学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡VS武暁彗(後編)

「纏えーーー影狼夜叉衣」

 

俺がそう呟くと足元に緑色の魔方陣が展開されて、光り輝く。それと同時に影狼修羅鎧の分厚い鎧が剥がれだして、一時俺の身体は剥き出しになる。

 

しかしそれも一瞬で、剥がれた鎧の内半分は俺と両手足に、残りの半分は俺の背中に纏わりついた。

 

それによって俺の両手足には分厚い鎧が、背中には天女が纏うような羽衣と竜の背中に生えているような巨大な翼が生まれる。まあどれも黒いから神々しさなんてないけどな。

 

そう思いながら一息吐き、暁彗を見据えると……

 

 

 

 

 

「………っ!」

 

背中にある羽衣と翼に星辰力を込めて黒い光を放ち、瞬時に暁彗との距離を詰めて暁彗の腹に拳を叩き込む。それによってミシミシと軋む音が聞こえて暁彗が後ろに吹き飛ぶ。その距離約50メートル。

 

それを認識した俺は再度羽衣と翼に星辰力を込めて暁彗に突撃を仕掛ける。狙いは再度暁彗の腹だ。いくら暁彗でもこれを数発食らえば倒せるだろう。

 

そう思いながら暁彗との距離を一瞬で詰めて、拳を叩き込む。

 

しかし今度は、

 

「ふっ……!」

 

暁彗も読めていたようだ。俺の放った一撃を右手で受け止める。それによって暁彗の足元にはクレーターが出来上がり、暁彗自身は後ろにズルズルと後退する。今の所、俺が押しているが吹き飛ばすまでには至らないみたいだ。

 

だったら……

 

(翼の星辰力を腕に譲渡……!)

 

自身の翼に溜まっている星辰力を暁彗の右手とぶつかっている自身の左手に移す。すると左手に左手についてある籠手が緑色に輝き、今にも爆発しそうになる。

 

そして……

 

「はあっ……!」

 

そう叫びながら溜まった星辰力を放出すると、その爆発によって暁彗は後ろに吹き飛ぶ。

 

『な、何とー!武選手が2度連続吹き飛んだー!比企谷選手、新技を見せてからの勢いが凄過ぎるー!』

 

実況の声が響き、客席からは歓声が鳴り響く。

 

影狼夜叉衣

 

俺が星露との戦いで新たに身に付けた新技だ。

 

効果は単純、パワーと防御を重視した影狼修羅鎧とは対称的に、パワーとスピードに特化した装備だ。

 

普段の俺のパワーと防御とスピードを1000とすると、影狼修羅鎧と影狼夜叉衣を纏った時の俺はは……

 

影狼修羅鎧

 

パワー10000

防御10000

スピード1200

 

影狼夜叉衣

 

パワー10000

防御1000

スピード12000

 

って感じだ。

 

更に影狼夜叉衣は自身のパワーとスピードを変える事が出来る。さっき暁彗の拳とぶつかった際は、ぶつかった直後に翼ーーースピードに振られていた星辰力を一時的にパワーに振って暁彗を吹き飛ばすくらいまで増やしたのだ。

 

そして影狼夜叉衣の攻撃に振られている星辰力を全てスピードに費やす場合、星露と渡り合えるスピードも得る事も可能だ。

 

しかし当然ながら欠点もある。先ず第一に余りにスピードが速過ぎるので身体に掛かる負荷が大きいのだ。保って10分。それ以上使用すると寿命を削る事になるだろう。

 

そしてもっと恐ろしい欠点がある。それは影狼夜叉衣を使用している時はパワーとスピードに星辰力を振り分ける代わりに、防御に星辰力を使用することが出来ない事だ。

 

つまり影狼夜叉衣を使用している間、俺の防御は紙同然である。普通の煌式武装の攻撃を食らっても、星辰力を防御に回せないのでかなりのダメージを受けるだろう。暁彗の攻撃なんてモロに食らったら即負けに繋がるだろう。

 

だからここから先は一発も食らってはいけない。

 

そう思いながら地面に倒れ伏す暁彗に向けて突撃を仕掛ける。影狼夜叉衣を使用している以上、守りに入ってはいけない。守りに入るという事は勝負を捨てる事なのだから。

 

俺が神速の速さで暁彗に突撃を仕掛けると同時に向こうは起き上がり、

 

「急急如律令、勅!」

 

片手で印を切る。すると暁彗に拳が当たると同時に暁彗の身体が陽炎のようにぼやけて消える。幻術か……!

 

辺りを見渡すと数十人の暁彗が俺を囲いながら距離を詰めてくる。さっきまでは影の刃で全員に攻撃していたが今回は……

 

(腕にある星辰力を翼に譲渡……!)

 

翼に星辰力を移し、機動力を高めた俺は黒い翼を羽ばたかせて空へ舞い上がる。

 

そして俺は一直線に進み、沢山いる暁彗の分身体の1つを殴りつける。

 

(手応えはない……偽物か……)

 

それを認識すると同時に殴りつけた暁彗は陽炎のように揺らめきながら消えたので、俺は直ぐに次の暁彗に向かう。

 

その時だった。

 

「……っ!殺気!」

 

いきなり真上から殺気を感じたので上を見ると、何もない場所から暁彗が現れて拳を振るってくる。

 

俺が奴の拳を自身の拳で迎え撃つと籠手に衝撃を感じる。こいつは間違いなく本物の暁彗だ。

 

どうやら空中にいた10人の暁彗は全て偽物で、本物の暁彗は星仙術で姿を見えなくしていたのだろう。案の定、空に見えていた暁彗は全て消えているし。

 

空中に衝撃が走る中、俺は暁彗の拳をいなすと間髪入れずに翼に星辰力を込めて暁彗の上空に回る。そして……

 

「貰った……!」

 

両拳を合わせてそのまま暁彗の後頭部に振り下ろす。

 

「ぐっ……!」

 

暁彗からは呻き声が聞こえてくる。いくらこいつでも脳震盪にすれば一気に有利になる。もう、あと一撃当てれば……

 

しかし……

 

「……破っ!」

 

再度攻撃をしようとした直前、暁彗は空中で強引に身体を捻り俺の腹に目掛けて拳を放ってきた。俺は慌てて回避行動に移るも……

 

「がぁぁぁぁっ!」

 

 

攻撃中、しかも空中で身体を捻り反撃してくるとは予想を仕切れなかった俺に完璧に回避することなど出来ず、暁彗の拳が掠る。

 

しかし影狼夜叉衣を使用している間は星辰力を防御に回せないので掠っただけで大ダメージだ。

 

腹に激痛が走り、胃の中から昼に食った物が逆流して口から出そうになる。しかしステージで吐いたりしたら末代までの恥なので半ば無理矢理胃に戻す。

 

そして痛みを堪えながら、翼に星辰力を込めて羽ばたかせて、何とか暁彗と離れた地面に着地する。

 

何とか口まで込み上がってきた物を完全に胃に戻し、正面を見ると暁彗も口から流れた血を拭っていた。見る限りかなりのダメージを受けているのがわかる。

 

(まあそれはこっちもだけどな……)

 

何せ掠っただけとはいえ、防御していない状態で暁彗の拳を食らったのだ。もしもモロに受けていたら気絶して負けていただろう。

 

内心舌打ちをしながら暁彗を見ると、向こうも口を拭うのを止めて構えを取っていた。その構えは一分の隙もなく、見事な構えであった。

 

しかし……

 

(……やっぱりだ。こいつさっきから全力は出しているが……勝ち気を感じない)

 

こいつから感じるのは圧倒的なまでの無私を感じる。全力は出しているが……

 

「おい、試合中だが1つ聞いていいか?」

 

「何だ?」

 

「お前、勝とうとしてないだろ?」

 

俺がそう尋ねると暁彗は虚を突かれたように目を開く。しかしそれも一瞬で……

 

「……その通りだ。俺にとって勝利とは、他者と競い、自己の力を最大限発露した結果の付随品に過ぎない」

 

「つまり勝利自体にこだわりはないと?」

 

「それが何か悪いとでも?」

 

 

 

 

 

 

 

 

暁彗は平然と問い返す。どうやらこいつは本気で勝つ事自体に興味がないようだ。

 

対して俺の答えは……

 

「いや、考え方は人それぞれだし、武人としたらお前の考えは正しいな。実際俺もお前に挑んだ理由は戦いたいからとか勝ちたいからじゃなくて、獅鷲星武祭に出る知り合いの為にお前のデータを取る為だからな」

 

実際、チーム・赫夜の面倒を見てなかったら、このイベントに参加しなかっただろう。したとしても暁彗みたいな強者じゃなく雑魚にしていただろうし。

 

「ならばお前は何故勝ちに行こうとしている?俺はお前の言う通り勝とうとはしていないが、手は一切抜いていない。お前の目的が俺のデータならもう充分だろう?にもかかわらずお前からは闘志が微塵も衰えていないぞ?」

 

ああ。確かにそうだ。こいつのデータが目的なら俺の仕事は充分にこなした。ここでギブアップしても若宮達は充分なデータを得られるだろう。

 

しかし……

 

「確かにな。俺自身は勝つ事に拘りはない。だが……俺には勝利を捧げたい人がいるんでな」

 

 

 

 

 

『……八幡、頑張って勝って』

 

『私は八幡君が勝つのを信じてるからね?』

 

最愛の2人の言葉を思い出す。2人は俺が暁彗に挑むとしってからしょっちゅう応援してくれた。その際に2人は勝って欲しいと良く口にしていた。

 

ならば負けるわけにはいかない。2人は間違いなく俺の試合を見ている。2人の期待に応えたいと思う以上勝たないといけない……!

 

そう言いながら星辰力を練り、翼と両手足に込める。対して向こうの星辰力も高まっているのがわかる。そろそろ決着をつけるつもりだろう。

 

(望むところ!オーフェリアとシルヴィの為にも死んでも勝つ……!)

 

そう思いながら俺は翼は広げて暁彗に突っ込む。正面にいる暁彗は腰を低くして迎撃の構えを取る。勝負は一瞬だろう。

 

だったら……

 

俺はそのまま真っ直ぐ突っ込む。暁彗との距離が10メートルを切った瞬間に暁彗も俺同様、前に出ながら拳を放つ。

 

対して俺は……

 

(今!腕の星辰力を翼に移譲……!)

 

自身の腕に宿る星辰力を翼に移譲する。すると腕に纏われる籠手の輝きが薄くなり、背中に力が宿るのを自覚する。

 

そして暁彗に当たる直前……

 

 

 

「はぁっ!」

 

翼を捻って旋回する事で強引に暁彗の一撃を回避する。無理矢理旋回したので身体には負荷が掛かるが今は後回しだ。こいつを前に動きを止めるのは愚の骨頂だ。

 

俺は身体に掛かる痛みを無視して、拳を突き出したばかりの暁彗の腹に拳を叩き込む。すると暁彗は一歩横に跳んで回避する。

 

しかしこれは予想の範疇だ。こんなんで倒せるなら苦労はしない。

 

だから俺は更に翼に星辰力を移譲して機動力を上げて暁彗の後ろに回る。この速度なら暁彗が振り向く前に一撃当てられる。

 

そう思いながら暁彗の背中を見ている時だった。

 

 

 

「急急如律令、勅!」

 

暁彗は俺に背を向けたまま、片手で印を切る。その直後、暁彗の周囲の地面から業火の壁が噴き上がり、終いには暁彗を包み込むように覆った。

 

(暁彗の奴……影狼夜叉衣は耐久力が低い事を見抜いたな……!)

 

影狼夜叉衣を使っている間は防御に星辰力を回せない。だから暁彗は自身の周囲に炎の壁を展開したのだろう。防御に星辰力を回せない状態であの壁を突っ切るのは地獄だろう。普通の人間ならまずやらない。

 

……が、

 

 

「……舐めんな!」

 

俺は機動力を落とす事なく、炎の壁に向かって突っ込む。強敵相手に勝ちに行く以上多少の博打は必要だ。ここで勝機を逃して暁彗に体勢を立て直されたら負けだ。

 

そう思いながら俺は……

 

 

「熱ぃ!」

 

炎の壁に突っ込んだ。瞬間、身体に身を焼くように熱が襲い掛かる。しかしその痛みも影狼夜叉衣の機動力から考えるに感じるのは一瞬だから我慢だ。

 

そして俺が遂に炎の壁を突っ切って右拳を突き出すと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前の闘志からしてそう来ると思ったぞ」

 

壁の先にいる暁彗が左手で俺の右拳を掴んでいた。

 

(……なっ?!予想していただと?!)

 

俺が驚くのも束の間、暁彗が空いている右手を俺に放ってくる。

 

右手を掴まれていて、それ以上に予想外の対応に驚いているには奴の一撃に対処する方法などなく……

 

 

「がっ……!」

 

鳩尾にモロに打ち込まれた。その一撃は今までに食らった中でもトップクラスの破壊力、それこそオーフェリアや星露の一撃に匹敵するもので、轟音と共に全身に痛みが襲い掛かる。

 

痛みを感じる中。ミシミシと音が聞こえる事から骨にも異常があるだろう。

 

(ヤバい……しかも意識も朦朧としてきた……)

 

ここまでか。そう思いながら目を閉じようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八幡……!』

 

『八幡君!』

 

いきなり最愛の2人の声が耳に入る。

 

(オーフェリアにシルヴィ……?)

 

普通はあり得ない。ステージからオーフェリアとシルヴィの声が明確に聞こえるなんてあり得ない。もしかしたら俺の幻聴かもしれない。

 

しかし……

 

 

 

 

「まだ……まだだ……!」

 

俺は痛みに堪えながら舌を噛み、意識を手放すのを避ける道を選ぶ。

 

幻聴だろうとそうでなかろうと関係ない。2人が勝って欲しいと言った以上、負ける訳にはいかない……!

 

俺は最愛の2人に勝利を捧げると誓いながら空いている左手で俺の鳩尾にめり込んでいる暁彗の右拳を掴む。呼吸をする度に胸が苦しくなる。おそらく肋骨が折れているのだろう。

 

だがそんな事は知った事じゃない。勝利が目の前にあるんだ。余裕で耐えてやる。

 

俺の左手が暁彗の右拳を掴むと同時に……

 

「巻きつけ……!」

 

そう叫ぶ。

 

瞬間、俺の両手足に纏っている鎧が解除され、そのまま形を変えて、

 

「っ?!」

 

俺と暁彗、それぞれの両手足に巻きつく。これで俺も暁彗も身動きは取れない。

 

そうなったら能力者、それも手足を使わずに能力を発動出来る俺の方が有利だ。

 

俺が自身の影になけなしの星辰力を込めると、向こうも俺の行動の意図を理解したようで……

 

 

 

 

「おおおおおっ!」

 

雄叫びを上げて、両手足にある拘束を無理矢理破ろうとする。今この瞬間、俺は暁彗の心からの叫びを聞いた気がする。

 

しかし……

 

 

 

 

「貫けーーー影の刃」

 

俺の方が一歩速い。

 

影から現れた一本の刃は一直線に暁彗の校章に向かっていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『武暁彗、校章破損』

 

目の前にいる強敵の校章を破壊した。

 

俺と暁彗に差は殆どない。次に戦ったら向こうが勝つかもしれない。

 

今回俺が勝てたのは最愛の恋人2人の声を聞いたからで、あの2人の声が無ければ俺が負けていただろう。

 

そう思いながら俺はゆっくりと地面に倒れた。

 

どうやら俺も限界だったよう……だ……

 




次回、遂にオーフェリアが動き出す!

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