学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして学園祭が終了する

「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

鮮血と共に俺の絶叫が響く。視線の先には左手首から先が無くなっている左手がある。

 

痛みと共に今のところに状況を理解する。

 

お袋と共にヴァルダを倒し、奴の精神をシルヴィの師匠であるウルスラさんから追い出して、奴の精神が入っているネックレスを持っていたらヴァルダの仲間である処刑刀に左手ごと奪われたのた。

 

それを理解した俺は急いで影に星辰力を込めて、影を腕に纏わせて義手を作り上げる。

 

激痛は止まらないがとりあえず出血を止めれたから良しとしよう。

 

そう思いながら顔を上げると、処刑刀が左手に『赤霞の魔剣』を持ちながら右手で俺の手を投げ捨ててネックレスを懐にしまい込む。どうでもいいが人の手を捨てるな。

 

その時だった。

 

 

お袋が瞬時に距離を詰めて右の『狼牙』を振るい斬撃を飛ばす。対する処刑刀は『赤霞の魔剣』を軽く振るってで斬撃を断ち切る。

 

しかしお袋は予想していたかのように蹴りを数発放つ。さっきまで頭痛に苛まれていたとは思えないくらいの速さだ。

 

しかし処刑刀も桁違いの実力者であるので『赤霞の魔剣』の腹で受け止めたり、バックステップで全てを回避する。

 

そして反撃とばかりにお袋の首を刎ねるべく袈裟斬りを放つ。対するお袋は軽く身体を低くしてそれを回避してから返す刀で膝蹴りを処刑刀の腹に当てる。

 

すると処刑刀は後ろに吹き飛ぶが直ぐに着地して『赤霞の魔剣』を構える。

 

「……流石は『狼王』、警備隊長と違って一線を退いていてもこの力……本当に恐ろしいね」

 

処刑刀はそう言ってお袋を褒めているが何処かしら余裕がある。その事から向こうも桁違いである事が簡単に推測出来る。

 

対するお袋は俺とウルスラさんを庇うように立ち……

 

「八幡、その傷じゃキツイかもしれないが、その人連れて死ぬ気でここから離れろ。……こいつは強い」

 

いつもと違って固い口調でそう言ってくる。お袋がこんな風に真剣な表情をするのは初めて見る。

 

ここはお袋の言う通りにした方が良いだろう。俺自身意識が朦朧としているし、ウルスラさんも守らないといけないからな。

 

だから俺が了承しようとした時だった。

 

「ふふっ……私は目的の物は取り戻せたし引かせて貰うよ……まあ彼女を奪われたのは痛いが、これ以上戦って私の正体を知られる訳にはいかないからね」

 

そう言ってウルスラさんを見ているので俺は残った僅かな星辰力を影に注ぎ込んでウルスラさんに纏わせる。奴の『赤霞の魔剣』の前では殆ど意味がないかもしれないが無いよりマシだろう。

 

てか漸く取り戻せたんだ。絶対に渡す訳には行かない。

 

しかしマジでこいつは誰なんだ?どっかで見た事もあるし聞いた事のある声なんだが……前回と違ってヴァルダの認識干渉がないからわかりそうなんだが……

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あん?逃げられると思ってんのか?殺すぞ」

 

言うなり、お袋から圧倒的な星辰力を噴き出しながらそう返す。その力はありとあらゆるものをすり潰すとばかりに重々しい力だった。

 

今まで俺は何度もお袋の星武祭での記録を見たがここまで凄い力は出していなかった。

 

つまり……

 

(全力を出さずに王竜星武祭を二連覇したって事かよ……!)

 

改めてお袋の強さに戦慄してしまう。今わかった、俺のお袋は別種の存在ーーーオーフェリアや星露を除いた人間の中でも最上位に位置する人間だ。

 

それに相対する処刑刀はお袋の意見に頷く。

 

「……そうだね。今の貴女を前にしたら逃げるのは無理だろうね」

 

そう言って彼は一息吐き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の私なら、ね」

 

次の瞬間だった。

 

「……あん?」

 

「なっ……?」

 

処刑刀の周囲に複数の魔法陣とそこから伸びた縛鎖が顕現して、処刑刀がそれを振るうと縛鎖は一瞬で粉々に砕け散って消え失せる。

 

すると処刑刀の身体から禍々しく圧倒的な鬼気が放たれる。そのプレッシャーは次元が違う。お袋のプレッシャーがありとあらゆるものをすり潰す物と言うなら奴のプレッシャーはありとあらゆるものを食い潰すような物である。

 

そしてあの魔法陣と縛鎖。俺はそれを知っている。アレは……

 

(天霧が封印を解除する時の……!)

 

何度か見たが間違いない。アレは天霧が封印を解除する時とそれと同じ物だ。

 

(何で奴が……!アレは確か天霧の姉ちゃんの力だったはず……っ!)

 

そこで俺は以前ディルクが天霧に天霧遥は蝕武祭に出ていたと言った事を思い出した。確証はないがその時に彼女が戦った人間が処刑刀なのかもしれん。

 

以前天霧から姉ちゃんは自分より強いと言っていた。天霧より強い姉ちゃんを倒せるのは蝕武祭でもそうはいないだろう。

 

それこそ、目の前で圧倒的なプレッシャーを出すような男でもない限り。

 

(いや……それは今どうでもいい。問題は今の奴の力はヤバいって事くらいだ)

 

天霧のそれと同じ物ならば今奴は封印を解除した状態、つまり以前俺と戦った時より遥かに強いということを意味する。

 

コレは……マジでヤバいぞ。

 

そう思いながら俺がウルスラさんを抱き抱えながら後ろに下がる。腕に激痛が走るが泣き言は言っていられない。

 

そんな中、お袋は『狼牙』を構え……

 

 

 

 

 

 

「死ね」

 

瞬時に処刑刀の懐に潜り込む。その速さは週一で星露とやり合っている俺でも微かにしか見えない速さだ。おそらく暁彗よりは速く、下手したら星露に届き得るくらいだ。

 

対する処刑刀も封印を解除したからか易々と後ろに下がって『赤霞の魔剣』を振るう。控えめに言ってその剣速もお袋の身体能力同様尋常じゃないくらい速い。はっきり言ってアスタリスク最強の剣士であるフェアクロフさんより速い。

 

しかしお袋は紙一重でそれを避けて右の『狼牙』を振るい、『赤霞の魔剣』の横っ腹に斬撃を飛ばす。

 

すると快音と共に『赤霞の魔剣』が横に弾かれる。それと同時にお袋は再度右の『狼牙』を振るおうとする。

 

その時だった。お袋がいきなりしゃがんだので何事かと思ったらさっきまでお袋の首があった場所に『赤霞の魔剣』が振るわれていた。

 

どうやら処刑刀は力づくで弾かれた『赤霞の魔剣』を引き戻したのだろう。

 

何つー膂力だ。剣速といい身体能力の高さといい、マジでヤバ過ぎる。しかも四色の魔剣を持っている事から冗談のような存在である事を改めて理解してしまう。

 

そう思った時だった。処刑刀はお袋の拳をいなして後ろに下がると……

 

「……っ!」

 

不意に処刑刀の目と合った。そして俺は戦慄と寒気を感じた。目が合ったのは偶然かもしれないが何となく嫌な予感が……!

 

処刑刀は俺の予想に違わず、『赤霞の魔剣』に星辰力を込める。それによって『赤霞の魔剣』には尋常じゃないくらい不気味な光が宿る。

 

(まさかアレを俺とウルスラさんに……?!)

 

奴の構えからして狙いはお袋ではなく俺とウルスラさんだろう。俺は満身創痍でウルスラは気を失っている潰すのは容易だろう。

 

すると……

 

「ちぃっ……!悪い八幡!」

 

お袋は舌打ちをして処刑刀から距離を取ってそのまま俺とウルスラさんを掴んで後ろに放り投げる。

 

乱暴な投げ方だが文句は言わない。お袋が俺とウルスラさんを処刑刀から引き離してくれなければ、俺とウルスラさんは『赤霞の魔剣』の錆になっていただろうし。

 

(とにかく今はウルスラさんに怪我をさせないようにしないと……!)

 

俺は空中で半ば無理矢理ウルスラさんを抱きしめて着地に備える。するとそれと同時に俺の背中が地面にぶつかり全身に激痛が走る。

 

しかし俺はその痛みを無視して身体を起こす。今はウルスラさんが無事なら問題ない。

 

そう思いながら処刑刀を見ると処刑刀は近くにある窓を開けて、

 

「ではこれで失礼させて貰うよ。これ以上は私の正体がバレそうなのでね」

 

一言そう言って窓から降りた。さっき奴が俺とウルスラさんを狙おうとしたのは、逃げる為にお袋の意識を俺とウルスラさんに向けさせる為だろう。

 

それを認識すると同時に俺の意識は朦朧としてきた。奴が居なくなった事による安心の所為だろう。

 

「お……まん!しっかり……!」

 

少し離れた所からお袋が駆け寄ってくるのを見たのを最後に、俺の視界は真っ暗となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

「何テンプレみたいな事言ってんだい?」

 

目を開くと見覚えのない天井が目に入ったので思わずそう呟くと横から聞き覚えのある呆れた声が聞こえたので右を見ると……

 

「……お袋。ここは何処だ?」

 

そこにはお袋が声同様呆れた表情を俺に向けてくる。

 

「漸く起きたかい。全く心配かけやがって……ここは治療院だよ」

 

お袋に今いる場所は治療院と言われると、俺は自身の左手首から先が無くなっている事を理解した。包帯が巻かれていて痛みは感じない事から痛み止めの麻酔でも打っているのだろう。

 

(そうだ……確か俺は処刑刀に左手を斬り落とされて……っ!そうだ!)

 

「お袋!ウルスラさんは大丈夫なのか?!」

 

とりあえず処刑刀の事は後回しだ。俺もお袋も生きている以上奴は捕まったか逃げ切れたかのどちらかだろう。

 

「ああ、あの人なら無事だよ。今はあんたと違う病室で寝てる」

 

「そっか……良かった」

 

シルヴィの師匠を取り戻すのは俺の目標だった。それが叶った事を理解すると本当に嬉しかった。

 

そう思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「他人の心配より自分の心配しな。シルヴィアちゃんとオーフェリアちゃん、メチャクチャ泣いてたよ」

 

そう言われると胸の内にあった喜びの感情は一気に吹き飛んだ。

 

「……マジで?」

 

「ああ。あんたが気絶した直ぐ後に2人がやってきて、あんたの状態を認識すると同時にガチ泣きしたよ」

 

……マジか。それは悪い事をしたな。2人が涙を流す所なんて想像するだけでも胸が痛くなる。

 

「そうか……ところでその2人は?」

 

周りを見る限り病室にはお袋だけしかいない。

 

「シルヴィアちゃんは師匠の状態についてコルベルのジジイに呼び出されていて、オーフェリアちゃんはあんたの着替えとか入院に必要な物を取りにあんた達の愛の巣に帰ってるよ」

 

「何か色々突っ込みたい所はあるが2人がここにいない理由は納得した」

 

そう言って俺は一息吐く。俺は今最愛の2人にどう謝ろうか悩んでいる。勝手に突っ走って腕を斬り落とされ……間違いなく2人を悲しませる事になるだろう。

 

そう思った時だった。いきなり扉が開く音がしたので横を向くと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーフェリア、シルヴィ……」

 

入口に最愛の恋人2人が呆然と立ち尽くしていた。オーフェリアの手には俺の着替えらしきものが、シルヴィの手には書類のようなものとそれぞれ別の物を持っているが、2人とも目は泣き腫らしたように真っ赤になっていた。

 

2人は呆然と立ち尽くしているもののそれも一瞬のことで……

 

 

 

 

 

 

 

 

「「八幡(君)!」」

 

2人は荷物を地面に落として俺に駆け寄って、俺の顔に詰め寄ってくる。

 

「良かった……目が覚めて良かったよ……!」

 

「心配かけさせて……八幡のバカ……!」

 

そう言いながら涙を零し俺の服を濡らす。それを見た俺は胸に痛みが走る。その痛みは腕を斬り落としされた時に匹敵するくらいの痛みだった。

 

そう思う中、お袋は無言で立ち上がり病室から出て行った。おそらくオーフェリアとシルヴィを気遣ってだろう。

 

そんな中、2人は更に涙を零し……

 

「……ウルスラを取り戻してくれたのは感謝するけど……無茶し過ぎだよ…………!」

 

「無理しないで直ぐに私達を呼びなさいよ、バカ……!」

 

俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。……ああ、本当に最悪な気分だ。

 

そう思いながら俺は未だに残っている右手で2人を強く抱き寄せてから、ゆっくりと頭を撫でる。

 

「……済まん」

 

「……ぐすっ……八幡君っ……!」

 

「バカ……バカ……!」

 

それから俺は2人が泣き止むまで30分ずっと2人の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫か?」

 

「……ええ、何とか」

 

「うん。少し落ち着いたよ」

 

そう言われたので抱擁を解く。すると2人は俺から離れて俺を見てくる。目を見ると泣き腫らした跡は強く残っているがとりあえず話が出来るくらいには落ち着いているだろう。

 

「全く……あんまり彼女を泣かすんじゃないよ?」

 

病室に戻ってきたお袋は俺に呆れ顔を向けてくる。ごもっともだな。

 

「ああ。とりあえず心配かけて済まなかったな」

 

「……次からは止めてね」

 

「うん。それより何があったか聞いていいかな?涼子さんからは八幡君がヴァルダに襲われて洗脳されそうになってピンチだった所より後の事は聞いたけど、それより前の事は知らないから」

 

まあ左手を失うまでの事態になったんだ。全部話さないと納得はしないだろう。

 

「ああ。実はだな……」

 

そう言って俺は観覧席に行こうとした時にヴァルダと再会して勧誘された事を話した。

 

「そんでピンチになっていた所を……」

 

「私が助けたって訳だね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

お袋が居なかったらマジで危なかった。下手したら俺自身も洗脳されて奴らの仲間になっていただろう。

 

「そっか……でも八幡君や星露を勧誘して何をするんだろう?」

 

「さあな。とりあえず解るのは碌でもない事だな」

 

少なくともディルクと組んでいる時点でマトモな人間と思ってはいけないだろう。

 

「……どうでもいいわ。次に会ったら絶対に殺すわ」

 

オーフェリアはそう言って殺気を剥き出しにする。その表情は憤怒に染まっていた。これ以上この話をするのはヤバそうだから話を逸らそう。

 

「ま、まあそれは後で良い。それより俺の腕についてだが……治療院の判断はどうなんだ?」

 

「……院長曰は義手を作るって言っていたわ。だから八幡、明日から暫く入院生活よ」

 

「あ、それと廊下でヘルガから連絡があって後日あんたに事情聴取がしたいらしいよ」

 

「わかった。じゃあ明日で大丈夫と伝えておいてくれ」

 

「はいよー」

 

お袋がそう返事した時だった。

 

『本日の面会時間終了10分前です。面会に来ているお客様は後退出の支度をお願いします』

 

病室にそんなアナウンスが響いた。

 

「……詳しい話はまた明日だね。んじゃ出るわよ2人とも」

 

お袋はそう言って病室の外に向かう。

 

「……そうね。行きましょうシルヴィア」

 

「そうだね。あ!最後に八幡君」

 

「どうしたシルヴィ?」

 

「うん……あのね……」

 

俺がそう尋ねるとシルヴィは俺に顔を近づけて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅっ……

 

そっと唇を重ねてくる。俺の目には涙が浮かんだシルヴィの美しい瞳しか目に入らない。

 

シルヴィは数秒キスすると俺から離れて……

 

「ウルスラを取り返してくれて本当にありがとうね、八幡君」

 

今まで見た中で最も美しい笑顔を見せてくる。

 

俺はその笑顔に声を失ってしまう。

 

この笑顔が見れたのなら左手を失った意味もあるかもしれない。だから俺は……

 

「どういたしまして」

 

そう言って未だ無事な右手でシルヴィを引き寄せて……

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅっ……

 

「んっ……」

 

 

そっとキスを返した。

 

その様子を見ていたオーフェリアは微笑ましい表情を、比企谷涼子はニヤニヤした笑いを浮かべて2人を面会時間終了まで見守り続けた。

 

 

 

こうして俺達の学園祭は終了した。




次回は入院編です。

イチャイチャしたりラッキースケベがあったりするのか?!

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