学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は恋人2人と一緒に自分の所属する学園に向かう

学園祭3日目

 

朝妹と少々喧嘩をして家を出るのが遅れたが、腰が痛い事を除いて特に問題なく学園祭最終日を迎える事が出来た。

 

そんな中俺とオーフェリアとシルヴィは……

 

 

 

 

「……毎年ここだけは殆ど変化ないんだよな」

 

俺とオーフェリアが通うレヴォルフ黒学院にいる。普段は無骨で威圧的な要塞を思わせる学園だが、学園祭の間はけばけばしく飾り立てられていてメチャクチャ怪しい雰囲気を醸し出している。

 

 

レヴォルフは毎年学園全体でカジノをやっている。理由としては色々あるが最大の理由はレヴォルフの学生の大半が自主的に何かするような人間ではないからだろう。実際表向きは学園側が主催となっているが、実質歓楽街が裏で実権を握っているしな。

 

その上、壁には卑猥な落書きなどもあり客の殆どは柄が悪く一般の客は余り見えない。

 

しかしカジノ自体はかなりの熱狂だ。アリーナではスロットマシンがずらりと並んでいて、ルーレットやバカラも本格的だ。

 

「じゃあ折角来たし少し遊ぶ?」

 

シルヴィがそう言ってくる。まあ確かに遊びに来た以上やるのも悪くないが……ん?

 

アリーナを見渡すとルーレットの所で目を止める。より正確に言うとルーレットで玉を転がすディーラーにだけど。

 

「別に構わないがルーレットは絶対にやるな」

 

「え?別に良いけど何で?」

 

「あいつには見覚えがある。確かイカサマの上手い奴だった気がする」

 

そう答えながら空間ウィンドウを開く。

 

レヴォルフで賭けをする人間が一番注意するのはイカサマをする奴だ。だから賭けをする人間はそれぞれブラックリストを作り、その情報を売買してイカサマの対策を練るのだ。

 

そう思いながら俺自作の空間ウィンドウを開いてブラックリストを見ると案の定リストに載っている男だった。

 

「やっぱりな。あいつはブラックリストに載ってるからルーレットは絶対にするな。するとしたらディーラーが代わってからにしろ。擦られるぞ」

 

「うん。そうする。でも八幡君、ブラックリストを作ってるって事は結構賭けをやってるって事だよね?」

 

シルヴィがジト目で聞いてくる。

 

「あー、まあ……割と、いや嘘です。かなりやっています」

 

冒頭の十二人の特典である金も割とつぎ込んでいたし。オーフェリアとシルヴィの交際を始めてからは歓楽街に遊びに行く回数も減らすようにしているが、付き合う前はかなりやっていた。

 

「いやでも、お前らと付き合ってからは2週間に一度遊びに行くくらいだからね?」

 

「……付き合う前は?」

 

「……殆ど毎日です」

 

「ふーん。まあ八幡君の自由だから文句は言わないけど程々にね?」

 

「わかってるよ。でも今は賭けするより2人と一緒にいた方が楽しいから問題ねーよ」

 

俺がそう言うと2人はキョトンとした表情をしてから笑顔になり抱きついてくる。

 

「えへへ……八幡君にそう言って貰えると嬉しいな」

 

「……私も2人といる方が楽しいわね」

 

……全く可愛い奴らめ。2人にそう言って貰えると嬉しいなぁ。

 

「ありがとな。……っと、いつまでも立っているのもアレだし少し遊んで行こうぜ」

 

折角の学園祭だ。何もしないでイチャイチャするより、学園側の出し物を楽しみながらイチャイチャした方が遥かに有意義だし。

 

俺がそう提案すると2人は俺から離れて頷く。それを確認した俺は2人の手を引いてアリーナに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

「んじゃ腹減ったしそろそろ昼飯食いに行こうぜ」

 

ブラックジャックで大勝利した俺がそう言うと少し離れた場所にいたオーフェリアとシルヴィがこちらにやってくる。それにしても……

 

「オーフェリア、お前何をやったんだ?」

 

見るとオーフェリアの両手には巨大なバケツが2つあり、その中に大量のコインがあった。

 

「……スロットマシンよ。特に目押ししないで適当に押したら4回も7が3つ揃ったのよ」

 

……マジですかい?どんだけ運があるんだこいつは?その運を少しでもいいから分けてくれ。

 

シルヴィも見る限りそれなりに稼いでいるが、オーフェリアは次元が違う。見ると周りの客がオーフェリアとオーフェリアの手にあるコインに目を向けていた。

 

オーフェリアは変装しているから気付かれていないが、それ故にちょっかいを掛けてくる奴がいそうだ。

 

そう判断した俺は自身のヘッドフォンを取って変装を解除する。するとオーフェリアに視線を注いでいた面々が驚きの表情を浮かべるも、それを無視して……

 

「じゃあそろそろ行こうぜ。何かちょっかいを掛けてきそうな奴が居そうだし」

 

そう言って一暼するとオーフェリアに視線を注いでいた面々全てが視線を逸らす。

 

それを見たシルヴィは納得したように頷く。

 

「あー、そういう事ね。全くこれだからレヴォルフは嫌なんだよなぁ……」

 

シルヴィはため息を吐く。まあ普通の女子からしたらレヴォルフは忌避する存在だろうし。

 

「いや、まあ気持ちはわかるからな……悪いな、俺とオーフェリアがレヴォルフで」

 

「え?あ、いやごめん。別に八幡君達に対して言った訳じゃないよ」

 

シルヴィは手を軽く振りながら謝ってくる。いや別に怒っている訳ではないんだが……

 

「……別に怒ってないから気にすんな。それより昼飯食いに行こうぜ。午後にはクインヴェールに行かないと行けないんだし早めに食っといた方が良いだろ?」

 

「あ、うん。何処か良い所知ってるの?」

 

「俺の知り合いがやってる飯屋に行かないか?元々暇だったら来てくれって誘われていたし」

 

「ふーん。ところで八幡君、その知り合いって女の子?」

 

「は?いやそうだけど、それが……」

 

それがどうした。そう言おうとしたが最後まで言うのは無理だった。シルヴィとオーフェリアがジト目で俺を見ていたからだ。

 

「……何だその目は?」

 

「べっつに〜。八幡君の事だからその子にラッキースケベしてるんじゃないかと思っただけだよ」

 

「待てコラ。人をギャルゲーの主人公みたいに言うな」

 

「……じゃあ八幡、八幡はチーム・赫夜との訓練で何回ラッキースケベを起こしたか覚えているかしら?」

 

ぐっ……そう言われたら返す言葉がない。こいつ……

 

「確か美奈兎ちゃんに3回、柚陽ちゃんに2回、ニーナちゃんに7回、フェアクロフ先輩に25回、クロエに8回だったよね?それだけの数ラッキースケベをしてる以上普通は疑うよ」

 

「ま、まあそうだな」

 

「それで?その子には何回したの?嘘ついても見抜くからね?」

 

プリシラにした回数……えーっとだな。

 

「た、多分3回だな」

 

俺の記憶が正しければ3回で合っているだろう。そう口にすると2人が更に目を細めて俺を見てくる。そして腕に強く抱きついて脇腹を抓ってくる。

 

「……嘘は吐いていないみたいだね。でも3回もしたんだ」

 

「……まさかとは思うけど意図的にしてないわよね?」

 

「いやしてない。絶対にしないからな?」

 

したら冗談抜きで2人に殺されそうだし。てか俺が自分の意思で女の身体に触れるのはオーフェリアとシルヴィだけだしな。

 

「なら良いけど。八幡君は私達の彼氏なんだからね?」

 

「わかってるって。昨夜みたいな事はお前らにしかしてないからな」

 

投げやりにそう返すとジト目を向けていた2人はハッとした表情を浮かべて直ぐに頬を染める。

 

「そ、それは言わないでよ。八幡君のバカ」

 

「……バカ、エッチ、鬼畜」

 

2人はそう言ってポカポカ叩いてくる。痛みは全く感じず寧ろ癒されるな……

 

とはいえそんな事を馬鹿正直に言ったら更に臍を曲げるのは目に見えているので口にしない。

 

「悪かったよ。それより行くぞ」

 

そう言って2人と腕を絡めたままアリーナの外に向けて足を運んだ。左右から俺の腕を抱いている2人から視線を感じるが気にしない事にした。

 

 

 

 

 

 

 

アリーナから出た俺達はプリシラがバイトしている露店に向けて歩き出す。中庭で出ているその露店はパンフレットを見る限りレヴォルフにしてはボッタクリ価格でない珍しい店らしい。その上、プリシラが働いている店である以上期待が出来る。

 

そう思いながら中庭に向けて歩いていると騒ぎ声が聞こえてくる。レヴォルフにいる以上騒ぎ声が聞こえるなんて日常茶飯事だが、騒ぎ声が聞こえてくるのは正面、俺達が行こうとしている中庭からだった。

 

嫌な予感を感じながら歩いていると、柄の悪いチンピラが露店の入り口にいた。

 

それだけならまだ良い。しかし……

 

「え、ええっと……仕事中ですから……」

 

「おいおい!そんな寂しい事を言うなって!楽しくやろうぜ、楽しくよお!」

 

先頭で可愛らしいエプロンを着ているプリシラをナンパしている男が面倒だ。

 

普段ならスルーして違う店に行くが、数少ない友人が面倒な男にナンパされているのだ。助けない訳にはいかない。

 

俺はため息を吐いて歩き出し、

 

「おいロドルフォ。人が飯食おうとしてる店でナンパしてんじゃねぇよ。てか俺はプリシラの飯を食いに来たんだから連れられちゃ困る」

 

プリシラにナンパしている男ーーー元レヴォルフ黒学院序列2位、つまり俺の前任者である『砕星の魔術師』ロドルフォ・ゾッポに話しかける。

 

「あん?って八幡じゃねぇか!相変わらず目は腐ってんなぁ!」

 

ロドルフォはプリシラから俺の方を向くといつも浮かべている豪快な笑みを見せてくる。対称的にロドルフォの取り巻きであるチンピラは全員射殺すような視線を向けてくる。

 

しかしロドルフォは取り巻きの殺意を無視して馴れ馴れしく肩を組んでくる。

 

「随分と久しぶりじゃねぇか!つーかお前、女2人も連れてるたぁやるなぁ!」

 

「煩えな気安く肩を組むな。てかここは飯屋だから食わねえなら帰れ、もしくは死ね」

 

「相変わらずノリ悪ぃな。折角女2人もいるんだし楽しくやろうぜ!」

 

「俺は俺で楽しくやってるから問題ねぇよ。てかお前ら『オモ・ネロ』と俺は敵対関係だろうが」

 

『オモ・ネロ』は千人以上の構成員を持ち、ロドルフォが頭目をしている歓楽街最大のマフィアだ。

 

そして以前俺がロドルフォを公式序列戦で倒して以降、俺は下っ端の連中にメチャクチャ嫌われている。序列2位になった頃はしょっちゅう闇討ちを受けていたくらいだ。

 

「別に俺自身はお前を恨んじゃねぇよ」

 

「え?マジで?てっきり2位の座を奪ってから恨んでるかと思ったぜ」

 

俺が公式序列戦で戦う相手の内大半は過去に俺に序列を奪われた人間だからてっきりロドルフォからも恨まれていると思っていた。

 

「いんや。寧ろ序列外になったおかげで公式序列戦で雑魚に挑まれる事もなくなったし感謝してるぜ。てかお前が恨まれてるのはうちの若いのを何人も病院送りにしたからだろうが」

 

「知るか。決闘の申請もしないで闇討ちしてくる雑魚共にする対応なんてそんなもんで充分だ」

 

闇討ちしてきた連中は全員病院送りにしたが、奴らの対応なんてそんなもんだ。やり過ぎな気もするがどう考えても決闘の申請をしない奴らが悪いし。

 

そこまで話しているとロドルフォの取り巻き共が殺意を露わにして煌式武装を俺に向けてくる。

 

「てめぇ……さっきから黙って聞いてりゃ随分と言ってくれてんじゃねぇか。マグレてうちのボスに勝てたからって調子に「……何八幡に武器を向けているのかしら?」……あ?……お、お前は?!」

 

1人の男が俺に突っかかっていると、俺の後ろから聞き覚えのある声が男の声を遮ったので振り向くと……

 

「……さっきから八幡に殺意や武器を向けたり……潰すわよ」

 

変装を解いたオーフェリアが殺意を剥き出しにしてチンピラを睨む。幸い星辰力は吹き荒れていないが、今にも爆発寸前だ。

 

オーフェリアに殺意を向けられたチンピラはガクガクする事しか出来ないようだ。ここで揉めるのは避けたいな。

 

そう判断した俺は……

 

「おいオーフェリア、俺は気にしてないから殺意を出すな。ロドルフォは取り巻きを連れてこっから去れ」

 

オーフェリアの後ろに回り抱きしめながらロドルフォに指示を出す。

 

でないとオーフェリアの怒りは収まらないだろうし。ここでオーフェリアがブチ切れるのだけは避けたい。

 

ロドルフォも最悪の事態を避けたいのか素直に頷く。

 

「はいよ。うちの馬鹿共が迷惑を掛けたな」

 

「別にお前は悪くない。てかお前はあんまり取り巻きを連れるな」

 

「んな事は理解してるぜ。じゃあな……あ、そうだ。最後に聞きたいんだけどよ、お前が今抱きしめてる彼女、自由になったってマジ?」

 

「ん?ああ。マジだな」

 

「あっそ。あのデブの下にいないって事は王竜星武祭に出ないって事か?」

 

「オーフェリア自身は出る気ないな」

 

「ふーん。じゃあ今回の王竜星武祭は大乱戦で楽しくなりそうだなぁ」

 

楽しくなりそう。ロドルフォの口からそう出るのを聞いた俺は嫌な予感しか浮かばなかった。

 

「楽しくないから出るな。お前の相手は疲れるから絶対に出るな」

 

一度しか戦ってないがこいつの能力はマジで面倒だ。出来るなら避けたい相手だ。しかし……

 

「いーや、決めた。今度の王竜星武祭に俺も出るわ!大舞台で八幡とやるのも楽しそうだしなぁ!」

 

ああ……暁彗や梅小路冬香に加えてこいつも俺と戦う気満々かよ。

 

最大のライバルのシルヴィもいる上、雪ノ下陽乃やネイトネフェル、獅鷲星武祭の結果次第では天霧あたりも出てきそうだし。

 

(マジで今シーズンの王竜星武祭はヤバそうだな。てか俺の世代は豊作過ぎだろ?)

 

内心ため息を吐いていると、

 

「んじゃ迷惑を掛けたな!彼女2人と盛り過ぎるなよ!」

 

そう言ってロドルフォは去って行った。盛り過ぎる事に対して反論出来なかった。昨夜も6回やったからな。

 

「……とりあえずオーフェリア、一々三下に対してブチ切れるな。俺があんな奴らに負ける事はねぇよ」

 

そう言ってオーフェリアから離れるとオーフェリアはシュンとした表情を浮かべて

 

「……ごめんなさい。八幡に悪意が向けられるのを見ると我慢出来なくて……」

 

謝る。そんな顔をすると怒れねぇよ。つくづく俺はオーフェリアに甘過ぎだな。

 

「あー、もう謝らなくていい。次からは気をつけような?」

 

「……ええ」

 

オーフェリアはそう言ってコクンと頷く。その仕草を見て癒された俺はプリシラの方を向く。

 

「悪いな、店前で面倒事起こして」

 

俺が軽く会釈をして謝るとプリシラはブンブンと首を横に振る。

 

「あ、いえ気にしないでください。寧ろさっきは対応に困っていたので八幡さんが来てくれて助かりました」

 

そう言ってペコリと頭を下げてくるので軽く頭を撫でる。

 

「気にすんな。数少ない友人が困っているなら助けるのは当然だ」

 

「あっ……えへへ。やっぱり八幡さんの撫で方って上手いですね」

 

そう言ってポワポワした笑みを浮かべてくる、やっぱりプリシラはレヴォルフの清涼剤だ……痛え!

 

いきなり背中に痛みが走ったので振り向くと……

 

「……八幡」

 

「……へー。随分と優しいね八幡君。それにやっぱりって事は何度もやっているんだ?」

 

オーフェリアとシルヴィがジト目を向けながら背中を抓っていた。しまった!いつもの癖でつい……!

 

「あ、いや、そのだな……」

 

後悔する中、俺が必死に謝ろうとする中、2人は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「八幡(君)の奢りね」」

 

そう言ってきた。

 

結局俺達はこの店で昼食を食べたが、オーフェリアとシルヴィはプンスカしながらやけ食いしたのがメチャクチャ怖かったです。

 

後、俺の財布は結構軽くなりました。

 


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