学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡はシリウスドームで……

クインヴェール女学院のステージ、公式序列戦でも使われているステージはカオスな空気となっている。

 

その理由として……

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、比企谷さん!今聞き違いかもしれませんのでもう一度確認しますが、彼女が2人いるのですか?!」

 

司会のマフレナがそう尋ねてくる。その表情には驚きの戦慄が混じっている。

 

俺は今シルヴィに女装させられてクインヴェールのとあるイベントに参加している。その際に男だとバレないか不安だったが、シルヴィのコーディネートは完璧で今の所はバレてはいない。

 

しかし……今の自爆ーーー恋愛関係を聞かれた際に最後の最後で油断してつい彼女が2人いると答えてしまったのだ。

 

しかしどうしよう?

 

沢山の観客が見ている中彼女が2人いるとハッキリと言った以上意見を取り下げるのは厳しい。今から「あ、彼氏の間違いでした」と訂正しても信じてくれるかは怪しい所だ。

 

仮に信じてくれたとしても「彼氏を2人持つ魔性の女」と判断されて叩かれるかもしれない。その際にバレる可能性も0ではない。

 

てかそれ以外に審査員席にいるミルシェが疑いのある目を俺に向けてくる。当然の事だ。ミルシェは比企谷という苗字で彼女が2人いる人間ーーーすなわち俺の存在を知っているのだから。

 

つまりミルシェが俺に対して『お前は比企谷八幡だろ?』と聞かれる前に何とかしないといけない事になる。

 

その上速めに答えないと余計に疑われてしまうので速めに答えないといけない。

 

どうすれば……ん?

 

(待てよ。これなら上手くいけるかもしれないな……黒歴史は確定だけど)

 

一応この状況を打破する方法を思いついた。それは間違いなく黒歴史、それこそ事故でシルヴィの唇を奪ったという黒歴史の次にヤバいものだろう。

 

しかしここで俺が男だとバレたら、事故でシルヴィの唇を奪った黒歴史よりヤバい黒歴史が生まれてしまう。

 

それだけは絶対に避けないといけない。マジで社会的に死ぬかもしれないし。だから俺は覚悟を決めた。

 

そして……

 

「……はい。彼女が2人います」

 

マフレナの質問に対して肯定の意を表明した。それに対して観客席けらは騒めきが生じて、審査員席ではペトラさんは額に手を押さえ、ミルシェと雪ノ下は疑いの目を俺に向けて、由比ヶ浜は驚きの表情を浮かべていた。

 

「ええっ?!ほ、本当に彼女が2人いるのですか?!」

 

マフレナは大声を出して俺に詰め寄る。さぁ……いよいよ詰めだ。

 

俺は息を吸って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。自分、そして恋人2人はレズビアンですから」

 

そう口にした。これが俺の最後の手段、レズと言ってあたかも女である事を貫くことだ。

 

俺がそう口にした瞬間、

 

 

 

 

 

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!』

 

再度観客席からは驚きの声が響き渡る。一部からは『レズ来たぁぁぁぁっ!』って声が聞こえて寒気がしたが。

 

まあそれはともかく観客が『比企谷八重はレズビアン』であると認識したらこっちの勝ちだ。そうすれば審査員の面々も深くは突っ込めないだろう。事実、予想外のカミングアウトだったからかミルシェや雪ノ下も疑いの表情を消して呆気に取られた表情を浮かべているし。

 

この際呆れ顔を向けているオーフェリアやシルヴィ、ペトラさんの存在は気にしないものとする。気にしたらボロが出るから絶対にダメだ。

 

事情を知っている3人に対してシカトをすると決め込んでいると、マフレナが話しかける。顔からは驚きの顔が浮かんだままだ。

 

「そ、そうなんですか。……い、いやぁー、そのような人は初めて見たので驚きましたよ」

 

よし、ここで畳み掛けるだけだ。

 

「ええ。何故か自分は生まれた時からどうも男性に興味が持てなくてですね。その事に疑問を抱いて生きていたら、中学時代にクラスの女子の友人から告白を受けたのですよ」

 

「その時に……?」

 

「はい。その際に自分の胸の内で高鳴りが起こっているのに気が付いたのですよ。その後に迂曲曲折あって更に彼女が出来たのですよ」

 

頼む。信じてくれ。司会のマフレナが信じれば会場や審査員席も疑いがあっても進められるし。

 

内心祈りながらマフレナの判断を待っていると……

 

「そ、そうですか。ま、まあ大変な道かもしれませんが頑張ってくださいね」

 

俺の言葉を肯定してくれた。

 

(良し、これなら俺がさっきみたいに下手をこかなかったら大丈夫だろう)

 

そしてステージから降りた後に速攻で着替えてオーフェリアとシルヴィと合流すればミッションコンプリートだ。

 

「ええ。世間の目は厳しいですがいつか式を挙げたいですね」

 

クソッ!いくら自分が女であるように見せる為とはいえ、何を言っているんだ俺は?!既に事故でシルヴィとキスした黒歴史に匹敵する黒歴史になっているぞ。

 

「頑張ってください……っと、そろそろ時間なので質問を打ち切らせて貰います。比企谷さん、ありがとうございました」

 

マフレナがそう言って頭を下げてくるので、俺は軽く会釈をしてステージを後にする。

 

その際に男だと疑われないよう女の子らしく観客席に軽く手を振ったが、その時に起こった男の叫び声にはマジで吐き気を催したのは必然だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺の人生初の女装によるステージは幕が降りた。

 

余談だが、審査の結果俺の順位は30人中6位とかなり高評価で愕然としてしまった。まあ表彰されるのは1位から5位までなので表彰されずに済んで良かったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……マジで死にたい」

 

俺は今、クインヴェール本校舎の屋上にあるベンチに座ってため息を吐く。今直ぐにでも首を吊りたいくらいだ。

 

「……気持ちはわかるけど死なないでね?」

 

「ご、ごめんね八幡君。私が参加しろなんて言わなかったら……」

 

右隣にいるオーフェリアが心配そうに慰め、左隣にいるシルヴィは珍しく慌てた表情を浮かべながら俺の肩を揺すってくるが……

 

「いや、シルヴィは悪くないさ。自爆した俺が悪いんだし」

 

そう、シルヴィは全く悪くない。参加しろと言ったのは俺が恋人2人の前で他の女子の頭を撫でた罰だから特に怒っていない。

 

そもそも黒歴史を作ることになったのは油断しきって自爆した俺自身が悪いんだしな。

 

「ううん。元はと言ったら焼きもちを焼いた私が悪いんだし。八幡君が邪な感情を持ってあの子の頭を撫でたわけじゃないのに八つ当たりしちゃったし……ラッキースケベについてもわざとやってる訳じゃないのについ手を出しちゃうし……」

 

珍しくシルヴィがしおらしい態度を見せてくるが、俺としてはそれは止めて欲しい。シルヴィにそんな顔は似合わない。いつものように人を幸せにする笑顔をしていて欲しい。

 

そう思った俺はシルヴィの方を向き……

 

「だから気にすんなって。お前にそんな顔は似合わないんだから」

 

「……でも」

 

未だに後ろめたいのか悲しそうな顔をシルヴィ。仕方ない、こうなったら……

 

「お前には悲しそうな顔は似合わない。だから昨日の夜、ベッドで見せたエロい顔を見せてくれ」

 

抱いた時のシルヴィの顔はエロ過ぎるので今でも鮮明に覚えているくらいだ。

 

瞬間……

 

「なっ?!いきなり何を言ってるの?!バカ!エッチ!変態!女誑し!すけこまし!八幡!」

 

シルヴィは真っ赤になって俺に突っかかってくる。その勢いはまさに怒涛と言っても過言ではないだろう。てか八幡は悪口じゃないだろ?

 

だが、まあ……

 

「ようやく悲しそうな顔を消したな。それでいい」

 

俺がそう口にするとシルヴィはハッとしたような表情になる。そんなシルヴィを俺は抱き寄せて……

 

「お前はそれでいいんだよ。実際に俺が悪いんだから俺に気にしないで色々要求すりゃいいんだよ」

 

そう口にする。2人を愛すると言ったのに他の女子の頭を撫でた俺の過失をシルヴィの責任にするつもりは毛頭ない。

 

対するシルヴィは……

 

「……うん」

 

胸に顔を埋めながらコクンと頷く。可愛過ぎだろ?

 

そう思いながらシルヴィの頭を撫で撫でするとシルヴィは俺の背中に手を回して更に甘えてくる。

 

「……一応これからは極力女子の頭も撫でないようにするし、ラッキースケベも起こさないように努力する」

 

「……うん」

 

シルヴィは再度頷いてから俺から離れる。そして……

 

「……今度からそんな事があっても八幡君に強く当たらないようにする。だから八幡君も……」

 

「わかってる。そんな事が起こらないように細心の注意を払うようにする」

 

2人に半殺しにされる以上に2人に嫌な気分をさせるのは嫌な事だからな。

 

「……オーフェリアも悪かったな。何度も嫌な気分にさせちまって」

 

「……八幡が謝る事じゃないわ。私こそ八幡が私とシルヴィア以外の女子と仲良くしてる時に不貞腐れる事を謝らないといけないし」

 

いや、それは彼女として普通の反応だ。そう言おうとしたが、そう言うとまたオーフェリアが自分が悪いと言って堂々めぐりになるのは簡単に想像がつく。

 

だから……

 

「そうか。俺も今後は気をつける」

 

そう言って話を打ち切る事にした。これ以上揉めていても意味のない事だし。

 

するとオーフェリアが……

 

「……じゃあ八幡、仲直りのキスして」

 

そう言ってキスを強請ってくる。するとシルヴィも、

 

「私にもお願い」

 

オーフェリア同様に強請ってくる。……ここで断るのはダメだろうな。

 

「はいよ」

 

俺が頷くと2人は顔を寄せてきて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「「んっ……」」

 

そのまま唇を同時に重ねてくる。ああ……やっぱりこの2人が一番だと改めて理解した。今後はマジで2人に焼きもちを焼かせないようにしないとな……

 

そう思いながらキスをしていると……

 

 

 

 

 

 

 

「あー、やっと終わった終わった。マフレナ、残り時間少ないけど早くパイヴィ達と合流して遊ぼ……う?」

 

「そうですね。やっぱりグラン・コロッセオに行きません……か?」

 

ドアの開く音がしたかと思いきや、ルサールカのミルシェとトゥーリアが屋上に上がってきて、俺達のキスを目撃する。

 

クインヴェールの屋上は学園祭期間中立ち入り禁止だがシルヴィは生徒会長の権限を使って入れた。ミルシェとトゥーリアもシルヴィと同じように自分達の権限を使って入ってきたのだろう。

 

まさかこんな時間帯に立ち入り禁止エリアに入ってくる人間なんていないと判断した俺達の過失である。

 

向こうもポカンとした表情で俺を見ている。俺達は変装をしているがルサールカはシルヴィの変装を知っている。そしてシルヴィがキスしていることから男の正体は俺、もう1人の女はオーフェリアと理解しているだろう。

 

これはまずい。そう思った俺は慌てて……

 

「ちょっと待て。これはごか「「し、失礼しましたー!!」」い、……だからな?」

 

2人は真っ赤になって屋上から走り去った。その速さは尋常ではなくシルヴィに匹敵する速度だった。

 

2人が屋上から見えなくなると……

 

「うぅ〜」

 

シルヴィが真っ赤になって顔に手を当てる。まあ知り合いに今のシーンを見られたらそうなるだろう。実際俺も顔が熱いし、特に何も思っていないのはオーフェリアくらいだろうな。オーフェリアはポカンとしているだけだし。

 

それに対して俺は……

 

 

「あー……時間的にとりあえず俺達もグラン・コロッセオに行かないか」

 

話を逸らす選択をした。とりあえず今はシルヴィの恥ずかしさを紛らわさないといけないからな。

 

それを聞いたシルヴィは……

 

 

 

 

 

「………………うん」

 

蚊の鳴くような声を出しながら可愛らしく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

「それにしても……シリウスドームに入るのも久しぶりだな」

 

クインヴェールを出た俺達は現在アスタリスクのど真ん中にあるシリウスドームのエントランスホールにいる。

 

「あ、そっか。八幡とオーフェリアは1月に公式序列戦で使って以来かな?」

 

「いや、お前の試合を見に行ったから2ヶ月ぶりだな」

 

「あ、そういえばそうだったね」

 

月に一度の公式序列戦は基本的に学内のアリーナで行われるが注目カード、それこそ冒頭の十二人の試合などは一般客が観戦出来る都市部のステージが使用される。

 

特にシリウスドームは毎月各学園の最上位クラスの生徒に宛がわれる。

 

3ヶ月前には俺やオーフェリアなどレヴォルフの冒頭の十二人が、先々月にはシルヴィや『舞神』ネイトネフェルやミルシェなどクインヴェールの冒頭の十二人、先月には天霧やリースフェルトなど星導館の冒頭の十二人が試合をした。

 

まあ特に大金星が生まれた試合は無かったけど。

 

「まあそれはどうでもいい。それより早く行こうぜ。立ち見はゴメンだ」

 

「あ、じゃあクインヴェールの生徒会用観覧席に行こうよ。あそこなら空いてる筈だよ?」

 

「……それはありがたいけど他の生徒はいるのじゃないかしら?」

 

「うーん。他の役員は余りグラン・コロッセオに興味を持ってなかったからいないと思うよ?」

 

……まあ、第三者がいないなら悪くない選択だろう。

 

「じゃあそこにしようぜ……っと、済まんが俺腹が痛いから手洗いに行ってくるから先に行ってくれ」

 

結構腹が痛い。これは長引きそうで待たせるのは申し訳がないからな。

 

「わかった。じゃあこれ。通行証ね。行こっかオーフェリア?」

 

「……そうね。じゃあ八幡、また後でね」

 

2人はそう言って近くのエレベーターに向かって歩き出したので俺も手洗いに向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

5分後、用を足した俺は手洗い所から出てハンカチで手を拭く。時計を見るとイベント開始まで後20分ある。ちんたら歩いていけば丁度良い時間に2人と合流出来るだろう。

 

そう思いながらエレベーターに乗って目的の階に到着したのでエレベーターから降りた。

 

そしていざ歩き出そうとした時だった。

 

(何だ?人がいない?)

 

妙に人の気配が感じないので辺りを見渡すも視界に人が1人も見当たらない。

 

(おかしい……生徒会用観覧席やVIP席があるこの階に来る人は基本的に少ないが1人もいないというのはあり得ない)

 

そう思うと胸の内に言葉にし難い不快な感情が生まれてくる。何というか……あるだけで虫唾が走る。

 

その感情の正体を探ろうとすると……

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷八幡」

 

いきなり後ろから声をかけられる。瞬間、全身が液体窒素の中に入れられたように冷えるのを実感した。この声は……

 

恐る恐る後ろを振り向くとそこには俺の頭に思い浮かんでいた1人の女性がいたり

 

身体にはローブを纏っていて水色の髪を持ち虚ろな瞳を向けてくる女性。

 

そして何より首から下げたあの不気味なネックレス……忘れる筈もない。あいつは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァルダ……!」

 

シルヴィの師匠であるウルスラ・スヴェントの肉体を持った謎の存在が俺の前に立っていた。

 

 


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