学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして比企谷八幡の学園祭2日目は怪我により終了する

「む……失言じゃったのう。まあ良い……実を言うと儂は週に一度、そこにいる八幡に稽古をつけているのじゃよ」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

星露の門下生の殆どが驚きの声を上げ謁見の間に響き渡った。

 

それと同時に俺は余りの騒がしさに思わず耳を塞ぐ。星露の門下生を見る限り、大小差はあれど殆どが驚きに満ちた表情を浮かべていた。見ると雪ノ下陽乃やその母親である秋乃さんとその護衛も驚いているし。

 

驚いていないのは暁彗と梅小路冬香だけなので、事前に知っていたのはこの2人だけのようだ。

 

そう思いながら騒いでいる門下生を見ているとその内の一人である趙虎峰が星露に詰め寄る。

 

「ど、どういう事ですか師父?!」

 

それが正しい反応だよな。頂点がイかれてるから下もイかれてると思ったが、違うようでなによりだ。

 

しかしここで星露に答えさせる訳にはいかない。こいつの場合、馬鹿正直に俺だけじゃなくて若宮達クインヴェールの人間も鍛えていると言いそうだ。そしたら更に面倒な事になるのは想像に難くない。

 

だから俺が星露が口を開ける前に……

 

「それはだな天荷武葬……以前再開発エリアで偶然会って戦ったんだよ。そんでその後に星露に気に入られて稽古をつけてもらう事になったんだよ。なあ星露?」

 

俺が口を開ける。嘘は偶然会った所以外は吐いていない。会うきっかけとなったのは若宮達が関係しているが、戦った所と気に入られて稽古をつけてもらう事になったのは嘘じゃないし。

 

ここで若宮達クインヴェールの名前を出したら虎峰の胃は間違いなく苦労で潰れるだろう。だから何としても若宮達の存在を知られる訳にはいかない。

 

俺がそう言うと虎峰は俺を一瞥してから星露と向き合う。

 

「師父、彼はそう言っておりますが本当ですか?」

 

対して星露は

 

「まあ大体それであっとるの」

 

特に余計な事を言わずに俺の言葉を認めた。どうやら星露自身もクインヴェールの事を話すと面倒な事になるて判断したのだろう。

 

すると虎峰は息を吐いてから星露に詰め寄る。

 

「何を考えているんですか?!彼は他校の生徒、それも序列2位の強者ですよ!敵に塩を送ってどうするんですか?!いくら師父でも統合企業財体に怒られますよ!少しは自重してください!」

 

うん、それが普通の反応だよな。てかマジでこいつからは苦労人の匂いがする。俺の所為で星露を怒っているんだ。今度胃腸薬を買ってやろう。

 

そう思う中、星露はどこと吹く風とばかり、

 

「それは無理な相談じゃな。儂は万有天羅。ただ儂が楽しむ為だけにここにいて、統合企業財体といえどそれを止める事は出来ん」

 

……無茶苦茶な言い分だ。

 

しかし界龍ではそれが通る。万有天羅は界龍においてはいかなる権力、それこそ統合企業財体ですら凌ぐ絶対の名前だ。

 

星露がそう言った以上、虎峰だけでなく他の門下生、統合企業財体の人間である秋乃さんも文句を言ってはいけない。現にさっきまで星露に詰問していた虎峰も今は不満そうな表情をして黙っているし。

 

そんな虎峰に対して星露がカラカラと笑う。

 

「そんなに文句を垂れるな虎峰。お主らが優勝すれば八幡は界龍に転入するのじゃ。未来の界龍の生徒に対して入学前のオリエンテーションと考えれば特に問題はなかろう」

 

……本当に無茶苦茶な言い分だ。しかも俺が転入する事が決定事項かもしれないし。

 

虎峰を説得は無理と判断したのか諦めたようにため息を吐く。

 

「……どうせ止めろと言っても聞かないですよね?」

 

「無論じゃ」

 

いや無論じゃ、って……断言するなよ?どんだけ戦い好きなんだよ?門下生の殆どが呆れの表情になっているぞ。

 

「はぁ……わかりました。これ以上は言いませんが、ほどほどにしてくださいよ。他校の生徒を潰したりしたら間違いなく揉めますから」

 

「その辺りは大丈夫じゃろう。八幡なら少しの事で潰れるような柔な奴でもあるまいし。……まあ偶に良い香りを放つから無性に食いたくなるが」

 

言うなり星露は舌舐めずりしながら俺を見てくる。そうなんだよなー。星露の奴、こっちが一撃当てると狂喜乱舞しながら殺す気でくるからな。マジでたまったもんじゃない。

 

そう思った時だった。

 

「……八幡を食べる?そんな事をするなら貴女を殺すわよ。范星露」

 

「悪いけど星露、八幡君を食べるなら全力で止めるから」

 

オーフェリアとシルヴィが庇うように俺の前に立つ。すると星露はむっとしたように眉根を寄せる。

 

「わかっておるわ。八幡はまだ発展途上。食うなら本気の儂と戦えるくらいの実力になってからにするわい」

 

いやそれはつまり強くなったら食べるって事だよな?マジで勘弁してください。

 

こりゃお袋の助言通りアスタリスクを卒業したら、アスタリスクに関係ない社会で生きるべきだろう。

 

てかこれ以上ここにいたらマジで3人が争いそうだし退場した方が良いだろう。

 

「とりあえず今直ぐ食うのだけは勘弁してくれ。てか俺達は遊びに来たんだしそろそろ失礼して良いか?」

 

折角のデートなのにこれ以上の戦闘はゴメンだ。

 

「うむ。その前にお主には礼を言わねばならない事がある」

 

「え?俺なんかしたか?」

 

「暁彗の事じゃ。暁彗はお主に負けた事で胸を屈辱が刻まれ、新たな一歩を踏み出せた。主のおかげで暁彗は今後更に強くなるじゃろう」

 

え?マジで?つまり暁彗は勝ち気を得たって事だよな?

 

(ヤベェ……データ収集の筈が、暁彗が強くなるきっかけを作っちまったよ)

 

すまん若宮達よ。マジで申し訳ない事をした。てか下手したら獅鷲星武祭に参加するチーム全てを敵に回したかもしれん。

 

そんな事を考えていると暁彗が後ろから歩いてきて俺の前に立つ。

 

「比企谷八幡」

 

「……何だよ?」

 

俺が尋ねると暁彗は……

 

「……お前と王竜星武祭で戦うのを楽しみにしている」

 

そう言って手を差し出してくる。瞬間、星露と暁彗の背後にいる門下生の間から騒めきが生じる。そんな中、星露は楽しそうに笑う。

 

「くくっ!それは今から儂も楽しみじゃのう。是非2人の戦いをあの大舞台で見たいものじゃ」

 

星露は他人事のように笑っているが俺はそれどころではない。

 

何故なら暁彗の目が変わっているからだ。試合前や試合の最中に見た時は特に何も感じない朴訥な目であったが、今の暁彗の目から強い戦意を感じる。次の王竜星武祭で俺に勝ちに行くのが明らかだ。

 

(……どうやら俺は眠れる獅子を目覚めさせてしまったようだ)

 

そう思うと頭が痛くなってきた。何でデータ収集の筈がこうなったんだよ?

 

とはいえ差し出された手をシカトする訳にはいかないので……

 

「……ああ、そん時はよろしくな」

 

差し出された手を握る。ったく……今回の王竜星武祭はシルヴィや梅小路冬香だけでなく暁彗も厄介そうだ。オーフェリアが参加するつもりがないからって油断は出来ないな。

 

そう思いながら暁彗との握手を解いて星露に話しかける。

 

「んじゃ星露。色々脱線したが俺らはもう行く。4日後によろしくな」

 

「うむ。それまでに暁彗との戦いで傷付いた身体を癒しておくのじゃぞ?」

 

「……何だよ気付いてたのか?」

 

「儂を誰じゃと思っておる。隠してるようじゃが足の動きが若干鈍いぞ?」

 

やっぱり万有天羅にこの程度の誤魔化しは通用しないか。まあ俺は星脈世代から3日もすれば完治するだろう。いざとなったら治療院に行って大金はたいて治癒能力者に治して貰えばいいし。

 

「了解。んじゃまたな」

 

俺はそう言ってオーフェリアとシルヴィの手を引いて謁見の間が後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから向けられる憎悪の眼差しに気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が謁見の間を出ると扉がひとりでに閉まり始める。今更だが初代万有天羅が作ったこの建物はどんな仕組みなんだ。

 

そう思いながら扉が完全に閉まるのを確認した俺は、

 

 

「ふぅ……」

 

疲労の混じった息を吐く。ダメだ、暁彗との戦いに加えて、面倒な取引など色々あったからか、疲労困憊となってしまった。

 

思わずよろめくとオーフェリアとシルヴィが俺を支えてくれる。

 

「……大丈夫?」

 

「やっぱり最後……炎の壁を抜けてから食らった覇軍星君の一撃が効いてるみたいだね」

 

シルヴィの言う通り、最後に暁彗から食らった一撃はある程度治療して貰ったが未だに残っている。アレを防御無しで食らうのはやり過ぎたな。

 

「わ、悪い。肩借りて良いか?」

 

さっきまではギリギリ耐えていたが、面倒事が終わって気が抜けたからか身体に力が入らない。

 

「……ええ。それと八幡、今日はもう帰りましょう?」

 

オーフェリアがそう言ってくる。え?マジで?まだ4時前で後2時間ちょいは遊べるぞ?

 

そう言おうとするが、

 

「そうだね。八幡君、明日に備えて今日は早く帰ろう?」

 

その前にシルヴィがオーフェリアの意見に賛成する。このままデートの続きはしたいが……

 

「……わかった。今日はもう帰ろう」

 

恋人2人が反対するので帰ることにした。反対している2人とデートをしても面白さは半減だろうし、2人は俺の為を思って帰宅を提案したのだ。そんな気遣いを無碍にする程俺は腐っていない。

 

俺が了承すると2人は天使のような優しい笑みを浮かべてそっと俺の身体を支えてゆっくりと歩き出した。

 

ああ……俺はこんな風に優しい恋人を持てて幸せだな。

 

そんな事を考えていると、デート出来ないという悔しさは何処かに吹き飛んでいている事を自覚した。

 

「……どうしたの八幡?」

 

自覚すると同時にオーフェリアに話しかけられる。だから俺は……

 

 

 

 

 

 

「……いや、お前らが俺の恋人で良かったって思っただけだ」

 

そう言って歩くのを再開した。その際に左右にいるオーフェリアとシルヴィの驚いた顔が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後……

 

 

「ただいまー」

 

漸く自宅に着いた俺は気の抜けるような挨拶をしながら靴を脱ぐ。

 

すると……

 

「さ、八幡君。八幡君はベッドに向かうよ」

 

「……シルヴィアは八幡を運んで。私はパジャマを準備してするわ」

 

「あ、パジャマから朝脱ぎっぱなしだからリビングにあるわ」

 

言うなりオーフェリアは先に家に上がり、シルヴィは俺の肩を支えながらゆっくりと歩き出す。いや、あの……君達?俺の為にそこまで動いてくれるのは嬉しいですけど、少し大袈裟じゃね?

 

俺はシルヴィに寝室まで運ばれて、優しくベッドに寝かされる。

 

「はい、じゃあオーフェリアが来るまで待っててね。私はヨーグルトとか持ってくるよ」

 

「ああ」

 

そう言われてシルヴィを見るとシルヴィは寝室から出て行き、俺は寝室で1人となった。

 

2人は3分もしないで帰ってくるのはわかっているが……何か寂しく感じる。早く戻ってきて欲しいものだ。

 

 

そう思いながら待ち続ける事3分……

 

(アレ?あいつら遅くね?パジャマとヨーグルトを取りに行っただけだよな?)

 

別に家はそこそこ広いが3分もかかる程広くはないが……マジで何があったんだ?

 

そう思っている時だった。

 

「……お待たせ」

 

「ごめんごめん。遅くなっちゃった」

 

寝室のドアが開き愛する2人の声を聞いたので顔を上げると俺は絶句してしまった。

 

ドアの近くにはパジャマとヨーグルトを持ったオーフェリアとシルヴィがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

(何でナース服を着てんだよ?!)

 

オーフェリアは純白の、シルヴィが薄ピンク色のナース服を着ていたのだった。

 

この時の俺はまだ知らなかった。

 

これから始まる天国のような一時を。

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