学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は恋人2人と学園祭に参加する

 

 

 

 

学園祭初日の朝……

 

ベッドに置いてあるアラームが鳴り出すので俺は鬱陶しげにアラームを止める。

 

そしてうとうとしながら起き上がると同時に……

 

「んっ……もう朝?」

 

「うーん。まだ眠いな」

 

俺の恋人のオーフェリアとシルヴィが一糸纏わぬ姿で俺と同じように身体を起こす。お前らは凄い眠そうにしているが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自業自得だ。大体学園祭の前日に2人して搾り取ってんじゃねぇよ?」

 

昨日ベッドに入ったら、俺は間髪入れずに2人に押し倒されてからなすがままになってそのまま搾り取られまくった。

 

「うっ……だ、だって……」

 

「……一度一線を超えたから我慢しなくても良いと思ったら、つい……」

 

2人はバツの悪そうな表情を浮かべてくる。全くこいつらは……そんな顔をされたら怒れねぇよ。

 

「……もう良い、謝るな。俺も後半はテンション上がってノリノリだったし連帯責任って事にするぞ?」

 

てか後半は完全に俺が主導権を握って2人を泣かせたし、寝不足の一番の原因は俺な気がする。

 

「う、うん」

 

「……ごめんなさい」

 

2人は若干バツの悪そうな表情のままだが、俺の意見に対して異論はないようだ。

 

「なら良し。んじゃ早く飯食って学園祭を回るぞ」

 

そう言って俺はベッドから起きて着替えようとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ぇ!」

 

急に腰に痛みを感じてバランスを崩してしまう。やっぱり1日に4回はやり過ぎだな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや学園祭はどんな感じで行くんだ?」

 

朝食の席にて、俺はフレンチトーストを食べながらシルヴィに尋ねる。

 

「うーん。六学園全部回るのは絶対として……2人は去年どうだったね?」

 

シルヴィはそうやって聞いてくるが……

 

「……私は去年は特に興味なかったから家で過ごしていたわ。八幡は?」

 

「レヴォルフのカジノに顔を出したくらいで殆ど参加していないな」

 

去年はまだオーフェリアやシルヴィと付き合ってなかったし、わざわざ混雑している場所に行きたいと思わなかった。

 

「そっか。じゃあ今年は忙しくなると思うけど大丈夫?」

 

「……問題ないわ。3人ならどんな事も苦痛じゃないわ」

 

「同感だな。俺はお前ら2人と行ってみたいし。でも俺らは碌に回ってないからエスコートを頼むわ」

 

俺やオーフェリアみたいなディスコミュニケーションのヤツが先導したら間違いなく滑る自信がある。それならシルヴィに任せた方が合理的だ。

 

「任せて。色々とプランを考えてるから」

 

「なら安心だ。ちなみにだが、どんな順番で回るんだ?」

 

「予定としては初日にガラードワースとアルルカント、2日目に星導館と界龍、3日目にレヴォルフとクインヴェールかな?」

 

「……なるほどな。あ、初日にガラードワースなら行く前に商業エリアに寄っていいか?」

 

「商業エリア?別に良いけど何で?」

 

「ほら、この前の帰省の時にガラードワースの失禁コンビと揉めたじゃん。あん時の件で色々あるからな、詫びの菓子でも買おうと思って」

 

以前フェアクロフさんと話をした時にはオーフェリアがブチ切れる前に止めて欲しいと頼まれた。しかしにもかかわらず2度も止められなかった以上詫びは必要だろう。だから菓子折りでも買って詫びに行くつもりだ。

 

するとオーフェリアが申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「……ごめんなさい八幡。私が怒った所為で、八幡が謝る事になるなんて」

 

そう言って俯く。そんなオーフェリアは見たくないので俺はオーフェリアの頭を優しく撫でる。

 

「気にすんな。お前は俺の為に怒ったんだ。やり過ぎとは思ったが手を下してないから怒ってねぇよ。だからそんな顔は止めろ」

 

折角自由になったんだ。そんな悲しげな表情ではなく可愛らしい笑顔を見せて欲しい。

 

「……んっ」

 

オーフェリアは小さく頷いてから顔を上げる。顔には未だに申し訳なさそうな色が残っているがさっきよりはずっとマシな表情だろう。これならいつも通りに戻るのも時間の問題だろう。

 

そう思いながら俺はオーフェリアの頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それとシルヴィ、2日目についてなんだけど、参加したいイベントがあるんだが」

 

3分後、オーフェリアがいつもの調子に戻ったので朝食を食べるのを再開する。

 

「八幡君が?珍しいね。何のイベント?」

 

「ああ。界龍のイベントなんだが、星露の弟子と戦うやつ」

 

「あー、確か美奈兎ちゃん達の為に『覇軍星君』に挑むんだっけ。良いよ良いよ。私もアスタリスク最強の男子2人の戦いは興味あるし」

 

学園祭のイベントで奴のデータが手に入るなら御の字だ。機会があるなら戦っておきたい。

 

「……それなら私も参加するつもりなのだけど良いかしら?」

 

「オーフェリアは確か……『魔王』に挑むんだっけ。……ほどほどにね」

 

オーフェリアの参加の意図を思い出してシルヴィは苦笑を浮かべるが、同感だ。殺しはしないと思うが明らかに叩き潰す気満々で結構怖い。

 

「安心しなさい。殺さないから」

 

「「いや、それは当然だからな(ね)?」」

 

んなもん当たり前だ。てか殺すつもりで参加する学園祭ってどんな学園祭だよ?

 

「頼むから殺すなよ?絶対だからな?」

 

俺が念を押すように頼むとオーフェリアは首を傾げて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……八幡、それってフリ?」

 

「違ぇよ!」

 

「冗談よ」

 

 

こんな感じで寝不足の俺達の朝食の時間は何やかんやあって、騒がしいものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖ガラードワース学園の学園祭は校風をそのまま具現化したような格式高いもので、他学園にある露店は殆どなく、出し物は本格的なカフェテリアを中心に舞踏会や演劇、演奏会など社交的なものばかりだ。

 

「……いや、中々面白かったな。それにしても、もしも俺とオーフェリアの変装がバレたらヤバそうだな」

 

ちょうど今演劇を見終えて劇場から出た俺はそう呟く。演劇については大分満足の結果だった。

 

オリジナルの演劇でありながら、ストーリーは中々斬新で、役者もチーム・トリスタンの『輝剣』エリオット・フォースターや『聖茨の魔女』ノエル・メスメルなど中々の実力者が参加していた。

 

しかしその中に葉山がいた時は何とも言えない気分になったが、それについては俺の恋人2人も同感だろう。オーフェリアなんて葉山が出た時小さく舌打ちしていたし。

 

「まあ2人はレヴォルフだから仕方ないよ。仮にバレても露骨に突っかかる人はいないと思うよ」

 

レヴォルフとガラードワースは校風が真逆なのでとにかく仲が悪い。私服の人も多かったから確信はないが実際に演劇を見た客でレヴォルフの生徒は俺とオーフェリアだけだと思う。

 

シルヴィはこう言ったが、もしもバレたら面倒な事になるのは目に見えているからな。校章も携帯はしているが馬鹿正直に胸には付けてないし。

 

「まあそうかもしれんが気を付ける。そんじゃ、時間も時間だし生徒会に謝罪しに行くか」

 

六学園全てを回る以上、無駄な時間は存在しない。済ませるべき事は早めに済ませておこう。

 

そう思いながら俺は生徒会にアポを取る為に事務所に向かった。

 

……が、

 

 

 

 

 

「いや、そこを何とか頼みますよ。別に喧嘩売りに行くんじゃなくて話があるだけですよ」

 

「信じられませんね。レヴォルフの序列1位2位の2人に加えて他所の学園の生徒会長を会わせるのは危険と判断しますのでお引き取りください」

 

事務所にて用務員のお姉さんから門前払いを食らっている。

 

何があったかというと……

 

①事務所に行って生徒会に話があるからアポを取ってくれと頼む

 

②受付のお姉さんに校章を差し出して身分の証明をしろと言われる

 

③3人で校章を差し出す

 

④校章からデータの照会をした際に、当然ながら来客の正体が俺やオーフェリア、シルヴィとバレる

 

⑤お姉さんから門前払いを食らう

 

って感じだ。

 

まあお姉さんの気持ちはわかる。何せ自身の学園の生徒会に、折り合いの悪い学園の2トップと他学園の生徒会長が面会を求めるなんて余程の事があると判断するだろう。俺がお姉さんの立場なら同じ様な対応を取るか、今生徒会は忙しいから無理って嘘を吐くだろう。

 

仕方ない、お姉さんの対応を見る限り考えを変えさせるのは不可能だろうし、また別の機会にするか。

 

そう判断して立ち去ろうとした時だった。

 

「おや、他所の学園の生徒が事務所に来るなんて珍しいね。どうかしたのかい?」

 

後ろから爽やかな声が聞こえたので振り向くと、今俺が面会を求めていた人物がいた。彼は……

 

「あ、アーネスト。久しぶり」

 

ガラードワースの長であるフェアクロフさんが不思議そうな表情で立っている。

 

「その声……もしかして、ミス・リューネハイムかい?」

 

「うん、そうそう」

 

そう言いながらシルヴィは変装を解いて紫色の髪を露わにする。事務所の周囲は人が少ないので変装を解いても大丈夫と判断したからだろう。なら俺も変装を解くか。

 

「どうも、お久しぶりっすフェアクロフさん」

 

そう言いながら俺もヘッドフォンを取り黒髪に戻して挨拶をする。するとオーフェリアも同じようにヘッドフォンを取り変装を解く。

 

すると向こうは爽やかな笑顔で挨拶をしてくる。

 

「やあ比企谷君にミス・ランドルーフェン」

 

その顔に含むものはない。爽やかな笑顔はまさに完璧と言っても過言ではない。どっかの誰かと違って薄っぺらい笑みではない。

 

「鳳凰星武祭以来っすね。あん時は美味い紅茶ありがとうございました」

 

「そうだね。ところで君達は事務所に何の用かな?落とし物でもしたのかい?」

 

「いえ、実は先日のアスタリスクから出る連絡船とディスティニーランドで起こった件について謝罪に来たんですよ」

 

俺がそう口にするとフェアクロフは納得したように頷く。

 

「ああ、その件か。こちらとしても詳しい話を聞きたいと思ってたから丁度良い。時間があるなら生徒会室に来れるかい?」

 

「か、会長!それは危険です!」

 

フェアクロフさんが誘いをかけてくると事務所のお姉さんが慌てながら反対をする。しかしフェアクロフさんは笑みを崩さずに首を横に振る。

 

「大丈夫だよ。彼らとは何度か話したけど悪い人じゃないのは解ってる。特に問題ないと思うよ」

 

「それは!……い、いえ、失礼しました」

 

フェアクロフの笑みに圧されたのか受付のお姉さんは不満そうな表情をしながらも反対するのを止めた。それを見たフェアクロフは1つ頷いてから俺達と向き合う。

 

「じゃあ生徒会室に案内するから付いてきて欲しい」

 

そう言って歩き出したので俺達もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラードワースの生徒会室は言うまでもなく他の学園の生徒や一般客が入れないエリアにある。幸い俺達はフェアクロフさんから許可証を貰っているから警告音は鳴らないが……

 

「目立ってるな」

 

「目立ってるね」

 

「……目立ってるわね」

 

さっきからガラードワースの生徒から物凄い見られている。理由としてはさっきも言ったように俺達3人だけ私服姿である事と、フェアクロフさんに同伴しているからだろう。

 

案内される直後に再度変装をしたが、ここで変装を解いたら間違いなく校舎は阿鼻叫喚と化すだろう。

 

「まあそれは仕方ないよ。それにしても……3人は付き合っていると聞いていたけど、どうやら本当みたいだね」

 

……っ?!言われて俺は2人に腕を抱き締められている事に気付いた。しまった!いつもの癖で注意する事を忘れてた。

 

フェアクロフさんの予想外の発言に思わず身構えてしまう。見ると差はあれどシルヴィとオーフェリアも同じように身構えていた。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?別に僕個人としてもガラードワースとしても、EPとしても広める気はないから」

 

「……って事は御宅の諜報機関……えーっと……」

 

「至聖公会議だよ八幡君」

 

「ああそうだっだな。そんでその至聖公会議が調べたんですか?」

 

「まあね。生徒会には他所の学園の有力者に関する情報は色々と入るからね。結論を言うとさっきも言ったけど広めるつもりはないよ?」

 

「そうなの?この事を公表したらクインヴェールやレヴォルフの運営母体のW=Wやソルネージュにはそれなりにダメージがあるのに?」

 

世界の歌姫がレヴォルフのNo.2と付き合っている事、そしてレヴォルフのNo.2はレヴォルフのNo.1とも交際している事が公表されたら、世間は間違いなく騒ぎになって、W=Wやソルネージュはそれなりにダメージを受けるだろう。

 

実際にシルヴィのマネージャーのペトラさんはそれを危惧して交際に反対されたんだし。

 

「うん、まあそんな意見も出たらしいよ。だけどもしそれが世間に知られて、万が一ミス・リューネハイムが引退する話が出たらどうなると思う?」

 

シルヴィが引退?そんな事をしたら……

 

「場合によっちゃ公表した統合企業財体にもダメージが来るかもしれませんね」

 

もしかしたら”お前らがそんな事を暴露した所為でシルヴィア・リューネハイムは引退した”って逆上する奴も出るかもしれない。そして場合によっちゃ、そんな怒りが大きくなる可能性も充分にある。そしたら公表した統合企業財体にもそれなりの痛手になるだろう。

 

「その通り、現時点でアスタリスクの六学園の運営母体の統合企業財体の力は拮抗している以上、下手な動きはしない方が良いって感じかな」

 

「相変わらず統合企業財体ってのは面倒だなー。恋愛1つで駆け引きするんだから」

 

シルヴィはやれやれとばかりにため息を吐く。明らかに嫌そうな表情をしている。

 

「まあミス・リューネハイムの立場からしたら仕方ないと思うよ?ちなみに君からしたら引退についてはどう思っているのかい?」

 

「んー。さっきアーネストが言ったようにバレたら、その時の状況によるかな。まあどのみち八幡君と結婚する前には引退すると思うけど」

 

「別に無理に引退しなくても良いぞ?何なら俺とオーフェリアがお前のマネージャーやボディガードになるってのも良いし」

 

ぶっちゃけ2人と一緒にいられるならどんな仕事でも文句ないし。

 

「ううん。結婚したら八幡君とのイチャイチャや子育てに集中したいし引退はするよ」

 

「気が早いな……まあお前がそうしたいなら構わないが……」

 

てかイチャイチャについては毎日してるだろうが。まだ足りないのかよ?だとしたら干からびそうだなマジで

 

「ははっ……まあ比企谷君はその時には大変かもしれないけど頑張りなよ?」

 

フェアクロフさんの言う通りだ。いずれ俺達3人の関係は世間に知られ、世界は大きく動くだろう。場合によっては危ないかもしれない。

 

しかし……

 

「関係ありませんよ。世間がどう言おうと、世界が俺の敵になろうと……俺は2人と一緒に生きていくって決めたんで」

 

帰省した時にお袋と話して改めて決心した事だ。俺はたとえどんな事があっても2人を愛し続けてみせる。

 

「どうやら本気みたいだね。2人の女性と付き合う事は余り感心出来ないけど、その気持ちは凄いと思うよ」

 

ぐっ……まあ名家の家の人間からしたら二股ってのは問題だろう。全くもって返す言葉がないな……

 

「……まあそうっすね。すみません」

 

「別に僕に謝る事ではないよ。……おっと随分と話していたようだね。ここだよ」

 

そう言われたので顔を上げると黒い重厚な扉が目の前にあった。明らかに他のドアと違い雰囲気を感じる。どうやらここが生徒会室のようだ。

 

「さあ上がってくれ」

 

そしてフェアクロフさんが自宅の玄関に入るように気楽に入るので俺達もそれに続く。すると……

 

「あらアーネスト。おかえりなさい……ってお客様ですの?見ない顔ですが応接室ではなくわざわざ生徒会室に呼ぶという事は重要なお客様ですの?」

 

そこにはガラードワースの生徒会副会長にして序列2位のブランシャールが仕事をしていた。見る限り他のチーム・ランスロットのメンバーはいない。おそらく仕事で外に行っているのだろう。

 

って、挨拶はした方が良いし変装は解くか。

 

「まあ変装してたから仕方ないか。久しぶりだなブランシャール」

 

「……鳳凰星武祭の時以来ね」

 

「直で会うのは初めてかな。『光翼の魔女』」

 

そう言いながら俺達が変装を解くと、ブランシャールは一瞬だけポカンとした表情を浮かべてから……

 

 

 

 

 

 

 

「はぃぃぃぃぃ?!」

 

驚きの声を生徒会室に響かせた。

 


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