学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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すみません。長くなりそうなので2話構成にした結果、今回は短いてす


比企谷八幡は取引をする

「ふぅ……ただいま」

 

医務室のドアが開くと最愛の恋人の1人ーーーオーフェリアが仕事を成し遂げたようにスッキリした表情で部屋に入ってきた。

 

「う、うん、おかえり」

 

もう1人の恋人ーーーシルヴィは若干顔を引き攣らせながらオーフェリアを迎える。

 

対する俺も……

 

「おかえり。疲れてないと思うけどお疲れ様」

 

とりあえず帰ってきたオーフェリアを労う。いや実際マジで疲れてないと思うけど。

 

何せ今回の試合の流れだが……

 

①試合が始まる

 

②オーフェリアが開幕と同時に『覇潰の血鎌』を起動してステージ全体に重力を掛ける

 

③それによって雪ノ下陽乃が地面に伏す。

 

④オーフェリアが更に自身の毒を雪ノ下陽乃に飲ませて身動きを取れなくする

 

⑤重力操作で浮かして毒の十字架に磔にする

 

⑥星脈世代から普通の人間にする猛毒を雪ノ下陽乃に飲ませる

 

⑦雪ノ下陽乃気絶して試合終了

 

って、感じで実際の所、試合は2分くらいで終わった。実質ノーダメのオーフェリアは間違いなく疲れていないだろう。

 

そう尋ねるとオーフェリアが首を横に振る。

 

「……そうでもないわ。私の終焉の孤毒……最盛期の頃に比べたら発動に若干の負荷が掛かったから割と疲れたわ」

 

「ほ、ほう……ちなみに最盛期にはどのくらい凄かったんだ?」

 

「そうね……今回は発動に30秒くらい掛かったけど、最盛期には2秒で作れるわね」

 

マジですかい……俺の恋人規格外過ぎだろ?真面目な話、もしも自由にならなかったら星露すらも倒せそうだ。

 

「ちなみにあの毒って解毒出来るのか?」

 

「一応出来るわ。私が毒された人間の臍に触れれば一瞬で吸い出せるわ。それ以外の方法はないわね」

 

「な、ないんだ……」

 

「ええ。終焉の孤毒は臍から入って、内臓や骨、筋肉に脳などありとあらゆる場所に染み込むの。外部の人間が治療する場合、それらを全て取り除いて、新しい臓器を入れるしかないわ」

 

なるほどな……臓器の一つや二つならともかく、骨や筋肉や脳全てを取り除くのは無理だろう。つまり実質不治の病って訳だ。

 

「そ、そうか……でもやり過ぎじゃね?」

 

俺自身、命は奪っていないから怒りはしないし、オーフェリアを拒絶する事はないが若干引いた。俺としては適度に半殺しにすると思っていたが、まさか星脈世代としての雪ノ下陽乃を殺すとは完全に予想外だ。

 

「……別に。私にとって八幡の存在は絶対だから。八幡に敵対する者や八幡を貶める人間は全て悪よ」

 

いやオーフェリアさん。そこまで俺を想っているんですか?何というか嬉しいやら怖いやらで気持ちが一杯だ。

 

「……まあ八幡があの女から毒を取り除けと命令するなら従うわ。今さっきも言ったけど私にとって八幡は絶対だから何でも言う事を聞くわ」

 

そう言われて俺は考える。俺個人としては少々やり過ぎとは思うが許容範囲だ。あの女が力を失ったとしても文句はない。

 

しかし雪ノ下の両親は確か界龍の運営母体であり、統合企業財体『界龍』の幹部候補とそれなりに偉い人間だ。場合によっては突っ掛かってくる可能性も充分にある。

 

そう思っている時だった。いきなり医務室のドアからノックの音が聞こえてくる。このタイミング……まさかな。

 

まあとりあえず出ないとな

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

そう言って入ってくるのは着物を着た美人な女性だった。歳はおそらく40前後。それでありながら身体からは静かでどっしりとした星辰力を感じる。見る限りかなりの手練れである事は容易に想像出来る。

 

そしてその後ろに控える護衛らしきスーツ姿の男性2人も引き締まった身体をしていて相当鍛錬を積んでいる事が理解出来る。

 

誰が相手でも一対一なら負けるとは微塵も思わないが、3人がかりで来られたら危ないというのが俺の評価である。

 

3人は部屋に入ると大小差はあれど驚きの表情を浮かべるも、これはシルヴィがいたからだろう。今のシルヴィ、変装を解いてるし。

 

まあそれはいい。どうせ用があるのはシルヴィじゃないだろうし。

 

「どちら様ですか?」

 

「はい。私は統合企業財体『界龍』建築事業六花支部室長雪ノ下秋乃です」

 

やっぱりな。見た目からして雪ノ下姉妹に何となく似ていたからな。それに実の娘が文字通りオーフェリアに毒されたのだ。タイミングからして予想はついていた。

 

「そっすか。それで何か用ですか?」

 

「我が娘、陽乃についてお願いがあります」

 

「やっぱりそうですか。どうせあの女の体内を蝕んでいる毒を取り除けって事ですよね?」

 

「ええ。先程万有天羅に見てもらった所、陽乃の体内に存在するありとあらゆる部位が毒されていて解毒するには能力の使用者本人の力が絶対だと言われたので参りました」

 

どうやらさっきオーフェリアが言った事はマジなようだ。つくづくオーフェリアの力は恐ろしいと理解してしまうな。

 

そう思いながらオーフェリアを見る。対してオーフェリアも俺を見てから、

 

「……さっきも言ったけど私は八幡の指示に従うわ。解毒しろと解毒するわ………嫌だけど」

 

おい最後。小さい声だったが聞こえたからな?

 

てか決定権が俺にあるのが面倒だ。オーフェリアに一任したら間違いなく解毒しないで界龍から文句を言われそうだ。何せ序列3位の猛者の力を奪ったのだから。

 

かと言って了承するのは何か嫌だ。あの女に迷惑を掛けられてウザいと思ったのは事実だし。どうしたものか……

 

そう思っているとある事を思い出した。

 

(そうだ。確か秋乃さんは雪ノ下の家で一番怖くて、何でも決めて従わせようとする人って聞いたな)

 

確か花火大会の時にそんな事を言っていた気がする。だったら……

 

「条件次第ですね。俺が提示する条件を呑むならオーフェリアに解毒しろと命令しますよ」

 

「そうですか。それでその条件は?」

 

秋乃さんがそう聞いてくるので俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単な話です。今後雪ノ下陽乃には可能な限りでいいので自由を与えないでください」

 

俺がそう言うと秋乃さんは目を見開く。しかし俺はそれを無視して話を続ける。

 

「貴女は六花支部室長という事は普段は界龍にいるのでしょう?ですから貴女は学内でもあの女を管理してください。学校内での高度も、卒業後の進路も貴女が決める。……まあ結婚云々についてはどうこう言いません。それを誓えるならオーフェリアに解毒するように命令しましょう」

 

俺がそう条件を提示すると秋乃さんは考える素振りを見せて……

 

「……わかりました。その条件は私にとっても旨味がありますから。しかし何故貴方がそのような条件を提示するのですか?」

 

そう聞いてくる。何故?そんな事は決まっている。

 

「簡単な話です。あの女に自由を与えたら碌でもない事が起こるからですよ」

 

何せ文化祭の時もあの女が自由きままに動いたから面倒な事になったのだから。

 

「なるほど……話はわかりましたが……貴方は陽乃と何があったのですか?先程の試合は私も見ましたが、彼女が陽乃に向ける憎悪は尋常なものではなかったので」

 

あー、まあ確かにな。あの時のオーフェリアの目には憎悪で満たされていたし。

 

まあ話しとくか。既に向こうが了承した以上、取り消すなんてあり得ないし

 

「実は……」

 

俺が一息吐いてから総武中の文化祭であった事ーーー雪ノ下陽乃が実行委員会に乗り込んできた事、実行委員長が言ったクラスの方も楽しめるように仕事のペースを落とすなどふざけた提案を雪ノ下妹が却下しようとしたら自分の時もそうだったと言って実行委員長を増長させた事全てを話した。

 

「……って訳で、あの女が自由きままに動くのは億害あって一利なしですので今回この条件を出しました」

 

「はぁ……全く余計な事をしてくれましたね。……わかりました。元々私自身陽乃に自由を持つのを良しとしていなかったので条件を呑みます。今後陽乃に一切自由を与えない事を誓い、全力をつくしましょう」

 

「交渉成立ですね」

 

「ええ。……ですが万が一陽乃が王竜星武祭で優勝した際に自由になりたいと願った場合は無理ですが……」

 

口を濁す。統合企業財体の人間からしたら有力な選手を星武祭に出さないといけないから雪ノ下陽乃の出場を止めるのは無理だろう。

 

「そうですね。まあその点については問題ないですよ。俺が優勝するんで」

 

元々シルヴィにリベンジする気満々だからな。

 

「むっ……優勝するのは私だよ?」

 

隣にいるシルヴィがムッとした表情を浮かべる。いやいや前回の借りを返してやるよ。

 

「まあそれは王竜星武祭を楽しみにしよう。今は関係ない話だし。とりあえず彼女が優勝したとしても貴女達に文句は言いませんのでご安心ください」

 

「そうですか。わかりました。では陽乃の解毒についてですが、今からでも大丈夫でしょうか?万有天羅によると時間が経つにつれて力は失われ、失った力は戻らないと聞いたので」

 

「それはオーフェリア次第ですね。オーフェリア」

 

「……わかったわ」

 

オーフェリアは不満がありまくりな表情をするが了承の意を表明する。お前どんだけ嫌がっているんだよ?

 

ため息を吐きながら俺はベッドから降りて近くに掛けてあった制服を羽織る。暁彗と戦ったからか若干ーーーいやかなりボロボロだが仕方ない。学園祭が終わったら新しい制服を注文しないとな。

 

そう思いながら俺達は医務室を後にした。

 

 


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