持っていると思っているだろう。
(クソがっ!何でポケットに穴が開いてんだよ!こんな事なら違うズボンを履けば良かったぜ!)
内心自分に毒づいていると、2人が俺に詰め寄ってくる。元々壁に寄り掛かっていた俺からしたら凄く密着してきてドキドキしてしまう。
「……これを持ってるって事は……そう考えていいのかしら?」
いやオーフェリア、それはお袋が無理矢理持たせた物であって俺自身が準備した物ではない。だから俺自身はゴムを貰うまで2人を抱く事を考えていなかった。
そう考えていると……
「……八幡君。八幡君が望むなら私は……いいよ?」
シルヴィが艶のある瞳を見せながら更に距離を詰めてくる。あと少し俺が前に動いたらキスをしてしまうくらい近い。
しかしどうしたものか……
正直に言うと2人を抱きたいという気持ちはある。オーフェリアにしろシルヴィにしろ2人とも凄く魅力のある女性だ。そんな2人と一夜を明かせるなんてまるで夢のような事だ。
だが、同時に恐怖を感じる。俺は初めてだ。もしも欲望に忠実になって2人を傷付けたら、と考えるとその先に行かなくてもいいと思ってしまう。
俺も鈍感ではないからオーフェリアとシルヴィは本気で俺に抱かれても良いと思っているのは理解出来る。
2人の要望には応えたい。でも2人を傷付けたら……
俺が目の前に示された二択の選択肢について悩むに悩んでいる時だった。
『お兄ちゃーん。お風呂が沸いたから入りたかったら入って良いよ〜』
ドア越しから小町の声が聞こえてきて、一度どちらの選択肢を取るかについて考えるのを止めた。
「あ、ああ。わかった。小町さえ良かったら先に入っても良いぞ?」
『んー。小町はまだお腹一杯だしお兄ちゃん達が3人で入っていいよー』
そう言われるとドアの外から小町の気配が遠ざかるのを察した。てか小町よ、お前今3人での部分を強調したよな?
そんな事を考えていると……
「………」
「………」
目の前にいるオーフェリアとシルヴィが真っ赤になりながらチラチラとこちらを見てくる。3人で一緒に風呂に入るのは日常茶飯事だが、今回は別だ。
今回は風呂に入る前にゴムの存在を知られたので、風呂に入る=夜の営みをする下準備という意味に思えてしまっている。
とりあえず俺は1人で入るからお前らは先に入れ
そう口にしようとしたら、その前に2人が俺の服の裾を摘んで……
「「八幡(君)、入りましょう(入ろ)?」」
ウルウルした瞳を見せながら、上目遣いで懇願してきた。
俺は風呂に入るとき基本的にオーフェリアとシルヴィの3人で一緒に入る。
そして風呂に入ってからの流れは……
①オーフェリアとシルヴィが自身らの身体を俺の身体に擦り付けられながら洗う。
②俺がオーフェリアとシルヴィの身体を洗う
③湯船の中心に俺が入り、オーフェリアとシルヴィが俺の前後に抱きつく。
④のぼせるまでイチャイチャする(前に抱きついた方はとにかくディープキスをして、後ろに抱きついた方は俺の耳をハムハムしたり首筋をペロペロしたりする)
って感じだ。
基本的に付き合ってからは毎日こんなやり方で風呂に入っている。
しかし今回は……
「ま、待たせたな。洗い終わったから先に風呂に入る」
「う、うん。じゃあ次は私が洗っていいかな?」
「え、ええ……」
自分の身体は自分で洗っている。しかもいつもと違ってオーフェリアとシルヴィの裸をガン見出来ない。何というか……見たら引き返せない感じがするからな。それは他の2人も同じなのかいつもと違って視線を感じない。
俺は湯船に入ると直ぐに視線をお湯に向ける。いつもなら恋人2人の一糸纏わぬ姿をガン見してエッチと注意されているが、今日は見れない。見たらヤバい気がする。
視線をお湯に向けているとシャワーの音が聞こえる。いつもなら特に気にしないが、今日に限っては艶かしく聞こえてしまう。
(クソッ!毎日している事だろ?!何で俺は緊張してんだよ!すんじゃねぇよ!)
内心毒づきながら自身を奮い立たせようとするも未だにドキドキしてしまう。
すると……
ピトッ
いきなり右肩に感触を感じた。チラッと横を見ると紫色の髪が見えた。紫色の髪の持ち主、シルヴィの肩が俺の肩に触れたのだ。
それを認識した瞬間、
「「っ!」」
俺とシルヴィは同時にピクンとしながら距離を取る。
「ご、ごめんね八幡君」
「い、いやこっちこそ」
お互いに謝ってしまう。いつものシルヴィなら湯船に入るなり抱きついてディープキスをしてくるが、今日に限っては肩が触れ合っただけで過敏に反応してしまう。
これは間違いなくゴムの存在を知られたからだろう。まさかゴム1つで普段と違う行動になるとは思わなかった。マジで恐ろしいな。
そう思っていると、
ピトッ
今度は左肩に感触を感じたので横を見ると白色の髪が見えた。白色の髪の持ち主、オーフェリアの肩が俺の肩に触れたからだ。
「「っ!」」
そしてそれによって俺とオーフェリアはさっきのシルヴィ同様ピクンと跳ねて距離を取る。
「わ、悪い」
「……いいえ。八幡は悪くないわ」
お互いに謝って視線を下に向ける。何でゴム1つでここまで空気が変わるんだよ?てかいつも見慣れてる2人の裸が気の所為か美しく見えたんですけど。
(それにしてもマジでどうしよう?さっきは小町が介入したから有耶無耶になったが、風呂から出たな間違いなく2人は抱くかどうかを聞いてくるだろう。その時に俺は2人に対してどう返事をしたらいいんだかわからない)
一時のテンションに身を任せたりしたら碌な事にはならないからな。しかしだからといって2人の要望を一蹴するのも躊躇ってしまう。
マジでどうしよう?
結局俺は20分間無言で湯船に浸かったが、決める事は出来なかった。
風呂から出た俺達はいつも着ている寝巻きに着替えて、寝室ーーー俺の部屋に向かう。しかしその間も……
「………」
「………」
「………」
全員無言のまま階段を上る。3人揃って無言ってある意味凄いな……
そう思いながら部屋に入ると、嫌でもベッドと机の上に置いてあるゴムに目が入ってしまう。ゴムは夜の営みをする際に必要な物で、ベッドは必要な場所であるからだろう。
さて、これからどうしよう?
①他愛の無い雑談をする
②本能に従って、2人をベッドに押し倒して大人の階段を上る
③無言でベッドに行き眠る
この中から選ばないといけない。
①は無難なアイディアだが却下だ。こんな空気の中他愛の無い雑談なんて無理だろう。話題が思いつかずに滑るのが目に見えている
②も却下だ。今の俺は2人を抱くか否かについて悩んでいる状態だ。自分で決心したならともかく、その場の雰囲気に流されて抱いたら間違いなく後で後悔するだろう。
そうなると③しか残っていないな。よしそうしよう。
そう判断した俺は無言でベッドに行こうとしたが……
「「八幡(君)」」
ベッドにダイブする直前に2人に話しかけられる。最愛の恋人2人に話しかけられた以上、残念だが無視する訳にはいかない。
「……何だ?」
だから俺が返事をすると、2人は頬を染めながら近寄ってきて……
「……さっきは小町が介入したから有耶無耶になったけど、八幡の意見を聞かせて欲しいわ」
「……うん。八幡君はどうしたいの?」
あ、やっぱり聞いてきますか。2人に聞かれた以上答えないとな。だから俺は……
「したいという気持ちもある。……が、無理してまでするつもりはない」
今の自分の気持ちを噓偽りなく話す。すると2人はそれを聞くと同時に徐々に優しい顔を見せてくる。
「そっか。八幡君は優しいね」
「は?こんなの当たり前だろ?わざわざ言われることじゃねぇよ」
「……そう?いつも私達の要望を聞いて、自分は後回しにする。そして私達の事を最優先に気遣う貴方は優しいわ」
「ちょっと待てオーフェリア。いきなりどうし「でも……」うおぃっ?!」
いきなりベッドに押し倒された。上を見ると2人が艶のある瞳を向けてくる。
いきなりどうした?そう言おうとしたら、
「んっ……」
いきなり唇を奪ってきた。毎日している筈のキスなのに、ゴムの一件もあって凄くドキドキしてしまう。
予想外の一撃にドキドキする中、オーフェリアは俺から唇を離して俺の耳に顔を寄せて、
「でも八幡、貴方にとって最優先の事は私とシルヴィアかもしれないけど、私達にとって最優先の事は八幡、貴方の事なの」
すると、
「八幡君がしたいなら私達の事を気遣う必要なんてないんだよ?私達は八幡君になら何をされても良いし、八幡君が相手なら傷付くなんてないんだから」
言うなりシルヴィも反対の耳に顔を寄せてそんなことを囁いてくる。破壊力が凄い……そんな事を言われたら……
【そうそう。お前は本能に従ってりゃいいんだよ】
出たな。俺の中の悪魔よ。かつてシルヴィの裸を見るように唆した悪魔で、結果的にシルヴィに告白されるきっかけを作った悪魔。
【よく考えてみろよ八幡。2人は前からお前にメチャクチャにされたいって言ってたんだぜ?ならメチャクチャにしてやれよ】
いや、そうは言われても……てか天使はどこに行ったんだ?まだ出てきていないが。
【あん?天使なら邪魔になると思ったから先に影神の終焉神装を使ってぶっ飛ばしておいたぜ?】
おぃぃぃぃ!よりによって俺の最終奥義を使ったのかよ?!悪魔の奴はオーバーキルが好きなのか?!てか天使完全に死んだんじゃね?
【残念ながら死んでねぇよ。殺す直前で逃げられたよ。あそこで殺せりゃ八幡は本能に忠実になったのによ】
よくやった天使よ。とりあえず生きているなら万歳だ。後悪魔よ、天使を殺すなよ?
【はぁ?!何でだよ?!天使が死ねばお前は本能に忠実になるんだぞ?!】
それがダメなんだよ馬鹿。本能に忠実になってみろ。アスタリスクを卒業する前にオーフェリアとシルヴィをお母さんにしちゃうからな?
いいか、殺すなよ?絶対だからな?
【え?それってフリ……】
違うからな?!冗談抜きで殺すなよ?!フリじゃないからな?!
【ちっ。……まあ良い。それは後だ。それより今は2人の事についてだよ】
ちっ、覚えてやがったか。
【話を戻すと向こうが望んでいるんだぜ。寧ろここで2人の要望をシカトする方が2人を傷付けるんじゃねぇよ?】
そ、それはそうだが……
【な、偶には素直になれよ。お前はいつも2人が望むことをしてやってんだし、偶には自分に対して素直になってもバチは当たらねぇよ】
………
「……いいのか?」
俺がそう口にすると2人がキョトンとした表情を俺に見せてくる。2人がそんな表情をするなんてマジで珍しい。
「素直に……自分の本能に従っても良いのか?」
すると2人は一瞬だけハッとした表情を浮かべてから……
「「勿論」」
優しい笑顔で肯定してくれた。言質は取った。ならば問題ないだろう。
それを確認した俺はベッドから起き上がり、電気を調整して薄暗くしてから、
「きゃっ……んっ」
「ちゅっ……いきなり大胆ね」
ベッドに2人を倒して、覆い被さりながら2人の唇にキスをする。自分から、それも何も言わずにキスをするのは初めてだ。
しかし2人は嫌がるような素振りを見せてこない。その事に内心安堵しながら口を開ける。
「じゃあ……するぞ?」
俺がそう言うと2人は艶のある表情をしながら蠱惑的な笑みを浮かべてくる。
「……ええ。好きにして」
「……初めてだから、優しくお願いね?」
「……ああ」
俺はただ一言だけそう言って2人の着ている寝巻きに手をかけた。
この日俺達は遂に精神的だけではなく、肉体的にも繋がった。初めてだから緊張はしたが、2人とも最後まで嫌がる素振りを見せずに笑顔で俺を受け入れたのが何よりも嬉しかった。
そして今日を境に俺達3人の絆は何人にも犯されないくらい強固な絆と化した。
同時刻……
『やぁ……は、八幡……んあっ!』
『は、激し……君……んんっ……あぁん!』
「な、ななな、何やってんのあの3人は?!これじゃ小町全然眠れないじゃんバカー!!」